131 / 349
4.アレキサンドライトの輝き
34.帰還
しおりを挟む
窓の外の海は、濃い藍色から澄んだ青色に近くなり、初夏の装いを見せ始めています。そう、ここはアレキサンドリアの自室なのです。
迷宮の3層で傷を負い気を失った僕達は、迷宮B1Fへの入り口に転移させられ、辛うじて動けたアーネストさんの知らせで即治療を受けました。勿論、誰も傷跡を残すことなく回復しましたし、その時点で既にエリーゼさんとの依頼も完了していたので、迷宮の2層の話などをフローラさんに報告し、無事アレキサンドリアに帰国しました。
エリーゼさんとフローラさんからは、週1で手紙が届いていて、復興の状況を教えてくれています。僕らが去った後も、幾つか問題が発生しましたが、無事解決しているようですね。
まず、『バスティアン・ツー・バル』という男性を覚えているでしょうか? フローラさんの元婚約者候補だった彼ですが、あの後仲間から見放されて単独でフォレスト・フォートからの輸送部隊の馬車に密航し、領内に侵入したあと、街道を徒歩でヴァリアント・ゲレーロの拠点都市『ボスクエ・プロフンド』に到着。
街の入り口で止められて、「今日からこの街の領主は俺だ」とぶち上げたそうです。その時に足の各所を蚤に噛まれていたようだったので隔離され、幸い『黒死病』にはならなかったようですが、身分詐称や領主発言もあり、結局彼は初の迷宮2層の独房行きが決定したそうです。恐らく、フローラさんとも僕達とも二度と会うことはないでしょうとの事です。
2つ目は、迷宮2層のオークへ差し出された被害女性達の問題ですが、人倫的にはどうであれ、彼女達は奴隷の身分でしたので、帝国の責任を問う事は難しいですし、彼女達もそれを望んでいないようでした。
結局、奴隷だったとしても森に置き去りにされた段階で、奴隷としての身分は開放されたと判断され、近々王都や付近の村に開拓者として入植する事が決まったそうです。かの地に彼女達の過去を知る人は居ませんし、帝国側もそれを話すことはないでしょうから、平和に暮らせるといいですね。
3つ目は、王宮の件です。王都の実行支配は、帝国のクラウディウス家が握っていますが、王宮はヴァリアント・ゲレーロ側に返還されたそうです。彼らの王家血筋しか入れない迷宮もありますし、地下2階のゴブリンたちとの盟約や秘密の書籍などもあり、のちのちヴァリアント・ゲレーロ側ともめるのも目に見えていますしね。
そうそう、シャルさんとアーネストさんですが、アレクシアさんからの言い付けどおり、転移魔法で一度アレキサンドリアへ強制帰国して頂きました。アーネストさんには了解を取ってありましたが、シャルさんは寝てる所を強制転移したので、裏切り者とかさんざんなじられましたが、これは仕方ないですよね。
二人はアレキサンドリアを拠点に、今後も冒険者を続ける事になりましたが、クラウディウス家からの依頼もある為、北都『トラキヤ』に行っています。
移動に関しては、アレキサンドリアが開発した小型の『飛行船』が使用されています。そう、ヘリウムガスでふわふわ浮かぶあれですね。国家とは関係なく、帝国内のクラウディウス家とアレキサンドリアの下層街との間で運行されていて、青家のワイアットが管理しています。下層街とはいえ、時折エリーゼさん達も現われますので、その際はパーティーになりますけどね。
色々問題はありましたが、暫くは『アレキサンドライト』の活動もお休みです。その理由は……
「さぁ、クロエ。今日も健康診断に行きますわよ」
勢いよく僕の自室のドアが開き、イリスさんがにこにこ顔でやってきたのをみて、僕はウンザリしながら声をあげます。
「ねぇ、もう1週間も検査して、なにもわからないんだから、止めようよ」
そうなんですよ。イリスさんとリリーさんが、執拗に僕の身体を調べたがるのです。そして、これにアレクシアさんもOKを出しているために、僕には拒否権がありません。
実際、身長・体重などの基礎的な項目から、魔力の出力波形、最大出力値などのデータを採られていますし、僕のクローンでも作るんじゃないかっていう位執拗です。
「だめよ、だって貴女あの時の男に『封印』するって言われてのでしょう? なら、どの能力が封印されたのかを確認しておかなければ危ないと思うわ」
確かにそういわれた気もしますし、恐らく事実なんだとは思っていますが、多分検査してもわからないと思うんですよね。実は僕には推測がついているのです。
それは、新しい技能や魔法の制限だと思うんですよね。天羽々斬を使っている僕は、べつに前世で剣技を極めたわけではありません。天羽々斬を召喚したことで、身体が剣技を使える様になったのです。
そして、それは魔法にも同じことが言えます。あの時点で使えていた分野の魔法は、今も使えますが、思いついても使っていなかった魔法、例えば『レイズ』などの蘇生魔法や、過去への時渡りに関する時間魔法などは、当時なら思いついて直ぐ使えたのに、今は使える様にならないのです。僕の推測が正しければ、能力の多様化の『封印』だと思うのですよね。
そして、イリスさんやリリーさんは、納得してくれないんですよね。もともと使わなかった=使えなかった、となるので能力の成長を『封印』されたといっても、わかってくれないでしょうね~
でもあの『男』に聴きたいことが一つあるんですよね。それは……
『封印』したのは、あくまで能力であって、身体の成長は含まれて居ないってことです。本当にお願いしますよ~
「さぁ、クロエ。今日は耐性能力の確認だからね。しっかり確認させてもらうわよ?」
僕はイリスさんに恐る恐る尋ねます。
「あの、それってどんな……」
「たいした事無いわよ。睡眠耐性に麻痺耐性とか、毒耐性もあるわね。他にもお母様とアレクシア様が色々考えているみたいですわよ?」
「ちょっと、まって。毒耐性とか、そもそも前回値もないんだかrわからないじゃないですかぁ~」
「あら、知ってるでしょ? 貴女に拒否権は無いのよ?」
ぎゃ~、助けて下さい~……。そして僕の悲鳴は虚しくファロス島に響き渡ったのでした。
迷宮の3層で傷を負い気を失った僕達は、迷宮B1Fへの入り口に転移させられ、辛うじて動けたアーネストさんの知らせで即治療を受けました。勿論、誰も傷跡を残すことなく回復しましたし、その時点で既にエリーゼさんとの依頼も完了していたので、迷宮の2層の話などをフローラさんに報告し、無事アレキサンドリアに帰国しました。
エリーゼさんとフローラさんからは、週1で手紙が届いていて、復興の状況を教えてくれています。僕らが去った後も、幾つか問題が発生しましたが、無事解決しているようですね。
まず、『バスティアン・ツー・バル』という男性を覚えているでしょうか? フローラさんの元婚約者候補だった彼ですが、あの後仲間から見放されて単独でフォレスト・フォートからの輸送部隊の馬車に密航し、領内に侵入したあと、街道を徒歩でヴァリアント・ゲレーロの拠点都市『ボスクエ・プロフンド』に到着。
街の入り口で止められて、「今日からこの街の領主は俺だ」とぶち上げたそうです。その時に足の各所を蚤に噛まれていたようだったので隔離され、幸い『黒死病』にはならなかったようですが、身分詐称や領主発言もあり、結局彼は初の迷宮2層の独房行きが決定したそうです。恐らく、フローラさんとも僕達とも二度と会うことはないでしょうとの事です。
2つ目は、迷宮2層のオークへ差し出された被害女性達の問題ですが、人倫的にはどうであれ、彼女達は奴隷の身分でしたので、帝国の責任を問う事は難しいですし、彼女達もそれを望んでいないようでした。
結局、奴隷だったとしても森に置き去りにされた段階で、奴隷としての身分は開放されたと判断され、近々王都や付近の村に開拓者として入植する事が決まったそうです。かの地に彼女達の過去を知る人は居ませんし、帝国側もそれを話すことはないでしょうから、平和に暮らせるといいですね。
3つ目は、王宮の件です。王都の実行支配は、帝国のクラウディウス家が握っていますが、王宮はヴァリアント・ゲレーロ側に返還されたそうです。彼らの王家血筋しか入れない迷宮もありますし、地下2階のゴブリンたちとの盟約や秘密の書籍などもあり、のちのちヴァリアント・ゲレーロ側ともめるのも目に見えていますしね。
そうそう、シャルさんとアーネストさんですが、アレクシアさんからの言い付けどおり、転移魔法で一度アレキサンドリアへ強制帰国して頂きました。アーネストさんには了解を取ってありましたが、シャルさんは寝てる所を強制転移したので、裏切り者とかさんざんなじられましたが、これは仕方ないですよね。
二人はアレキサンドリアを拠点に、今後も冒険者を続ける事になりましたが、クラウディウス家からの依頼もある為、北都『トラキヤ』に行っています。
移動に関しては、アレキサンドリアが開発した小型の『飛行船』が使用されています。そう、ヘリウムガスでふわふわ浮かぶあれですね。国家とは関係なく、帝国内のクラウディウス家とアレキサンドリアの下層街との間で運行されていて、青家のワイアットが管理しています。下層街とはいえ、時折エリーゼさん達も現われますので、その際はパーティーになりますけどね。
色々問題はありましたが、暫くは『アレキサンドライト』の活動もお休みです。その理由は……
「さぁ、クロエ。今日も健康診断に行きますわよ」
勢いよく僕の自室のドアが開き、イリスさんがにこにこ顔でやってきたのをみて、僕はウンザリしながら声をあげます。
「ねぇ、もう1週間も検査して、なにもわからないんだから、止めようよ」
そうなんですよ。イリスさんとリリーさんが、執拗に僕の身体を調べたがるのです。そして、これにアレクシアさんもOKを出しているために、僕には拒否権がありません。
実際、身長・体重などの基礎的な項目から、魔力の出力波形、最大出力値などのデータを採られていますし、僕のクローンでも作るんじゃないかっていう位執拗です。
「だめよ、だって貴女あの時の男に『封印』するって言われてのでしょう? なら、どの能力が封印されたのかを確認しておかなければ危ないと思うわ」
確かにそういわれた気もしますし、恐らく事実なんだとは思っていますが、多分検査してもわからないと思うんですよね。実は僕には推測がついているのです。
それは、新しい技能や魔法の制限だと思うんですよね。天羽々斬を使っている僕は、べつに前世で剣技を極めたわけではありません。天羽々斬を召喚したことで、身体が剣技を使える様になったのです。
そして、それは魔法にも同じことが言えます。あの時点で使えていた分野の魔法は、今も使えますが、思いついても使っていなかった魔法、例えば『レイズ』などの蘇生魔法や、過去への時渡りに関する時間魔法などは、当時なら思いついて直ぐ使えたのに、今は使える様にならないのです。僕の推測が正しければ、能力の多様化の『封印』だと思うのですよね。
そして、イリスさんやリリーさんは、納得してくれないんですよね。もともと使わなかった=使えなかった、となるので能力の成長を『封印』されたといっても、わかってくれないでしょうね~
でもあの『男』に聴きたいことが一つあるんですよね。それは……
『封印』したのは、あくまで能力であって、身体の成長は含まれて居ないってことです。本当にお願いしますよ~
「さぁ、クロエ。今日は耐性能力の確認だからね。しっかり確認させてもらうわよ?」
僕はイリスさんに恐る恐る尋ねます。
「あの、それってどんな……」
「たいした事無いわよ。睡眠耐性に麻痺耐性とか、毒耐性もあるわね。他にもお母様とアレクシア様が色々考えているみたいですわよ?」
「ちょっと、まって。毒耐性とか、そもそも前回値もないんだかrわからないじゃないですかぁ~」
「あら、知ってるでしょ? 貴女に拒否権は無いのよ?」
ぎゃ~、助けて下さい~……。そして僕の悲鳴は虚しくファロス島に響き渡ったのでした。
0
あなたにおすすめの小説
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?
山咲莉亜
ファンタジー
ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。
だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。
趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?
ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。
※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる