168 / 349
5.南海の秘宝
35.アレキサンドリアの女王
しおりを挟む
11月も末となり、流石に肌寒い時期になってきました。海の色も青さが深くなり、風も北風が吹く日が多くなっています。
そして、なぜか僕は下層街の中にある、海軍施設に来ています。
「……本当にコレを持ち出す気ですか?」
僕の目の前にいる人物は、如何にも海軍の偉いさんといった格好をした、淡い色の金髪にアイスブルーの瞳をしたダンディーな叔父様といえるでしょう。
「そうはいうがね、お嬢さん。南洋では多くの船が海賊船やエリクシア南侯艦隊に襲撃されている現状だ。通常型の軍船では、友誼を結んだ商船を守ることはできなくなっている。
しかし、我々には彼らを守る手段があるのに、手をこまねいてみているわけにもいくまい」
「だけどね、ジャスティン。これはクロエちゃんの知識を元に作られたといっても、そもそもあなた方海軍の兵士が乗艦を拒んだ代物よ?
エリクシアとの戦時にすら出さなかったものを、いま乗艦する兵士がいるというの?
それにこれほどの艦は、10人や20人では操艦できないわよ?」
アレクシアさんと話しているのは、海軍長官であるジャスティン・フィッシャー提督ですね。そう、青家の家長であり、ワイアットの父親にあたります。
「そう、当時は誰も乗りたがらなかったこの艦も、その後のクロエ君の活躍により、飛行船なる空を飛ぶ乗り物まで実現し、不祥なる息子であるワイアットが、お嬢さんの知識が本物であることを示し続けてくれた。
であれば、この艦も鉄の棺桶ではないだろうと思ってくれる兵士も、それなりの数に達したというわけだ」
まあ、積載されている小型艇と飛行船で、いざとなれば離艦できるとわかっているせいもあろうがと、言葉を濁して続けます。
そう、僕達の目の前にあるのは、巨大なドッグ(船・艦の建造・修理を行う場所)であり、そこに鎮座しているのは、全長150m、最大幅20m、喫水4.8㎡を誇る鋼鉄艦なのです。
「しかし、実戦に耐えられるか否かは、ここに鎮座しているかぎり判らない。ならばこその試験航海をしようというわけだ。そして、この艦に一番詳しいのは、クロエ君しかいない。
すまないが、この艦の処女航海に同伴してくれないかね。君が乗艦していれば何があっても、全乗員を無事帰港させることもできるだろう?」
アレクシアさんを見ると、肩をすくめていますね。実際、エリクシアとの戦闘から2年以上が経過しています。ドッグを占拠し続けているこの艦を、アレキサンドリアの議員達もよくは思っていないのは事実なんですよね。なにせ、そこにあるだけでお金を食い続けるわけですから。
仕方ありませんね。この長期休暇を利用して、乗員の習熟訓練ときちんと役に立つことを見せるしかないでしょう。
「わかりました。では、処女航海にでるまえに、この艦に命名をお願いします。あとは艦長や士官、海兵の名簿などはご用意願いますね。
船内での僕の立場は、どうなるので……」
「あら、クロエちゃんがこの艦の艦長よ。アレキサンドリア史上、初めての女性艦長ね。それに、艦名も既に決まっているわ。『クイーン・アレキサンドリア』よ」
「……僕は海軍に入った記憶はないんですが」
そんな僕の呟きをきいてくれる人は誰もいませんでした。
*****
「深夜0時を過ぎましたね。それでは、偽装用の霧の散布をお願いします。その後、出港準備を始めてください」
「復唱、偽装霧発生装置作動。出港準備始め」
僕の言葉を復唱した士官によって、『クイーン・アレキサンドリア』の各所で、艦内放送が流れます。伝統的な伝声管も、ちゃんと要所には存在しますよ。
「ドック内注水開始!」
「注水開始します! 艦内各部にて漏水チェック始め!」
帆船しかない世界で、魔力を使用しているとは言え、恐らく初の動力船であり、鋼鉄艦でもあります。僕自身、船についてさほど詳しいわけではありませんが(某有名ブラウザゲームの経験しかありませんよ、ダメコンは大事ですね)、現在艦内にいる乗員は50名ほど
ですが、艦を出港させて洋上に停泊させるだけですので、何とかなるでしょう。
ドッグ内の水位が上がり、川面と水位が等しくなるまで、1時間余りかかりますが、艦内各所では出港に伴う士官のミーティングが行われています。
ドッグ内の状況や、艦内の状況は下層の完成室から報告が上がりますが、窓の上部に設置されたモニターにも分割表示されていて、普通の船というよりは、SFチックになっていますね。
「水位上昇。喫水超えます。……艦体離床」
グラリとやや揺れる感じがして、浮遊感が襲います。
「バラストタンク注水。姿勢制御」
「各所状況報告」
担当士官に艦内の状況報告が入るのを、僕は座席に座ってみているだけに見えますが、各部の魔道具から入る状況を、これでも確認しているんですよ?
そろそろ、水面の高さが川の水面と一致するようですね。このドッグのゲート本体は、大きなタンクのような作りになっています。フロート式というやつで、ゲート本体への注排水とドッグ内への注排水による水圧でゲートが閉開口する仕組みです。構造が単純ですし、修理も楽ですが、操作には熟練が必要なそうです。
「ゲート(水門)開きます」
「港内、艦内ともに異常はありません」
士官の報告に僕は頷きます。
「行進の機械を使用します。両舷前進最微速」
「微速前進、最微速!!」
僕の言葉が復唱され、ドッグから港内へと『クイーン』が進み始めました。霧でそれほど見える人はいないでしょうけど、念の為に認識阻害魔法を艦体にかけておきます。深夜ですし……
こうして夜中の女王の移動は、無事開始し、翌朝アレキサンドリアの沖合に、突如出現した艦にたいして、島が出現したと大騒ぎになりました。
そして、なぜか僕は下層街の中にある、海軍施設に来ています。
「……本当にコレを持ち出す気ですか?」
僕の目の前にいる人物は、如何にも海軍の偉いさんといった格好をした、淡い色の金髪にアイスブルーの瞳をしたダンディーな叔父様といえるでしょう。
「そうはいうがね、お嬢さん。南洋では多くの船が海賊船やエリクシア南侯艦隊に襲撃されている現状だ。通常型の軍船では、友誼を結んだ商船を守ることはできなくなっている。
しかし、我々には彼らを守る手段があるのに、手をこまねいてみているわけにもいくまい」
「だけどね、ジャスティン。これはクロエちゃんの知識を元に作られたといっても、そもそもあなた方海軍の兵士が乗艦を拒んだ代物よ?
エリクシアとの戦時にすら出さなかったものを、いま乗艦する兵士がいるというの?
それにこれほどの艦は、10人や20人では操艦できないわよ?」
アレクシアさんと話しているのは、海軍長官であるジャスティン・フィッシャー提督ですね。そう、青家の家長であり、ワイアットの父親にあたります。
「そう、当時は誰も乗りたがらなかったこの艦も、その後のクロエ君の活躍により、飛行船なる空を飛ぶ乗り物まで実現し、不祥なる息子であるワイアットが、お嬢さんの知識が本物であることを示し続けてくれた。
であれば、この艦も鉄の棺桶ではないだろうと思ってくれる兵士も、それなりの数に達したというわけだ」
まあ、積載されている小型艇と飛行船で、いざとなれば離艦できるとわかっているせいもあろうがと、言葉を濁して続けます。
そう、僕達の目の前にあるのは、巨大なドッグ(船・艦の建造・修理を行う場所)であり、そこに鎮座しているのは、全長150m、最大幅20m、喫水4.8㎡を誇る鋼鉄艦なのです。
「しかし、実戦に耐えられるか否かは、ここに鎮座しているかぎり判らない。ならばこその試験航海をしようというわけだ。そして、この艦に一番詳しいのは、クロエ君しかいない。
すまないが、この艦の処女航海に同伴してくれないかね。君が乗艦していれば何があっても、全乗員を無事帰港させることもできるだろう?」
アレクシアさんを見ると、肩をすくめていますね。実際、エリクシアとの戦闘から2年以上が経過しています。ドッグを占拠し続けているこの艦を、アレキサンドリアの議員達もよくは思っていないのは事実なんですよね。なにせ、そこにあるだけでお金を食い続けるわけですから。
仕方ありませんね。この長期休暇を利用して、乗員の習熟訓練ときちんと役に立つことを見せるしかないでしょう。
「わかりました。では、処女航海にでるまえに、この艦に命名をお願いします。あとは艦長や士官、海兵の名簿などはご用意願いますね。
船内での僕の立場は、どうなるので……」
「あら、クロエちゃんがこの艦の艦長よ。アレキサンドリア史上、初めての女性艦長ね。それに、艦名も既に決まっているわ。『クイーン・アレキサンドリア』よ」
「……僕は海軍に入った記憶はないんですが」
そんな僕の呟きをきいてくれる人は誰もいませんでした。
*****
「深夜0時を過ぎましたね。それでは、偽装用の霧の散布をお願いします。その後、出港準備を始めてください」
「復唱、偽装霧発生装置作動。出港準備始め」
僕の言葉を復唱した士官によって、『クイーン・アレキサンドリア』の各所で、艦内放送が流れます。伝統的な伝声管も、ちゃんと要所には存在しますよ。
「ドック内注水開始!」
「注水開始します! 艦内各部にて漏水チェック始め!」
帆船しかない世界で、魔力を使用しているとは言え、恐らく初の動力船であり、鋼鉄艦でもあります。僕自身、船についてさほど詳しいわけではありませんが(某有名ブラウザゲームの経験しかありませんよ、ダメコンは大事ですね)、現在艦内にいる乗員は50名ほど
ですが、艦を出港させて洋上に停泊させるだけですので、何とかなるでしょう。
ドッグ内の水位が上がり、川面と水位が等しくなるまで、1時間余りかかりますが、艦内各所では出港に伴う士官のミーティングが行われています。
ドッグ内の状況や、艦内の状況は下層の完成室から報告が上がりますが、窓の上部に設置されたモニターにも分割表示されていて、普通の船というよりは、SFチックになっていますね。
「水位上昇。喫水超えます。……艦体離床」
グラリとやや揺れる感じがして、浮遊感が襲います。
「バラストタンク注水。姿勢制御」
「各所状況報告」
担当士官に艦内の状況報告が入るのを、僕は座席に座ってみているだけに見えますが、各部の魔道具から入る状況を、これでも確認しているんですよ?
そろそろ、水面の高さが川の水面と一致するようですね。このドッグのゲート本体は、大きなタンクのような作りになっています。フロート式というやつで、ゲート本体への注排水とドッグ内への注排水による水圧でゲートが閉開口する仕組みです。構造が単純ですし、修理も楽ですが、操作には熟練が必要なそうです。
「ゲート(水門)開きます」
「港内、艦内ともに異常はありません」
士官の報告に僕は頷きます。
「行進の機械を使用します。両舷前進最微速」
「微速前進、最微速!!」
僕の言葉が復唱され、ドッグから港内へと『クイーン』が進み始めました。霧でそれほど見える人はいないでしょうけど、念の為に認識阻害魔法を艦体にかけておきます。深夜ですし……
こうして夜中の女王の移動は、無事開始し、翌朝アレキサンドリアの沖合に、突如出現した艦にたいして、島が出現したと大騒ぎになりました。
0
あなたにおすすめの小説
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?
山咲莉亜
ファンタジー
ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。
だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。
趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?
ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。
※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる