駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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5.南海の秘宝

44.レギニータ、乗艦まで

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 簡素とは言えきれいに整った部屋へと案内された一行に、副長と呼ばれた紳士は丁寧な相手をしてくれた。

「さて、あまり多くを語る事はできませんが、簡単な説明と質問に答えるという事でよろしいですかな?」

 案内された部屋でそれぞれ席にすわると、出迎えてくれた二人の女性が、全員に飲み物を提供してくれた。女性にはレモンティー、男性には黒い漆黒の飲み物コーヒーである。

「ええ、よろしくお願いできますか。アレキサンドリアが他国に攻め入る事はしないということは重々承知しておりますが、このような大きな存在はそれだけで人を威圧するものです。
 このようなモノをなぜお造りになったのかも、併せてうかがえればと思います。」

 ロンタノ辺境伯の言葉に、副長と呼ばれた紳士はうなづいた後に話を始めた。

「周辺国のみなさんに不安感を与えるのは、わが国としても本意ではありません。まず、この艦の建造目的は、海上交易路の防衛といえます。
 皆さんもご承知の通り、わがアレキサンドリア共和国は、資源の少ない小国であり、国家としての存在は全て海上交易により成り立っております。しかし近年は大型の武装商船や、私領船による海賊行ためにより、海上交易路が脅かされております。
 しかしわが国は小国。多くの船を建造し、海上交易路を守ることはできないため、1隻の船によりより広い海域を守る必要があり、そのための実験艦として建造されたのが本艦です」

 その後、この艦の行動予定を一行は説明をうけたのである。それは、この冬季休暇期間を利用し、新造艦、『クイーンアレキサンドリア』の試験航海を行うということ。
 目的地は、南洋諸島方面で、片道一週間程度の航海をした後に、再びアレキサンドリアへと戻ってくる予定であるいうことを。

「実験艦といいましたが、この船は普通の船とは違うという事ですか?」

 あえて口を閉ざしているロンタノ辺境伯に変わって、一緒にやってきた受講生のうち、唯一の男性であるクリスティンが質問をした。レギニータがちらりと辺境伯を見ると、周囲に分らない程度に笑みを浮かべている。

(なるほど、レギ達を連れてきたのは、自分が質問してアレキサンドリア側に変な警戒を指せずに、情報を得るためですの!)

 レギニータが気付くのだから、当然他者も気づいているが、他国の若い受講生の質問もむげにはできないということだろう。たとえ受講生の目的が、自国に有利な技術や知識を得ることだとしても。紳士は表面上にこやかな笑顔で、答えてくれた。
 どおりでクロエ達が来ないはずである。受講生と面識のある三人は、質問をむげにはできず、許容範囲以上の情報をロンタノ辺境伯と周辺国に与える事になりかねないのだから。

「そうですな。クロエ艦長は、この船はそれ自体が丸ごと魔道具で、従来の船とは異なり、軍用に特化した船であり、それを艦というとのお話でしたよ。
 そしてその意見は正しい。少なくても、従来の船の常識は、この艦には通用しないと思っていただければと」

 この巨大な船が魔道具と聞かされ、あっけにとられる人々と異なり、レギニータは冷静であった。

「南洋諸島方面と言いましたが、どこまで行く予定なんですの」

 母国方面へと、この正体のしれない『艦』とやらが向かうのでは、気が気ではないのだろう。

「今回の出港目的は、あくまでも乗員の習熟訓練と思っていただいて結構です。人魚族であるお嬢さんが、ご心配するような事はありません。どこまでといいうお話には、軍機なのでお答えは差し控えます」

 クロエ達の、自由気ままな普段の姿に忘れられがちではあるが、彼女たちはアレキサンドリアの魔術学院の学生であり、現役の国軍兵士でもあるのだ。非常事態を除けば自由とはいえ、任務であれば先ほどのように振る舞うことも出来るのである。それが本人にとって望ましくなかろうとも。

 その後も簡単な質疑応答が続いたが、より詳細な説明や性能についての答えはなく、軍機を盾に回答を拒まれる質問も多かった。
 最後に飛行甲板上を一周して下艦することになった一行は、部屋をでて飛行甲板へと向かう階段で、コリーヌがふと気が付いた事を口にした。

「そうか、何かおかしいと思っていたんだが、なぜ周囲のほぼ全てが金属なんだ?」

 そういえばと、同行している一行が気がついた。自分たちの立てる足音さえ、石畳や木製の床を歩く音と異なり、やや高めの『カンカンッ』という音であることに。

「まさか……」

 クリスティンがつぶやこうとしたその言葉を、既に甲板上に居た紳士が先取りをした。

「そう、本艦はそのほぼ全てが金属でできた艦であり、それを発案・実現したのがクロエ・ウィンターという人物です。それ故に、彼女がこの艦の艦長なのですよ」

 馬鹿な……とつぶやく声が聞こえるが、それは信じることができないからこそ漏れた一言だ。現実に、ほぼ全てが金属でできた船が、海の上に浮いており、しかも自分たちはその上に立っているのである。

 その後案内に従って、甲板上を歩く一行だが、多くは立ったまま甲板の端によることはできなかった。おっかなびっくり、腹ばいになりながら進んだものも、海面上から吹き上げてくる風に、髪を大きく乱されている。
 そんな一行とは対照的に、甲板上を幾人もの要員が、こちらも新型機と思われる複数の飛空艇の発着艦作業に慌ただしく動き回っていて、レギニータは気が気ではない。
 山岳国育ちであるクラリスも、

「崖の上で生活しているようなものですね……」

 とつぶやいたきり、二度と端にはよらなかった。そして、退艦となった時のことである。

「副長さん。いえ、にお願いがあります」

 レギニータはオスカー副長に、言いあぐねていたお願いを言うことにした。

「……南洋諸島方面に向かうのであれば、私もご一緒させていただけないでしょうか?」

 自分が一緒であれば、人魚族の生息地域近くにこの艦が出向いても、説明もできるし、あえて警戒をされないように迂回コースも指示できると。

「……それは、人魚族に本艦の性能を知られることになりますな。そちらに益はあれ、我々にはなんの益も無いように思えますが?」

「海に出る以上、人魚族が多くの事を知るのは時間の問題ですの。それに大きな存在が自分たちの国に近づけば、恐怖を覚えるのは人魚族も同じことです。人魚族が誤解をした場合、皆様にその誤解をとく事はできますか?」

 ふむ、一言つぶやいた副長は、レギニータの言い分を認めるしかない。海を行く術を人類はもっているが、それはあくまでも水中の種族がそれを認めているから成立しているのである。
 水中の種族、人魚族や魚人族などが比較的温和であるからこそ、海上交易は可能なのだ。ただでさえ水棲の魔物や魔獣が生息しているなか、友好的な種族に警戒心を与えるのは得策ではないだろう。
 小型の潜水艦があるとはいえ、水の中での戦闘は、クロエをもってしてもレギニータ一人に、からくも勝利した実績もある。複数で迫ってくる人魚族には、小型の潜水艇などなんの役にもたたないであろう。

「……よろしいでしょう。ただ、本艦の航海予定は定まっております。明日の出航時刻を動かすことはできません。よろしいですね?」

「ありがとうございます、提督。明日以後よろしくお願いします」

 内心で大きく安堵の息をもらしたレギニータであったが、やることは結構多い。あっけにとられている周囲をよそに、コリーヌの手をとり早速お願いをする。

「お願い。私がいない間、代わりにアルバイトしてね」

「「なっ……」」

 絶句したのはコリーヌだけではない。もともと、クラリスも『四季』でのアルバイトは希望していたのである。それも心の底から……、そしてそれはコリーヌも同じであった。

((国に戻ったら、ここで食べられている美味しいお菓子や飲み物が味わうことはできない。レシピを教えてもらったり、本国に支店を出してもらえるチャンス!!))

 チッタ・アペルタに戻る間に、3人の間でし烈なお話合いがあったのは当然のことである。そして、それを見ながらロンタノ辺境伯であるアレクシスは表情が緩みっぱなしであった。
 なぜなら、彼(の街)だけがその栄誉をものにしているのだから……
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