駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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5.南海の秘宝

56.それぞれの夕べ②

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 飛行甲板の上から見るテネリの街は、オレンジ色に染まりつつあった。海から吹く風が、淡く光る黄金の髪を揺らしているが、夕日のせいでいつもよりも赤みかかって見えていた。

「なんだ、街に出ないのかよ?」

 背後から聞こえてきたのは、リアンの声だ。いつも通りのおさまりの悪いボサボサ髪に、ブラシも入れずにこちらへ歩いてくる。

「第3分隊は飛行甲板への立ち入りは許可されていないはずですよ?」

 振り返りもせずに口を開いたワイアットの傍らに、リアンは同じように座り込んだ。固いことを言うなと身ぶりで示したリアンは、再度質問を重ねた。

「で? 航空隊は今日は全員外出許可が出ていたはずだぜ?」

「……」

 返事のないワイアットの顔を見ずに、リアンはテネリの街並みをみつめた。アルムニュール国は技術大国ではないが、香辛料やバナナなどの果物を産している。
 香辛料は比較的高い値で取引されており、南洋諸島の諸国の中では裕福な国であるが、それはそれで海賊行為を行う私領船に狙われることが多い。そのため、首都のテネリはろかくした私領船や海賊船などから降ろした大砲を随所に配置している。

 リアンの視界には、そのうちの数門の砲が、『QAクイーンアレキサンドリア』の方向に砲を向けているのが見えた。アレキサンドリアにケンカを売る事はないであろうが、仮にも首都である以上、警戒しなければならないのだろう。

「どうやら、今日は誰も艦内にはいてほしくは無いようだぜ?」

 二人の背後の空間がユラリとゆれると、白を基調とした戦闘用の制服を来たエマが現れる。ワイアットはため息を付くと、ゆっくりと立ち上がった。リアンはそんなワイアットの肩を軽く叩いて。ことさら明るく言うのであった。

「さて、怖い護衛殿も来たことだし、飲みにでも出かけようぜ。今日はおごってやるよ!」

 そんなリアンに、ワイアットも「そうだな」と低く呟いて、飛行甲板を歩きだすのであった。
 艦を下りて桟橋近くの通りを過ぎると、二人は指定されたB&B(ベッド・アンド・ブレックファスト)に足を運んだ。
 テネリは治安が良い方ではあるが、この時代の外国人というのは船乗りと商人しかいない。海賊ではない普通の商人や船乗りとはいえ、海に出れば命がけのために、街では大騒ぎするものがそれなりに存在する。
 その為、比較的静かで高級な宿は女性乗組員に譲り、士官と言えども男性乗組員は静かながらも安い朝食だけが提供される宿への宿泊となったのである。

 士官であるリアンとワイアットは、それなりに優遇されており、アルコールとつまみ程度は部屋に用意されていた。リアンの部屋で、テーブル上にそれらを広げて、軽く乾杯をした二人は、窓から見える船外灯がともQAクイーンアレキサンドリアを見ながら、グラスを交わしたのであった。
 無言でグラスを口に運ぶワイアットを見ながら、リアンは口を開いた。

「……気にするなといっても無駄だろうな」

 ピクリと運んでいたグラスが止まり、しばしの無言の後にワイアットも口を開く。

「……当たり前だろう。今回の艦橋への被弾は、明らかに僕の油断から生じたものなのだから」

 航空隊の練度が高ければ。沈んでゆく海賊船にもっと注意を払っていれば……。そういうたらればを言い出せば、いくらでも出てくることは二人とも承知している。この場にいない砲雷長や航海長は、紅家と青家の系譜に連なるものでもあり、両家の失態が艦を危機に陥らせたのは事実として変わらない。
 リアンはふと思う。自分が砲雷長であったら、彼と異なる選択をしたであろうかと。そして、やはり同じ選択をしただろうと思うのである。
 艦に搭載された兵器類は、実際に使ってみなければ利点も問題点もわからない。序盤にいきなり艦にダメージを与えたとはいえ、アネル・デュプロ海戦で使用するチャンスがあれば、あの時しかなかったであろう。
 敵に包囲された場合などに、衝角攻撃が使えるか使えないかの判断するには、必要な事ではあったし、まして、クロエが艦の損傷を自分の身体に反映させているなど、普通は考え付きようがないのだから。

「悩んだところで結果は変わらないぜ? 同じ事は二度と起こさない。そうでなければ、あいつが身体を張った意味もなくなるってもんさ」

「……君は昔からそうだからな。単純でうらやましいよ」

 なにをっとワイアットを睨みつけるリアンではあるが、幾分その目にいつも通りの輝きが戻っていることに安堵あんどした。

「ふん、あいつに借りを返す前に死なれても困るしな。それにUnruly girl as she手に負えないのがあいつだからな、責任を押し付けられても困るんだよ」

「はははっ、確かにそうだね。あいつはしぶといし、イリスもいる。すぐに生意気な姿をみせるだろうな」

「そうじゃないと困るぜ? アレクシアさんのあんなおっかない顔なんて、二度と見るのはごめんだ」

「……確かにごめんだね。それにしてもお互い、厄介な契約をさせられたものだね」

 呆れ顔でリアンはワイアットを見た。しれっといってのけた顔は、もう普段通りに様にもみえる。

「お前が言うなよな。俺はお前の巻き添えを喰ったんだぜ?」

 幼かった時の黒歴史となった一件。2人の策略で、クロエを失いそうになったアレクシアの怒りはすさまじいものがあったのだ。
 当時のクロエは、対外的にはアレクシアによる保護観察者であったが、実際には養子としての手続きが進められていたのだ。戸籍も何も無かったため、段階的な手続きを図っていた矢先のことである。
 アレクシアへの注目の高さから、委員会でも養子申請されたクロエについては知られており、たとえ青家・紅家の嫡子による未必の故意とはいえ、殺害しようとしたことは非常にまずかった。
 アレキサンドリアでは、幼女への犯罪は生死を問わず重罪であったが、幸いにもクロエが一命を取り留めた事と、リリーとイリスのとりなしもあって、一つの魔法契約を結ぶことで、罪を大きく減じる事にしたのである。

「しかしなぁ、『クロエちゃんがお嫁にいくまで、二人がその身を守る事』なんて魔法契約は失敗だったぜ? 失敗すれば、魔力は一切封印されちまうし」

「……確かにね。本人には全くその気が無いようだし、このままじゃ生涯守るはめになりそうだ」

 二人は顔を見合わせて力なく笑みを浮かべた。

「それに、あいつの影響か、イリスやユイまで怪しいぜ? どうすんだよこれ」

 二人の気苦労は、これから先も続くようであった。
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