駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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6.楽園での休日

6.二人の剣士

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 浜辺のビーチパラソルの下に移動したエリーゼ達であったが、先客である二人の女性の姿をみて、「ほぉ」っと声をあげる。エリーゼの目に留まったのは、胸元はやや寂しいが、身長は160cm余りの淡い茶色の髪に、茶色の瞳を持つ知的な眼鏡美女コリーヌである。

 武を極めんとしたその物腰は、傍らの女子との会話や飲み物をとる際の所作などにも表れ、スキが無く、相当の手練れと思われた。暗器を使うフローラに不意を打たせようとしても、そのスキが見つけられないであろう。
 傍らの女性は全くの素人らしく、動作に女性らしさは感じても、武人のそれではない。だが、エリーゼにはその二人に見覚えがあった。

「『四季の騎士』殿も招待されていたのですね……」

 エリーゼのつぶやきに、コリーヌが視線をあげる。『四季の騎士』とは、年末あたりからコリーヌにつけられた二つ名である。『四季 チッタ・アペルタ店』に言いがかりをつけて来たアルべニア貴族を、一刀のもとに運河にたたき込み、店を守ったといわれている。
 かなり尾ひれがついた話ではあるが、剣での戦いでは無敵ではないかと、人々は無責任にうわさをしていたのである。当然のようにおいしい食べ物を買いに、『四季 チッタ・アペルタ店』を訪れたエリーゼもそのうわさを耳にいれていたのである。

 コリーヌはその抜群を誇る記憶力によって、エリーゼと少し離れて何時も側に控えているヘルガを見おぼえている。二人の所作から、剣を学んでおり、その腕前も尋常の者ではない事も見て取っていた。

「よく見えるお客様ですね、いつもご来店ありがとうございます。わたくしはコリーヌと申します」

「あ、わ、私はクラリスと申します。いつもご来店ありがとうございます。えっと、とはいっても私たちは正規のお店の従業員ではありませんが」

「いつもおいしいデザートと、素敵な飲み物をありがとう。わたくしはエリーゼと申します。こちらは連れのフローラ嬢にレーナ殿ですわ」

 そういいエリーゼは艶やかな笑みを浮かべ、コリーヌとクラリスを見る。クラリスはその笑みに見とれてしまうが、コリーヌの内心に悔しい思いが広がる。
 彼女エリーゼは、クラリスが持ち合わせていない(あっても少ない)、女性らしい所作も兼ね備えているのだ。ただ武だけを追求してきたコリーヌと、ほぼ同等と思われる武威ぶいの他に……

 貴族女性としての女らしさなど、武には不要と切り捨てたはずのコリーヌに対し、公爵令嬢としての所作も併せ持つエリーゼは、同じ女の目から見てもうらやましいほどの美貌とスタイルを合わせ持っている。
 エリーゼ本人は親から与えられた物としての美貌にそれほどの価値を感じていなかった。エリーゼのスタイルは、彼女の努力と節制のたまものであり、美貌は父母から受け継いだものを、スタイルを整える努力がたまたま支えただけのものに過ぎないと割り切っているのだ。しかし、女の武器としては十分使えると理解しているし、使うことに抵抗は感じる事は無い。
 性格はややきつめと思われることも多いが、必要に応じて切り替える事もできるしたたかさは、高位貴族の令嬢としては必須であった。ただの奇麗な花でいるだけでは、貴族社会で生き抜くことなどできないのだから。

 エリーゼとしては、他国の武人と剣を交える事には意味があると思っているし、実際クロエとの試合は勉強になったし楽しかったのだ。
 とはいえ、貴族令嬢として開放都市チッタ・アペルタを訪れている以上、武器を振るう機会など無く、フラストレーションがたまっていたのである。
 今やコリーヌの存在は、エリーゼという猫の前にぶら下げられた猫じゃらしのようなものである。そして、コリーヌは武人としての性質から、エリーゼの挑戦を断ることは無い。

 あちゃ~と顔に手をやるレーナと、あたふたとヘルガの帰りを待つフローラを横目に、エリーゼはついにその一言を言い放った。

「名だたる『四季の騎士』に、ジョストを剣で挑んでもよろしいかしら?」

 ジョストとは、騎士の間で行われていた一騎打ちの競技である。通常はランスを用いて相手を落馬させる3本勝負であったが、剣どうしでも行われる事もある。
 一騎打ちとはいえ競技であり、名誉を損なわれた時に行う決闘とは異なり、生死を奪う事はない。まれに事故で亡くなる場合はあるが、そこは運が悪かったとしかいえない。

 エリーゼの言葉に、一瞬息をのんだコリーヌであったが、挑まれて拒むのは騎士の名がすたる。応じようと立ち上がったその時であった。
 コリーヌとエリーゼの後頭部にスパーンスパーンと軽妙な音が響き、衝撃が走った。そして少し幼いながらも高く澄んだ声が二人の耳に響く。

「全く、せっかくのお休みだっていうのに、貴女あなたがたは何をしてるんですか!」

 パラソルからほど近いハンモックが吊るされていた椰子やしの木陰から、ぷんぷんという顔でクロエがゆっくり姿を現したのであった。

*****

 エリーゼさんの澄んだ声が聞こえて、僕はハンモック上から身を起こします。様子をうかがうと、パラソルの下でエリーゼさんがコリーヌさんに挑発行動中ではないですか。
 僕としては幸いにも、皆さん上衣を羽織っているか、特に目のやり場に困る姿でもないので、一安心です。しかしエリーゼさんて、優秀なくせに猫のように気ままなところがありますね。

 開放都市チッタ・アペルタ内では、基本的に冒険者と警ら隊以外は武器を帯びる事は禁止されていますし、冒険者といえど抜刀やつえを構える事は禁止されています。
 冒険者以外に武器の携帯が必要な場合は、警ら隊に申請して『武器等の所持許可証』を発行してもらうことになります。しかし有効期間は3日と短く、かなり頻繁に手続きをとる必要がありますし、更新なしに武器をびれば警ら隊による職務質問を断ることはできません。断れば即捕縛されます。

 なので、唯一武器を振るって良いのが僕が受け持つ講義だったのですが、いまはギルドに管理を移しましたので、一般人が武器を振るうには開放都市チッタ・アペルタを出る必要があるんですよね。普通の人はその必要はありませんが……どこにも例外があるという事ですね。そこにフラストレーションをため込む人は多い様で、エリーゼさんもその一人という事だったのです。コリーヌさんは学院での実習で武器使用がありますから、あまりフラストレーションがたまらなかったのでしょう。

 もう、めんどくさい人達ですね。僕はハンモックを下りてそっと二人に近づきます。

「名だたる『四季の騎士』に、ジョストを剣で挑んでもよろしいかしら?」

 エリーゼさんの問いかけに、僕はちっと舌打ちをして収納からハリ扇を取り出すと、2人の美女の後頭部をどつきました。スパーン、スパーンと気持ちの良い音がしますね。そして、言います。

「全く、せっかくのお休みだっていうのに、貴女がたは何をしてるんですか!」

 僕の声に、二人の美女は動きを止めるのでした。
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