駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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7.女王の奏でるラプソディー

01.女王のお客人

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「当然、お前も乗艦を希望するんだろ?」

 アレキサンドリア上層街の魔法学院の屋上に設置された温室のなかで、QAクイーンアレキサンドリアの航海長ハリー・ブラウンは、木製のプランターの前でかがみこんでいる友人に声をかけた。
 それに対して、さもめんどくさそうに友人であるアルバートは答える。よほど関心がないのか、ハリーの方を見ようともしていない。
 
「薬師の僕が、船に乗っても意味がないだろ。海兵になら乗艦を希望する者はいくらでもいるんだ。そいつらを乗せればいいだろう?」

 素っ気無く答えるアルバートに、ハリーはやれやれと肩をすくめた。

「確かにQAクイーンアレキサンドリアに乗りたがる奴らは多いけど、今回はそれだけじゃないんだぜ? お前噂を聞いてないからそんなに気の無い素振りなんだろう?」

 前回の処女航海と異なり、今回QAクイーンアレキサンドリアに下った命令は、三ヶ月の遠征任務である。
 乗組員はそれなりに必要であるが、他の船から人を回す余裕は海軍には存在しない為、学院の航海科から他の船への乗艦を割り当てられなかった者の中から選抜されている。
 帆船の操船技術が優秀な者は、本人が希望してもQAクイーンアレキサンドリアへの乗艦はできない。当然これらの者は、既存の船へと回される為である。帆船の操船技術が低くても、QAクイーンアレキサンドリアでは関係がない為、技術の低いものでも問題がない為の措置であった。

 唯でさえ船内の環境は良いと噂されている新造艦に乗りたがるものは多かったが、今回はそれ以上に海軍上部を恨む者も多いのは、とある噂が男子生徒の中で広まっているせいであった。

 曰く、アレキサンドリアきっての美姫と名高い、ユイ、イリス、クロエの三人に対して、国の上層部から三年間で伴侶候補を定めるよう通達が出たとの噂が広がっていたのだ。噂の広がりと同時に、QAクイーンアレキサンドリアに対しての遠征任務が入ったことは、噂の信ぴょう性を上げており、三人にお近づきになるには、QAクイーンアレキサンドリアへ乗艦することが必須と考えられていたのである。

 熱くそう主張するハリーを横目に、アルバートはため息をついた。アルバートも一応は青家の末席に身を置く立場ではあったが、彼は洋上をいく船よりも、山野に咲く草花に興味があったのだ。青家の中でも変わり者と知られており、アルバート本人の口数も多いとは言えないため、同性の友人も少なく、異性に興味をもつ事もなかったのである。

 クロエ達を遠目で見かけたことくらいはあるが、しいて言えば育てている薬草などの為に、エルフの知識を知りたい程度であったが、恋愛対象としてユーリアをみる事もできないし、必要な事はミロシュを通せばよいだけの話である。

 ハリーが熱く語るのを聞きながら、アルバートはハリーを体よく追い出しにかかった。彼は美女をめでるよりも、実利のある薬草の方によほど興味があったのだから。

「僕は船に乗るよりも、薬草の世話でいっぱいいっぱいさ。大体、薬師の僕に声がかかる訳ないだろう」

 そう言いプランターを抱えなおしたアルバートに対し、ハリーは人の悪い笑顔を向けて伝えたのである。

「悪いけど、ワイアットの奴に青家から一人候補者を推薦しろって言われてね。自分は、お前を推薦させてもらったよ。あぁ、悪いが拒否権は無いという話だったんでよろしく~」

 そう言いながら、ハリーは脱兎のごとく逃げ出し、温室には呆然自失としたアルバートが取り残されたのであった。

*****

 同時刻、『四季 チッタ・アペルタ店』三階のテラスで、クラリスは口をぽかんとあけたまぬけ面をさらす事となっていた。

 とはいえ、これはクラリスが悪いわけではない。同じように、集められた他の令嬢も含めて、みな同じ表情をしていたのだから……

「……貴女、正気ですの?」

 しばらくした後、再起動に成功したエリーゼがようやく口を開いた。その美しい顔に驚きの表情と半ば呆れた表情を浮かべ、額に手をやりつつ、こめかみをぐりぐりもみほぐしている。

 (綺麗な人は何をやっても様になりますね……)

 クラリスはそう思いつつも、自分たちの前に立つ、白髪紅瞳の小柄な少女クロエの顔を改めて見つめる。クロエは集めた少女たちが呆れているのを無視して、再度言葉を繰り返した。

「うん。もう一度いうけど、みんなをQAクイーンアレキサンドリアお客ゲストとして、次回の航海に伴って乗艦してもらいたいんだ。期間は最低3カ月で、最長半年くらいかな」

 そう言ってクロエの話によると、今回は東方海域への航海となる為、危険性は低い代わりに、軍としては訓練が主体となる。
 そこで、普段は海に出る事のないアレキサンドリアの薬師や採掘関連のスキルをもつ乗員を伴い、東方海域周辺の植生や鉱物資源などを調査することも行おうというのだ。

「そういった植生調査や鉱物資源の調査は、軍の任務じゃないので人員を割けないんですよ。そこで、皆さんを乗艦させることによって、調査の際に護衛任務や現地の風土病などの治療法の確率などに力を貸してもらえないかと思ってるんだ。
 その間みんなに依頼した事は、冒険者の皆さんには帰港後に指名依頼を処理した形でギルドへの依頼と完了報告を提出するよ。冒険者じゃない人も、それに準じた報酬を支払います」

 他国の人間、エリーゼやコリーヌにとっては興味深い提案であろう。アレキサンドリア海軍の最新鋭艦に乗艦できれば、見聞きする者全てが自国への情報となる。
 だが、こちら側だけが一方的に得をする話をするわけもない。なにかしら裏があるはずだ。

「……わたくしたちだけが一方的に得をする話を、貴女がたが持ってくるわけもありませんわね。その理由を説明してくださって、納得がいけば私は参加しますわよ?」

 エリクシア貴族としての顔をのぞかせたエリーゼが口を開くと、他の面々もうなづいた。良く言うではないか、うまい話には裏があると……
 クロエたちが悪意を持って自分たちをだますことは無いだろうが、軍人としての顔を持つクロエたちである。上官の命令という事も考えねばならない。そう思って話を聞くが、実情はあっさりとした物であった。

「ん~、白状するとね。軍人だけになる状況を、僕たちも避けたいんだよね。上官の命令は絶対なんてなれば、羽目を外すおバカな上官もいないとは限らないじゃない? まして、本国から離れた外地なら余計にね。
 僕が成人したことによって、ちょっとアレキサンドリア内でも余計な話が出ちゃってさ。みんなが居れば、他国の人間の前で、恥をさらすような真似はそうはできないと思うんだよね」

 確かに他国の人間の前で、恥をさらす真似はそうは無いといえるだろう。無理な任務であれば拒否もしやすいというものである。
 そして、自分たちはというと、新造艦の機密に直接触れる事ができ、乗艦中の衣食住は保証される。今回の任務に合わないカレルのような町医者を目指すものは、チッタアベルタ内の医院で実習が受けられるとのことで、ここに呼ばれたメンバーは資格を満たしているらしい。

 サンドラの様に自宅から通っているものは両親の許可が必要であろうが、そこはロンタノ辺境伯の領に下位の貴族であれば、情報を得るチャンスを辺境伯が見逃すはずもない。こうして、大多数のメンバーは、お客ゲストとしてQAクイーンアレキサンドリアに乗艦することになったのであった。
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