駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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7.女王の奏でるラプソディー

30.幻と現実

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 目の前で喜劇を演じていた二人が動きを止めてから、たっぷり十秒は経ったでしょうか? 仕方なく、僕は二人に声をかける事にしますが、そのセリフは……


「一体いつから…… 僕が死んだと錯覚していた?」

 くぅ~、一度は言ってみたかったセリフにきっと入っていたはず。
 エリオットが、ディランに向けて振り下ろした岩は、僕の張った物理障壁でディランの頭に当たる寸前で止まっていますし、ディランが何を見たかは知りませんが、吐きまくった汚物は環境への悪影響もあるかもしれませんから、早々に消滅済みです。

 僕のかけた声に、ディランもエリオットと呼ばれたデカ物も、こちらをみて呆然としています。狭い空間に、上空から飛空艇で降りてくるのですから、十分な詠唱時間もありますので、折角ですから二人には完全催眠の世界を味わっていただきましたよ。

 一番機は、三百メートル程度降下して着陸していましたが、彼らは縦穴の底に着いたと感じもしなかったでしょう。機体の制御は、僕が完全に掌握していますので、着陸制御や魔導砲の発射機構のロックなど全て外部から割り込みを掛けて制御していましたし、完全催眠のお陰で彼らは五感全てで、現実と変わらぬ世界を楽しんでいただけたはずです。

 僕の背後には、クラリスさんとコリーヌさん、そして蒼竜マー・アズーロさんに飛竜のカッチャトーレさんがいます。
 ディランはこちらを見上げて驚いた表情を浮かべていますが、涙や鼻血に鼻水やら、よだれで、ぐしゃぐしゃになった顔でこちらを見ています。うわ~、なまじイケメンだったせいで、とんでもなく酷い顔に見えますね。正直二度は見たくない顔です。ディランは顔を拭いたはず? いえいえ、それも幻覚ですよ?

 エリオットと言いましたっけ? デカ物も、僕の顔を見て驚いていますね。岩が手から離れて、障壁に当たるとエリオットの足の上に落下します。彼は足に岩が落ちても、いたくないのでしょうか?

「ば、馬鹿な。貴様らは何故生きている!! 何故傷一つないんだ!!」

 そして、二頭の竜に気付くと、あわてて飛空艇の方へと走り出します。機体を奪って逃げるのか、再攻撃をしようとしているのかは解りませんが、彼の自由を許す気はありません。

QAACクイーンアレキサンドリア・アクセサリーコントロール……In a connection, flying boat number 1.Canopy closing』

 僕がつぶやくと、開いていた飛空艇のキャノピーが音を立てて、デカ物の目の前で閉じてしまいます。デカ物は、キャノピーに手を挟まれそうになり、慌てて手を引いた後でこちらを睨みます。

「残念ですね。QAクイーンアレキサンドリアの艦載機で、僕の命令をきかない物はないんですよ。そして、僕が解除命令をしない限り、例え僕が死んだとしても、その機体を貴方がたが使用することは出来ません。
 貴方がたが見た光景は、ただの幻覚に過ぎませんが、この場所の周囲の岩に火魔法を使用すると、致死性の有毒ガスが発生するのは本当です。
 そして、それを警告したにもかかわらず、魔導砲のトリガーを引いたことも、機体の操作ログとして記録に残っています。そう、貴方がたが僕を殺してでもかまわないと行動した証拠ですね」

 二人の前で、エマとジェシーの記録した映像を投影してあげると、ディランはがっくりと膝をつきました。機体が使えない以上、この縦穴の底から生きて出る事は出来ませんからね。
 僕はエマとジェシーをうながして、コリーヌさんとクラリスさんをDM2へと乗せてもらいます。うん、二人は知らない方が良い事もありますからね。

「さて、お二人には命令違反や上官に対する殺人未遂の犯人として、営倉に入ってもらいますが、QAクイーンアレキサンドリアに貴方たちの居場所は在りません。僕と会話することも金輪際ないでしょう。
 残念ながら、軍規自体が慣習法ですし、二人とも傍流とはいえ、青家紅家の直系子孫ですからね。極刑にはならないでしょうが、良くてドワーフ鉱山での終身労働になるでしょうね。なにしろ貴方がた二人は、上官や他国からの賓客ゲストを殺害しようとしただけでなく、上官の命令を無視して、竜族とアレキサンドリア共和国を戦争状態にしようとしたのですからね」

 僕の言葉に、ディランもエリオットもなにかわめき散らしますが、不快な言葉を聞く気は在りません。あぁ、でも最後に教えておいた方が良いでしょうね……

「まずディラン、貴方はアレキサンドリアで一番の操縦士ではありません。気が付きませんでしたか? ここに来るまでにずいぶん無様ぶざまな飛び方をしていたのを…… 君は、シルフの加護を受けし者『風のライラ』の支援が無ければ、並みの腕前しかないんですよ。今は天狗になっていた分、学院卒の新人より下手くそなんですよ……」

 僕の言葉に、ディランは目を見開いて、驚きの表情を浮かべていましたが、僕の言葉を理解したのでしょう。がっくりと膝をつきます。
 そして僕は、凶悪な視線を向けているエリオットにも言葉を続けます。

「そして、エリオットと言いましたっけ? 貴方には残念なお知らせが二つあります。貴方は既にクイーンに魔術師としても、ているんですよ。
 あと三日もすれば、君は放出魔力が零になります。魔力がなくなれば、上層街には住めません」

 僕は、彼の股間を指さします。

「そして……それも、もはや飾りモノに過ぎません。腐った血筋が残らないように、クイーンが念入りに破壊したそうですよ。貴方が、汚い手段や力づくでモノにしてきた女性たちに言わせれば、甘い処置でしょうけどね」

 僕の言葉に、大きく目を見開いたエリオットは、突然僕に向かって走りだします。残念ですね、コイツよりまともだった人を殺めたこともある僕ですが、この場で処理することはできないんですよ。でも、死ぬよりつらい目にあわせる事は出来るかもしれません……

 殴りかかったエリオットの右手首に、左掌さしょうを添えて右に流すと、そのまま身体を半回転させて、回転力も加えた肘打ちを叩き込みます。
 彼の右上腕骨頭に対して、右肘打ち。衝撃を百パーセント打撃力に変えた事によって、上腕骨頭が関節面を滑り、身体の前面に移動……前方脱臼させます。
 急激に発生した疼痛とうつうで顔をしかめ、エリオットは左腕で右肩を抑えて膝を突きましたが……

「……このガキ、一体何を……し…………た……」

 まだ話せるんですね。他の人は知りませんが、『大男総身に知恵が回りかね』って奴で鈍いのかもしてませんね。ならば……

「うるさいですね……あなたには他人に与えた痛みを知ってもらいましょうか……龍頷りゅうがん

 僕は一気にエリオットの後ろに回り込み、背中の真ん中に掌底しょうていを打ち込みました。エリオットは前に突き飛ばされ、地面に倒れこみましたが、途端に悲鳴を上げます。あぁ、かえって五月蠅くなってしまいましたね……

 龍頷りゅうがんというのは、某アタタタタの拳法漫画にでてくる醒鋭孔せいえいこうという秘孔をつく技で、全身の痛覚神経を過敏にする技らしいですね。
 現実の病気にも、アロディニアという病気になると、通常は疼痛を感じない、ささやかな刺激が疼痛と感じるようになるようです。特に動的アロディニアは、指でなぞっただけで痛みが生じるとのことで、龍頷りゅうがんと名付けた技は、これを魔法的に引き起こす魔法拳の一つです。

 その状態で、地面に倒れこんだら、さぞ痛いでしょうね。あぁ、普通は連続する痛みで、精神が死んでしまうので、何があっても精神的には死なないように保護する魔法効果がセットになっているので、狂死はできないですし、勿論自殺できないように、精神的保護措置をかけて在ります。

『……同族に対して、ずいぶんとえげつない事をする……』

『ほんまやな。しばらく見ーへんうちに、ごっつ酷なった……』

 あぁ、まだいらっしゃいましたか。僕は二頭の竜の方へ振り向くと、ゆったりとしたお辞儀をします。僕は貴族ではありませんからね、カーテシーなんてしませんよ。貴族以外がカーテシーなどの貴族の礼を取る事は、貴族に対する侮辱にあたると。いつだったかエリーゼさんに指摘されましたからね。
 僕は微笑みながら二頭の竜に伝えます。

「人間の、しかも国内の見苦しい点をお見せして、大変申し訳ありませんでした。マー・アズーロさんとの約束は別として、カッチャトーレさんの来襲で、この島には竜が訪れるようだと他の者にも知られてしまいました。
 勿論、こちらの事はかん口令をひかせていただきますが、この地が知られるきっかけになったのは、我々だけじゃないことをご理解ください」

 暗に、マー・アズーロさんがカッチャトーレさんの了解を得なかったせいだと指摘しておきます。勿論、竜族が矮小な人間風情に、言いがかりをつけるような姑息な手段は使わないと思っていますが、言質げんちを取っておくのは大事ですよね?

『……無論、了解している。だが、我が住処を脅かされれば、其方らの設置した魔道具類も無事では済まないと知るが良い…………』

 まあ良いでしょう。竜族との戦争状態になるよりも、この地域の気象情報などが得られれば航海の安全には役にたつのですから。
 こうして、二竜との交渉は無事終了しましたが、一部強硬派がこの地の原生植物のサンプル取得を主張するという問題が発生しました。僕としては頭が痛いところですが、採取はごく一部一株ずつとし、この地の気温などのデータがより詳細に手に入る、帰還の際に再度採取を行う事でなだめましたよ。
 竜にしろ、植物にしろ、マニアというのは恐ろしいものだと学習させてもらいました(誰が騒いだかわかりますよね……)
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