駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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7.女王の奏でるラプソディー

33.泊地の内情

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 埠頭に艦を入れて、ドックゲートを閉じるまでに時間がかかりますので、入港時には比較的手の空いている砲雷長のアンソニーに、大型飛空艇で先行して泊地に向かってもらう事にしました。
 エリックさんの指示とはいえ、泊地の様相が変わってしまったために、あちらも混乱している可能性が高いですしね。そこで僕はアンソニー砲雷長に、特製の制帽を手渡しました。

「砲雷長、この帽子を被って行ってください。特に問題はないはずですが……」

 手渡した帽子を見ながら、怪訝な顔を向けているのは砲雷長ばかりではありません。皆さん方説明を求めている顔ですよね……
 僕は盛大にため息を漏らすと、指をパチンと鳴らします。すると、情報パネルに映し出されていた艦外の様子が、一転して…… ユイの腰から首元にかけてがアップで映し出されます。
 アンソニー砲雷長の手元を見ると、帽子の正面がユイの方向を向いているからですね。驚いた表情をユイが浮かべましたし、航海長や砲雷長の表情が緩んだ気もしますので、僕は再度指を鳴らして情報モニターへの投影を停止します。

「……まあ、こういう風に帽子についているいかりマークの一部にはカメラが仕込んであってさ。事前に泊地の情報を確認しておきたいだけだよ」

 なにせ、泊地の情報は何一つ教えてくれませんでしたからね。基地司令なのかは解りませんが、人となりは事前に確認しておきたいところです。

「……こういった小細工は、相手が知ると逆効果ですよ」

 副機関長のアーシャが進言してくれましたが、僕はアンソニー砲雷長の手から帽子を奪うと、右人差し指に引っ掛けてくるくる回して言いました。

「じゃあ、君たちの中でこれが動作したのが何時かわかる人はいるかな?」

 そう言ってみんなの顔を見てみます。情報パネルには、カメラからの映像が映っていますが、動作を感知出来た人はいないようですね。魔力の感知能力が一番高いイリスさんをみても、首をかしげています。僕は帽子を回すのをやめて、映像を切って話します。

「これは、映像の取得と信号変換だけに魔力を使う省魔力消費型が採用されていてさ。カメラとこの艦との間は電波と呼ばれる信号で行っているんだ。まあ、まだ問題点は多いけど、これなら魔力感知が鋭い人がいても、ここなら十分使えると思うよ」

 魔力や電波による信号の受発信は、まだ一般的ではありませんが、魔力による情報伝達は、魔力感知能力の高い人の注意をひいてしまう可能性があります。
 アイオライトには、まだ電波の概念すらありませんからね。地球でも、電波の利用は十九世紀にドイツの科学者『ヘルツ』が電波の存在を確認し、マルコーニが無線電信機を発明するまでは利用されていなかったですからね。

「……全く……貴女はいつの間にこんなものを……」

 ワイアットがつぶやいてますが、こういう者の存在は知っているものだと思ってましたよ。

「ん? 左舷展望デッキの乱闘騒ぎでも知られていたと思ってたけど? 艦内のあちこちに同じようなものはあるよ?」

 パチンと指を鳴らすと、艦内各所の映像が十六分割された情報パネル上に、次々と表示されます。その中には、食堂やトレーニング室なども含まれています。

「……まさかとは思いますが、プライベートスペースには設置してないでしょうね?」

 ワイアット、男子の君が気にするんですか…… とはいえ、今の発言で女性たちの表情も変わりましたので、補足する必要がありそうですね。

「みなさんのいうプライベートスペースが、各個人の個室を指すのなら、カメラは設置してあります。
 ですが、各個室の映像は僕自身でも任意にみる事はできません。なにか問題が発生した時に、確認が必要と判断された場合のみ閲覧される可能性があるとだけ言っておきます。 
 さすがに浴室やトイレにはカメラはありませんが、体温などを感知する熱源センサーなどは設置してあります。これは、高熱を発する疫病などの発生をいち早く感知したりするためのモノですね」

 個室にもカメラがあるという点には驚かれましたが、僕自身ですらみる事ができないとの発言で、それなら良いかという表情を浮かべる女性陣に対し、男性陣は顔が引きつってるのは気のせいという事にしておきましょう。

*****

 アンソニー砲雷長が、飛行船で基地に向かってしばらく後に、三人の人影が埠頭に向かって歩いてくるのが見えます。もちろん、砲雷長と基地司令の話には特に問題は無かったようにみえましたし、泊地が整地されたことにも理解を示していたように見えました。

 ただし、全く何も無い訳ではありません。泊地の敷地内には、基地司令と参謀の二人しかいない事は確認済みですし、QAクイーンアレキサンドリアへの補給物資は、元の桟橋に係留されている船から桟橋に荷下ろししているものがそうなのだと思います。
 問題なのは、降ろされた荷を倉庫に搬入する労働者の姿が見えない事です。少なくても荷下ろしした場所に放置するのでなければ、倉庫なり建物に運搬する人員が必要です。
 そして偵察ドローンで検知された、水路で隔てられた泊地の外側の敷地には二十名ほどの小柄な人影。
 ユイの飛ばした偵察ドローンは、小型で消音機能もついていますが、真っすぐ彼らに近づいては存在が気付かれてしまいます。そこで。艦上から真っすぐ百メートル程上空に飛ばし、彼らの隠れているヤシなどの木々の真上まで接近させて、遠距離から存在を確認する手段をとっています。こちらとしては、彼らの存在の確認と何をするつもりなのかがわかればよいので、あまり接近させる必要はありませんからね。
 そして、わかった事は人影は全て未成年の子供たちのようだという事です。しかも、誰かの指示にしたがっているようで、他の出入り口の確認などを行った後、街の方向へと隠れながら移動していきました。子供が泊地に何の用だったのでしょう……謎ですね……?

 埠頭にやってきたのは三人。うち一人がアンソニー砲雷長ですので、基地司令と参謀が見えたという事でしょう。この頃にはドックゲートの閉鎖も完了していましたし、舫綱での艦の固定も完了していましたので、入港時の手続きと当直の割り当てなどを行い、艦橋要員はタラップを渡り、泊地を預かる指令との挨拶に向かいます。

QAクイーンアレキサンドリア艦長、クロエ・ウィンターです。ネレウスの改修期間中の短い期間ですが、御厄介になります」

 僕が挨拶をしたのは、基地司令と思われる三十代後半の男性ですね。均整のとれた身体は、たるんだ部分も見受けられません。それなりに鍛えているのか、部下がいないために自らも働いているのか、今の段階ではわかりませんね。

「白い美姫とうわさされる、QAクイーンアレキサンドリアの着任を歓迎する。私は、エメラルド島泊地の基地司令を任されている、ユージン・ハクサムだ。階級は中佐で、基地司令といっても、部下は参謀が一名いるだけなんでね、気楽にしてくれ。
 こちらは参謀のミリアム・ポズウェル君。階級は少尉だ。当地で必要なものは彼女に言ってくれ」

 よく通るバリトンの声に気さくそうですが、見た目は『ちょい悪親父風のイケメン』ですね。でも、僕たちが驚いたのは、ユージン司令が紹介してくれたミリアムさんという参謀さんです。
 ユージン司令の隣にたたずむ彼女は、褐色の肌を持ち、赤みがかったブラウンの瞳と同色の髪をベリーショートにした、見た目は細身のイケメンです。身長も百七十センチはありますし、着用している軍服も男性の者ですので、僕たちはてっきり男性だと思っていましたよ。
 ミリアムさんは、きっちりとした敬礼をして話しますが、その立ち居振る舞いは男性そのものです。

「ミリアム・ボズウェル少尉です」

 必要最小限(?)の言葉を発すると黙ってしまいましたね。とりあえず、僕たちは今日の停泊のための準備作業もありますので、事前の打合せ通りに作業を進める事にしましょう。

「ユイ、申し訳ありませんが、今後の予定と補給についてミリアムさんと打合せをお願いします。ジェシー、申し訳ないけどユイ(の護衛)についてくれるかな?」

 ジェシーは僕の言葉にうなずいてユイの傍らに控えてくれます。僕とユイ、ユージン司令とミリアムさんは今後の打ち合わせのために、泊地で唯一のまともそうな建物に向かう事にしますが……少し距離がありますね。

「エマ、LVTP-1を持ってきてくれる?」

 僕がエマにお願いすると、彼女の姿が掻き消えます。そして、数分後QAクイーンアレキサンドリアの艦橋前デッキサイドエレベータから、エマは一両の車を転がしてきます。

「クロエ艦長……これは?」

 ユイは呆然としていますが、似たようなものは見ていませんでしたっけ? LVPT-1はゴム製六輪タイヤとウォータージェットを装備した水陸両用車両で、さほど大型ではありませんが自動車で言えばミニバン位の大きさをしています。
 サスペンションは独立懸架というか、某戦車道で有名なクリスティー式ですが、履帯はありません。兵員輸送を主目的としていますが、小型の銃座と魔導砲を装備しています。もちろんライトなどの照明も完備していますし、装甲車でもありますので、弓や銃からの攻撃は防御できる程度の防御力もあります。
 駆動は魔力駆動と電気の併用ですので、基本的には士官であれば利用可能にする心算ですよ。

「荷物の買い出しなどに備えたお使い車です。人も乗れるので、歩くよりは楽ですよ。ユージン司令とミリアム少尉もどうぞ?」

「「……」」

 後部のハッチが開きましたので、ユイはため息を一つするだけで中に入っていきます。う~ん、だいぶ慣れてしまいましたかね。ユイに続いてジェシーと僕が中に入り、ユージン司令とミリアム少尉も興味深げに付いてきます。

 LVPT-1の運転席は二人乗りで、その直後の銃座に一人分の座席があります。車両の中ほどから後部は荷室兼乗員用のスペースとなっており、壁側に折りたたみ式の簡易な座席があるだけの作りです。主にお使いに使う場合には、主に生鮮食料品がつまれることになるでしょうね。

 運転席後方にユイが陣取り、その対面に僕が座り、ユイの左にエマが着座します。運転席は日本と同じ右にあります。ユージン司令とミリアム少尉もすこし離れた簡易座席にすわり、後部ハッチを閉めると、ジェシーの操縦で走り出します。

「閉め切ったままだと、気持ちもふさぎがちになりますね」

 そうつぶやいた僕はパネルを操作すると、荷室左右の壁が透明化して外の様子を映し出します。短い時間ですし、乗り心地が良いとはいえませんが、自分の足で歩くよりは早くて快適です。南国だけあって、日差しも結構強いですからね。

「さて、短い時間ですが説明しておきたい事があります。最初に申し上げておきますが、QAクイーンアレキサンドリアの所属は海軍ではありません。
 編成上は、アレキサンドリア共和国特別遊撃軍特別機動艦という委員会直属の組織です。乗組員のほとんどが知りませんが、海軍に所属している一般兵も、海軍籍のまま特別機動艦であるQAクイーンアレキサンドリアに出向という形式となっており、海軍の指揮系統を外れているということをお伝えしておきます」

 別組織であるゆえに、階級上の上官であっても命令に従う必要が無いという事は伝えておきます。QAクイーンアレキサンドリアは、僕を含めて成人して間もない兵士が多数所属していますし、軍への所属経験が浅い人間が多いので、本来であれば不本意な命令でも、命令とあれば従わなければなりません。

 しかし、QAクイーンアレキサンドリアは兵員や武器、補給施設などは軍と同じものを使用しますが、指揮系統が全く異なるのです。無論、階級が上位である人の顔を立てる意味で、命令に従う事はできますが、受けるかどうかは全て僕に一任されています。

「委員会の苦肉の策ですよね……」

 ユイの言葉に、僕もうなづきます。普通であれば、成人したての僕は、よくて准尉という士官候補生がつく階級になります。当然の海軍の士官に比べれば下位となりますので、少尉以上の士官は上官という立場になり、よほどの事でなければその命令に従わなければなりません。
 戦場では必要に応じて、戦略上必要な損害を受け持つ部隊や兵士が必要となります。おとりや撤退時のしんがり等ですね。ほとんどはその部隊や兵に悟らせないように命令されますが、経験や勘、頭の良い兵士はそれに気付いても、拒否や意図的な遅滞行動をとらせない必要があります。バレバレのおとりなど、役に立ちませんからね。
 自分たちに不利な命令でも命令に従わせるために、普段から『上官の命令は絶対であることをわからせる』ためとゆう理由で、上官が発する命令は鬼畜なもの(セクハラめいた命令)も含まれる場合もあります。
 そう言った命令だけでなく、外地の基地にQAクイーンアレキサンドリアが所属した場合、上官の戦闘命令に逆らえません。本国との即時通信手段が確保されていない現在では、任地で受令した命令が本物かどうかは確認のしようがありませんからね。
 そのため、QAクイーンアレキサンドリアは通常の軍とは所属を変え、命令系統を変える事で、僕たちが戦端とならないように(上官に従って反乱勢力にさせないためというのが本音でしょうけど)配慮されているということです。

 一応僕を始めとした士官は、対外的な階級も与えられていますが、同様の理由から海軍の一般兵士に命令をすることは出来ません。まあ、するつもりもないのですがね……

「……なるほど。貴女がたクイーンアレキサンドリアへの一時的な命令権を与えられた外地の軍人の暴走を避けるための方策ですか」

 そう言って笑みを浮かべるユージン司令の笑みは、ただただ明るく見えます。

「ご理解いただけて幸いです。この地での僕たちの任務は、基地の陣容を整える事が一つと、何故基地の陣容がここまで整わなかったかを調べる事ですね。
 事実、この広大な泊地にお二人しかいらっしゃらない。なのに、基地機能としては最低限ではありますが、機能している謎があります。荷役夫にしても、清掃夫にしても、雇った形跡は見当たらないのに、予算は計上されている。何故です?」

 車はそれほどスピードを出していませんが、しばらく沈黙が続いた後で、ユージン司令は肩をすくめて、僕たちに話しました。

「……到着したばかりでそこまでご存じならしかたない。山側に作られた新しいゲートに向かっていただいても?」

 ユージン司令の言葉に僕はうなずき、ジェシーに向かう場所の変更を指示したのでした。
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