駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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7.女王の奏でるラプソディー

52.エリーゼの一日④

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◆ 艦内時間 15時

「……では、この島を仮にアルファとします。
 本艦はアルファ島沖合一キロ地点で停泊。その後動力艇部隊二隻で湾内の水深などを調査し、本艦が湾内への停泊が可能かどうかを調査後、停泊が可能な場合は湾内へ侵入し、その後四十八時間停泊を行います。
 湾内での停泊が難しい場合、沖合一キロを維持して本艦は停泊。その後四十八時間の停泊を行うのは同様ですが、当直士官を増員して緊急事態への対処をとるように」

 クロエの言葉に士官はうなずいた。そして、クロエはオブザーバーとして今回の会議に出席している冒険者ギルドのパトリシアに問いかけた。

「軍として、冒険者ギルドへの依頼を出します。依頼内容はアルファ島内の植生調査、および動物などの分布状況の調査です」

 そういって始まった依頼内容は二つ。
 一つ目は、湾内の砂浜を中心とした乗組員の休養中の警戒である。基本的に日中だけの依頼となるが、危険度は少ないと思われた。
 二つ目は、島内への植生調査に向かう乗組員の護衛が一パーティである。島内の動植物や魔物の存在は把握されていないが、大型肉食獣としては(恐竜とかではなく、コモドオオトカゲのような)トカゲ型が存在する可能性があるため、危険度はやや高い。護衛対象が変わり者である点を考慮して、Bクラス護衛任務扱いとし、探索終了後に危険度に応じた報酬を追加することとなった。

「……それと、休暇期間は僕達は外出しますので、その間の指揮は航空指令にお願いします。艦の防御や警戒は、実質クイーンが行いますから、非常時の連絡のみとなるとは思いますが……」

「ちょっと待ってください。いくら四十八時間の休息とはいえ、士官の半数が艦を離れるのは問題があるでしょう。それに、どこに行くのか、場所も目的も説明無しでは、従う訳にはいきません」

 航海長のハリーが声を上げると、うんうんうなづくアンソニーとリアンである。リアンの傍らでは、アーシャも同じようにうなづいているのは、出かけるメンバーに自分自身が入っていないせいもあるだろう。
 指揮を任されたワイアットも、憮然とした顔をクロエに向けているが、それ以上に驚いた表情をしているのは専務長であるユイであった。ギルド受付嬢のパトリシアは、表面上沈黙を守っていたが、その瞳は明らかに状況を楽しんでいる。
 さすがにいつもの秘密主義では納得しないかと、クロエはあきらめ顔で目的地について話した。

「目的地は東の大陸の国、『遼寧』です。みなさん承知のように、専務長の故国でもありますし、政変から時は経っていますが、現状を把握しておいたほうが良いと思います。
 上空から国の状況を確認し、とくに問題がなければ町に行って買い出し程度を済ませる予定です。移動にはヴァルキリーを使いますので、余剰な人員を連れて行くことはできません。あと、一応専務長には、髪色と瞳の色を変えてもらうつもりです」

 クロエの説明を聞いて、やや納得した航海長のハリーであるが、やはり女性だけで見知らぬ土地に行かせるのには不安らしく、再考を求めた。せめて、護衛として男性の誰かを連れて行くようにと……

「今回は男性メンバーは不要です。町に降り立った場合、残念ながら目立つことは間違い有りませんし、言葉の壁があります。みなさん、遼寧で使われている言葉は知らないでしょ?」

 そう言われれば返す言葉もなく沈黙する男性陣であったが、ワイアットはパトリシアに依頼を告げた。

「艦内にいるギルドのメンバーで、東方の言葉や風俗に明るいメンバーがいれば、艦長たちへの同行者を一名斡旋あっせんしてください。依頼内容は護衛と、お目付け役です。誰とは言いませんが、変に羽目を外されすぎると、国際問題にもなりかねないので……」

 ワイアットの発言に、クロエは「誰の事だよ」とジト目で見やるが、ワイアットもパトリシアもどこ吹く風と受け流したのであった……

*****

◆  艦内時間16時

「どうやら、四十八時間休憩の際の依頼が、ギルド掲示板に張り出されたようですよ」

 ヘルガの言葉にエリーゼはうなづいた。パトリシアの確保した場所は、お客様ゲストの大多数が女性である点もあり(事実としては、デーゲンハルト以外の男性冒険者は乗艦していない)、右舷展望デッキに隣接した区画にある。
 お客様ゲストの大半は、展望デッキとギルドルームに付属したトレーニングルームなどを利用しているために利便性が優先されているのだが、艦内を不用意に歩かれて、事故に巻き込まれないようにする配慮でもあった。
 その為、依頼の張り出しは展望デッキからもよく見えており、久しぶりの地上と、未開の島の探索ということでにぎわう冒険者達の姿がよく見えたのである。
 ヘルガやエリーゼとしても、アレキサンドリアがどのような依頼を出すかを把握することは、貴重な情報収集の一環であり、名目上の依頼と知っていても確認しないわけにはいかない。
 いったん席を外して、情報収集に出かけたヘルガがエリーゼの下に戻ってきたのは十分の時間が経過してからの事であった。

「エリーゼ様、複数依頼が出ておりましたが、確認なさいますか?」

 ヘルガにしては慎重なもの言いに、エリーゼはピクリと片眉をあげる。

「ヘルガが慎重になるなんて、珍しいですわね。どういった依頼なんですの?」

 問われたヘルガが答えた依頼内容は三つ。一つ目は、島内の植生調を行うアレキサンドリアの研究者の護衛任務であり、島内での外泊もありうるというもの。これは、既にお客様ゲストの中でも有名になりつつあった、変わり者アルバートの探索によるものだろうとは、エリーゼにも推測できた。
 二件目は休息をとっている乗組員の安全確保の為、周囲の警戒を行うものであったが、こちらはクロエが危険地帯の真ん中で休憩をさせるとは考えられず、冒険者達への配慮としての依頼であろうことは推測できた。
 三件目はギルド独自の調査依頼であり、未開の島の探索依頼である。停泊地となる仮称アルファ島は、絶海の孤島である為に文明人が住んでいる可能性は低いが、遺跡や貴重な生物などが無いとは限らない。こちらは、最低限の依頼料だが、遺跡などを発見すればそれなりの身入りも期待できた。
 そこまで言って黙り込んだヘルガを見て、エリーゼはヘルガが何かを隠していることを直感した。
 もとより、エリーゼの教育係を務めたヘルガであり、付き合いは長い。エリーゼに首を突っ込んでほしくないことを隠すことは度々あったが、あえて今まで踏み込んで問いただすことはしていなかっただけで、知ってはいたのである。

「……それで、四十八時間の休暇中のクロエさん達の行動予定は聞き出せたのですか?」

 エリーゼの問いに、ヘルガは動揺を隠しきれなかった。ヘルガとしては、島内探索の依頼を受ける事一択だったからである。
 エリーゼの性格からして、浜辺でのんびり座して待つような依頼を受けるとは思えなかったし、紳士だったとしても、男性との野営を伴う可能性が高い護衛依頼を受ける事はさすがにできない。島内の探索であれば、開放都市チッタ・アベルタに残してきたレーナ達への良い土産話になるだろうと考えての事であった。

「……この四十八時間の休暇で、クロエ嬢たちはどこかに出かけるとのことです。ギルドにも護衛依頼が出ておりますが参加枠は一名のみであり、これを増やすことはできないそうですので、私たちが受けることはできません……」

 ヘルガが答えなくても、ギルドの掲示板を見ればわかってしまうことであり、ヘルガは素直に(いやいやながらも)答えた。実のところ、パトリシアからはヘルガが単独で受注してくれないか聞かれたのだ。
 パトリシアとしてもギルドとしても、依頼のあった案件を、受注者が居なかった為に流してしまうのは避けたいのである。
 とはいえ、今回の依頼は事実上クロエたちのお目付け役の性格が強く(クロエたちの強さは十分承知しているので)、立場上イリスやユイの教え子になるコリーヌやサンドラといった面々は使えない。
 クロエたちと親交があり、対等以上の立場でクロエたちを抑えることができる人員は、パトリシアの知る中ではヘルガとエリーゼ、そして自分自身の三人しかいなかったのである。
 とはいえ、大貴族のお嬢様であるエリーゼが、護衛される側ではなく、護衛をする側になるのはおかしな話であるし、エリーゼを放置してヘルガが護衛におもむくのもまたおかしな話であった。
 さらに、島内探索の依頼がある以上、状況の把握と遺跡の発見などがあった場合の判断は、パトリシアしかできないことから、パトリシアもここを離れることができず、ギルド側で予備要員を用意しておかなかったことに、有能な受付嬢であるパトリシアとしては失態だと感じていたのであった。

 そして、エリーゼはヘルガとパトリシアの葛藤を十分承知していたのである。そして、少し考えると、ヘルガに伝えたのであった。

「……仕方ありませんわね。今回、わたくし艦内か浜辺で大人しく読書をして過ごすことにいたしますわ。彼女たちの魔術書には、興味深い点が多いですし。
 ですからヘルガ、貴女はクロエさん達の護衛依頼を受けて差し上げたらどうかしら? ギルドに貸しを作っていくのも良いことですし、たまには貴女も私から離れて羽を伸ばすのも良い事ですわよ?」

 エリーゼの提案は、ヘルガにとってもパトリシアにとっても渡りに船といった最高の提案であった。その後短いやり取りをエリーゼと行ったヘルガは、土産を確約してギルドルームへと出かけて行った。

 その後ろ姿を見送ったエリーゼは、一言つぶやくのであった。

「さて、私も急いで準備をしないといけませんわね……」

 そして、エリーゼは艦内通路へと歩みを進めるのであった……
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