駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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7.女王の奏でるラプソディー

86.決着?!

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「……この辺が限界のようですね……」

 ユイだった者がつぶやいた言葉の直後、雷が放たれる寸前に、月詠の悲鳴にも似た声が響いた。

櫛名田クシナダ、武器を離して逃げて!!」

 ユイだった者の指先が黄金のきらめきを発するのと、薙刀を手放した櫛名田クシナダが後ろに飛び退くのはほぼ同時だった。

「……痛っ……」

 着地と同時に両膝をついた櫛名田クシナダから、苦しい声が上がる。
 岩人が薙刀に近かったおかげで、薙刀を流れた電流の大半は岩人へと伝ったが、自身も武器に近かった両手から感電したのだ。
 幸い空中に飛んだ瞬間だった為、身体を流れた電流は小さかったが、両腕のしびれがあり、戦闘行為への復帰は難しいといえる。

 膝をついた櫛名田に放たれる二撃目の雷は、射線上に割って入った月詠が、降妖鏡こうようきょうをかざして大半をそらせることに成功したが、自身への通電を完全に防げたわけではなく、やはり傍らに膝をついた。

「……善戦したとはいえ、ご自分たちの実力は理解していただけたでしょう」

 つまらなそうな声が近寄ってくることで、視線をあげた月詠の瞳に映るのは、丸く見開かれた黄金の瞳と三日月方に開かれた赤い口だ。

「貴女方の攻撃を防いだのは私ではありません。アレキサンドリアの魔道具であり、常に前へと進む国の技術が、貴女方の完成に近いと言えど古臭い術をしのいだのですよ」

 そう言われた月詠は唇を噛みしめた。必至に自分たちが学んできたモノを全否定され、くやしさがあふれる。

 相手が近づいてきた事で、障壁が無い事を確信した櫛名田が、とっさに床面ギリギリの水面蹴りを放ったが、鈍い音と共に障壁に阻まれてしまう。

「ふむっ、味方以外に対しては自動発動する障壁を発する魔道具とは、なかなか優秀ですね。不意打ちすら防ぎますか……
 さて、そちらの打てる術は全てうった結果がこれですか? それでしたら、貴女方のいう『止めてみせる』というのは大言壮語に過ぎませんね。お判りになったらここま……」

「……まだありますわ!!」

 ユイだった者の言葉を月詠がさえぎり、ゆらりと立ち上がった。
 そんな月詠を見ながら、ユイだった者は再度振り下ろされ、障壁で防がれた岩人の拳に、障壁越しに触れたまま強力な雷を使う。

 岩人全体が一瞬のうちに赤熱化し、岩人は動けなくなってしまった。過大な電流が流れたことで、どうしても細くなる関節部は流れる電流に対する抵抗が大きくなり、溶けてしまったようだ。
 溶けた金属同士が溶着することで、岩人の右肩から足にいたる関節は全て固着して動かす事はできない。こうなるとただの邪魔な障害物でしかなくなってしまう。

「……良いでしょう。古臭い仙術や道術が通用すると思うのならやってみると良いですよ。
 ただし、私も暇ではありませんのでね。チャンスは一度きりです」

 そういうと、くるりと背を向けて歩き出したユイだった者は、部屋の中央で向き直った。

 その姿を確認した月詠は、櫛名田に小声で指示をする。

「櫛名田、相手はこちらの攻撃を待ってくれるはずですが、万が一詠唱を中断されそうであれば、何としても止めてください。
 それと、相手から私の事が見えないように、目隠しをお願いできますか?」

 立ち上がろうとした櫛名田ではあったが、先ほどの蹴りで足を痛めたのか立ち上がることができない。
 自分が戦力外であることを確認した櫛名田は、仕方なくうなずいた。

「……承知……」

 その声に月詠は微笑むと、櫛名田からも離れて双方から距離をとった。そして、ユイだった者へと声をかける。

「それでは、参ります」

 月詠が櫛名田に向かって微笑むと、櫛名田は短い詠唱を行う。

「大地に宿り、命を芽吹く全ての木々よ、我が名にて彼の者を覆い隠せ。
 木々よ、芽吹いて盾となせ、いでよ八重垣、急急如律令!」

 櫛名田の詠唱により、月詠の周囲を木々は二重、三重と覆い隠して月詠の姿を完全に隠してしまった。
 木々の壁に囲まれた状態で、月詠は詠唱を行う。

「青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女、
 離為火・上爻りいか・じょうこう
 来たれ朱雀すざく急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう

 詠唱の終了と共に、月詠の周囲を炎が揺らいだ。

 やがて、月詠の目の前の空間に、赤い小さな火球が生じ、みるみる大きくなると鳥の形を成した。
 四聖のうち、南を司る霊獣朱雀ではあるが、月詠の現在の実力では、その大きさは一メートル程の炎の鳥でしかない。

「……朱雀様、再びご尊顔を拝見でき恐悦至極でございます。
 こたびは私が不甲斐無いばかりに、あなた様のお力をお借りできればとお呼び立ていたしました」

『……たかが仙術使いが我を呼び出すとは、本来許されざる行為ではあろうが、彼奴きゃつが相手では仕方あるまい。
 お主は知らぬであろうが、アレは古の神、もしくは異界の神々の一柱。ぬしら人間ではどうにもなるまい。
 まぁ、あそこに居るのはその精神の残滓に過ぎぬがな……
 それで、お主は我に何を求める……』

 頭の中に響く声とその内容に驚きながらも、月詠は朱雀へと請い願うのであった。

◇◆◇◆◇◆

「ふむ、多少の目隠し程度では私には通用しないのですが、良いでしょう。たわむれの僅かな時間、貴女に協力するのも悪くはないでしょう……」

 ユイだった者、ニャルラー・トテップは小さくつぶやく。

 その視界に納めているのは、木々に守られた結界と動けなくなった一人と一体の岩人形だ。
 ふと思いついたかのように、ニャルラー・トテップは右手を動けなくなった岩人形へと向ける。

「雷は使いようによっては単に相手を感電させるだけの魔法では無い事をお見せしておきましょう……」

 小さい声でつぶやかれる声は、誰に聞かせるつもりか定かではないが、右手から再度放たれた雷が、今度は頭上から岩人形を襲うと、強固さを誇った鉄鉱石でできた岩人形は完全に沈黙する。

「……さて、過大な電流は岩の中に含まれる石英などを融解して閃電岩なる物をを作る時があります。管状のこれにある加工を施して、再度雷を落としてみるとどうなるでしょうか?」

 再び放たれた雷により赤熱化した岩人は、一瞬で内部から表面に亀裂を生じさせ、爆散する。
 周囲には白い煙が立ち込め、砕け散った岩は二メートル四方に飛び散っていた。

「鉄鉱石の岩人形ではこの程度が限界ですか……
 まあ、雷の使い方の変わった例としては良い参考になったでしょう。折角新たな力を得たのに、発電機代わりにされるのでは意味がありませんしね」

 誰にともなくそう言い笑うニャルラー・トテップの前で、木々の結界が内部から紅蓮の炎をあげて吹き飛ぶと同時に、ひときわ大きな炎の塊がニャルラー・トテップを襲った。

 それは、ユイの身体を守る魔法障壁を一層目から三層目までをあっけなく突き破り、四層目を僅かな時間をおいて破壊、五層目でようやく止まる。

「……ほぉ、これはこれは。
 しばらくぶりにお目にかかりますね、朱雀殿……」

 紅蓮の炎と、全身から舞い散る火の粉で分かりにくいが、長い尾羽までも炎と化した朱雀の体長は、出現時の倍の二メートル以上はある。
 そして、凛とした娘の声で、朱雀はニャルラー・トテップに言う。

「あなたのふざけた言葉など不要です。今すぐお姉さまを返しなさい!!」

 発した言葉が月詠のものだったことに、ニャルラー・トテップは軽く驚きを覚えた。

「朱雀ではない? これは驚きましたね。たかが人間風情に、力を貸すのですか、朱雀よ」

「四聖降臨の禁術、『雀炎魔滅の法』。私の力全てを使っても、お姉さまを返してもらいます」

 羽ばたく炎の鳥朱雀が再び距離をとっての再攻撃で、新たに再構築された魔法障壁が、七枚目の障壁まで破壊され、炎熱がニャルラー・トテップが姿をかりるユイの黒髪を焦がす。

 現在の朱雀の大きさにとって、この星見の間は決して広いとはいえないが、室内に火の粉をまき散らせながら、連続して体当たりをしてくる度に、破壊される障壁の数は増えていく。
 ニャルラー・トテップが放つ雷すら、朱雀のまとう炎の熱により周囲の空気が歪んで、大部分が朱雀に届かない。これは、本来ではありえない事だった。

「……残滓ざんしと言えど、この私が人が呼び出した四聖に及ばぬとは……
 これは、この身体の持ち主をなじるべきか、あの者を称賛すべきか悩むところですが、そろそろ限界が近いようですね」

 神や精霊には格のようなモノがあり、その差は絶対的である。格下の者には、格上が意図しないかぎりその存在を把握すらできない。
 ニャルラー・トテップは『古の神々』の一柱であり、朱雀に劣ることはないのだが……

「……不浄の輩よ、お姉さまから離れなさい!!」

 距離を取った朱雀が、ひと際大きな炎をまとい、再構築された魔法障壁に攻撃を仕掛けてきた。
 9枚目までの障壁が一瞬にして粉砕され、初期構築された最後の一枚に大きく亀裂が入る。

 十一枚目の再構築が終了するのと、最後の一枚目が突破されるのがほぼ同時。そして、構築された障壁にも多数の亀裂がはいるが、朱雀の勢い自体はまだ止まっていない。

「破邪の獄炎にて、滅しなさい!!」

 月読の声とともに、ニャルラー・トテップと朱雀の姿は、金色に輝く光に飲み込まれたのであった。
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