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7.女王の奏でるラプソディー
92.ポートパーク事件①
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古い事件なので、イリスさんが説明してくれました。
「『ポートパーク誘拐未遂事件』とは、都市歴136年7月初旬に、アレキサンドリア共和国下層街にある、小規模な臨海公園で発生した児童誘拐未遂事件である」
「なんでその口調?」
「うるさいわね、やってみたかったからよ」
「「……」」
というやり取りの後、説明が続きます。
被害者は、当時共に十五歳の男女二名。
当日は、被害者の一人シエナ・ポズウェルの誕生日でもあったのだが、昼前に男友達と出かけたまま、誕生日パーティーの時刻になっても戻らない事から、家族からの通報があり発覚した。
二人の足取りを追っていた捜査員は、二人がポートパークで仲睦まじく会話をしていた後に、二人そろってパークの出入り口に向かって歩いていくのを見たという複数の目撃者の話により、ポートパークを中心に捜索を開始していた。
上層街への連絡通路には、男女二人の通過記録はなく、下層街からでた様子もない為、治安担当員は若い男女が時間を忘れての逢瀬を楽しんでいるのだろうと、真剣に捜索していなかったのも事実である。
これは、行方不明の男女が共に十五歳であり、魔法学院に通う魔力持ちであった為、誘拐などの犯罪行為には巻き込まれる確率は少ないとの思い込みもあった為である。
しかし、その後の二人の行方はようとして知れず、深夜になってしまった。その為、アレキサンドリア上層街・下層街全域での魔力波感知システムによる捜索を開始しようとした矢先、河口左岸の倉庫街にて爆発事故が発生する。
爆発の原因は、魔法による物と判断され、急行した河川局の担当者が爆発現場にて発見したのは、着衣もボロボロになって火傷を負った二人の少年少女と、少女の周りに群がるように倒れている、焼け焦げて炭とかした十名以上の人間の姿であった。
二人の少年少女が下層街をでた履歴は、都市管理局の記録にもなく、なぜ二人が倉庫街に居たのかは不明のままである……
「……表向きの事件の概要はこんなとこかしら。事件が暴行事件じゃなく、誘拐未遂事件になっていたのは、被害者の事件後の生活への配慮からね。
事件があってから一年後、ボズウェル家はエメラルド島泊地の指令官として、家族と共にアレキサンドリアを離れてからの記録はないわね。数年前に、泊地司令官だった頭首が退役したのに伴って、頭首とその妻は本国に帰国しているけど、孫にあたるとみられるミリアムさんはそのまま泊地に残っているわ。
魔法学院にも遠隔地であるとの理由から通っていないのだけれど、特例という事で処理されているわね。
そして、少年の名前も公表はされなかったけど…… 当時の入院記録や、シエナへの面会希望記録から推測することができるわ。その少年の名は、ユージン・ハクサム氏よ。
シエナ・ボズウェル嬢、ユージン・ハクサム氏、そしてメイスン・スミス氏の三人が、当時の魔法学院のトップ3でもあったみたいね」
イリスさんの語った事実に、僕とユイは驚きます。
「二人の被害者とメイスン氏は面識があったんですね……」
僕がそういうと、イリスさんは短い金髪をかきあげると、あっさりと付け足します。
「面識があったっていうだけで、どうこう言う訳じゃないわ。面識があるっていうだけじゃ、貴女が怪我をした事件だった、私も関係者になってしまいますわよ」
その言葉に僕はぐうの音もでず黙り込みますが、その様子をみてにんまり笑みを加えたイリスさんが言葉を続けます。
「あとは、二人の階級だけど、この泊地は対外的に開かれた場所でもあるから、ユニオンなどとの交渉に際して、一般兵では都合が悪いところもあっての暫定処理ね。この泊地でしか通用しない階級のようよ。
まあ、泊地を利用している私たちには有効な階級だから、気にしなくていいわ」
でも、ミリアム少尉は被害にあったボズウェル家の関係者であり、ユージン中佐は事件の直接の被害者ということですか。つまり、P・P事件の関係者がここに居たということですね。
「……ですが、メイスン氏と二人のP・P事件の関係者が面識があったというだけで、指示に従う理由になりませんよ?」
僕の言葉に、ユイもうなずきます。
そんな僕たちに、イリスさんはチラリと視線を向けた後、拘束用の手錠をかけられ、対面の椅子にすわるユージン中佐に向かって話しかけます。
「ここからは、中央病院の記録を元にした私の推測になりますわ。母たちも幼い頃で事件の詳細を知らないようですから……」
そう言って、続きを話してくれました。
シエナ・ボズウェル嬢は魔法学院の首席でしたが、事件後魔術学院を休学した後に退学した。事件の後遺症によって対人恐怖症となったシエナは、学園の戻ることができなかったという説明になっていますが……
「……ここからは他言無用よ? まず、シエナ嬢についてだけど、彼女は事件の際に魔力暴走を引き起こしただけじゃなく、複数の男性に暴行されていたようね。彼女に群がるように消し炭となっていたのは、その加害者たちだと思われるわ」
そこで言葉をきって、痛ましそうな目でユージン中佐を見た後、言葉を続けます。
「そして、ユージン中佐とシエナ嬢は、当時恋人状態だったと思われるわ。つまり、彼女は恋人の目の前で、暴行を受けたことになるわね。
結局、魔力暴走と事件の記憶から、シエナ嬢は思考の無い生き人形と化してしまったのよ。言われなければ水を飲むことも、食事をすることさえしない状態ね。そして入院後二月を経過して、彼女が妊娠していることが判明したわ」
イリスさんの言葉で、ユイの顔が青ざめます。
「それって、事件の結果ということですよね……?」
「……恐らくそうでしょうね。
でも、この事件には分からないことが多すぎるのよね。そもそも二人はなぜ倉庫街なんかに行ったのか? 都市の出入りを監視するシステムに記録を残さずにね。
そして、拉致されたのなら、どうやって犯人たちは二人の魔法使いを無力化できていたのか。シエナ嬢もユージン少年も無抵抗な訳はありませんしね」
そして、イリスさんはユージン中佐を見ました。中佐は、うつむいていた顔をあげると、僕たちを一通り見まわした後、忌々しそうに腕にかかっている手錠をみて呟いたのでした。
「『ポートパーク誘拐未遂事件』とは、都市歴136年7月初旬に、アレキサンドリア共和国下層街にある、小規模な臨海公園で発生した児童誘拐未遂事件である」
「なんでその口調?」
「うるさいわね、やってみたかったからよ」
「「……」」
というやり取りの後、説明が続きます。
被害者は、当時共に十五歳の男女二名。
当日は、被害者の一人シエナ・ポズウェルの誕生日でもあったのだが、昼前に男友達と出かけたまま、誕生日パーティーの時刻になっても戻らない事から、家族からの通報があり発覚した。
二人の足取りを追っていた捜査員は、二人がポートパークで仲睦まじく会話をしていた後に、二人そろってパークの出入り口に向かって歩いていくのを見たという複数の目撃者の話により、ポートパークを中心に捜索を開始していた。
上層街への連絡通路には、男女二人の通過記録はなく、下層街からでた様子もない為、治安担当員は若い男女が時間を忘れての逢瀬を楽しんでいるのだろうと、真剣に捜索していなかったのも事実である。
これは、行方不明の男女が共に十五歳であり、魔法学院に通う魔力持ちであった為、誘拐などの犯罪行為には巻き込まれる確率は少ないとの思い込みもあった為である。
しかし、その後の二人の行方はようとして知れず、深夜になってしまった。その為、アレキサンドリア上層街・下層街全域での魔力波感知システムによる捜索を開始しようとした矢先、河口左岸の倉庫街にて爆発事故が発生する。
爆発の原因は、魔法による物と判断され、急行した河川局の担当者が爆発現場にて発見したのは、着衣もボロボロになって火傷を負った二人の少年少女と、少女の周りに群がるように倒れている、焼け焦げて炭とかした十名以上の人間の姿であった。
二人の少年少女が下層街をでた履歴は、都市管理局の記録にもなく、なぜ二人が倉庫街に居たのかは不明のままである……
「……表向きの事件の概要はこんなとこかしら。事件が暴行事件じゃなく、誘拐未遂事件になっていたのは、被害者の事件後の生活への配慮からね。
事件があってから一年後、ボズウェル家はエメラルド島泊地の指令官として、家族と共にアレキサンドリアを離れてからの記録はないわね。数年前に、泊地司令官だった頭首が退役したのに伴って、頭首とその妻は本国に帰国しているけど、孫にあたるとみられるミリアムさんはそのまま泊地に残っているわ。
魔法学院にも遠隔地であるとの理由から通っていないのだけれど、特例という事で処理されているわね。
そして、少年の名前も公表はされなかったけど…… 当時の入院記録や、シエナへの面会希望記録から推測することができるわ。その少年の名は、ユージン・ハクサム氏よ。
シエナ・ボズウェル嬢、ユージン・ハクサム氏、そしてメイスン・スミス氏の三人が、当時の魔法学院のトップ3でもあったみたいね」
イリスさんの語った事実に、僕とユイは驚きます。
「二人の被害者とメイスン氏は面識があったんですね……」
僕がそういうと、イリスさんは短い金髪をかきあげると、あっさりと付け足します。
「面識があったっていうだけで、どうこう言う訳じゃないわ。面識があるっていうだけじゃ、貴女が怪我をした事件だった、私も関係者になってしまいますわよ」
その言葉に僕はぐうの音もでず黙り込みますが、その様子をみてにんまり笑みを加えたイリスさんが言葉を続けます。
「あとは、二人の階級だけど、この泊地は対外的に開かれた場所でもあるから、ユニオンなどとの交渉に際して、一般兵では都合が悪いところもあっての暫定処理ね。この泊地でしか通用しない階級のようよ。
まあ、泊地を利用している私たちには有効な階級だから、気にしなくていいわ」
でも、ミリアム少尉は被害にあったボズウェル家の関係者であり、ユージン中佐は事件の直接の被害者ということですか。つまり、P・P事件の関係者がここに居たということですね。
「……ですが、メイスン氏と二人のP・P事件の関係者が面識があったというだけで、指示に従う理由になりませんよ?」
僕の言葉に、ユイもうなずきます。
そんな僕たちに、イリスさんはチラリと視線を向けた後、拘束用の手錠をかけられ、対面の椅子にすわるユージン中佐に向かって話しかけます。
「ここからは、中央病院の記録を元にした私の推測になりますわ。母たちも幼い頃で事件の詳細を知らないようですから……」
そう言って、続きを話してくれました。
シエナ・ボズウェル嬢は魔法学院の首席でしたが、事件後魔術学院を休学した後に退学した。事件の後遺症によって対人恐怖症となったシエナは、学園の戻ることができなかったという説明になっていますが……
「……ここからは他言無用よ? まず、シエナ嬢についてだけど、彼女は事件の際に魔力暴走を引き起こしただけじゃなく、複数の男性に暴行されていたようね。彼女に群がるように消し炭となっていたのは、その加害者たちだと思われるわ」
そこで言葉をきって、痛ましそうな目でユージン中佐を見た後、言葉を続けます。
「そして、ユージン中佐とシエナ嬢は、当時恋人状態だったと思われるわ。つまり、彼女は恋人の目の前で、暴行を受けたことになるわね。
結局、魔力暴走と事件の記憶から、シエナ嬢は思考の無い生き人形と化してしまったのよ。言われなければ水を飲むことも、食事をすることさえしない状態ね。そして入院後二月を経過して、彼女が妊娠していることが判明したわ」
イリスさんの言葉で、ユイの顔が青ざめます。
「それって、事件の結果ということですよね……?」
「……恐らくそうでしょうね。
でも、この事件には分からないことが多すぎるのよね。そもそも二人はなぜ倉庫街なんかに行ったのか? 都市の出入りを監視するシステムに記録を残さずにね。
そして、拉致されたのなら、どうやって犯人たちは二人の魔法使いを無力化できていたのか。シエナ嬢もユージン少年も無抵抗な訳はありませんしね」
そして、イリスさんはユージン中佐を見ました。中佐は、うつむいていた顔をあげると、僕たちを一通り見まわした後、忌々しそうに腕にかかっている手錠をみて呟いたのでした。
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