347 / 349
8.未来へ……
20.困窮した町を助けたい? つくづく甘ちゃんですね
しおりを挟む
「こういう状況ですから明日は町にはいらず、食料を調達したらすぐに出発しようと……」
僕がそういうと、驚いたような声が割り込みます。
「ちょっと待ってくれ。こんな状態の町を放置して先に進む気か?」
僕は声の主をジト目で見つめます。ジト目の先に居るのはアルバートですね。一体なんだというのでしょうか……
「……なんだって言うんです、変な人?
あぁ、困窮している町ですから、十分な食料が調達できない可能性もありますね。その場合は、飲料水の補充だけして先を急ぎましょう」
アメリアが、僕と変な人の顔を交互に見つめて口を開きます。
「姫さん、そいつが言いたいのは、そういうことじゃないと思うんですの……」
「この時期にこんな状態じゃ、本格的な冬に入れば飢える者も多いだろう。町の住人全てを救うのは無理としても、せめて子供たちの分だけでも、手持ちの食料から……」
アルバートがさらに言葉を続けようとしますが、僕は右手を彼の前に突き出して、沈黙させます。
「貴方が何を言いたいのか理解できないわけではありませんし、何をしてほしいのかわからなくもないですが、それは僕たちの仕事ではありませんよ。
先ほども言ったように、食料の調達を行いたいのは僕たちも一緒なんです。町民全てに施すほどの食料も、予算もありませんし、僕たちは山越えを控えています。新鮮な食材はいくらあっても良いんですからね」
自分の表情が冷たくなるのを自覚してますが、僕はあえて変な人に言います。
「それに、貴方は今回の護衛依頼についてきているだけの存在です。護衛依頼のメンバーではない貴方に、物資の使い道に口を差しはさむ権利はありませんよ」
偵察用ドローンが映す映像は、町の小さな教会のような施設です。そこには十人以上の子供が身を寄せ合って空腹に耐えている様子が映し出されています。
子供たちが飢えているのは確かですが、僕たちから施しを受けてしまえば、彼らは他の旅人に対しても施しを期待するようになるでしょう。
一度施しを受けた彼らは、施ししてくれない普通の人々をケチだと思い、悪く考えるはずです。そうなれば、悪い奴から盗んだり奪ったりすることは悪くないと考えるようになるまで、ほんの少しだとおもうんですよね。
「それに、困窮しているのは今日だけではないでしょう。今日の食事を与えたとしても、明日以後飢える事には変わりはありません。
それに、ここはアルべニア王国の貴族が納める荘園なんですよ。
荘園の中では、領主は王と同じです。領内の動植物は領主のモノであり、それには領民も含まれています。
いくら領民が困窮しているからといって、他国の貴族家に施しを受けたなどという話が広まれば、領主の恥となってしまいます。名誉を重んじる貴族にとっては、決闘どころか開戦の切っ掛けになってもおかしくないのですよ」
隣国ミッテンベルグ王国は、前領主がちょこちょこ戦を仕掛けていた相手国であり、コリーヌさんは他国にも戦姫として名が知られています。
かつて戦った相手から施しを受けたという噂話は、新任領主のヴォルフ卿にとって、アルべニア国内の貴族社会で致命的な悪評になるかもしれません。
それに、他者から施しを受けるということは、民衆のためにはなりません。現実的に小さな町とはいえ、半年分の食料を提供する事ができるはずもありませんからね。
アルバートの顔を見ると、僕の話を理解したのか殊勝な顔つきになっているので、沈黙を解除してあげます。
「……俺たちにできることは何もないのか……」
アルバートのつぶやきが聞こえます。まあ、彼は他国の国民の状況を直接目にするのは初めてですからね。
僕は帝政エリクシアを一人旅した経験がありますし、アメリアは海軍での航海経験があり、他国の港に停泊することもあったでしょうから、こういった物事には耐性があります。コリーヌさんは戦場となった町を知っているでしょうから、餓えた人々を見たことはあるでしょう。
見たことがあるからといって、感情が動かないわけではありませんが、干渉できない現実があるということを知っているだけでも、精神的負担は少なくなります。
しかし、あまりにもアルバートががっかりした様子なので、僕はついつい口をはさんでしまいます。
「まぁ、恒常的に何とかする方法はありますが、あくまでも町の人々が自分で食料を調達しなければなりません。
町の人々に、それが可能だと思わせられるかは、貴方たち次第です。言っておきますが、僕は参加しませんが、やりますか?」
黒い笑顔を向ける僕に、三人は恐るおそるうなづいたのでした。
僕がそういうと、驚いたような声が割り込みます。
「ちょっと待ってくれ。こんな状態の町を放置して先に進む気か?」
僕は声の主をジト目で見つめます。ジト目の先に居るのはアルバートですね。一体なんだというのでしょうか……
「……なんだって言うんです、変な人?
あぁ、困窮している町ですから、十分な食料が調達できない可能性もありますね。その場合は、飲料水の補充だけして先を急ぎましょう」
アメリアが、僕と変な人の顔を交互に見つめて口を開きます。
「姫さん、そいつが言いたいのは、そういうことじゃないと思うんですの……」
「この時期にこんな状態じゃ、本格的な冬に入れば飢える者も多いだろう。町の住人全てを救うのは無理としても、せめて子供たちの分だけでも、手持ちの食料から……」
アルバートがさらに言葉を続けようとしますが、僕は右手を彼の前に突き出して、沈黙させます。
「貴方が何を言いたいのか理解できないわけではありませんし、何をしてほしいのかわからなくもないですが、それは僕たちの仕事ではありませんよ。
先ほども言ったように、食料の調達を行いたいのは僕たちも一緒なんです。町民全てに施すほどの食料も、予算もありませんし、僕たちは山越えを控えています。新鮮な食材はいくらあっても良いんですからね」
自分の表情が冷たくなるのを自覚してますが、僕はあえて変な人に言います。
「それに、貴方は今回の護衛依頼についてきているだけの存在です。護衛依頼のメンバーではない貴方に、物資の使い道に口を差しはさむ権利はありませんよ」
偵察用ドローンが映す映像は、町の小さな教会のような施設です。そこには十人以上の子供が身を寄せ合って空腹に耐えている様子が映し出されています。
子供たちが飢えているのは確かですが、僕たちから施しを受けてしまえば、彼らは他の旅人に対しても施しを期待するようになるでしょう。
一度施しを受けた彼らは、施ししてくれない普通の人々をケチだと思い、悪く考えるはずです。そうなれば、悪い奴から盗んだり奪ったりすることは悪くないと考えるようになるまで、ほんの少しだとおもうんですよね。
「それに、困窮しているのは今日だけではないでしょう。今日の食事を与えたとしても、明日以後飢える事には変わりはありません。
それに、ここはアルべニア王国の貴族が納める荘園なんですよ。
荘園の中では、領主は王と同じです。領内の動植物は領主のモノであり、それには領民も含まれています。
いくら領民が困窮しているからといって、他国の貴族家に施しを受けたなどという話が広まれば、領主の恥となってしまいます。名誉を重んじる貴族にとっては、決闘どころか開戦の切っ掛けになってもおかしくないのですよ」
隣国ミッテンベルグ王国は、前領主がちょこちょこ戦を仕掛けていた相手国であり、コリーヌさんは他国にも戦姫として名が知られています。
かつて戦った相手から施しを受けたという噂話は、新任領主のヴォルフ卿にとって、アルべニア国内の貴族社会で致命的な悪評になるかもしれません。
それに、他者から施しを受けるということは、民衆のためにはなりません。現実的に小さな町とはいえ、半年分の食料を提供する事ができるはずもありませんからね。
アルバートの顔を見ると、僕の話を理解したのか殊勝な顔つきになっているので、沈黙を解除してあげます。
「……俺たちにできることは何もないのか……」
アルバートのつぶやきが聞こえます。まあ、彼は他国の国民の状況を直接目にするのは初めてですからね。
僕は帝政エリクシアを一人旅した経験がありますし、アメリアは海軍での航海経験があり、他国の港に停泊することもあったでしょうから、こういった物事には耐性があります。コリーヌさんは戦場となった町を知っているでしょうから、餓えた人々を見たことはあるでしょう。
見たことがあるからといって、感情が動かないわけではありませんが、干渉できない現実があるということを知っているだけでも、精神的負担は少なくなります。
しかし、あまりにもアルバートががっかりした様子なので、僕はついつい口をはさんでしまいます。
「まぁ、恒常的に何とかする方法はありますが、あくまでも町の人々が自分で食料を調達しなければなりません。
町の人々に、それが可能だと思わせられるかは、貴方たち次第です。言っておきますが、僕は参加しませんが、やりますか?」
黒い笑顔を向ける僕に、三人は恐るおそるうなづいたのでした。
0
あなたにおすすめの小説
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?
山咲莉亜
ファンタジー
ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。
だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。
趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?
ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。
※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる