最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓

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第5章 首都圏解放戦線

075 探索料理人『木戸』現る!!

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「おはようございます。中村さんもどうです?」

 朝日が昇り、すでに少し時間が経過していた。
 俺は日の光の眩しさに目を覚まし、もぞもぞと自分のテントから這い出した。
 どうやらタケシ君はすでに目を覚ましていたらしく、俺が起きたのを確認してコーヒーを淹れてくれた。
 うん、気配りできるいい子だね。
 目覚ましをつけるのをすっかり忘れて、だいぶ寝過ごしてしまったらしい。
 まだ覚めやらぬ思考回路でタケシ君からコーヒーカップを受け取ると、ゆっくりと味わうことにした。

「うん、うまい。」
「いいでしょこれ?実は神宮寺准尉はコーヒー好きだったんですけど、そのコーヒーをくすねてきました。」

 その時の状況を思い出したのか、多田野は笑いをこらえるように、くくくっと笑っていた。
 確かに少し苦めだが、うまいと思えるコーヒーだった。
 あぁ、また今度機会があればマスターのコーヒーが飲みたいな。

「それじゃあ、朝食は商業区画でとるとして、その後でギルド出張所に顔を出すので良いですか?」
「あぁ、それでいこう。そういえばタケシ君はここに来たことがあるの?なんだか詳しそうだけど。」
 
 タケシ君はひとしきり笑い終えると、今日の行動について再確認を求めて来た。
 俺はタケシ君の変わり身の早さに驚きながらも、それに答える。

 俺は、何となくタケシ君が迷いなく動いていることが少し気にかかった。
 気にしなくてもいいと言えばいいのだが、何となく引っ掛かりを覚えた。

「そうですね。少し前までここで侵攻作戦に参加していました。俺自身は【魔道具師】でしたので、発見された武器やアイテムなんかを鑑定修理を主だってやっていたんですよ。まぁ、適材適所ってやつですね。ただ、少し前の事です。俺の同期も、ここで侵攻作戦いついていました。だけど、ダンジョンで……。それから俺は直談判して、戦闘班に回してもらいました。魔道具師だって戦える。誰かを守れるんだって証明したくて……すみません。こんな暗い話いらないですよね。そうだ、ここにうまい飯屋があるんですよ。今日の朝飯はそこにしましょう。」

 タケシ君はそう言うと、火の始末などをしてそそくさと自分のテントへ戻っていった。
 俺は、タケシ君の思いに若干思うところもあったが、それはそれと思い自分の準備のためにテントへ戻った。

 それからしばらくして、そろそろいい時間となったので、2人で朝食を摂りに商業区画へやってきた。
 そこはまるでバラックのようだった。
 ありあわせの破材などで作られた簡易的な建物。
 お世辞には綺麗とは言えなかった。
 しかし、ここは最前線の一部。
 前線が押し上げられれば、その分前線へ移動していく。
 綺麗な店構えなど、ここには無用の長物なんだろうな。

「あったあった。こっちです中村さん。」

 タケシ君は目的の店を発見し、俺に手招きをしていた。
 俺もそれに気が付き、小走りで駆け寄っていく。
 そこは、屋台村のように何店舗も連なって、フードコートさながらに賑わいを見せていた。

「ここのもつ煮込み、マジで旨いんですよ。前いたときも、よく食べてました。それと、ここだと魚が不足してしまうんで、肉中心になります。あと、野菜はかなり貴重品ですね。肉とかもモンス肉ですから。まぁ、こんな前線で贅沢言ってられないってのが本音ですね。」

 一応、自衛隊員がピストン輸送で物資の搬入は行っていた。
 それでもなお不足しているのは、第一次産業が壊滅的ダメージを負ったからに他ならない。
 つまり、現在の食料事情のほとんどは、ダンジョン産に頼らなければならない現状ということだ。
 そのためには不必要なダンジョンをどんどん攻略し、人が管理しきれる数に抑え込む必要があった。

「おっちゃん!!もつ煮込み定食2つお願いね。」

 タケシ君は席に着くなり、有無を言わさずにもつ煮込み定食を注文していた。
 俺としてもさほど不満はなく、逆に楽しみの部分もあった。

 厨房から「あいよ~。少々待ってくれ!!」と男性の声が聞こえてきた。
 タケシ君は久々に食べる味に思いを巡らせ、手をこすり合わせながらそわそわしていた。
 しばらくすると、厨房から一人の男性が顔を出した。
 その手にはお盆を持っていて、料理が完成し配膳をしてくれるようだ。

「もつ煮込み定食お待ち!!って、多田野の坊主じゃねぇか。移動したって聞いてたけど、戻ってきたんだな?」

 その男性は顔に立派な髭を蓄え、いかにも店主って感じがした。
 ただ、その髭とは反対に頭皮は……お察しである。

 ガチャガチャと配膳される定食は、見るからに漢料理であった。
 野菜などすでに添え物程度でしかなく、メインのモツを引き立たせるためのわき役を強制的にやらされているように、申し訳なさそうに彩を与えていた。
 しかし、その見た目とは裏腹に、その香りは胃袋を強烈に刺激をしてくる。
 ミソの焼けた匂いや、もつ独特の香り。
 そして一度モツを火で炙っているのか、脂肪分が焼けた形容しがたい食欲をそそる、いい香りが鼻孔をくすぐってくる。

「昨日ここに着いたんだよ。あ、紹介するね。この人が今の俺のパートナーで中村さん。中村さん、このおっちゃんがこの店の店主。木戸さんです。」

 俺が箸に手を伸ばそうとしたタイミングで、多田野君が店主を紹介してくれた。
 俺としても挨拶せざるを得ず、伸ばした手を一度止め、木戸さんに向き直る。

「初めまして、中村 剣斗と言います。これからしばらくよろしくお願いします。」

 俺は、初対面の人間には、基本的にきちんと会話をすることを心掛けていた。
 それは、その先にある無駄なトラブルを回避する処世術の一つといってもいいのかもしれない。
 極力面倒事は避けたいのは、人間だれしも思うことだと思う。
 それと、これは父さんからの教えでもあった。

「こりゃご丁寧に。ここの店主の木戸きど 正人まさひとだ。よろしくな中村さん。」

 木戸さんはそう言うと、ごつごつとした手で握手を求めて来た。
 その手を取った瞬間、俺は違和感を覚えた。
 この手は料理人の手ではないと。
 むしろ、武器類を振るっていると思わせるほどの手だった。
 俺の表情の変化に気が付いた木戸さんは、苦笑いを浮かべながら答え合わせを始めた。

「お、中村さんはなかなか鋭いね。俺が料理人じゃないんじゃないかって思ったんじゃねぇか?」

 俺もまた、苦笑いをするほかなかった。

「安心してくれ。俺は間違いなくスキル【料理人】を持った料理人だ。だがな、こんな場所だろ?俺が食材を取りに行ったって問題ないだろ?そんなこんなで食材探しをしていたら、いつの間にか戦闘系のスキルも身についたってわけだ。」

 なるほどね、そういった理由からだったのか。
 確かに木戸さんみたいな料理人が居たら、ダンジョン内でもまともな飯が食えるってかなりのメリットになる。
 飯が旨いだけでモチベーションがかなり違ってくるからね。
 それに食材ハンターとはまた珍しい。
 ダンジョンに潜って食材をそろえられるってことはそれなりの戦闘者でもあるってことだろうから、ある意味稀有な料理人ではあるのか。
 さすが最前線ってわけだ。
 そう考えると木戸さんとダンジョンアタックもまた面白いかもしれない。
 って、木戸さんは攻略組じゃないからな。
 さすがにこれは無いか。

 木戸さんとの会話がひと段落したところで、改めて朝食を開始した。
 そして俺は、一口のそのもつ煮込みを食べた瞬間に、理解したんだ。
 何故、タケシ君が常連となったのか……いや、のだ。

 旨い……
 ものすごく旨い……

 ただ旨いのではなく、嫌な臭みが全くない。
 場所が場所だけに、おそらく使っている肉はモンスターの肉だ。
 何のモンスターまでかは聞いていなかったが、あまりの旨さに箸が止まらない。
 だめだ、止めて話を聞こうと思ったけど、箸が止まらない。

 そんな俺を見ていた木戸さんは、ニヤリと笑うと厨房へ引っ込んでいってしまった。
 タケシ君も負けじと、もつ煮込みを食べ始めた。
 2人の咀嚼音は止まることを知らず、ひたすらに食べ続けていた。

 そして少しすると、俺たちの箸はやっと止まることになる。
 そう……我に返ると、そのもつ煮込みを食べつくしてしまった。

「「ごちそうさまでした!!」」

 その声に反応するように、厨房から木戸さんの声が聞こえてきた。

「お粗末さん!!」と。

 今日、この日……俺はもつ煮込みに陥落した……
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