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第5章 首都圏解放戦線
077 経験値=【生命】
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時計を確認すると、探索を開始してからすでに2時間は経過していた。
周囲に敵性の気配はするのに、全く近づいてくる気配がない。
付かず離れずの距離をずっと保っているのだ。
そして俺の探知範囲にも僅かしか反応しないことから、おそらく300mは離れているはずだ。
歩けど歩けど、続くのは草原ばかり。
地面の高低差はあるものの、森や丘などは存在しなかった。
何よりも、一匹もモンスターが現れないのだ。
「やばいな……、こうも変わり映えしないと精神的に来るものがあるね。」
「ケントさん、そう考えてる時点でかなりヤバいです。自衛隊でもその辺は徹底的に仕込まれますから。気を抜かないでください。」
探知範囲に入ってこないため、ずっと気配を探り続けるという状況は、集中力を否応なく奪い去っていく。
タケシ君の警告もむなしく、俺は一瞬気を抜いてしまった。
その時間はわずか1秒にも満たない時間だったと思う。
ガキン!!
いきなり現れた気配に、俺は何とか反応することができた。
ギリギリのところで左手に構えた盾を気配のする方向へと潜り込ませることに成功した。
俺は左腕に伝わる衝撃でたたらを踏んでしまい、バランスを崩しかける。
タケシ君もいきなりの金属音に驚きを隠せずにいた。
そのせいもあって、追撃をすることができなかったのだ。
そして目の前に現れたのは、一匹のゴブリン。
今まで見たゴブリンに比べて2回る大きいものの、体はかなり絞られていた。
しかし、ガリガリというわけではなく、よく鍛えられた体つきだった。
よく見ると、ゴブリンの手には二振りの短剣が握られていた。
おそらく先ほどの奇襲の際に使用した武器なのであろう。
俺に攻撃を防がれたゴブリンも、少し驚いた様子を見せていた。
そしてそのゴブリンは、ニヤリと笑みをこぼす。
ゆっくりと……
ゆっくりと動き出すゴブリン。
俺たちも警戒を上げ、その動きから目を離さないように集中していく。
俺とゴブリンは、幾度となく打ち合うこととなった。
やがて速度は上昇していき、タケシ君は追いかけるのがやっとになってきた。
さすがにこのままだとまずいな……
明らかにじり貧になる。
そうなる前に……
「【身体強化】!!【部位強化・足】!!【移動速度強化】!!」
スキルを発動すると、俺は全力で走り出した。
それにつられてゴブリンも動きを加速させていく。
タケシ君は自分の役割を思い出したかように、スキルを発動させた。
「【魔銃作成】!!」
タケシ君は自分の周囲に10門の銃身を配置する。
それは今俺が注意を引いているのゴブリン用ではなく、周辺警戒用に弾幕を張るためだ。
タケシ君が警戒しているのは先程のゴブリンではなく、まだ気配を隠しているかもしれないモンスターに向けたものだ。
これでやっとこいつに集中できるな。
「【結界】【結界】【結界】!!」
俺は高速移動をしながら周囲に結界をばら撒いた。
それを足場として展開し、ゴブリンを追い詰めていく。
突然現れた結界に驚きを隠せず、一瞬動きを止めてしまったゴブリンの表情には「しまった!!」という感情がありありと浮き出ていた。
俺は、それを見逃さずさらに結界を張り続けた。
次第に結界が、俺と対峙したゴブリンの周囲を埋め尽くしていく。
そこはテリトリーといっても過言ではない、俺の必勝パターンだ。
結界を足場に縦横無尽に飛び回る俺に対し、お株を奪われた形になったゴブリンは苛立ちを露わにしていた。
「【気配遮断】【魔力遮断】【消音】!!」
俺の姿を見失ったゴブリンは、ただひたすらにうろたえていた。
まさに、意趣返しってやつだな。
——————
多田野はケントからある依頼を受けていた。
もし強敵と当たり、いつものパターンでケントが姿を消したとき、そのモンスターに一斉射撃をしてほしいと。
その際ケントは一度退避し、一斉射撃で隙のできたモンスターの首を刈り取るというものだった。
正直、多田野は半信半疑でいた。
しかしケントは、今間違いなく姿を消して見せたのだ。
ならば自分もと、さらに追加で10門銃身を作り出す。
新たに作り出した銃身は、完全にガトリングの銃身だった。
多田野はにやりと笑うと、その銃身をふわりと浮かべ、ゴブリンに接近させる。
突如現れたその物体に驚きを隠せないゴブリンは、とっさに後方へと飛び退こうとした。
しかしそこにはケントが仕掛けた【結界】が行く手を挟んでいた。
「くらいやがれ!!」
多田野の叫びと共に、嘶き吼える銃身。
それはもう弾幕なんて言葉が生ぬるいとさえ思えるほどであった。
時間にして5秒もなかっただろう。
多田野は一斉掃射を止め、息をついていた。
放たれた魔弾は無属性通常弾で、消費はそれほどまでないのだが、数が数だけに多田野の負担は大きかった。
一斉掃射により舞い上がった土煙が落ち着くころ、そのゴブリンは姿を現した。
全身傷らだけになりながらも、致命傷には至っていなかった。
手にした武器で頭と心臓を守り抜いたのだ。
しかしその代償として、武器はその役目を終えていた。
息も絶え絶えなゴブリンを見て、多田野は歯噛みをして悔しがってた。
今回の攻撃は多田野の攻撃の中でも上位に入る攻撃力を誇っているのだ。
最高の手札をもってしても倒し切れなかったことに、悔しさを滲ませていた。
そして、多田野とゴブリンの頭の中からケントへの意識は無くなっていた。
ずるり……
ゴブリンが最後に見た光景は、天地が反転した世界だった……
ケントはゴブリンの背後に音もなく舞い降りたのだ。
そして誰に気付かれることなく、背後からゴブリンの首筋に一振り。
手にした魔剣で、ゴブリンの首を刈り取ったのだ。
あまりにも綺麗な切り口に、ゴブリンの体も切られたことを気付かなかったのか、一拍置いてから噴水のごとく体液をまき散らしていた。
そして、力を失った体はどさりと地面に倒れたのだった。
多田野は戦慄を覚えていた。
自分も一度体験したこととはいえ、恐ろしいと言わざる得なかった。
これでBランクなんて、何かの冗談だろう?とさえ思っていた。
それほどまでに見事な一撃だったのだ。
多田野の猛攻も辛うじて耐えきったゴブリンの耐久力は、正直並大抵の耐久力ではないのだ。
それを一撃のもとにその首を刈り取った技量とその武器は、Aランククラスでもおかしくない。
そう感じていた。
周辺警戒をして敵の気配がないことを確認したケントは、残心を解いて一息つくと、倒れたゴブリンへと近づいていく。
「【レベルドレイン】」
ケントは左手をゴブリンの頭に当て、スキルを発動した。
ゴブリンは黒い靄に変わるとその手に吸い込まれていったのだ。
多田野は何度目の驚きだったろうか。
普通は霧散して消えていくモンスターが、ケントへと吸い込まれていったのだ。
そして多田野は気が付いた。
自分に経験値が入っていないことを。
意味が分からず多田野は混乱していた。
普通はモンスターを倒すと経験値が分散され、入ってくるものなのだ。
しかし、実際には取得経験値が0だった。
「な、中村さん……。いったい何をしたんですか?」
——————
俺は少し説明に困ってしまった。
つい何の気なしに、いつものように吸収してしまっていたのだ。
このスキルについてどう説明していい物やら。
でもこれから先も一緒にって考えたら説明するしかないよね。
「タケシ君。今からする話を心して聞いてほしい。そしてこれが俺が国家にマークされてる理由でもある。スキル名は【レベルドレイン】。効果は【生物】からその【生命】を直接吸収することができるんだ。」
「【生命】を?」
タケシ君の表情には、困惑の色が見て取れた。
おそらく、それが普通の人間の反応だと思う。
生物から生命を奪う。
それは、人としての道理をすでに逸脱している行為ではないのだろうかと。
「混乱させてごめん。ただ誤解しないでほしい。実はこれは探索者なら誰でもやっている事なんだ。モンスターを倒すと〝経験値〟が入る。じゃあ、その〝経験値〟ってなんだ?って話になる。つまりそれが生命だったんだ。本来であれば1割を探索者が、残り9割をダンジョンが吸収する。それでこのダンジョンが成り立っている。それを俺は、スキルで100%吸収できるんだ。」
さらに混乱の色を強くしていくタケシ君。
うん、キャパオーバーだったみたいだね。
「すみません。少し時間をください。」
そう言うと、タケシ君は頭を抱えて蹲ってしまった。
まぁ、そうなるよね。
周囲に敵性の気配はするのに、全く近づいてくる気配がない。
付かず離れずの距離をずっと保っているのだ。
そして俺の探知範囲にも僅かしか反応しないことから、おそらく300mは離れているはずだ。
歩けど歩けど、続くのは草原ばかり。
地面の高低差はあるものの、森や丘などは存在しなかった。
何よりも、一匹もモンスターが現れないのだ。
「やばいな……、こうも変わり映えしないと精神的に来るものがあるね。」
「ケントさん、そう考えてる時点でかなりヤバいです。自衛隊でもその辺は徹底的に仕込まれますから。気を抜かないでください。」
探知範囲に入ってこないため、ずっと気配を探り続けるという状況は、集中力を否応なく奪い去っていく。
タケシ君の警告もむなしく、俺は一瞬気を抜いてしまった。
その時間はわずか1秒にも満たない時間だったと思う。
ガキン!!
いきなり現れた気配に、俺は何とか反応することができた。
ギリギリのところで左手に構えた盾を気配のする方向へと潜り込ませることに成功した。
俺は左腕に伝わる衝撃でたたらを踏んでしまい、バランスを崩しかける。
タケシ君もいきなりの金属音に驚きを隠せずにいた。
そのせいもあって、追撃をすることができなかったのだ。
そして目の前に現れたのは、一匹のゴブリン。
今まで見たゴブリンに比べて2回る大きいものの、体はかなり絞られていた。
しかし、ガリガリというわけではなく、よく鍛えられた体つきだった。
よく見ると、ゴブリンの手には二振りの短剣が握られていた。
おそらく先ほどの奇襲の際に使用した武器なのであろう。
俺に攻撃を防がれたゴブリンも、少し驚いた様子を見せていた。
そしてそのゴブリンは、ニヤリと笑みをこぼす。
ゆっくりと……
ゆっくりと動き出すゴブリン。
俺たちも警戒を上げ、その動きから目を離さないように集中していく。
俺とゴブリンは、幾度となく打ち合うこととなった。
やがて速度は上昇していき、タケシ君は追いかけるのがやっとになってきた。
さすがにこのままだとまずいな……
明らかにじり貧になる。
そうなる前に……
「【身体強化】!!【部位強化・足】!!【移動速度強化】!!」
スキルを発動すると、俺は全力で走り出した。
それにつられてゴブリンも動きを加速させていく。
タケシ君は自分の役割を思い出したかように、スキルを発動させた。
「【魔銃作成】!!」
タケシ君は自分の周囲に10門の銃身を配置する。
それは今俺が注意を引いているのゴブリン用ではなく、周辺警戒用に弾幕を張るためだ。
タケシ君が警戒しているのは先程のゴブリンではなく、まだ気配を隠しているかもしれないモンスターに向けたものだ。
これでやっとこいつに集中できるな。
「【結界】【結界】【結界】!!」
俺は高速移動をしながら周囲に結界をばら撒いた。
それを足場として展開し、ゴブリンを追い詰めていく。
突然現れた結界に驚きを隠せず、一瞬動きを止めてしまったゴブリンの表情には「しまった!!」という感情がありありと浮き出ていた。
俺は、それを見逃さずさらに結界を張り続けた。
次第に結界が、俺と対峙したゴブリンの周囲を埋め尽くしていく。
そこはテリトリーといっても過言ではない、俺の必勝パターンだ。
結界を足場に縦横無尽に飛び回る俺に対し、お株を奪われた形になったゴブリンは苛立ちを露わにしていた。
「【気配遮断】【魔力遮断】【消音】!!」
俺の姿を見失ったゴブリンは、ただひたすらにうろたえていた。
まさに、意趣返しってやつだな。
——————
多田野はケントからある依頼を受けていた。
もし強敵と当たり、いつものパターンでケントが姿を消したとき、そのモンスターに一斉射撃をしてほしいと。
その際ケントは一度退避し、一斉射撃で隙のできたモンスターの首を刈り取るというものだった。
正直、多田野は半信半疑でいた。
しかしケントは、今間違いなく姿を消して見せたのだ。
ならば自分もと、さらに追加で10門銃身を作り出す。
新たに作り出した銃身は、完全にガトリングの銃身だった。
多田野はにやりと笑うと、その銃身をふわりと浮かべ、ゴブリンに接近させる。
突如現れたその物体に驚きを隠せないゴブリンは、とっさに後方へと飛び退こうとした。
しかしそこにはケントが仕掛けた【結界】が行く手を挟んでいた。
「くらいやがれ!!」
多田野の叫びと共に、嘶き吼える銃身。
それはもう弾幕なんて言葉が生ぬるいとさえ思えるほどであった。
時間にして5秒もなかっただろう。
多田野は一斉掃射を止め、息をついていた。
放たれた魔弾は無属性通常弾で、消費はそれほどまでないのだが、数が数だけに多田野の負担は大きかった。
一斉掃射により舞い上がった土煙が落ち着くころ、そのゴブリンは姿を現した。
全身傷らだけになりながらも、致命傷には至っていなかった。
手にした武器で頭と心臓を守り抜いたのだ。
しかしその代償として、武器はその役目を終えていた。
息も絶え絶えなゴブリンを見て、多田野は歯噛みをして悔しがってた。
今回の攻撃は多田野の攻撃の中でも上位に入る攻撃力を誇っているのだ。
最高の手札をもってしても倒し切れなかったことに、悔しさを滲ませていた。
そして、多田野とゴブリンの頭の中からケントへの意識は無くなっていた。
ずるり……
ゴブリンが最後に見た光景は、天地が反転した世界だった……
ケントはゴブリンの背後に音もなく舞い降りたのだ。
そして誰に気付かれることなく、背後からゴブリンの首筋に一振り。
手にした魔剣で、ゴブリンの首を刈り取ったのだ。
あまりにも綺麗な切り口に、ゴブリンの体も切られたことを気付かなかったのか、一拍置いてから噴水のごとく体液をまき散らしていた。
そして、力を失った体はどさりと地面に倒れたのだった。
多田野は戦慄を覚えていた。
自分も一度体験したこととはいえ、恐ろしいと言わざる得なかった。
これでBランクなんて、何かの冗談だろう?とさえ思っていた。
それほどまでに見事な一撃だったのだ。
多田野の猛攻も辛うじて耐えきったゴブリンの耐久力は、正直並大抵の耐久力ではないのだ。
それを一撃のもとにその首を刈り取った技量とその武器は、Aランククラスでもおかしくない。
そう感じていた。
周辺警戒をして敵の気配がないことを確認したケントは、残心を解いて一息つくと、倒れたゴブリンへと近づいていく。
「【レベルドレイン】」
ケントは左手をゴブリンの頭に当て、スキルを発動した。
ゴブリンは黒い靄に変わるとその手に吸い込まれていったのだ。
多田野は何度目の驚きだったろうか。
普通は霧散して消えていくモンスターが、ケントへと吸い込まれていったのだ。
そして多田野は気が付いた。
自分に経験値が入っていないことを。
意味が分からず多田野は混乱していた。
普通はモンスターを倒すと経験値が分散され、入ってくるものなのだ。
しかし、実際には取得経験値が0だった。
「な、中村さん……。いったい何をしたんですか?」
——————
俺は少し説明に困ってしまった。
つい何の気なしに、いつものように吸収してしまっていたのだ。
このスキルについてどう説明していい物やら。
でもこれから先も一緒にって考えたら説明するしかないよね。
「タケシ君。今からする話を心して聞いてほしい。そしてこれが俺が国家にマークされてる理由でもある。スキル名は【レベルドレイン】。効果は【生物】からその【生命】を直接吸収することができるんだ。」
「【生命】を?」
タケシ君の表情には、困惑の色が見て取れた。
おそらく、それが普通の人間の反応だと思う。
生物から生命を奪う。
それは、人としての道理をすでに逸脱している行為ではないのだろうかと。
「混乱させてごめん。ただ誤解しないでほしい。実はこれは探索者なら誰でもやっている事なんだ。モンスターを倒すと〝経験値〟が入る。じゃあ、その〝経験値〟ってなんだ?って話になる。つまりそれが生命だったんだ。本来であれば1割を探索者が、残り9割をダンジョンが吸収する。それでこのダンジョンが成り立っている。それを俺は、スキルで100%吸収できるんだ。」
さらに混乱の色を強くしていくタケシ君。
うん、キャパオーバーだったみたいだね。
「すみません。少し時間をください。」
そう言うと、タケシ君は頭を抱えて蹲ってしまった。
まぁ、そうなるよね。
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