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第5章 首都圏解放戦線
080 ゴブリンダンジョン再潜入
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「こいつはまた厄介なアイテムが出て来たもんだな。いったいこいつをどうする気なんだ?」
加賀谷からの問いに、俺は正直困っていた。
オークションにかけるには危険すぎるからだ。
武器性能的には、おそらく今発見されている武器の中でも上位に食い込む性能なのは間違いない。
しかし、それに付随するバッドステータスが問題だった。
バッドステータス:精神汚染
殺戮衝動を抑えられなくなるなんて、誰が使うんだよって話だ。
まず間違いなく売れない。
売れたところで、買い手が発狂したら後味が悪すぎる。
どうすればいいかと悩んでいると、加賀谷が助け舟を用意してくれた。
「自衛隊の研究室にこいつを送ってもいいかい?それなりの買い取り額は提示させてもらうから。」
俺としては渡りに船だった。
自分で持っていてもインベントリに眠る肥やし以外何物でもない。
そして、当面の活動資金にもなるので大助かりだ。
今回だってまともに探索できてないからね。
「わかりました。ではそちらで引き取りをお願いします。くれぐれも厳重に保管してください。先程の様に耐性が低い人は、一瞬で魅入られますから。」
「肝に銘じておく……さっきのは本当に驚いたよ。」
俺の忠告にごくりと唾を飲み込んだ加賀谷。
もしこれが誰かの手に渡って暴走したら……と不安になるのも無理からぬ話だ。
俺だったら問題なく使えるんだけどね。
ただ、俺の戦闘スタイルと微妙に違うから、結果としてよかったと思う。
加賀谷は俺から短剣を受け取ると、すぐに自分のインベントリに仕舞いこんだ。
誰にも触れられないようにするために。
もちろん加賀谷自身も触れないように慎重に布でくるんで作業にあたっていた。
「あ、そんなに心配はいりませんよ。手で持っていない限りは精神汚染されないようですから。」
俺はわざと、後だしでネタ晴らしをしてみた。
その時の加賀谷の顔は、若干引きつっていたのが面白かった。
「ではこれで聞き取りは完了となります……」
「わかりました。じゃあ、これから改めてダンジョンに入りますがよろしいですか?」
顔の引きつったままの加賀谷と大人の会話を交わした俺は、さっさとダンジョンに戻ろうと考えていた。
制圧部隊が普通に入れるならば問題ないだろうからね。
ただ、俺の横でタケシ君がめっちゃ驚いてた。
さっきまで大変な目に遭ったのだから、今日はこのまま休みたい気持ちでいっぱいだったみたいだ。
いやだって、時間ないし?
「では、多田野三等陸曹。彼の護衛の任頼んだよ。」
「は!!」
ビシッと決まった敬礼なのに、タケシ君の肩ががくりと落ちているのは気のせいだろうか。
テントを後にした俺は、再度荷物の確認を行った。
最初のダンジョンアタックで消耗したものはさほどなかったが、飲料などの食料品が少し減っていたので、補給を考えなくてはならなかった。
ここにも一応そう言った売店らしきものがあるようだったので、一度顔を出すことにした。
とはいうものの、数はそう多くなく、すぐに補給作業は終了してしまった。
「本当に行くんですね……」
「ん?そうだね。無駄に時間を使ったし、少し急ぎ目で行こうか。」
墓穴を掘った形になったタケシ君は、更に肩を落とし、深いため息をついていた。
それを横目に見ていた俺は、クスリと笑みがこぼれてしまった。
タケシ君の肩をポンと叩いて、俺はダンジョンへと向かった歩き始めた。
後ろでタケシ君は更に肩を落とし、とぼとぼと付いてきたみたいだ。
気合を入れなおして頑張ろう。
ダンジョン入り口につくと先程と同じ【トランスゲート】が鎮座していた。
隣にいたタケシ君は警戒を強めていた。
まあ、当然と言えば当然だろうな。
先程と同じように飛ばされるんではないかと俺も疑心暗鬼なんだから。
ただそんなことは言っていられないため、足早に【トランスゲート】へ近づいていく。
俺が躊躇いつつも行動を開始したため、タケシ君も意を決してついてきた。
俺が【トランスゲート】に触れると、ボワンっという音と共に周辺が一瞬歪む。
タケシ君は先程の転送先を警戒し、周辺警戒を怠らないよう周囲を見回していた。
周囲の歪みが落ち着き、よく見る洞窟型ダンジョンが目についた。
側には【トランスゲート】もあり、ようやく普通のダンジョンであることを確信したタケシ君に安堵の色が見えた。
「タケシ君。【イレギュラーダンジョン】じゃないからって気を抜くなよ?場合によっては【イレギュラー】だって存在するんだからさ。」
気を抜きかけたタケシ君を心配し、声をかける。
タケシ君もその言葉に我に返り、再度周辺の警戒を開始したようだ。
タケシ君の変わりように、俺は不意にクスリと笑みをこぼしていた。
なんだか手のかかる弟を相手している気分にでもなったようだった。
「さあ行こうか。」
俺はそう言うと、勢いよく地面を蹴り走り出した。
【イレギュラーダンジョン】のせいで半日ほど計画が遅れてしまった。
その遅れを取り戻すかの様に、出会うモンスターを路傍の石を蹴飛ばすかの如く蹴散らして行く。
タケシ君もなんだかんだと言ってきちんとついてきてくれていた。
ただ、タケシ君が【魔銃作成】で砲身を作り出すよりも、俺がモンスターを屠る速度の方が圧倒的に早かった。
おかげでタケシ君は少し自信を無くしてしまったみたいだ。
ところどころ聞こえてくる「これ、俺必要あるの?」って言葉に苦笑いを浮かべるしかなかった。
まあ、だからと言って速度を落とす理由にはならなかったので、そのまま駆け抜けることにした。
それから順調に攻略を進めていった。
「これ護衛っているの?」とタケシ君がぼやいていたけど、気にしたら負けだ。
まあ、3~4時間もかからずに第10層に来るとは思ってもいなかっただろうしね。
朝から考えても、おそらくは半日程度で第10層に到着してしまった。
当初から第10層のボス戦をこなし、キャンプ地にすると予定していた。
蓋を開けてみれば、予定よりもかなり早い段階で第10層のボス部屋の前に立っていた。
「け、ケントさん……。は、早すぎますよ……」
タケシ君は、最後の方はほとんど会話すらしていなかった。
どうやら走りっぱなしが問題だったのかもしれないな。
というわけで低階層のモンスターのドロップアイテムは放置してきた。
拾ったとしても大した額にならないし……それにここはゴブリン系ダンジョン。
大量の腰布なんて誰が必要なんだよ……
しかもちょっとランクが高いゴブリンから質のいい腰布がドロップするし。
いらないって……
「タケシ君は少し鍛え方が足りないかな?探索者になってステータスに縛られると、疎かになるよ。それが必ず自分の足を引っ張ることになる。ステータスだけが全てじゃないんだ。」
俺はタケシ君に対して、少しだけ注意を促した。
俺自身も、スキルによるステータス上昇に酔っていた時期があった。
レベルを上げスキルを増やし、またレベルを上げる。
次第に増えていくスキルボーナスポイントを振り分けていく。
強くなる自分に、万能感さえ覚えていたのだ。
しかし、それだけではどうしても解決できないことがたくさんあった。
使いこなせないスキル・ステータスは意味など無かったからだ。
ここへ来る前のダンジョン制覇の際にいろいろ考えた俺は、ステータスに頼り過ぎない戦闘を模索し始めていた。
今はまだ確立できていないが、その断片は見え始めていた。
それが己を鍛えることだ。
自身の身体で出来ることを正確に把握する。
自身の身体で出来ない事はどう頑張ったってできないのだからと。
タケシ君の息が整うのを待ってから、第10層のボス部屋の扉をゆっくりと開けた。
ゴギギギギ
重く渋い音が鳴り響く。
ボス部屋は薄暗く、広さもさほど広いとは言えないサイズ感だった。
イメージ的にはバスケットコート2面分くらいしかないように感じられた。
その部屋の中央に、徐々に黒い靄が集まり出してきた。
ぐるぐると渦を巻き圧縮され、一つの塊となった。
そう、羽化でもするかのようにそれは現れた。
一匹の羽の生えたゴブリンが……
加賀谷からの問いに、俺は正直困っていた。
オークションにかけるには危険すぎるからだ。
武器性能的には、おそらく今発見されている武器の中でも上位に食い込む性能なのは間違いない。
しかし、それに付随するバッドステータスが問題だった。
バッドステータス:精神汚染
殺戮衝動を抑えられなくなるなんて、誰が使うんだよって話だ。
まず間違いなく売れない。
売れたところで、買い手が発狂したら後味が悪すぎる。
どうすればいいかと悩んでいると、加賀谷が助け舟を用意してくれた。
「自衛隊の研究室にこいつを送ってもいいかい?それなりの買い取り額は提示させてもらうから。」
俺としては渡りに船だった。
自分で持っていてもインベントリに眠る肥やし以外何物でもない。
そして、当面の活動資金にもなるので大助かりだ。
今回だってまともに探索できてないからね。
「わかりました。ではそちらで引き取りをお願いします。くれぐれも厳重に保管してください。先程の様に耐性が低い人は、一瞬で魅入られますから。」
「肝に銘じておく……さっきのは本当に驚いたよ。」
俺の忠告にごくりと唾を飲み込んだ加賀谷。
もしこれが誰かの手に渡って暴走したら……と不安になるのも無理からぬ話だ。
俺だったら問題なく使えるんだけどね。
ただ、俺の戦闘スタイルと微妙に違うから、結果としてよかったと思う。
加賀谷は俺から短剣を受け取ると、すぐに自分のインベントリに仕舞いこんだ。
誰にも触れられないようにするために。
もちろん加賀谷自身も触れないように慎重に布でくるんで作業にあたっていた。
「あ、そんなに心配はいりませんよ。手で持っていない限りは精神汚染されないようですから。」
俺はわざと、後だしでネタ晴らしをしてみた。
その時の加賀谷の顔は、若干引きつっていたのが面白かった。
「ではこれで聞き取りは完了となります……」
「わかりました。じゃあ、これから改めてダンジョンに入りますがよろしいですか?」
顔の引きつったままの加賀谷と大人の会話を交わした俺は、さっさとダンジョンに戻ろうと考えていた。
制圧部隊が普通に入れるならば問題ないだろうからね。
ただ、俺の横でタケシ君がめっちゃ驚いてた。
さっきまで大変な目に遭ったのだから、今日はこのまま休みたい気持ちでいっぱいだったみたいだ。
いやだって、時間ないし?
「では、多田野三等陸曹。彼の護衛の任頼んだよ。」
「は!!」
ビシッと決まった敬礼なのに、タケシ君の肩ががくりと落ちているのは気のせいだろうか。
テントを後にした俺は、再度荷物の確認を行った。
最初のダンジョンアタックで消耗したものはさほどなかったが、飲料などの食料品が少し減っていたので、補給を考えなくてはならなかった。
ここにも一応そう言った売店らしきものがあるようだったので、一度顔を出すことにした。
とはいうものの、数はそう多くなく、すぐに補給作業は終了してしまった。
「本当に行くんですね……」
「ん?そうだね。無駄に時間を使ったし、少し急ぎ目で行こうか。」
墓穴を掘った形になったタケシ君は、更に肩を落とし、深いため息をついていた。
それを横目に見ていた俺は、クスリと笑みがこぼれてしまった。
タケシ君の肩をポンと叩いて、俺はダンジョンへと向かった歩き始めた。
後ろでタケシ君は更に肩を落とし、とぼとぼと付いてきたみたいだ。
気合を入れなおして頑張ろう。
ダンジョン入り口につくと先程と同じ【トランスゲート】が鎮座していた。
隣にいたタケシ君は警戒を強めていた。
まあ、当然と言えば当然だろうな。
先程と同じように飛ばされるんではないかと俺も疑心暗鬼なんだから。
ただそんなことは言っていられないため、足早に【トランスゲート】へ近づいていく。
俺が躊躇いつつも行動を開始したため、タケシ君も意を決してついてきた。
俺が【トランスゲート】に触れると、ボワンっという音と共に周辺が一瞬歪む。
タケシ君は先程の転送先を警戒し、周辺警戒を怠らないよう周囲を見回していた。
周囲の歪みが落ち着き、よく見る洞窟型ダンジョンが目についた。
側には【トランスゲート】もあり、ようやく普通のダンジョンであることを確信したタケシ君に安堵の色が見えた。
「タケシ君。【イレギュラーダンジョン】じゃないからって気を抜くなよ?場合によっては【イレギュラー】だって存在するんだからさ。」
気を抜きかけたタケシ君を心配し、声をかける。
タケシ君もその言葉に我に返り、再度周辺の警戒を開始したようだ。
タケシ君の変わりように、俺は不意にクスリと笑みをこぼしていた。
なんだか手のかかる弟を相手している気分にでもなったようだった。
「さあ行こうか。」
俺はそう言うと、勢いよく地面を蹴り走り出した。
【イレギュラーダンジョン】のせいで半日ほど計画が遅れてしまった。
その遅れを取り戻すかの様に、出会うモンスターを路傍の石を蹴飛ばすかの如く蹴散らして行く。
タケシ君もなんだかんだと言ってきちんとついてきてくれていた。
ただ、タケシ君が【魔銃作成】で砲身を作り出すよりも、俺がモンスターを屠る速度の方が圧倒的に早かった。
おかげでタケシ君は少し自信を無くしてしまったみたいだ。
ところどころ聞こえてくる「これ、俺必要あるの?」って言葉に苦笑いを浮かべるしかなかった。
まあ、だからと言って速度を落とす理由にはならなかったので、そのまま駆け抜けることにした。
それから順調に攻略を進めていった。
「これ護衛っているの?」とタケシ君がぼやいていたけど、気にしたら負けだ。
まあ、3~4時間もかからずに第10層に来るとは思ってもいなかっただろうしね。
朝から考えても、おそらくは半日程度で第10層に到着してしまった。
当初から第10層のボス戦をこなし、キャンプ地にすると予定していた。
蓋を開けてみれば、予定よりもかなり早い段階で第10層のボス部屋の前に立っていた。
「け、ケントさん……。は、早すぎますよ……」
タケシ君は、最後の方はほとんど会話すらしていなかった。
どうやら走りっぱなしが問題だったのかもしれないな。
というわけで低階層のモンスターのドロップアイテムは放置してきた。
拾ったとしても大した額にならないし……それにここはゴブリン系ダンジョン。
大量の腰布なんて誰が必要なんだよ……
しかもちょっとランクが高いゴブリンから質のいい腰布がドロップするし。
いらないって……
「タケシ君は少し鍛え方が足りないかな?探索者になってステータスに縛られると、疎かになるよ。それが必ず自分の足を引っ張ることになる。ステータスだけが全てじゃないんだ。」
俺はタケシ君に対して、少しだけ注意を促した。
俺自身も、スキルによるステータス上昇に酔っていた時期があった。
レベルを上げスキルを増やし、またレベルを上げる。
次第に増えていくスキルボーナスポイントを振り分けていく。
強くなる自分に、万能感さえ覚えていたのだ。
しかし、それだけではどうしても解決できないことがたくさんあった。
使いこなせないスキル・ステータスは意味など無かったからだ。
ここへ来る前のダンジョン制覇の際にいろいろ考えた俺は、ステータスに頼り過ぎない戦闘を模索し始めていた。
今はまだ確立できていないが、その断片は見え始めていた。
それが己を鍛えることだ。
自身の身体で出来ることを正確に把握する。
自身の身体で出来ない事はどう頑張ったってできないのだからと。
タケシ君の息が整うのを待ってから、第10層のボス部屋の扉をゆっくりと開けた。
ゴギギギギ
重く渋い音が鳴り響く。
ボス部屋は薄暗く、広さもさほど広いとは言えないサイズ感だった。
イメージ的にはバスケットコート2面分くらいしかないように感じられた。
その部屋の中央に、徐々に黒い靄が集まり出してきた。
ぐるぐると渦を巻き圧縮され、一つの塊となった。
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