最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓

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第5章 首都圏解放戦線

092 可笑しなモンスターハウス

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「タケシ君!!そいつはフロアボスのエリートゴブリン・バロンだ!!」
「名前長い!!」

 タケシ君は冷静になろうと試みるも、そのニタニタと笑うエリートゴブリンバロンの顔を見ると、どうにも感情が抑えられなくなっていた。
 怒れば怒るほど周りが見えなくなり、回避が遅れるという悪循環が続いている。
 俺はそんなタケシ君をフォローすべく、タケシ君の周辺に【結界】を張りまくる。
 そのおかげか、タケシ君の被弾率は思いのほか多くは無かった。
 致命傷になる傷も少なく、それがかえってタケシ君を苛立たせる結果となってしまった。

 俺は戦闘を継続しながら、このモンスターハウスの攻撃についてを考えていた。
 最初から小ばかにしたような演出。
 バロンの登場。
 バロンの態度。
 油断したところにおそらくアサシン系の攻撃。

 そして行き着いた答えが〝精神攻撃〟だ。
 俺は怒り耐性のスキルのおかげで、何とか冷静を保っていられた。
 しかし、タケシ君は耐性が無い為に、その罠に飲み込まれてしまった。

 なおも踊り場付近では、バロンがタケシ君を煽り続けていた。

「おやおや~?あなた方はお仲間ではなかったのですか?そこのあなたは傷だらけですが……。あちらの方は無傷のようですよ?なぜでしょうね?」

 バロンは身振り手振り大げさに語りだす。
 その一語一句が、タケシ君の感情を逆なでするようだった。
 普段のタケシ君だったら問題なかったはずだ。
 どうやらタケシ君は飲み込まれてしまったようで、精細さを欠いていた。
 
 アサシン系からの容赦のない攻撃を、ひたすら回避し続ける状況。
 タケシ君は隙あらば、バロンに一撃入れてやろうと、常に視界に入れているようだった。
 だけど、いざ攻撃を仕掛けようとしたとき、必ず邪魔されてしまう。
 確実に狙ってやってるように見えた。
 そのせいかさらにいら立っているように見えた。
 
 俺は1つ息を吐いて、気合を入れなおした。
 これ以上はタケシ君の成長に繋がらないだろうからね。
 終わらせよう。
 
 ふとバロンを見ると、一瞬その表情を曇らせていた。
 俺の考えが読まれているのか?
 それにしても、なかなかの役者だったな。
 今もその表情を悟らせないように、またもオーバーに演技をして見せた。
 どこまでもタケシ君を標的にするということだろうか。

「それじゃあ、これで終わりにしよう。」

 誰も聞いていないだろうな。
 俺のつぶやきなんて……

——————
 
 バロンは一瞬何があったか分からないようだった。
 今まで目の前の【探索者】を視界に入れていたが、意識だけはもう一人の【探索者】に向けていた。
 一番危険な相手だからだ。
 ほんの一瞬、意識を離したすきの事だった。
 意識をその人物に戻したが驚くべき状況に変わっていた。
 
 そこには誰もいなかったのだ……

 突如として起こった不可解な状況に、バロンは慌てふためいた。
 周囲を確認するも、ケントの姿を見付ける事は出来なかったのだ。

 その間にも次々と倒される包囲していたゴブリンたち……
 倒されると同時に姿を現し、その手には1対の短刀が握りしめられていた。
 だが次の瞬間にはまた姿を消していた。
 何が何だか分からないうちに、バロンの手駒はすり潰されていったのだ。

 多田野に対する攻撃の数も徐々に減りだした。
 バロンが慌てた事もあり、多田野は冷静さを取り戻していった。

——————

「いっちょ上がりっと。これですっきりしたでしょ。」
 
 その数分後、俺が姿を現すと、周囲にはドサリと倒れ落ちたアサシンが転がっていた。
 俺は手にした剣の切っ先を、バロンに向ける。
 バロンは意味が分からないと言いたげに狼狽えていた。
 
 バロンはあまりの出来事に、何も出来なかった。
 すでにその表情に余裕など在りはしなかった。

「タケシ君。今回の事は要反省だな。」
「はい……」

 完全に冷静さを取り戻したタケシ君はうなだれていた。
 せっかくタケシ君自身も索敵系・ハイド系のスキルを習得していたのに、最初の出来事に気を取られ過ぎて、敵の罠にまんまと嵌まってしまったからだ。
 そしてその後リカバリーすら出来ずに、相手の術中にどっぷりと嵌まってしまった。
 俺でもさすがにショックを受ける状況。

「き、貴様!!よくも私の可愛い部下を!!えぇ~い。こうなれば直々にこの私が引導を渡してやろうではないか!!」

 バロンがスラリと抜いた剣は見た目はとても見事なものだった。
 剣自体の装飾に、鞘の作り、そして何よりも見た目重視の低性能なお粗末な剣に見えた。

 だが威勢よく構えたバロンの剣の切っ先は細かく震えていた。
 全身の緊張が切っ先に伝わってきていた。
 バロンは掛け声一つ駆け出してきた。
 どかどか・バタバタと走る姿は、どこぞの小説内のやられ役の貴族のようだった。

「これが避けられるか!!必殺ボルケーノスラッシュ!!」

 俺はその良く分からない言葉を発しながら走りくるバロンに目を向ける。
 バロンは振りかぶった剣を、技名と共に振り下ろす。
 何と言う事の無い、特筆すべき事すら見当たらないただの振り下ろしだ。
 だけど、そこに違和感を覚えた。
 バロンが一瞬ニヤリとした表情を浮かべたからだ。

 振り下ろされた剣は地面に付くや否や、ゴオッ!!っという音と共にいきなり地面から炎が噴き出した。
 
「だと思ったよ。」

 俺は周囲に結界を張り巡らし、その攻撃を無効化した。
 バロンはその状況に、驚きを隠せなかったようだ。
 剣を振り下ろした時にはニヤニヤと笑みを浮かべていたのだから。

 俺は、動きが止まったバロンの首目掛けて剣を振りぬいた。

 斬撃の勢いそのまま何度もバウンドし、ゴロゴロと床を転がるバロンの首はいまだに信じられないという表情を浮かべて、絶命していた。

 俺は周辺の索敵で問題無いことを把握し残身を解いた。
 これにて戦闘終了。



「ケントさん、すみません。おれ……」
「今回は俺にも問題があったから反省は簡単にしようか。まずは第21層がしょっぱなからモンスターハウスとは聞いていなかったな。」

 タケシ君も、それについて疑問に思っていたようだった。
 タケシ君が目を通した資料は、国が厳重に管理しているものだ。
 民間に出回っている情報とは精度が違う。
 その資料にすら載っていないということは、またもや【イレギュラー】ダンジョンなのかと疑ってしまいそうになった。

「まさかと思いますが、ダンジョンの変更とかですかね?」
「それもあるけど……」

 タケシ君の質問はもっともだと思う。
 ダンジョンが資料通りでは無い時は、決まって再編がなされた後だから。
 なんとなくの違和感でしかないから、確証が無い。
 これ以上話し合っても仕方がないので第22層へ降りる階段を探し出そうと動いた時だった。

 どこかでパリンっと何かがひび割れる音が聞こえてきた。
 その音の出処は一か所かと思ったが、徐々に範囲を広げていった。

 パリンパリンとなおも響く何かが割れる音。
 
 やっぱりそうか……
 
「タケシ君。これから起こるであろう事象に気をしっかり持って。」

 タケシ君は「え?」っという表情を浮かべたが、それがすぐ別な顔に変わっていた。

「うわぁ~~~~~~!!」

 唐突にタケシ君の足元がひび割れた。
 そしてパリンと割れ、はじけるような音が聞こえた。
 下に目をやると先が見えないほど真っ暗闇になっていて、タケシ君は慌てて近場のものを掴んだようだった。

「おち、おち、おち~~~~~~~~~~~ない?」

 いきなり足元がひび割れ、崩れ落ちたように見えた事から地面が無くなったと錯覚していたタケシ君は慌てふためくが、普通に真っ黒な地面がそこにあるだけだった。
 タケシ君はしゃがみこんでぺたぺたと触って感触を確かめていた。
 
「これは一体……」
「うん、黒い地面だね。」

 俺はタケシ君のつぶやきに笑いをこらえることが出来なかった。

 種を明かせば至極単純なことだった。
 ここはバロンによって作り出された【領域結界】内の幻影空間だったのだ。
 つまり、先ほどまで見ていた光景はすべて幻影だったのだ。
 バロンによる大規模な幻影空間に、最初の一瞬で飲み込まれていたのが事の真相だった。
 俺は最初のパリンと割れる音と共に、空気の流れが変わったことを感じ取っていた。
 そしてパリンパリンと割れる音が、自身がいつも使う【結界】の砕ける音にそっくりだったのだ。
 その二つを鑑みてれば、おのずと答えにたどり着けた。
 そして砕け散ったあと辺り一面が真っ黒な理由は、その幻影に他のものが映り込まないようにする一種の暗幕の役割をはたしていた様だった。

「今回はいい勉強になったね。特にタケシ君の怒り耐性の無さがかなり尾を引いてしまった感じだね。」

 俺の総括に返す言葉の無いタケシ君。
 これは間違いなく最初の一手を間違えたことが原因であった。
 そして、このバロンは対策さえ分かっていれば問題無く倒せるくらいの強さしか持ち合わせていなかった。

「あ、ケントさんあれ……」

 タケシ君の指し示す方に、一本の剣が地面に突き刺さっていた。
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