最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓

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第5章 首都圏解放戦線

093 憤怒は突然に

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 地面に突き刺さっている剣は、よく見ると先程バロンが使っていた剣に酷似していた。
 前回の件もあるので、念には念を入れて、触れる前に【鑑定】をかけてみた。

——————

魔法剣【烈火】擬き:魔法剣【烈火】の贋作。任意に魔法剣を発動させられるが、本物には遠く及ばない。リチャージ12時間。

——————

 どうやらこれは偽物のようで、本物はもっと凄い威力だったんだろうなと思えた。
 だけど、ある意味で助かったともいえた。
 もしこれが本物だった場合、俺は自分を守ることが出来ただろうか……
 おそらく【隔絶】を使えば問題はなかったと思うけど、こんなところで苦戦していては先が思いやられる。

「あとは魔石(大)がありました。」

 タケシ君は魔石(大)を見て目が輝いていた。
 早くも魔道具を作りたくて仕方がないようだった。

「で、今度は何を作る気なんだ?魔石(大)で作るのだから、それなりに凄い物になるんだろ?」
「それほどでもないですよ。今回の件を終えて感じたのは、自分の周囲に自動で【結界】を展開出来たら便利だなって。ずっとケントさんが【結界】を張り続けてくれたおかげで、俺はこうして生きているんです。なので、自動結界展開装置なんてあれば便利だなと。」

 タケシ君はそう言うと若干トリップしかけていた。
 まさかここでも病気が発送するとは……
 おそらく、すでにどんなものを創るか決めていたのだと思う。
 俺自身は緊急に魔石を必要としていなかったので、タケシ君に使用の許可を出した。
 魔石(大)を掲げうっとりとしているタケシ君。
 きっと面白い物を作ってくれるんだろうと、若干期待してしまった俺が居た。

 フロアボスを無事撃破した俺たちは、周辺の探索を行ってみたが特にこれといったことは無なかった。
 モンスターも姿を現さなかったことから、フロアボス討伐の恩恵がこれなんだろうね。
 それからさほど時間をかけずに第22層への階段を発見した。

「意外とあっさり……ってわけではないけど、苦労はしなかったね。」
「ですね。では行きましょうか第22層へ」

 俺たちはこの後も順調に攻略を進めていった。
 第22層から第29層までこれといった変化は無く、エリート系武器種のゴブリンが大量に出現した。
 戦闘についてもあまり大差は無く、多少賢くなったのか連携が上手くなったようには感じていた。
 しかし、それでも今の俺たちに勝てるかと言えば、土台無理な話であった。
 俺たちは危なげなく襲い来るゴブリンたちを、次から次へと処理していった。
 そのおかげか順調にレベルも上がり、ついにあと少しで90レベルも見えてくるところまで来ていた。

 そしてついに、目の前には第30層……ボス部屋である。
 重厚感あふれるその大きな扉は、いかにもという雰囲気を醸し出す。
 俺たちが今いる場所は、現段階では前人未到のフロアだ。
 どんなボスが出るのか……誰も経験のない場所でもあった。
 おそらくゴブリン種で間違いはないだろうが、それでも二人は緊張を隠せずにいた。

「ケントさん……行きましょうか。」
「ここにとどまっていても仕方がないからね。」

 俺たちは覚悟を決め、その重厚感あふれる両開きの扉を押し開けた。

 俺たちが部屋に入るなり、ボス部屋の照明が徐々にその明るさを増していく。
 中央には1匹のゴブリン……
 その背には見慣れないものが見えた。
 翼だ……
 鳥の羽とは違い、どちらかというと蝙蝠……を連想させる、そんな羽の形をしていた。

 その羽根つきのゴブリンは台座の上にとまり、羽を体に巻き付けている。
 その眼は閉じられており、休んでいるのかと思わせる雰囲気だった。

 俺たちは一歩……また一歩と警戒をしながら近づいている。
 その手にはすぐに武器が取り出せるように構えをしている。
 すると不意にその羽の生えたゴブリンから声をかけられた。

『なるほどな、バロンが落ちたか……まあ、仕方がなかろう。』

 一瞬声をかけられたと思ったが、微妙な違和感が残った。
 耳で聞いたというよりも、直接頭に叩き込まれる感じに近いかもしれない。
 タケシ君が耳を塞いでみたようだったけど、それでも聞こえてくるあたりあながち間違ってはいないようだった。
 おそらくテレパシーに類するスキルだろうな。

『なるほど……どうやら貴様らは強者のようだな……。吾にとって不足無き相手よ。』

 尊大な態度で話を続けるモンスターを警戒し続けるタケシ君。
 だけど、何かがおかしかった。
 このモンスターは何が目的なんだ?
 戦いたいなら襲ってくればいい。
 殺したいなら襲ってくればいい。
 だが、このモンスターはそれをしようとはしなかった。
 だから俺は、むしろもう一つの事象について考えていた。
 〝彼らはいったい何者なのか〟と……

 バロンといいこのモンスターといい、明らかに〝ただのモンスター〟ではなかった。
 その頭で思考し、言葉を理解し、コミュニケーションをとることが可能だ。
 それは人間と何が違うということなのだろうかと。

「お前はいったい何者だ?」

 俺は考えても仕方がないと思い、直接このモンスターに問うことにした。
 問うても意味があるのかと思えたが、下手な考え休むに似たり……。
 無駄な時間を過ごすよりもマシだと考えていた。

『ふむ、何者……とな……。貴様らとて何者だと問われ、すぐに答えられるか?出来なかろうて。吾は吾。貴様らがゴブリンと呼ぶ生物よ。なぁ、人種と呼ばれる生物よ。』

 なるほどね……くそったれな自称神め!!
 このモンスターもまた、【一つの生物】でだってことか。
 あの自称神が言っていた【生物の進化】の先にいる生物。

 タケシ君は、このやり取りで何があったのか、あまり理解できていないようだった。
 頷いてはいるようだったけど、それは話の腰を折らないようにするためだと思う。
 タケシ君からすれば、目の前の敵が何であろうと変わりはしなかった。
 〝外敵は排除する〟
 前にタケシ君が話してくれたことだ。
 あまり表に出てないことらしいけど、自衛官として最初に教わるのは〝国を守る楯〟だということらしい。
 その為に鍛える。
 だからこそ〝外敵は排除する〟に行きつくようだった。
 
 しかし、今俺が行っている行動は、明らかにそれとは矛盾していた。
 むしろ積極的に対話をしようとしていたのだから。
 困惑の色を隠せずにいたタケシ君に対し、モンスターはさらに言葉を紡ぐ。

『そこの若造はどうやら分かっておらぬな。己の尺度でしか語れぬものに何が判断できると。』
「何だと!!」
「やめるんだタケシ君!!」
「でも!!」

 モンスターの言葉に激怒し、今にも襲い掛かろうとしたタケシ君を静止する。
 冷静になるようにと、タケシ君に声をかけた。
 一応は攻撃を止めてくれたけど、その眼は全く納得はしていないようだった。
 その両手には既に魔法銃が握られており、いつでも戦闘を開始出来ると言わんばかりの態度だった。

『ふむ、やはり若いな。この程度の挑発にかかるとは命がいくつあっても足りなかろうて。そこのお主は……、なるほどなるほど。吾らが主神もなかなか粋な事をなさる。よもや人種に【神の権能】をお与えになるとは……。これもまた吾らに対する試練と言えんでもないか。』

 おそらくこのモンスターは、何かを知っている。
 俺たち人間には知らされていない、自称神の秘密とでも言うべき事を。

「さっきからごちゃごちゃごちゃごちゃ訳の分かんねぇ~事言ってんじゃねぇ~よ!!」

 堪えきれなくなったタケシ君は、ついに攻撃を開始しようとした。
 一気にスキルを発動させ、周囲にはガトリング砲が6門空中に浮いている。
 その射線上にはもちろんモンスターを捉えて。

「お前たちモンスターに、俺の家族は殺された!!俺はお前たちを許すわけねぇ~だろ!!」

 それはタケシ君の本気の叫びだった。
 俺も聞かされていない、タケシ君の慟哭。
 その眼は憎き相手を前にした復讐者そのものだった。
 そしてその眼に俺は見覚えがあった。
 そう、スキル【憤怒】だ。

 ケントは慌ててモンスターに強硬度な【結界】と中心部に【隔絶】を張り巡らす。
 その一瞬の判断のおかげで、タケシ君の放った数千にも及ぶ弾丸がモンスターに届くことは無かった。

「ケントさん!!何してるんですか!!相手はモンスター……俺たちの敵だ!!」

 その眼は血走っており、今にも俺にその銃口を向けるのではないかと思われるほど、怒りに満ちていた。

「【鑑定】!!」

 俺は冷静さを失ったタケシ君にスキルを発動させる。
 そしてそこに映し出されたステータスには、見事にスキル【憤怒】が発生していた。
 このままではスキルに飲み込まれるのは時間の問題だと考えたケントは、問答無用で【スキルコンバート】を発動させた。
 時間が無かった為か、選んだスキルは【精神力強化】だった。
 しかも【スキルコンバート】した際に交換レートが違ったために、【精神力強化】のレベルが爆上がりしたのは幸運だった。

「あれ?なんで俺こんなにイラついてたんだ?」
「落ち着いたみたいだな。」

 【スキルコンバート】によって【憤怒】の影響から抜け出したタケシ君は落ち着きを取り戻していた。
 先程までと打って変わって、冷静に状況判断を出来るまでに回復したのだった。
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