最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓

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第5章 首都圏解放戦線

097 裏切りと信頼と……

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「やった……。やってやった……。はは……。ははは……。母は八ハハハハハはあハハッは!!」

 多田野の顔は狂気に染まっていた。
 極限の状況で多田野が選択したのは……

 ケントへの銃撃だった。

 血だまりの中で、かすかに動くケントを見つめるタクマ。
 その表情は、何かつまらない物でも見ているかのようだった。
 せっかくのおもちゃを、遊んでいる途中で取り上げられた子供のように見えた。

『ふむ、さすがにこれは予想もしておらんかったな。まさかここにきて仲間割れとは……何ともくだらない……。』

 多田野は、自分の起こした行動に酔いしれていた。
 ずっとずっと心の中で燻っていた、ケントへの反抗心。
 いくら護衛の任務とはいえ、自分の上を常に行くケントが目障りに思えてきていた。
 ここ最近は魔道具の補助もあり、その力を急速に伸ばしていた。
 そのためケントは、何度も多田野に対して忠告をしていた。
 〝力に飲み込まれるな〟と。
 しかし多田野は、その言葉を最後まで聞き入れることは無かった。
 そのために起こった必然……と言えばそうなのかもしれない。

『くだらないとは思わないか……、なぁ狂人よ?』

 多田野の耳に聞こえる、突然のタクマの声。
 その声は多田野の耳のすぐ傍で聞こえた。
 多田野は全く気が付く事が出来なかった。
 探知系のスキルだって所持している。
 それなのに全く反応しなかったのだ。
 動揺した多田野は状況をうまく把握出来なかった。

 そして次の瞬間には、多田野の首元に赤黒く光る刃物が押し付けられていた。

『よくもまぁ邪魔をしてくれたものだ……せっかくの試練が台無しになったではないか。』

 赤黒く光る刃物は、タクマが作り出した血の剣だ。
 その切っ先は、ぷすりと多田野の首にわずかに刺さる。
 首筋からたらりと垂れた血が、多田野の装備品を赤く染める。

「なんで……なんでなんだよ!!」

 多田野は半分発狂しそうになる。
 せっかくケントを倒したのに。
 目障りな存在を倒したのに、自分の気は全く晴れず、しかも命の危機に瀕していた。
 多田野が思い描いていた状況にならなかったのだ。

『なんでとな?それは貴様が下らん存在である証明ではないか。それもわからんようでは、端から吾の敵ではないという事ぞ。』

 タクマの目に映るは路傍の石か……多田野に向ける視線もまた同じだった。

『さてそろそろ終わりとしようぞ。せっかくの遊戯が穢され興覚めだ。』

 そう言うと、タクマはさらに力を強める。

 自身の首に食い込んでいく血の剣を感触を感じ、命の終わりを強制的に理解させられた多田野は激しく抵抗を試みる。
 しかし、体が全くいう事を聞かない。
 動かそうとしても全く動かないのだ。

『ほんに、意思なき者にはよう効く。彼の者には全く効かなかったのにな。』

 彼の者……それは先程までタクマと死闘を繰り広げたケントの事だろう。
 多田野はどうしてこうなったか考える。
 しかし、答えなど見つかるはずは無かった。
 傲慢な考えに支配された多田野に、分かるはずは無かったのだ。

 そんな中ふと多田野は顔を上げ、最後にケントの亡骸をその眼に焼き付けようとした。
 冥途の土産にでも持っていこうと考えていたのだ。
 しかしその時、おかしな事が起こっていた。
 そこに有るべき物が無いのだ。

 そう、ケントの遺体はそこになかったのだ。
 さらに混乱する多田野。
 何が起こったのか全く分からなかった。

「ケントさん!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで?!なんでいないんだよ!!」

 その言葉に反応したのは、誰でもないタクマだった。
 タクマも、先程までケントが横たわっていた場所に目をやる。
 確かにそこには、人が流したであろう大きな血だまりが出来ていた。
 人間がそれほどまでの血を流したのだ、生きているはずなどない。
 だが現にこうして遺体が見当たらない。
 いったいどうして。

 そしてその違和感に気が付いたタクマは、捕まえていた多田野を放し後方へと思いっきり飛び退いた。
 
ざくり!!

 地面に二本の剣が突き刺さる。
 ケントの武器魔剣【レガルド】だ。

—————— 

「惜しい!!」

 あと少しで仕留められたと思ったんだけどなぁ。
 何やらタケシ君は驚きを隠せないようだった。
 まあ、そりゃそうだろうね。

『おぬしは……』
 
 タクマも驚いた表情をしていた。
 腕一本でよくあの攻撃をかわしたもんだよ。
 タクマの左腕は、根元から俺の攻撃で吹き飛んでいた。

「それにしても酷い事するねタケシ君。あれほど飲まれるなって忠告したのにな。それとタクマはほんと凄い。よくあれを躱して見せたよ。」

 俺は何事もなかったかのように、タケシ君たちの前に立って見せた。
 突き刺さった二本の【レガルド】を地面から抜き取り、改めてタクマに切っ先を向ける。
 二人はお化けでも見たのかというほど目を見開いていた。
 そりゃ驚かれて当然だろうね。
 何せ心臓をタケシ君によって撃ち抜かれたんだから。

 さすがにあの痛さは二度と勘弁願いたい。
 痛いとかそういった次元じゃなかった。
 自分の血でできた血だまりが熱く感じて、その逆に自分の身体が冷えてくんだからさ。
 あぁ……これが死ぬってことか……と、まじめに感じてしまったよ。

「タクマ、少し待っててくれるかい?この後続きをしよう。それとタケシ君。君とはこれでサヨナラになるね。これもちゃんと教えておいたはずだったんだけどな……」

 いったんタクマにそう断り、タケシ君に俺は向き直る。
 
 あれ?なんか固まってるな……いまだ戦闘中だって言うのに思考停止させてるし。
 仕方がないと言えば仕方がないんだけどさ。
 
「確かに俺は一度死んだよ。だから君のスキル……消えてるんじゃない?」

 タケシ君は慌てて虚空を操作し始めた。
 そして俺が伝えた意味を理解したのか、またも固まってしまった。
 
「な、な、な……」

 その眼にした結果に狼狽えているタケシ君。
 まあ、俺が同じ立場だったとしたら、同じリアクションになるだろうね。
 普通、考えればわかる結果だろうに……
 
「はっきり言ってしまえば、【スキルクリエイター】は仲間との信頼で成り立つんだ。その信頼が崩れた今、そのスキルがまともに機能すると思うかい?そしてそのスキルを得るために君は何をしたんだい?人としてあり得ない事を行っていた自覚はあるかな?」

 俺の言葉でやっと現状を理解したみたいだった。
 うん、やっぱりこうなるよね……
 
「あ、ああ。あぁ……。」

 タケシ君は地面に膝をつき項垂れる。
 そしてついに異変がタケシ君を襲い始めた。

「ぐわぇ~~~!!」

 おそらく全身に痛みが襲ってきているんだろうね。
 体中を抑えつけながら、のたうち回っているんだもの。

「いやだ……いやだ……死にたくない!!死にたくない!!なんで!?なんでなんだ!?なんで俺が死ななきゃならないんだ!?なんで!!」

 荒げた声で叫び続けるタケシ君。
 俺を睨みつけたとて何も変わらない……君の結末は決まってしまったんだから。

「俺にも分からないよ。君がきちんと自分と見つめ合っていれば、こうはならなかったのにね。だから……」

 俺はそっとタケシ君の頭をなでる。
 これまでも感謝を込めて。
 ここまで共に戦えてよかったと思っている。
 
「【レベルドレイン】」

 だけどこれ以上はタケシ君のためにならない。
 この苦しみを取り除くことは、俺には出来ないから。
 
「いやだ……いやだ……いやだ……」
「タケシ君……君の事は忘れないよ。だから……サヨナラだ。」

 そしてタケシ君のすべてが、俺の中に吸い込まれていく。
 タケシ君がいたであろう場所には、愛用の魔導具だけが転がっていた。

 オルトロス……
 煉獄……
 イージス……

 俺はそのすべてを拾い上げ、インベントリにしまい込んだ。
 さすがにそのままにはしておけないからね。

『何とも不憫な男よな。』

 それを最後まで見届けたタクマの言葉が、その全てを物語っていた。
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