最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓

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第5章 首都圏解放戦線

106 目指す先に有るもの

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「ケントさん……それって……」

 佐藤さんが困惑気味に訪ねてきたが、まぁ当然の反応と言える。
 ついさっきまで命を狙われていたのに、いきなり大丈夫ですと言われても「はいそうですか」と、すぐに信じられるわけはないしね。

「取り敢えず馬場については片を付けてきた。これからは馬場から襲われることは無いよ。」

 察しの良い佐藤さんは、俺の言葉の裏側にあるものに気が付いたみたいだ。
 なんとも言えない表情を浮かべていた。
 悲しみとも憐れみとも言えない……確かに暴君だったとは言え、知人の命が消え去ったのだから思うところはあるはずだ。

「これで、救われた人間もいたはずです。ありがとうございます。」

 佐藤さんは深く俺に向かって頭を下げた。
 それがどんな思いからなのか俺には分からない。
 ただ、ほんの少しだけ心が軽くなったのは確かだった。
 俺としては、今後の憂いを払う意味でも、倒しておくべき相手だった。
 あくまでも〝俺の敵〟として殺したに過ぎないのだから。

「お礼を言われることではないよ。」
「それでもです。」

 ニコリと笑顔を作る佐藤さんを見て、俺は少しだけ救われた気がした。
 人殺しは人殺し。
 それは紛れもない事実だから。
 
 俺は自分自身でも……そして、タケシ君やタクマに命じてそれなりの人数を殺してきた。
 それについて後悔したこともあったが、大概は何も感じなかった。
 ほとんどが、モンスターを倒すのと同じ感覚でしかなかったから。

『主よ……、気にするでない。【神の権能】を得た時点で仕方が無い事なのだからな。そして主は吾を取り込んだ。つまりは二つ目の【神の権能】をその身に宿したのだ。人ならざる者になるもの仕方があるまいて。』
「わかってる。」

 タクマから引き継いだ【神の権能】は【不動不屈】。
 何事にも揺るがず、何事にも屈せず、己を貫く精神。
 その奥に秘めるは、己の精神構造への干渉であった。
 俺自身の【神の権能】は【情報改編】。
 物質に対する情報構造への干渉。
 二つを手にしたことで、俺自身を作り替える形となってしまった。
 そしてタクマを取り込んだ際に俺は完全に人を……人種であることに終わりを告げた。

——————

基本情報

 氏名  :中村なかむら 剣斗けんと
 年齢  :36歳
 職業  :探索者B
 称号  :神へと至る者
 種族  :亜神

——————

「取り敢えず職業が探索者って事は、まだこの世界の住人だってのは間違いないみたいだしね。まあ、これが無くなったら俺は人ではないって事なんだろうな。」

 なんて会話をタクマとしていたら、慌てた様子でタケシ君から通信が入った。
 
『ケントさん!!自衛隊の一部がそっちに向かってます!!おそらく加賀谷の手の物だと思います!!』
「ちっ!!手回しが早すぎるな!!ごめん、俺はこれで失礼するよ。あそこのテント使っていいから回収しておいて!!じゃ!!」

 俺は佐藤さんにそう告げると、周囲の視線も気にすることなくその場から宙に飛び上がった。

「【結界】!!」
 
 すぐさま向かう方向に【結界】による足場が形成され、全力で空を駆けていった。

「ケントさん!!」

 後方で聞こえる佐藤さんの声に気が付いたけど、その足を止める事は無かった。
 さらにその速度を上げ俺はその場を去ったのだった。

 残されたのは、パリンパリンと崩れ行く【結界】の残滓の美しい煌めきだけであった。

—————— 

 ケントが去ったあと、佐藤は自衛官からいろいろと事情聴取を受けたが、ケントについては一切語ろうとはしなかった。
 【ボルテージ】のメンバー含め、周囲の探索者たちの自衛隊に対する視線が疑わしい物を見るものに変わっていく。
 そのことに気が付いた自衛官は、取り調べを終えると、そそくさと逃げ帰る様に去っていったのだった。

 佐藤はケントの去っていった方角を見上げ、そして改めて頭を下げたのだった。

——————
 
『で、ケントさん。これからどうしますか?』

 俺がタケシ君に【送還 】を行い合流してから、3日が経過していた。
 第29駐留部隊駐屯地からは大分離れており、おそらく追手を巻く事には成功したようだ。
 そして今は身を隠すため、モンスターの襲撃で廃墟と化しているビル群の屋上に陣取っている。
 廃墟と言ってもその頑強さは相変わらずで、こうして拠点として利用可能な状況なんだけどね。
 どうやらここも解放区だったみたいで、モンスターの襲撃を気にしなくて良いのはかなり助かった。

「どうするもこうするも……この第29駐留部隊駐屯地がどれだけ加賀谷……【魔王】軍の指揮下にあるか分からない以上、迂闊にダンジョンにも近づけないよな。」
『何とも面倒なことよな。神もまた面倒な試練をお与えになったものだ。まあ、だからこそ乗越え甲斐があるというものだかの。』

 タクマは豪快に笑っていたが、俺は少し頭を抱えていた。
 どう動こうにも、ダンジョンは自衛隊に抑えられており、これ以上の探索が難しいからだ。

『だったら神宮寺准尉を頼りませんか?そこから一ノ瀬一等陸尉へ渡りを付けるのが無難だと思います。』

 タケシ君の提案が、おそらく無難なんだけどね。
 だけどそこに加賀谷の手が伸びていないと確証が持てない。
 下手に動いて感づかれても、面倒この上なかった。
 ゴロゴロと固いコンクリートの床の上を寝転がりながらだらだらとしていたけど、なかなかいい案が出ず、その日も暮れていったのだった。

「うん、もう面倒臭いな。樹海に向かおう。」

 俺は思い立ったが吉日とばかりにおもむろに立ち上がる、と体についた埃を叩き落とした。
 おそらく加賀谷の部隊のと思われる集団から襲撃を受けかけてから、おおよそ1週間が経過していた。
 ここでグジグジしてても仕方ないしね。
 むしろ食料が心もとない……

『樹海ですか?もしかして……』
「あぁ、もう考えるのが面倒くさくなってきた。どうせ俺は人間じゃないんだ。だったら思うようにやらせてもらおうかなって。」

 俺が開き直りともとれる結論に達したことを話すと、それを聞いていたタクマが何か震えだした。
 
『くははははっ!!ようやく決心がついたようだの。ようこそというべきかの?』
「いらん!!」

 うっさい、俺は人間だ!!
 だよね?
 ヤバイちょっと自信が無くなってきた……
 
 周辺警戒に当たっていたタケシ君は、飛ばしていた【煉獄】を戻すと、すぐに収納し出発の準備を始める。
 俺も片付け……と言ってもテントも何もないんだが、散らかしたままにするのも気が引けたので、軽く掃除をした。
 『律儀だのぉ。』とタクマが呟いていたが、俺はそれを無視するように作業を進めていた。

「まあ、移動中にコミュニティー見つけたら食料調達したりすればいいでしょ。それに野良ダンジョン見つけたらそのまま攻略してもいいだろうし。なんとなくだけど、縛られないだけ気が楽かもしれないな。」

 さっきまでのモヤモヤがウソみたいに晴れていくのを感じていた。

 周囲の片付けも終わると、俺は少ない荷物を全てインベントリに収納する。
 そしてスマホの地図アプリを起動させ、行き先を再度確認してた。
 ふと思ったけど、このスマホから位置情報割り出されたりしないよね?
 まぁ、考えても仕方がないか……

「まずは目指すは富士の珠海ダンジョン……の手前の日本最大拠点の最前線基地【富士急ハイランド跡地】だ。」

 俺は西南西の方角を指さした。
 東京都心を抜けた先にある、日本における最前線基地と言って過言ではない場所だ。
 ただし、いまだ東京都の中心部はダンジョンが多数存在し、突っ切っていくことは不可能であった。
 今回のルートは埼玉県を経由して山梨県に入る事になる。
 恐らく移動に1か月近くかかることになるが、まあ何とかなるでしょ。
 旅行の代わりじゃないけど、修行かねて野良ダンジョン漁りでもしましょうかね。

「カイリ……、カレン、アスカ、谷浦、虹花さん。待っててくださいね……」

 その視線の先にある最難関ダンジョンを目指し、俺たちの最後の旅が始まろうとしていた。

——————

 はい、これで第2部が終了となります。
 世界が様変わりし、日常が非日常になったあの日から、ケントの旅が始まりました。
 そして第3部……ついにケントの旅が終わりを迎えます。
 それがどんな形で終わるのか……楽しんでいただければ幸いです

 これからも「ワクワク・ドキドキ・ちょっぴりクスリ」をお届けしてまいります

 では、第3部でお会いできるのを楽しみにしております。
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