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はぁ、可愛らしい。
ふと、足を止めて私の眺める先には淑女の皆様がクルクルと校庭でダンスの練習をしている姿だ。
きっともうすぐデビュタントなのだろう。可愛い女の子同士が踊る姿は目に入れてもきっと痛くない。
この世の楽園が彼処に有る。
コソコソ
『なぁ、藍色の氷姫が居るぞ。』
『本当だ。男はあの瞳に映ると氷にされてしまうらしいぞ。あぁ、怖い。』
『身分は高いがあんな女は御免だな。王太子妃になってくれて有難いよ。』
毎日、毎日よく飽きもしない物だ。
折角可愛らしい物を見たのに、気分が台無しである。
不敬と取られても良いくらいだが、彼等は聞こえていると思っていないのか?
コソコソと噂話に盛り上がるのは、男性も一緒なのだなとつくづく思う。
まぁ、本当に授業で先生を氷漬けにしてしまったのだからこの様な噂も仕様が無いが。
だって、本気でやれって言われたのだ。
コツコツと靴を鳴らして学園の廊下を歩き出し、構っている暇等無いと何時もの噂を聞き流す。
あぁ、今はスカートがとても鬱陶しい。
私は、ルルーシュア=メライーブス。
趣味は人間(淑女)観察。
毛先に行くに連れて濃くなる水色の髪、そして藍色の切れ長の目の所為でどうやら冷たく見えるらしく、男性からはすこぶる評判が悪い。
男勝りなこの性格と口調も相まって、あんな風に言われたい放題である。
女は愛嬌。なんて誰が言ったのだろうか。私には皆無だし、私はどんな女性でも愛せる自信が有るけれども。
それに、私には噂を聞いている時間も無い。
それもこれも、私が侯爵の娘で第一王子…、つまり王太子の婚約者で有り、未来の王妃だからだ。
学園で勉強の後、王妃教育として王城に直行している。
このカダール王国は恋愛結婚も認められている。平民と結婚も有り得ない話しでは無い。
平民が貴族の暮らしを覚えたり、貴族が平民の暮らしが出来るとは限らないので無いに等しいのだが。
とはいえ、王子の婚約者は幼少期に公爵家、侯爵家の中からだいたい決められる。時折、違う国の姫を娶る事もある様だが家格が合えば良い。
私はそんな中で選ばれてしまった。
公爵家にも御令嬢が居る家は有ったが、王子よりも幾つか年上だった為に侯爵家の私に白羽の矢が立った。私も一つ年上なのだがな。
王妃教育は本当に辛い。だが、教養が無ければ民を守る事は出来ない。
国母とはそういうものだ。と、半ば諦めている。
王太子とは幼少期より会っていない。何故なら完全に避けられているからだ。
顔を合わす機会なんて多々有る筈なのに、一目見る事も無い。年齢は一つ下だが、彼は優秀過ぎるが故に卒業課程が終わっている為、実質同じ学年と言っても良いのに。まぁ、王太子なので公務等で学園を空ける事も多いのだろうが。
小さい頃は良く遊んでいたが、ある日を境に全く会えなくなった。特に何が起きた訳でも無い、と思う。
だが、いつも季節の変わり目に手紙が届く。私達はそのやり取りだけの関係だ。まだ婚約者である事が不思議で仕様がない。
私はもう、顔すら覚えていないのに。
「遅れそうだな……。今日は近道をしよう。」
学園と王城はとても近い。ほぼ隣接していると言っても過言ではない。
大回りをしないといけないのが難点で、学園裏の雑木林を越えれば直ぐに着ける。
こういう時制服で良かったなと思う。ドレスだと確実に土埃だらけになってしまうだろうから。
前提として淑女としては駄目なのだが、致し方ない。
門番も良くある事なので見逃してくれている。ちゃんと仲良くなっておいて正解だった。
早く雑木林を抜けよう。そう思いながら、足早に歩いていたのが悪いのか。
少し開けた場所に出てくると、木の根元に人の脚が生えていた。
「!」
変な避け方をしてしまい、身体の軸を見失ってしまう。
転けてしまう!と身構えたが、身体をふんわりと何かが包み込んだ。
恐る恐る目を開けると、木の枝が伸びていて私を包み込んでいたのだ。
「大丈夫?」
木の枝はまるで生きているかのように元の姿にシュルシュル音を立てて戻っていき、私を優しく立たせてくれる。木に感情が有るみたいだ。
植物を操れるのは土の上等魔法、貴族である事は間違いない。
「助けて下さり有難うございます。お怪我は有りませんか?」
「あ、………君は…。」
「?私は先程助けて頂いたので平気です。」
生えていた脚の正体は、黒髪をもっさりと目の下まで隠した青年だった。
彼は私の顔を見た途端、とても驚いた様な顔をした。髪で余り見えないから多分、だけれど。
前、見えているのか?
「そ、そうか。良かったよ、王城に用が有るの?」
「は!そうです!お怪我が無いようで安心致しました。私、急いでいるので…、これでお暇させて頂きますね。」
私は彼の身分が分からない為、通常のカーテシーをしてくるりと背を向けて走り出した。
「あ、君!…また、会える?」
「良く此処を通っていますので、此方でなら!」
何故か彼は私にまた会えるかを聞いてきた。とりあえず急がなければいけないので、適当に返して走り去る。
急がなければ、無遅刻無欠席で頑張っているのが無駄になる。
まぁ、なんだ。変な人だったな。
ふと、足を止めて私の眺める先には淑女の皆様がクルクルと校庭でダンスの練習をしている姿だ。
きっともうすぐデビュタントなのだろう。可愛い女の子同士が踊る姿は目に入れてもきっと痛くない。
この世の楽園が彼処に有る。
コソコソ
『なぁ、藍色の氷姫が居るぞ。』
『本当だ。男はあの瞳に映ると氷にされてしまうらしいぞ。あぁ、怖い。』
『身分は高いがあんな女は御免だな。王太子妃になってくれて有難いよ。』
毎日、毎日よく飽きもしない物だ。
折角可愛らしい物を見たのに、気分が台無しである。
不敬と取られても良いくらいだが、彼等は聞こえていると思っていないのか?
コソコソと噂話に盛り上がるのは、男性も一緒なのだなとつくづく思う。
まぁ、本当に授業で先生を氷漬けにしてしまったのだからこの様な噂も仕様が無いが。
だって、本気でやれって言われたのだ。
コツコツと靴を鳴らして学園の廊下を歩き出し、構っている暇等無いと何時もの噂を聞き流す。
あぁ、今はスカートがとても鬱陶しい。
私は、ルルーシュア=メライーブス。
趣味は人間(淑女)観察。
毛先に行くに連れて濃くなる水色の髪、そして藍色の切れ長の目の所為でどうやら冷たく見えるらしく、男性からはすこぶる評判が悪い。
男勝りなこの性格と口調も相まって、あんな風に言われたい放題である。
女は愛嬌。なんて誰が言ったのだろうか。私には皆無だし、私はどんな女性でも愛せる自信が有るけれども。
それに、私には噂を聞いている時間も無い。
それもこれも、私が侯爵の娘で第一王子…、つまり王太子の婚約者で有り、未来の王妃だからだ。
学園で勉強の後、王妃教育として王城に直行している。
このカダール王国は恋愛結婚も認められている。平民と結婚も有り得ない話しでは無い。
平民が貴族の暮らしを覚えたり、貴族が平民の暮らしが出来るとは限らないので無いに等しいのだが。
とはいえ、王子の婚約者は幼少期に公爵家、侯爵家の中からだいたい決められる。時折、違う国の姫を娶る事もある様だが家格が合えば良い。
私はそんな中で選ばれてしまった。
公爵家にも御令嬢が居る家は有ったが、王子よりも幾つか年上だった為に侯爵家の私に白羽の矢が立った。私も一つ年上なのだがな。
王妃教育は本当に辛い。だが、教養が無ければ民を守る事は出来ない。
国母とはそういうものだ。と、半ば諦めている。
王太子とは幼少期より会っていない。何故なら完全に避けられているからだ。
顔を合わす機会なんて多々有る筈なのに、一目見る事も無い。年齢は一つ下だが、彼は優秀過ぎるが故に卒業課程が終わっている為、実質同じ学年と言っても良いのに。まぁ、王太子なので公務等で学園を空ける事も多いのだろうが。
小さい頃は良く遊んでいたが、ある日を境に全く会えなくなった。特に何が起きた訳でも無い、と思う。
だが、いつも季節の変わり目に手紙が届く。私達はそのやり取りだけの関係だ。まだ婚約者である事が不思議で仕様がない。
私はもう、顔すら覚えていないのに。
「遅れそうだな……。今日は近道をしよう。」
学園と王城はとても近い。ほぼ隣接していると言っても過言ではない。
大回りをしないといけないのが難点で、学園裏の雑木林を越えれば直ぐに着ける。
こういう時制服で良かったなと思う。ドレスだと確実に土埃だらけになってしまうだろうから。
前提として淑女としては駄目なのだが、致し方ない。
門番も良くある事なので見逃してくれている。ちゃんと仲良くなっておいて正解だった。
早く雑木林を抜けよう。そう思いながら、足早に歩いていたのが悪いのか。
少し開けた場所に出てくると、木の根元に人の脚が生えていた。
「!」
変な避け方をしてしまい、身体の軸を見失ってしまう。
転けてしまう!と身構えたが、身体をふんわりと何かが包み込んだ。
恐る恐る目を開けると、木の枝が伸びていて私を包み込んでいたのだ。
「大丈夫?」
木の枝はまるで生きているかのように元の姿にシュルシュル音を立てて戻っていき、私を優しく立たせてくれる。木に感情が有るみたいだ。
植物を操れるのは土の上等魔法、貴族である事は間違いない。
「助けて下さり有難うございます。お怪我は有りませんか?」
「あ、………君は…。」
「?私は先程助けて頂いたので平気です。」
生えていた脚の正体は、黒髪をもっさりと目の下まで隠した青年だった。
彼は私の顔を見た途端、とても驚いた様な顔をした。髪で余り見えないから多分、だけれど。
前、見えているのか?
「そ、そうか。良かったよ、王城に用が有るの?」
「は!そうです!お怪我が無いようで安心致しました。私、急いでいるので…、これでお暇させて頂きますね。」
私は彼の身分が分からない為、通常のカーテシーをしてくるりと背を向けて走り出した。
「あ、君!…また、会える?」
「良く此処を通っていますので、此方でなら!」
何故か彼は私にまた会えるかを聞いてきた。とりあえず急がなければいけないので、適当に返して走り去る。
急がなければ、無遅刻無欠席で頑張っているのが無駄になる。
まぁ、なんだ。変な人だったな。
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