【完】天使な淫魔は勇者に愛を教わる。

輝石玲

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歪な物語の始まり

12.痛恨のミス

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 ーーーーーミカーーーーー

 真綿に包まれたようだ、と形容すべきだと感じる。
 温もりに包まれ柔らかな風が頬を撫で、仄かに甘い香りが鼻を擽る。このまま眠り続けたい……。しかしそんな訳にもいかないだろう。
 まだ 朧気おぼろげながらも少しずつ周りの状況を理解していく……ん?

 前言撤回、これはどういう状況!?

 えっと確か、イオリが『素面だと恥ずかしい』って言って一緒にワインを飲んで話を聞いて………。途中から記憶が無いけど、なんでオレはイオリと同じベッドで眠ってイオリに抱きしめられているんだ!?

「んっ…、ミカ?おはよ………」
「い、イオリ!オレなんかイオリに変なことしてないか!?途中から記憶が飛んでて………!」
「待って、とりあえず落ち着こう。」


 かなりの空腹状態でいつ自制心リミッターが切れてもおかしくない。そんな時に食欲を更に煽るような甘い香りを放つイオリとゼロ距離で眠っていてオレが何もしない訳が無い。

「変なこと……。ミカと俺じゃ『変なこと』に何が含まれるか違うだろうからなんとも。ただ、俺にとって変なことは特にな…………無かった。」

 一瞬言葉が詰まっていた。これは何かしらやらかしたのだろう。
 完全に終わったと思い項垂れていると、小さく笑い声が聞こえた。声の方を見てみると、手で口を覆って笑いを堪えているイオリがいた。まさか………


「おまっ、騙したな!?」
「ククッ……騙すだなんて人聞きの悪い。言葉に詰まったのを深読みしたのはミカだからな?」
「今のイオリ、すっごい悪人みたいだぞ……。」


 とりあえず何も無かったようで安心した。イオリにとって変なことをしていないならセーフだろう。
 安堵して力が抜けたオレは僅かに後退りしてベッドに座り込んだ。

「ふ…はは、あはは!またイオリにしてやられたなぁ!」
「っ!……今のミカ、会ったばっかりの時みたいだな。」
「え?」

 会ったばっかりの時のオレ……?思ってた以上に沸点低くてあっさり素を出したり、イオリの寝起きの悪さに振り回されたり………あ、そうか。最近は気を張ってたからそれが無かったんだ。
 でも確かに今は少し気が楽になっている。

「もしかして、ずっと食事をしていない分睡眠である程度は補える?最近全く寝てなかったからその可能性は見つからなかったな……。」
「…………は?」


 ……え?
 なんで今イオリに「は?」ってガチトーンで言われた?別に変なことなんて言ってな……あ、口滑ったか。全く寝てなかったって言っちゃった。

「おい、ずっと食事をしてないとか全く寝てないとかどういう事だ。」
「え、いや、その…お、怒んなくても………」


 ダメだ。目が怖い。でも説明のしようが無いからなー……。流石に全部正直に言えない。『イオリ以外に触れられたく無くて食事を取らなかったら、自制効かなくなりそうになって眠れなくなった』とか、口が裂けても言えない。自分でも意味が分からないのにどうしろと……?
 睨むイオリの前に退路は無いと思ったその時、絶対に嫌だった唯一の退路が現れてしまった。

「ぁっ、ぅそ…なんで今、酔い始めて……っ!」
「ミカ!?」

 震える手でなんとかポケットから薬を取り出して服薬した。とは言え即効性は無い。少しずつ治るのを待つことしか出来ない。
 蓄積されたフェロモンで酔ってる以上、数を追う毎に酔いは酷くなる。酷くなればなるほど、思考も身体も支配されていく様だ。熱い、視界が歪む、涙が滲む、身体が痙攣する、熱い、熱い、熱い…

 ……熱が欲しい。



 全てが無意識だった。

 気が付けばイオリに手を伸ばしていた。
 気が付けばイオリをベッドに押し倒していた。
 気が付けばイオリの上に座っていた。
 気が付けばイオリの顔がすぐ目の前にあった。

 ほんの数センチ。唇同士が触れる寸前で我に返った。薬が効いてきたのだろう。段々と思考がハッキリしてきた。

「ーーーーっ!」

 自分の行動に驚いて飛び退いた。
 酔いが覚めたにも関わらずうるさく鳴り続ける心臓と荒い呼吸。ゆっくりと体を起こしたイオリは、目を丸くしてオレを見ていた。

「ミカ………?」

 怯えさせただろう。痛かっただろう。袖で隠れていようとも、加減出来なかったオレが掴んだ両手首には跡がついただろう。急激に消え去った熱は、寒気になって襲って来た。
 もし、薬をポケットに入れていなかったら?
 もし、薬を昨日の内に作っていなかったら…?
 同意の無いまま、本能のままにイオリを喰らっていたのだろうか。そうなれば信用云々どころでは無い。オレが、イオリの心身ともに壊していたかも知れない。そんなの、絶対に嫌だ。

「ご、ごめん…なさ……お、れ……今………っ!」

 謝るだけでもしなければいけないのに、イオリの目を見れない。起き上がってからピクリともしないイオリが何を考えているか、分からないし知る事が怖い。

「……イオリ、本当にごめん。」

 結局、イオリと向き合うことすら出来ずに謝罪の言葉だけを置き去りに逃げてしまった。


 ーーーーーイオリーーーーー


「……………え?」


 俺はあまりの事に動けなくなってしまっていた。なんとも情けない事だ。そのせいでミカを追い詰めさせてしまった。


 たった一瞬、瞬きの間の事だった。
 抵抗するどころでも無くあっという間に俺はベッドで何故か横わっていた。そして目の前に…上にいた彼は、熱に浮かれた表情に緩んだ瞳で、あまりにも美しく官能的だった。

「本当に、情けないな……。」

 ミカはあれ程までに苦しそうだったのに。


「あのまま流されてしまえば良かった、とか……。」


 ミカが最後に放った二言はどちらも謝罪たった。震えたか細い声。
 弱々しい姿とは裏腹に力強く、両手首はズキズキと痛む。案の定クッキリと真っ赤な痕が付いていた。
 理性が飛ぶほどに空腹なのだろうか。眠ってもいないのであればいつでも食事に行けた筈だ。何故そうしないのか疑問に思いながらもどこか安心している自分がいる。

 ……俺では駄目だろうか。ミカを満たす相手が俺では駄目だろうか。

 …は、自分にこんな一面があるとは驚いた。今まで縁遠く興味も無かったのに。これは心の中にしまうべきだろう。こんなよこしまな望みなど。


(ミカをめちゃくちゃに愛して、ぐちゃぐちゃに犯してしまいたい。)
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