【完】天使な淫魔は勇者に愛を教わる。

輝石玲

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歪な物語の始まり

13.一時凌ぎ

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 ーーーーーミカーーーーー

 勢いに任せて飛び出してしまった。
 落ち着かないと。イオリを傷付けない為にはオレが我慢するしか無い。でも、空腹のままでは苦しいばかりでいつ自制心が無くなるかもわからない。
 かと言ってどこかで食事を取ると言うのも何故だか受け入れ難い。性行為による食事が無理だと言うのであれば血液で補充するしかないだろう。だが、吸血対象が生きていなければ対して効果は無い。吸血鬼のような牙もないから直接吸うことは出来ない。
 それでも……死んだ血でも全くの無意味で無いのなら。

「討伐クエストでもしてなんとか………」
「お、どうした!深刻そうな顔をしてるじゃねぇか。」
「っ!」

 高難易度の討伐クエストの張り紙に手を伸ばすと、後ろから声をかけられた。背中に大きな金属を背負っているガタイの良い中年の男。
 赤茶の前髪を後ろに流し、無精髭を生やした野性味を感じる姿とは裏腹に精錬された魔力。背中の金属は恐らく遠距離武器だろう。いくつもの銃口が覗いている。

「んー?あぁ、やめておけ。こんな高難易度、お前みたいな若いのが行っても無駄死にするだけだぞ。」
「オレのが年上……」
「ん?」
「いや、なんでもない。」

 子供扱いにはやはり慣れない。
 悪魔の国《ディークリード》では子供の見た目でも三桁越えなんてザラにいた。だからオレも子供扱いされる事は無かった。が、人間って見た目で判断しすぎな気がする。

「金に困ってんのか強くなりたくて焦ってんのかわからねぇけどよ、こんなとこで死んだら元も子もないってもんだろ。」
「心配ならいりませんよ。出来るものしか選ばないので。」

 というか出来るものしか無いから。だって簡単なものばっかだし、こういうのを見るとどうしても種族の差は感じるが。

「ちっ、仕方ねぇなー…。俺も同行する、文句は受け付けねぇ。」
「別に構いませんが……邪魔はしないでくださいね?」


 結局ラドンと名乗ったそのガンナーとクエストを受けることになった。初めてイオリ以外と受けるクエストだ。
 と、その前に武器を買わないとだ。いつもは肉弾戦で戦っているが、今回の目的は返り血だ。打撲では意味が無い。武器屋で細身の軽い双剣を買った。ラドンにはもっと良いのをと言われたが、切れればなんでも良い。




「……なぁミカ、なんであんな深刻そうにしてたんだ?このクエストに関係あるのか?」
「…実は、大切な人を傷つけてしまって………。それで自分に腹が立って、討伐クエストで力任せにぶつけて落ち着こうと。」

 なんて言い訳だ。普通有り得ないだろ!高難易度の必要無いから変に怪しまれるって……。

「成程な、分かったぜ!」

 わかったんだ。怪しく無いの?これ……。

 今回のクエストは双頭の蛇の討伐。昨夜から群れが動いているらしい。二つの頭両方を潰さないといけないが、所詮はただの蛇だ。他より魔力は多いだろうがそれでもオレの方が強いのは明確。倒すだけ倒して……ん?

「群れが見えて来たな……って、な…んだよこの数!」
「想定の倍以上の数、恐らく群れの中にボスがいますね。」
「なんで冷静!?」

 なんでって……ボス無しの想定の倍だ。ボスがいれば全ての蛇が集まったところで「だろうな」で終わる。何を驚く必要があるだろうか。問題は数じゃない。ボスの能力が問題だ。確率は低いが、たまにモンスター以上悪魔以下の知能を持っているボスもいる。これだけの数を引き連れているとなれば意思疎通出来てもおかしくない。

「ラドンさん、手出し不要ですよ。オレ一人で戦わせてください。」
「は!?あ、ちょ、おい!待て!」

 オレは歩いて群れの中に入った。一際大きく、強大な魔力を持つ個体。ボスの目の前に立った。

「貴様…大した度胸だ。それともただの馬鹿か。」
「やっぱりな、意思疎通の取れる上位体だったか。確認できてよかった。それじゃあさっさと死んで……」

 オレがボス蛇に剣を向けた時、頭に甲高い声が響いた。

(王よ!あやつから我の頭を切った者の気配が!)

 魔力を使った声。強い力を持った者だけが聞こえる声だ。声の元を見ると、最初から頭が一つしかない個体があった。恐らくボスの次に強いと思われる。

「まさか、お前か?我が腹心の頭を落としたのは……。」
「なんの事だ?」
(何故貴様からあの黒い男の気配が!?)

 オレからする黒い男の気配。イオリだろうな。まさか、昨日イオリの帰りが遅くなったのは……。

「……その黒い男、どうした?」
(我の言葉が聞こえるだと!?)
「答えろ。」
(あの男なら崖から落としてやったわ!あの高さなら今頃生きておらぬだろうな!)

 つまり、昨夜のイオリの傷はこいつのせいで……と。ほう。なんて幸運だろう。

 こいつを、オレが殺せるなんて。


 残っていたもう一つの頭を切り落とした。安く脆い剣でも、魔力を纏わせればこの程度すぐに切れる。
 そして、こいつの死により開戦したようだ。全長約五メートル、数およそ四十から五十。すぐに終わるだろう。

「加勢するぞ!」
「手出し不要だと言っただろう!」

 やべ、敬語外れた。そして群れに向かって叫んだラドンにも蛇が襲いかかっていく。だから手出し不要だと……。呆れながらも助けに行こうとしたが、ラドンはあっという間に蛇を倒した。なかなか戦えるようだ。
 そして10分足らずでボス以外は死んだ。

「き、貴様…何故我らを滅ぼそうと……!」
「別に、お前達が滅びようと興味ない。ただ、弱肉強食のこの世でお前は食われる側だっただけだ。ご馳走様。」
「はっ、我らを喰らうとはまるで悪魔のようだな。」

 その言葉を最後に、大蛇は死んだ。戦いの最中に浴びた血は、僅かながらも確かに効果はあった。全然足りはしないが、まぁこんなものか。

「……おい。お前、何者なんだよ。」
「オレ?ただの………罪人だ。」
「?」

 戦いに時間は掛からなかったが、移動に手間取ってしまう。オレ一人ならいいが、なんせラドンがチンタラ動くし寄り道はするしで時間が掛かって仕方がない。

「ラドンさん、遅すぎません?そろそろ日が傾いてるんですけど…。」
「ん?あぁ……早く帰りたいか?」
「そりゃ……あ、」

 早くイオリの元に帰りたい。それはそうだ。だけど……まだ、イオリの顔を見るのが怖い。まだ、ちゃんと話せる自信が無い。

「まだ帰り辛そうじゃねぇか。つっても確かにこのままじゃ疲れるか……。よし、落ち着くまで俺んところにいるか?」
「え。」

 確かにまだ帰りづらい。が、なんの関係も無い人にそこまでしてもらうのもなぁ……。と、色々考えたが流されて結局お邪魔することになった。

「ま、俺んところって言ってもギルドの宿だけどな。」
「え……ここって…………。」

 オレとイオリが泊まってる部屋の隣………。
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