【完】天使な淫魔は勇者に愛を教わる。

輝石玲

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悪魔、人間の本拠地へ

37.勇者の訓練

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 ーーーーーイオリーーーーー


 二月だというのに真夏のような気候だ。この世界でも一年は12ヶ月で、一ヶ月の日数や週間も元の世界と変わりない。ただ季節が違う。二月に何もせず半袖で汗が流れるなんて行ったこともない海外のようだ。感覚が狂いそう。
 そういえば、この世界に来たのは元の世界で十月だった。で、こっちの世界では六月。その時点でだいぶ時期にズレがある。もはやこの世界で自分の誕生日はいつかなんて分からない。気付かない内に俺も年が変わっているだろう。



 木陰で二人を待っているが、準備に時間が掛かっているのかなかなか来ない。日の当たらない場所にいると言ってもやはり暑く、正直気が滅入っている。ただでさえここ最近見る悪夢のせいで疲れが溜まっている。この調子だと体力が保つか心配だ。

 それに、いつものロングコートを脱いでいるせいで暑くて仕方がない。いつも着ているコートは魔法が埋め込まれているから夏場に着ていても涼しいんだが……。流石に見た目的に暑く感じさせるようなので訓練中は脱いでいる。確かに真夏にロングコートは見ていて暑苦しいな。



 数分待ってようやく二人が来た。特に始める時間を決めて無く、ただ昼食後にとだけ決めていた。二人が遅かったと言うよりは俺が早かっただけかもしれない。


「お待たせしてすみません!」
「ご…ごめんなさい………」
「いや、特に時間を決めてた訳じゃないから気にするな。」


 どうやら訓練のための服装に着替えていたようだ。他の騎士のようなシンプルなシャツとズボンを着用している。
 正直俺はいつも通りの服装がベストだと思っている。動きづらい服装での戦闘に慣れていれば、例え奇襲されようとも上手く対処できるだろうから。いつでも動きやすい服を着ている訳では無いからな。
 とは言え二人にそこまでは求めていない。ちゃんと戦えるようになってからそういう事を考えよう。
 ……いや、タマキは団長を超えているんだったか。なら早い段階で考えても問題無さそうだ。

 問題はシュウだ。まだ武器すら決まっていない。お披露目の時までには最低限実践で使えるようにはしたいな。
 正直、二人同時に教えるのはかなり難しい。一人だけでも高難易度だと言うのに、俺は何故簡単に承諾したんだ。一人一人順番に見るしかないか。


「悪いけど先にシュウの武器を見繕いたい。その間、タマキには魔力無しである程度動けるように体力づくりをしていて欲しい。」
「は、はい。じゃあ…ちょっと、走ってきます………。」


 そう言うとタマキは速いスピードで訓練場を走り出した。最初からあんなに速く走って大丈夫だろうか。なんて心配は無意味らしい。シュウ曰く、


「タマキはシャトルランで百回まで出来る持久力と、50メートル7秒で走るスピードがあるんです。」
「まじか……」
「凄いですよね……。」


 素の体力じゃ俺より上?あのナリで…?
 なんて驚愕とショックは隠して進めないと。
 予め用意しておいた訓練用武器を並べた。剣と言っても色々な種類がある。俺や騎士が使うようなメジャーな物から、タマキが使うような細身の物、短剣や大剣と種類は様々だ。短剣にも形はたくさんある。
 その中からどれがベストか試す訳だが、なんとなくは決まっている気がする。剣を振るう姿を見た事があるが、使いこなすどころか剣に振り回されていた。となれば短剣がいいだろう。とりあえず試すだけ試しておこう。


「すごい…こんなに準備してくれたんですか……?」
「俺も魔法頼りで戦ってる部分があるからな。ちゃんと教えられる自信が無い分、出来ることは出来るだけするつもりだ。」


 キラキラとした目を向けて感謝してくるが、俺も『見本を見せる』以外での指導はした事が無い。望むような訓練は出来ないだろう。つまりは誤魔化しだ。


 とりあえず順番に武器を持たせた。軽く撃ち合う程度で使い心地を試してみたが、やはり短剣が一番しっくりくるらしい。あとは形状を絞るだけ。

 短剣もいくつか試した結果、小振りな剣のようなリーチの長めの短剣を使うことになった。
 無事に武器も決まったが、シュウはそもそも細腕で手に力が入りづらい。体力をつけて、筋力もつけないとだろう。俺も元々あった訳では無く実戦で力をつけた。体力は大前提として筋力…腕力は魔法で補助しながら実戦でつけさせる以外の方法が分からない。


 一旦タマキを呼んでシュウを走らせた。
 二十分近く走っていたタマキは息は切れていてもまだ余裕がありそうだ。持久力と速度は素でプロレベル。俺に教える事はあるのかと疑問になるが、身体能力向上の魔法を使った実戦を教える事になるだろう。
 まずは戦ってみよう。もしかしたら俺が負けるかも、なんて心配もあるけど、ミカは俺が普通以上に戦えていると言っていた。まだ分からない。


「とりあえず一度俺と戦ってみよう。本気で行くから本気で来るように。」
「は…はい……!」


 タマキは持参してきた訓練用のレイピアを構えた。団長に教わっていただけあって綺麗な太刀筋だ。それに、構えた瞬間に気迫が変わった。小さな少女を相手に本気を出すのは大人気ない、なんて言えないような雰囲気。


「行きます…!」


 魔法、身体能力、センス。その全てを最大限発揮して俺に剣を振るうタマキはまるで別人だった。一発一発は重く無いものの、速く的確に隙を見つけて攻撃してくる。
 始まって数分は防戦一方だった。でも、慣れれば動きの規則性は分かってきた。脇、横腹、脚、顔、狙う位置は絞られている。動きさえ読めれば俺も動ける。タマキの剣を強く弾いて落とした。


「……勝負あり、だ。」


 スピードはほぼ互角、タマキの腕の力が強かったら結果は分からなかった。
 それでも、魔法が無ければ俺が負けていた可能性が高い。成人男性と互角かそれ以上の体力を持つ彼女はやはり凄い。



 それからもう少し様子を見て、シュウは筋力をつけさせ短剣の使い方を教えることに、タマキはとにかく実戦での対応の仕方を教えることにした。

 そして、俺自身ももっと力を付けようと決めた。
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