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終わりへ
悪魔の国 ③
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入浴を終えた先生は、いつも通りに私の部屋のソファで眠った。先生曰く、「疲れたと言うより、大量の魔力を吸収するのに意識が持っていかれる」らしい。
一度眠った先生はなかなか起きない。たまに呼吸すら止まると本当に消えそうに感じて恐ろしくもなる。元々人間だった悪魔とは根本から違うのだと実感もするが。
……たった一人、この国で本当の『人外』である先生。
殺す事は不可能な不死の化け物。
世界に逆らった反逆者。
神殺しの大罪人。
悪名だけでも把握しきれない程ある。悪魔のために悪魔以上に身も心も削っていること、それはごく一部しか知らない。
闇の様な髪とは正反対の真っ白い肌は冷え切っている。先生の後に私もシャワーを浴びたが、浴室が冷たかった。恐らく水で体を洗ったのだろう。
あまりに白く冷たい頬が死んでいる様で、そっと毛布を掛けてやった。これだけで体温が上がるわけでもないが、放っておくのもいかがなものかと思う。
そして私は一人、自分のベッドで眠った。
ふわりと頭を撫でられる感覚…。
この優しい手は先生?
「さようなら。生きろよ。」
優しくて冷たい声。先生の声だ。
冷たい風が頬を撫でる。嵐の匂いが鼻をくすぐる。
カーテンが風に揺れる音と、大きな翼が羽ばたく音。
そして、窓が閉じる音。
…………え?
待って、今何が起こった?
急いで飛び起きるが、そこに先生の姿は無かった。
先生が寝ていたソファは既に冷たく、一枚の紙切れだけが残されている。書き置きのようだ。
『やるべき事をしてくる。この国にはもう帰らないだろう。』
それだけを書き残していた。
時間は既に夜明け。先生がいた痕跡すら消え、完全にこの国から消えてしまった。先生の部屋も、牢も、他のどこにも痕跡は無く、ただ記憶だけが『彼』がいた事を教える。
本当に戻らないつもりなのだろう。なら、やるべき事が終わったら先生はどうなる?一体どこに行き、何をするのか。あるいは死を選ぶのか。
それだけがどうしても気になってしまう。
本当にあの人はずるい。自分がどれだけ必要とされてるかも知らず、私にとって育ての父である自覚も無いのだから。
いつかこの日が来る事は分かってた。だが、こんな紙切れに書かれた簡潔な文字で終わりだなんて、納得できるわけが無い。
急足で母の元へ行った。私はこれから王では無く一人の悪魔として動く。無責任だが止められない。
「王太后、私はしばらくこの国を空ける。その間の統治を頼む。」
「……わ、分かりましたわ。お帰りはいつ頃の予定です?」
「そう長くは無い、とだけ分かる。また何かあれば文を飛ばそう。」
理由は告げずに責務を押し付け、私は先生の元へと向かった。
既に先生が張った結界も消えかけている。綻びからなら私でも出られるだろう。
そして先生の強大な魔力の痕跡を辿った。
しばらく飛んで着いたのは、人間の国の城だった。
間違い無く先生はここに来ている。だが、悪魔の姿では人間を怯えさせるだろう。私は人間に化ける事は出来ない。でも、『人間を傷つけない』を守りながら先生に会いに行く。
「あ、悪魔!?」
「失礼、人を探しに来た。」
ここで騒ぎになれば、先生も自分から出てくるだろうか。
一度眠った先生はなかなか起きない。たまに呼吸すら止まると本当に消えそうに感じて恐ろしくもなる。元々人間だった悪魔とは根本から違うのだと実感もするが。
……たった一人、この国で本当の『人外』である先生。
殺す事は不可能な不死の化け物。
世界に逆らった反逆者。
神殺しの大罪人。
悪名だけでも把握しきれない程ある。悪魔のために悪魔以上に身も心も削っていること、それはごく一部しか知らない。
闇の様な髪とは正反対の真っ白い肌は冷え切っている。先生の後に私もシャワーを浴びたが、浴室が冷たかった。恐らく水で体を洗ったのだろう。
あまりに白く冷たい頬が死んでいる様で、そっと毛布を掛けてやった。これだけで体温が上がるわけでもないが、放っておくのもいかがなものかと思う。
そして私は一人、自分のベッドで眠った。
ふわりと頭を撫でられる感覚…。
この優しい手は先生?
「さようなら。生きろよ。」
優しくて冷たい声。先生の声だ。
冷たい風が頬を撫でる。嵐の匂いが鼻をくすぐる。
カーテンが風に揺れる音と、大きな翼が羽ばたく音。
そして、窓が閉じる音。
…………え?
待って、今何が起こった?
急いで飛び起きるが、そこに先生の姿は無かった。
先生が寝ていたソファは既に冷たく、一枚の紙切れだけが残されている。書き置きのようだ。
『やるべき事をしてくる。この国にはもう帰らないだろう。』
それだけを書き残していた。
時間は既に夜明け。先生がいた痕跡すら消え、完全にこの国から消えてしまった。先生の部屋も、牢も、他のどこにも痕跡は無く、ただ記憶だけが『彼』がいた事を教える。
本当に戻らないつもりなのだろう。なら、やるべき事が終わったら先生はどうなる?一体どこに行き、何をするのか。あるいは死を選ぶのか。
それだけがどうしても気になってしまう。
本当にあの人はずるい。自分がどれだけ必要とされてるかも知らず、私にとって育ての父である自覚も無いのだから。
いつかこの日が来る事は分かってた。だが、こんな紙切れに書かれた簡潔な文字で終わりだなんて、納得できるわけが無い。
急足で母の元へ行った。私はこれから王では無く一人の悪魔として動く。無責任だが止められない。
「王太后、私はしばらくこの国を空ける。その間の統治を頼む。」
「……わ、分かりましたわ。お帰りはいつ頃の予定です?」
「そう長くは無い、とだけ分かる。また何かあれば文を飛ばそう。」
理由は告げずに責務を押し付け、私は先生の元へと向かった。
既に先生が張った結界も消えかけている。綻びからなら私でも出られるだろう。
そして先生の強大な魔力の痕跡を辿った。
しばらく飛んで着いたのは、人間の国の城だった。
間違い無く先生はここに来ている。だが、悪魔の姿では人間を怯えさせるだろう。私は人間に化ける事は出来ない。でも、『人間を傷つけない』を守りながら先生に会いに行く。
「あ、悪魔!?」
「失礼、人を探しに来た。」
ここで騒ぎになれば、先生も自分から出てくるだろうか。
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