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50.天魔大戦 ①
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時は遡ること三千年前。神は一人の特別な存在を創り出した。
すらりと長い手足、透き通るような白い肌、男とも女ともとれる幼顔、誰もが認める美貌、理想が詰められた完璧な容姿。光を纏った大天使。次代の神。
威厳ある老父のような神とは反対に、神秘だけを感じる青年。
言葉すら知らぬ大天使に、神は自ら教育を施した。自身の跡を継ぐべく聡明にするために。
天空宮の離れの、神や大天使が過ごすには質素な部屋に閉じ込められた大天使は、誕生から千年経ってようやく外を見る事になる。
ある日、神に連れられ始めて外に出た大天使は天空宮の本殿に赴いた。天使達は『次の大天使は誰か』という話題で盛り上がっており、その話題に挙げられていたのは風に愛された天使だった。
大天使はその噂を耳にした時に疑問を持った。
『大天使は天使じゃないのに、何故なれると思っているのだろう』と。
そして天使達に紹介された光の大天使は、冷たい目を向けられた。
大天使は元より大天使として創られることを知らない天使達は、見目麗しい大天使が神をそそのかしたのでは無いかと噂した。
しかし、無機質で心無い大天使は気にも留めていなかった。神の教育により、天使を自分と同等とは思いもしていない。ただの天使でしか無い存在が何か雑音を出していると。
そんな感性が神に施された教育だった。
それから数百年経ち、大天使はとある事を考えた。
何度か本殿に行ったが、自分は天使達のように表情を変えた事が無いと。笑った事も泣いた事も無い。喜びも恨みも好きも嫌いも何も無いと。
大天使は『心』に興味を持った。
それと同時に人間達に悲しい事件が起きた。異界から突如現れた何者かが人間の体を変えてしまったのだ。異邦人は天使総出でも仕留める事が出来ず、異界に取り逃してしまった。目的も一切不明の不思議な身なりをした明らかに人間では無い男は、ただ『人間は不要』と言い残して消えた。
手慣れた様子で世界に影響を残した男は、恐らく他の世界でも同じ事をして回っているのかもしれない。その程度しか分からないままこの事件は幕を閉じた。
異形に変わり果てた人間達を残して。
姿が変わり悪魔と呼ばれた人間は、同族達に惨殺された。しかしどれだけ殺しても絶えることは無く、悪魔は怯えながら死を待つか、人間を殺すかに別れた。
そんな時、一人の少年が立ち上がった。まだ年若い成人前の少年。ワインレッドの短髪と鮮やかな赤い瞳。竜の角と尾を持つディークと言う名の、後の魔王である。
「悪魔と蔑まれし同胞達よ!人間と呼ばれる事を捨て、新たな悪魔と言う種族として胸を張って生きる事を選ぶ者は私に続け!」
その言葉は多くの悪魔に響いた。姿が変わっただけで簡単に同胞を殺す人間と同じ種であることを選ぶ者は少ない。中には悪魔から魔力を貰い、自ら姿を変える者もいた。
そして悪魔は人間を寄せ付けずに国を作り、導いた少年の名前からディークリードと名付けた。
そんな話を聞いた大天使は、魔王と呼ばれる先導者に興味を持った。大勢の『心』を動かした少年。自分の『心』も分かるかもしれないと、大天使は天空宮を抜け出し悪魔の国に向かった。
悪魔の国に空から入り、最初に見つけた悪魔に魔王の居場所を聞く事にした大天使。森にある湖に人影を見つけ、そこに降り立った。
「…失礼、魔王に用があるのだがどこに行けば会えるだろうか。」
大天使が声を掛けたのは、長いワインレッドの髪と赤い瞳の青年。湖のそばの岩に腰を下ろしている。青年は驚いた顔で大天使を見ると、間を開けてから口を開いた。
「何の用かだけ教えてくれる?」
「必要無いだろう。我が用があるのは魔王のみだ。」
「もしそれで君が悪い事を考えてたら、居場所を教えた僕まで同罪になるじゃないか。教えて。」
頑なに居場所を教えない悪魔と、頑なに要件を教えない大天使。不毛なやり取りの末、いつの間にか日は落ちていた。
「あーあ、こんな時間じゃ魔王様には会えないだろうね。」
「もういい、貴様一人にここまで時間を使うべきでは無かったな。」
「……そんな事言うんだ。僕じゃなかったらロクに相手にされないくせに。」
「なんだと?」
大天使に不遜な態度と駆け引きをする青年は、挑発するように言葉を続けた。そして大天使はことごとく挑発に乗ってしまう。
「君、天使か何かでしょ?そんな天上の存在と話せる人なんてそうそういる訳無いよ。いるとすれば、悪いこと考えてる人か命知らずだけ。そんな人の言葉が信用できる?」
「なら貴様は違うと言うのか?何かを企んでるようにも命知らずにも見えるぞ。」
青年はイタズラっぽく舌を出して、岩からようやく立ち上がった。
月明かりしか照らさない湖。青年は月を背に大天使に微笑んだ。その姿は力強くも清くも見え、恐ろしくも見える。
そしてとある取引を仕掛けた。
「魔王様に会いたかったら僕に君のことを教えてよ。君が悪い事を企んで無いって分かったら、ちゃんと合わせてあげるからさ。」
「お前の言う天上の存在に随分な不敬だ。だが面白い。その馬鹿げた話に乗ってやろうじゃ無いか。」
そして大天使はその青年と交流する事を選んだ。
大天使はその場を離れ、天空宮に帰ってからようやく気付いたのだ。
初めて『面白い』と感じたことを。
時は遡ること三千年前。神は一人の特別な存在を創り出した。
すらりと長い手足、透き通るような白い肌、男とも女ともとれる幼顔、誰もが認める美貌、理想が詰められた完璧な容姿。光を纏った大天使。次代の神。
威厳ある老父のような神とは反対に、神秘だけを感じる青年。
言葉すら知らぬ大天使に、神は自ら教育を施した。自身の跡を継ぐべく聡明にするために。
天空宮の離れの、神や大天使が過ごすには質素な部屋に閉じ込められた大天使は、誕生から千年経ってようやく外を見る事になる。
ある日、神に連れられ始めて外に出た大天使は天空宮の本殿に赴いた。天使達は『次の大天使は誰か』という話題で盛り上がっており、その話題に挙げられていたのは風に愛された天使だった。
大天使はその噂を耳にした時に疑問を持った。
『大天使は天使じゃないのに、何故なれると思っているのだろう』と。
そして天使達に紹介された光の大天使は、冷たい目を向けられた。
大天使は元より大天使として創られることを知らない天使達は、見目麗しい大天使が神をそそのかしたのでは無いかと噂した。
しかし、無機質で心無い大天使は気にも留めていなかった。神の教育により、天使を自分と同等とは思いもしていない。ただの天使でしか無い存在が何か雑音を出していると。
そんな感性が神に施された教育だった。
それから数百年経ち、大天使はとある事を考えた。
何度か本殿に行ったが、自分は天使達のように表情を変えた事が無いと。笑った事も泣いた事も無い。喜びも恨みも好きも嫌いも何も無いと。
大天使は『心』に興味を持った。
それと同時に人間達に悲しい事件が起きた。異界から突如現れた何者かが人間の体を変えてしまったのだ。異邦人は天使総出でも仕留める事が出来ず、異界に取り逃してしまった。目的も一切不明の不思議な身なりをした明らかに人間では無い男は、ただ『人間は不要』と言い残して消えた。
手慣れた様子で世界に影響を残した男は、恐らく他の世界でも同じ事をして回っているのかもしれない。その程度しか分からないままこの事件は幕を閉じた。
異形に変わり果てた人間達を残して。
姿が変わり悪魔と呼ばれた人間は、同族達に惨殺された。しかしどれだけ殺しても絶えることは無く、悪魔は怯えながら死を待つか、人間を殺すかに別れた。
そんな時、一人の少年が立ち上がった。まだ年若い成人前の少年。ワインレッドの短髪と鮮やかな赤い瞳。竜の角と尾を持つディークと言う名の、後の魔王である。
「悪魔と蔑まれし同胞達よ!人間と呼ばれる事を捨て、新たな悪魔と言う種族として胸を張って生きる事を選ぶ者は私に続け!」
その言葉は多くの悪魔に響いた。姿が変わっただけで簡単に同胞を殺す人間と同じ種であることを選ぶ者は少ない。中には悪魔から魔力を貰い、自ら姿を変える者もいた。
そして悪魔は人間を寄せ付けずに国を作り、導いた少年の名前からディークリードと名付けた。
そんな話を聞いた大天使は、魔王と呼ばれる先導者に興味を持った。大勢の『心』を動かした少年。自分の『心』も分かるかもしれないと、大天使は天空宮を抜け出し悪魔の国に向かった。
悪魔の国に空から入り、最初に見つけた悪魔に魔王の居場所を聞く事にした大天使。森にある湖に人影を見つけ、そこに降り立った。
「…失礼、魔王に用があるのだがどこに行けば会えるだろうか。」
大天使が声を掛けたのは、長いワインレッドの髪と赤い瞳の青年。湖のそばの岩に腰を下ろしている。青年は驚いた顔で大天使を見ると、間を開けてから口を開いた。
「何の用かだけ教えてくれる?」
「必要無いだろう。我が用があるのは魔王のみだ。」
「もしそれで君が悪い事を考えてたら、居場所を教えた僕まで同罪になるじゃないか。教えて。」
頑なに居場所を教えない悪魔と、頑なに要件を教えない大天使。不毛なやり取りの末、いつの間にか日は落ちていた。
「あーあ、こんな時間じゃ魔王様には会えないだろうね。」
「もういい、貴様一人にここまで時間を使うべきでは無かったな。」
「……そんな事言うんだ。僕じゃなかったらロクに相手にされないくせに。」
「なんだと?」
大天使に不遜な態度と駆け引きをする青年は、挑発するように言葉を続けた。そして大天使はことごとく挑発に乗ってしまう。
「君、天使か何かでしょ?そんな天上の存在と話せる人なんてそうそういる訳無いよ。いるとすれば、悪いこと考えてる人か命知らずだけ。そんな人の言葉が信用できる?」
「なら貴様は違うと言うのか?何かを企んでるようにも命知らずにも見えるぞ。」
青年はイタズラっぽく舌を出して、岩からようやく立ち上がった。
月明かりしか照らさない湖。青年は月を背に大天使に微笑んだ。その姿は力強くも清くも見え、恐ろしくも見える。
そしてとある取引を仕掛けた。
「魔王様に会いたかったら僕に君のことを教えてよ。君が悪い事を企んで無いって分かったら、ちゃんと合わせてあげるからさ。」
「お前の言う天上の存在に随分な不敬だ。だが面白い。その馬鹿げた話に乗ってやろうじゃ無いか。」
そして大天使はその青年と交流する事を選んだ。
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初めて『面白い』と感じたことを。
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