【完】天使な淫魔は勇者に愛を教わる。

輝石玲

文字の大きさ
56 / 73
終わりへ

50.天魔大戦 ①

しおりを挟む
 ーーーーーーーーーー





 時は遡ること三千年前。神は一人の特別な存在を創り出した。

 すらりと長い手足、透き通るような白い肌、男とも女ともとれる幼顔、誰もが認める美貌、理想が詰められた完璧な容姿。光を纏った大天使。次代の神。
 威厳ある老父のような神とは反対に、神秘だけを感じる青年。


 言葉すら知らぬ大天使に、神は自ら教育を施した。自身の跡を継ぐべく聡明にするために。
 天空宮の離れの、神や大天使が過ごすには質素な部屋に閉じ込められた大天使は、誕生から千年経ってようやく外を見る事になる。




 ある日、神に連れられ始めて外に出た大天使は天空宮の本殿に赴いた。天使達は『次の大天使は誰か』という話題で盛り上がっており、その話題に挙げられていたのは風に愛された天使だった。
 大天使はその噂を耳にした時に疑問を持った。

『大天使は天使じゃないのに、何故なれると思っているのだろう』と。


 そして天使達に紹介された光の大天使は、冷たい目を向けられた。
 大天使は元より大天使として創られることを知らない天使達は、見目麗しい大天使が神をそそのかしたのでは無いかと噂した。

 しかし、無機質で心無い大天使は気にも留めていなかった。神の教育により、天使を自分と同等とは思いもしていない。ただの天使どうぐでしか無い存在が何か雑音を出していると。
 そんな感性が神に施された教育だった。




 それから数百年経ち、大天使はとある事を考えた。
 何度か本殿に行ったが、自分は天使達のように表情を変えた事が無いと。笑った事も泣いた事も無い。喜びも恨みも好きも嫌いも何も無いと。

 大天使は『心』に興味を持った。

 それと同時に人間達に悲しい事件が起きた。異界から突如現れた何者かが人間の体を変えてしまったのだ。異邦人は天使総出でも仕留める事が出来ず、異界に取り逃してしまった。目的も一切不明の不思議な身なりをした明らかに人間では無い男は、ただ『人間は不要』と言い残して消えた。
 手慣れた様子で世界に影響を残した男は、恐らく他の世界でも同じ事をして回っているのかもしれない。その程度しか分からないままこの事件は幕を閉じた。

 異形に変わり果てた人間達を残して。


 姿が変わり悪魔と呼ばれた人間は、同族達に惨殺された。しかしどれだけ殺しても絶えることは無く、悪魔は怯えながら死を待つか、人間を殺すかに別れた。
 そんな時、一人の少年が立ち上がった。まだ年若い成人前の少年。ワインレッドの短髪と鮮やかな赤い瞳。竜の角と尾を持つディークと言う名の、後の魔王である。


「悪魔と蔑まれし同胞達よ!人間と呼ばれる事を捨て、新たな悪魔と言う種族として胸を張って生きる事を選ぶ者は私に続け!」


 その言葉は多くの悪魔に響いた。姿が変わっただけで簡単に同胞を殺す人間と同じ種であることを選ぶ者は少ない。中には悪魔から魔力を貰い、自ら姿を変える者もいた。
 そして悪魔は人間を寄せ付けずに国を作り、導いた少年の名前からディークリードと名付けた。



 そんな話を聞いた大天使は、魔王と呼ばれる先導者に興味を持った。大勢の『心』を動かした少年。自分の『心』も分かるかもしれないと、大天使は天空宮を抜け出し悪魔の国に向かった。




 悪魔の国に空から入り、最初に見つけた悪魔に魔王の居場所を聞く事にした大天使。森にある湖に人影を見つけ、そこに降り立った。


「…失礼、魔王に用があるのだがどこに行けば会えるだろうか。」


 大天使が声を掛けたのは、長いワインレッドの髪と赤い瞳の青年。湖のそばの岩に腰を下ろしている。青年は驚いた顔で大天使を見ると、間を開けてから口を開いた。


「何の用かだけ教えてくれる?」
「必要無いだろう。我が用があるのは魔王のみだ。」
「もしそれで君が悪い事を考えてたら、居場所を教えた僕まで同罪になるじゃないか。教えて。」


 頑なに居場所を教えない悪魔と、頑なに要件を教えない大天使。不毛なやり取りの末、いつの間にか日は落ちていた。


「あーあ、こんな時間じゃ魔王様には会えないだろうね。」
「もういい、貴様一人にここまで時間を使うべきでは無かったな。」
「……そんな事言うんだ。僕じゃなかったらロクに相手にされないくせに。」
「なんだと?」


 大天使に不遜な態度と駆け引きをする青年は、挑発するように言葉を続けた。そして大天使はことごとく挑発に乗ってしまう。


「君、天使か何かでしょ?そんな天上の存在と話せる人なんてそうそういる訳無いよ。いるとすれば、悪いこと考えてる人か命知らずだけ。そんな人の言葉が信用できる?」
「なら貴様は違うと言うのか?何かを企んでるようにも命知らずにも見えるぞ。」


 青年はイタズラっぽく舌を出して、岩からようやく立ち上がった。
 月明かりしか照らさない湖。青年は月を背に大天使に微笑んだ。その姿は力強くも清くも見え、恐ろしくも見える。
 そしてとある取引を仕掛けた。


「魔王様に会いたかったら僕に君のことを教えてよ。君が悪い事を企んで無いって分かったら、ちゃんと合わせてあげるからさ。」
「お前の言う天上の存在に随分な不敬だ。だが面白い。その馬鹿げた話に乗ってやろうじゃ無いか。」


 そして大天使はその青年と交流する事を選んだ。
 大天使はその場を離れ、天空宮に帰ってからようやく気付いたのだ。


 初めて『面白い』と感じたことを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...