【完】天使な淫魔は勇者に愛を教わる。

輝石玲

文字の大きさ
60 / 73
終わりへ

54.天魔大戦 ⑤

しおりを挟む
 大天使と神の『喧嘩』から百年と少し。神に大怪我をさせられた大天使は、ようやく目を覚ました。体に異常も無く、全て元通りに回復している。その事に大天使は違和感を感じた。


(神は何で、オレを消さなかったんだろう………)


 神が「神に相応しくない」と考える自身を、何故未だに後継者として置いているのか。
 謎に思った大天使は、直接聞こうと神の元へ向かった。例え再び喧嘩になって数百年眠ろうと、ディーク「待ち続ける」と言う言葉を信じて立ち向かう。



 離れの宮の地下室。そこが神の住まう部屋だ。
 螺旋階段を下り恐る恐る扉をノックすると、向こうから嫌と言うほど聞き馴染みのある声が聞こえた。


「……目が覚めたか。用があるなら入るといい。」


 許可を得て神の部屋に入る大天使。
 神の部屋は大天使の部屋よりも更に簡素で、とても普通の人間や天使すら住める環境では無い。部屋にあるのは一人掛けソファーと水晶の置かれたデスクのみ。神はいつも水晶を通して世界を見るだけだ。


「何用だ?」


 目線も向けず冷たく対応する神。声からも重苦しい雰囲気が漂っている。


「色々聞きに来た。例えば…何でオレを消さなかったのか、とかな。」
「……くだらん。貴様は我の後を継ぐ者だから残しただけの事。」
「オレを消して新しい後継を創り出すことも出来るだろう。」
「…………」


 そこから黙り込んでしまった神。関連する事は何一つ答え無くなってしまい、大天使は無理矢理次の話を続けた。


「もういい、次だ。下界に降りる許可を貰いに来た。」
「許可など無くとも勝手に行くだろう。」
「それじゃあダメなんだよ。真面目な友人達は、ちゃんと許可を貰えと五月蝿いんだ。」


 神はようやく大天使の方を向いた。
 そして数分黙り込み、大天使が苛立ち始めた頃に神は口を開いた。


「よかろう、好きにするが良い。」
「……驚いた。通らないとばかり思ってたんだがな。」
「ただし、必ずここに帰る事。……我の叱責も忠告も無視したのは貴様だ。今は許可をするが、いずれ必ず地獄を見るだろう。」


 あまりにも簡単に折れて許可を出した神に、大天使は驚愕しながらも密かに喜んだ。
 しかし、この時の大天使は神の言う「いずれ必ず地獄を見るだろう」という言葉を軽く受け流してしまう。言葉の裏に隠された策略に気付かずに。



 本殿に一度行き、マイヤとの再会を果たした大天使。許可を得た事を伝えると、驚きながらも喜び空を泳ぐように舞った。
 一目散に湖に向かった二人は、レンガ造りの小屋に入り懐かしい空気を堪能した。百余年ぶりの居場所は昔と変わらず、とても清潔にされている。大天使が眠っている間、ディークは小屋を整備し、マイヤは大天使の状況をまめに共有していた。
 また三人で集まれるように。

 そして間も無くディークとも再会した。久しぶりに大天使の顔を見たディークは、大天使に抱き付くなり泣き出してしまった。マイヤから大怪我で眠り続けていた事を聞いていたからこそ、余計に心配していたのだろう。


「悪かったな。もう大丈夫だ。これで、いつでも会える。」


 そして三人は何度も湖に集まった。談笑をしたり湖で遊んだり、ただ昼寝をするだけの時もあった。なんて事ない平和な時間を過ごす三人。
 しかし、マイヤだけが気付いていた。神の策略に……



 とある日、大天使がいつも通りに湖へ行った後のことだ。この日だけ天空宮に残ると告げたマイヤは、離れにいる神に会いに行った。


「何用だ。」
「………ヴィントに何か吹き込みましたね。どう言う事ですか?悪魔が滅んだらヴィントを大天使にするなんて嘘を囁くなんて。」


 そう、神は風に愛された天使ヴィントに甘言を囁いたのだ。
 もちろん大天使は生まれながらのもので天使はなる事ができない。しかしそれを知る者はごく一部。何も知らないヴィントは神の言葉を信じ、着々と悪魔を滅ぼす準備を進めていた。


「何の事だ。」
「白々しいです!なんでそこまで兄様を苦しめる事しか考えていないのですか!?」
「我は彼奴あやつに告げている。地獄を見るだろう、とな。次代の神である自覚をさせるためなら悪魔如き滅んでも問題無かろう。」


 何を言おうと無駄だと悟ったマイヤは、ヴィントの元へ止めに向かった。

 しかし、時既に遅し。ヴィントはどこからか悪魔を攫って来たのだ。それもワインレッドの髪と鮮やかな赤い瞳、竜のような特徴を持った、誰かを彷彿ほうふつとさせる容姿の子供。


 ディークの幼い一人息子であるデュランだ。


 まだ六つの子供を攫い、悪魔の死ぬ条件を調べようとしていたようだ。悪魔は寿命が無い。また、まだ悪魔が独立していないとき、人間に処刑された悪魔もなかなか死ななかった。だから天使は効率よく殺す方法を幼子を使い探そうとした。

 元々戦いに特化していないマイヤはヴィントと張り合うなど出来ない。マイヤは味方に付くフリをして、時間稼ぎでもデュランを守る事を決めた。



 そして同時刻、デュランが天使に拐われた事が発覚した悪魔の国では、大天使とディークが怒りに震えていた。大天使は自分一人で助けに行こうとしたが、それよりも先にディークが乗り出してしまった。



 それが天魔大戦の始まり。我が子を奪われた魔王が、息子を取り戻すためだけに天使を襲撃した事が開戦の合図となってしまったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...