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55.天魔大戦 ⑥
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悪魔は天使に敵わない。それは絶対不変の世界のルール。例え戦う能力の無いマイヤが相手でも、悪魔や人間は傷一つ付けられない。
天使の元へデュランを取り戻しに殴り込んだディーク。大天使が彼を止めたのは、既に攻撃した後だった。勝機が全く無いと無理矢理抑え込み、悪魔の国に押し戻したのだ。しかし天使はそれを追跡し、悪魔の国全体に攻撃を始めてしまった。
瞬く間に国は壊れ、多くの命を失った。最後の砦として残った城も、どれほどの防護魔法をかけても少しずつ削れて行った。
防護に大天使も加わりなんとか持ち堪えたが、現在進行形で攻撃してくる天使を信用する悪魔はいない。そして誰も仕掛けたのが魔王であることも知らない。
悪魔達は、この襲撃が大天使のせいだと考えた。
そして、大天使もそれを否定しなかった。皆が尊敬し信用するディークを苦しませる言葉は言えなかった。
「………防護はこれでしばらく持つはずだ。これはオレの責任。オレが前線に立つ。」
「僕も行く!」
「バカか!?お前が叶う相手じゃ無い!」
「分かってる!でも……これは僕の責任だ。」
頑なに意見を変えないディークを渋々連れ、大天使は城を後にした。
一方マイヤは、ヴィントを推す天使達の中に上手く紛れ、デュランの側で警戒している。デュランは突如自身を攫った天使に怯え震えている。しかし、マイヤが幼い容姿と言うことも後押ししたか、少しだけ打ち解け始めていた。
「大丈夫。今は大人しくしててね。」
「でも……」
「心配しないで。きっと君の父様とボクの兄様が助けに来てくれるからね。」
マイヤからすれば根拠の無い助けだが、誰よりも強い大天使が付いていると安心している。しかし同時に、もう一つ疑問と不安もあった。それは神の事だ。
本殿の地下室、デュランが囚われている檻の側に神が自ら赴いた。突然のことで驚いたマイヤだが、むしろ好都合と捉え、ゆっくりと神に近付いた。
「神様、聞きたい事があります。少し移動しませんか?」
「要件ならここで言え。」
「子供と言えど聞かれたら神様が困ると思いますけど。いいんですか?……神様がなんで兄様を苦しませてるか、何と無く分かったんです。」
それを聞いた神は、地下牢に続く階段の下りてすぐの場所まで移動した。神自身は本当に気付いたとは思っていない。しかし、念には念をと二人だけで話す事にした。
「神様、ボクの予想が正しいなら……悲しいです。」
「さっさと言え。」
「分かりました。神様…、本当は兄様を苦しませる気なんて無いのでしょう?」
マイヤは告げた。
神が大天使を閉じ込める理由は、次の神だからでは無いと。
『心』を求める大天使を止める理由は、『心』が良く無いものだと思っているからだと。
ヴィントを唆し悪魔を攫ったのは、大天使に自身の考えが過ちだと思わせるためだと。
「兄様が大切なんでしょう?だから閉じ込めて、『心』なんてもので傷付かないよう隔離して、冷酷になるように育てた。」
「くだらん憶測だな。」
「……本当にそうでしょうか。神様だって『心』はあるじゃないですか。ボロボロに傷付けられた『心』が。」
マイヤは告げた。
神もかつて大天使だった頃は心を持っていたこと。
人間を愛し、異界からの客人と友人になったこと。
そしてその友人が、目の前で多くの人間を惨殺したこと。
神の友人とは、人間の体を変えて悪魔を生み出した異邦人だ。余程の人間嫌いで、幾つもの世界を旅しては人間を滅ぼそうとしているらしい。
異邦人の名は櫻。胴の長い龍に姿を変える事ができる、桜色の鱗と瞳が恐ろしく神秘的な半人半龍だ。
「ボクは水に愛されているんです。自然界を繰り返し巡る水は全てを記憶していますから、ボクが創られる前の世界だって分かるんですよ。」
「……それを、他の誰にも告げてないだろうな。」
「はい。神様が兄様を守ろうとしてる事は確信がありましたけど、気付いてからジュニア君以外とはほとんど話してませんから。」
神は己の行動が良いものでは無いと気付いていた。その上で大天使を閉じ込めていたのだ。
自分と同じように、『心』に苦しまないように。
心無い神に育つように。
「兄様は優しいです。誰よりも優しくて、純粋で、幼い心を持ってます。神様だって知ってますよね。兄様が聖なる子らに愛されていると……」
「分かっている、それ以上は何も言うな。……我は天使を連れ悪魔を襲撃する。天空宮からは誰もいなくなるだろうが、絶対に逃げてはならん。良いな。」
神は目線で合図した。遠回しな「その子供を逃がせ」の合図にマイヤは頷き、デュランの元へとゆっくり戻った。
しばらくして神が地下から遠く離れ、ようやくデュランと気軽に会話が出来るようになると、マイヤは溺れるように呼吸が乱れ始めた。
「ま、マイヤさん……!?」
「ごめ、ボク…、賭けに勝ったんだ……」
ただの天使が神と何度も言葉を交わすことがどれほどの負荷か。最悪の場合、不敬だ不良品だと消されてもおかしく無かった。そんなプレッシャーの中で真実を確かめたのは、理由があった。
マイヤは今の記憶を忘れないうちに黒の顔料にした。一言一句違える事の無いよう、記録をして魔法を使うため。この顔料で描かれた絵こそが天魔大戦の絵画なのだ。
マイヤはこの時から既に、神の大天使に対する気持ちを本人に伝える方法を考えていたのだ。本音が分かれば、傷付いてまで抵抗することも無くなるだろうと思っていた。穏便に、話し合いで何とかなると。
ただ平穏を求めていただけだったのだ。
天使の元へデュランを取り戻しに殴り込んだディーク。大天使が彼を止めたのは、既に攻撃した後だった。勝機が全く無いと無理矢理抑え込み、悪魔の国に押し戻したのだ。しかし天使はそれを追跡し、悪魔の国全体に攻撃を始めてしまった。
瞬く間に国は壊れ、多くの命を失った。最後の砦として残った城も、どれほどの防護魔法をかけても少しずつ削れて行った。
防護に大天使も加わりなんとか持ち堪えたが、現在進行形で攻撃してくる天使を信用する悪魔はいない。そして誰も仕掛けたのが魔王であることも知らない。
悪魔達は、この襲撃が大天使のせいだと考えた。
そして、大天使もそれを否定しなかった。皆が尊敬し信用するディークを苦しませる言葉は言えなかった。
「………防護はこれでしばらく持つはずだ。これはオレの責任。オレが前線に立つ。」
「僕も行く!」
「バカか!?お前が叶う相手じゃ無い!」
「分かってる!でも……これは僕の責任だ。」
頑なに意見を変えないディークを渋々連れ、大天使は城を後にした。
一方マイヤは、ヴィントを推す天使達の中に上手く紛れ、デュランの側で警戒している。デュランは突如自身を攫った天使に怯え震えている。しかし、マイヤが幼い容姿と言うことも後押ししたか、少しだけ打ち解け始めていた。
「大丈夫。今は大人しくしててね。」
「でも……」
「心配しないで。きっと君の父様とボクの兄様が助けに来てくれるからね。」
マイヤからすれば根拠の無い助けだが、誰よりも強い大天使が付いていると安心している。しかし同時に、もう一つ疑問と不安もあった。それは神の事だ。
本殿の地下室、デュランが囚われている檻の側に神が自ら赴いた。突然のことで驚いたマイヤだが、むしろ好都合と捉え、ゆっくりと神に近付いた。
「神様、聞きたい事があります。少し移動しませんか?」
「要件ならここで言え。」
「子供と言えど聞かれたら神様が困ると思いますけど。いいんですか?……神様がなんで兄様を苦しませてるか、何と無く分かったんです。」
それを聞いた神は、地下牢に続く階段の下りてすぐの場所まで移動した。神自身は本当に気付いたとは思っていない。しかし、念には念をと二人だけで話す事にした。
「神様、ボクの予想が正しいなら……悲しいです。」
「さっさと言え。」
「分かりました。神様…、本当は兄様を苦しませる気なんて無いのでしょう?」
マイヤは告げた。
神が大天使を閉じ込める理由は、次の神だからでは無いと。
『心』を求める大天使を止める理由は、『心』が良く無いものだと思っているからだと。
ヴィントを唆し悪魔を攫ったのは、大天使に自身の考えが過ちだと思わせるためだと。
「兄様が大切なんでしょう?だから閉じ込めて、『心』なんてもので傷付かないよう隔離して、冷酷になるように育てた。」
「くだらん憶測だな。」
「……本当にそうでしょうか。神様だって『心』はあるじゃないですか。ボロボロに傷付けられた『心』が。」
マイヤは告げた。
神もかつて大天使だった頃は心を持っていたこと。
人間を愛し、異界からの客人と友人になったこと。
そしてその友人が、目の前で多くの人間を惨殺したこと。
神の友人とは、人間の体を変えて悪魔を生み出した異邦人だ。余程の人間嫌いで、幾つもの世界を旅しては人間を滅ぼそうとしているらしい。
異邦人の名は櫻。胴の長い龍に姿を変える事ができる、桜色の鱗と瞳が恐ろしく神秘的な半人半龍だ。
「ボクは水に愛されているんです。自然界を繰り返し巡る水は全てを記憶していますから、ボクが創られる前の世界だって分かるんですよ。」
「……それを、他の誰にも告げてないだろうな。」
「はい。神様が兄様を守ろうとしてる事は確信がありましたけど、気付いてからジュニア君以外とはほとんど話してませんから。」
神は己の行動が良いものでは無いと気付いていた。その上で大天使を閉じ込めていたのだ。
自分と同じように、『心』に苦しまないように。
心無い神に育つように。
「兄様は優しいです。誰よりも優しくて、純粋で、幼い心を持ってます。神様だって知ってますよね。兄様が聖なる子らに愛されていると……」
「分かっている、それ以上は何も言うな。……我は天使を連れ悪魔を襲撃する。天空宮からは誰もいなくなるだろうが、絶対に逃げてはならん。良いな。」
神は目線で合図した。遠回しな「その子供を逃がせ」の合図にマイヤは頷き、デュランの元へとゆっくり戻った。
しばらくして神が地下から遠く離れ、ようやくデュランと気軽に会話が出来るようになると、マイヤは溺れるように呼吸が乱れ始めた。
「ま、マイヤさん……!?」
「ごめ、ボク…、賭けに勝ったんだ……」
ただの天使が神と何度も言葉を交わすことがどれほどの負荷か。最悪の場合、不敬だ不良品だと消されてもおかしく無かった。そんなプレッシャーの中で真実を確かめたのは、理由があった。
マイヤは今の記憶を忘れないうちに黒の顔料にした。一言一句違える事の無いよう、記録をして魔法を使うため。この顔料で描かれた絵こそが天魔大戦の絵画なのだ。
マイヤはこの時から既に、神の大天使に対する気持ちを本人に伝える方法を考えていたのだ。本音が分かれば、傷付いてまで抵抗することも無くなるだろうと思っていた。穏便に、話し合いで何とかなると。
ただ平穏を求めていただけだったのだ。
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