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翔が書いた物語
第29話:獣に変わる人々
しおりを挟む「私達の里は、チヒロの都よりも遥か以前、魔物の襲撃を受けました。森の木々は枯れ、鳥も獣も滅び、民もひどい怪我をしたのです」
老人スエッグは語る。
「その時、里に来られた旅人から不死の霊薬と呼ばれる秘薬を頂いて、一命を取り止めたのです」
そこで彼は言葉を切り、目を伏せる。
横に立つ少年も、同様に沈黙していた。
不死の霊薬というのが先刻見た水薬だと、リオは理解した。
「ところが、彼が去った直後、民の身体に異変が生じました」
アーヴが言う。
「私を含め、全員が獣に変化する様になったのです。中には正気を失い、人間に戻れなくなった者もいます」
「正気を?」
リオは人々の間に視線を巡らせた。
けれど、彼等に狂気は感じられない。
「発狂した者は、今ここにはおりません」
彼の疑問を察して、スエッグが言った。
それから、物静かな老人は語る。
「一ヶ月ほど前、北の空が青く輝いた時、アーヴ様はおっしゃいました『あれはすべてを救う方の光だ』と」
「……アーヴ様……?」
リオは傍らに立つ小柄な少年に目を向けた。
目が合い、少年はニコリと微笑む。
「名乗るのが遅れてしまいましたけど、僕はファルスの里長・アーヴ=フォシールといいます」
血の気の無い顔に浮かぶ笑みは儚く、脆い印象を与えた。
余命幾何もない様に思える、病弱な雰囲気。
自力で立てるようになったとはいえ、その身体は相変わらず痩せ細ったままで、とても健康とは思えなかった。
「アーヴ様は私達の中で唯一、鳥に変化出来ました。その翼で里を出て、今こうして貴方を連れて戻られた」
スエッグも他の村人たちも、その眼差しは期待というよりも縋るような思いが感じられる。
「貴方をお連れしたわけを話します。一緒に来ていただけますか?」
アーヴが言う。
その言葉にリオが頷くと、琥珀色の髪と瞳をもつ少年は、先に立って歩き出した。
枯れた木々の向こうに去ってゆく二人を、獣の姿に変化してゆく人々が見送る。
二十対もの澄んだ瞳は、枝ごしに注がれる陽光を反射して、滑らかな水面の様に光っていた。
「ようやく解放される時がきましたね」
少年たちが移動した後、獣の姿になった村人の1人がスエッグに話しかける。
「ああ、本当に長かった」
穏やかに、呟くように老人は言った。
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