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翔が書いた物語
第30話:獣の爪
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「……遂に来てくれた……聖なる者が……」
暗闇の中に漏れる、掠れた呟き。
「……やっと……私も彼等も戻れる……」
姿は見えない。声だけが虚無の空間に響いている。
「……さあ……早く救い出してくれ……輪の中へ……!」
黒い闇の中で、仄かな紅い光が揺れた。
「……?」
リオは、ふと背後を振り返った。
「どうかしましたか?」
突然立ち止まり、何かを探すようにキョロキョロする彼を見て、アーヴも歩みを止め、首を傾げる。
「……今……誰かの声が……」
そう言ったものの、二人以外に人影は見当たらず、少年たちは再び歩き出した。
密集する立ち枯れの木々はその枝を絡ませ、視界を随分遮っている。
しばらく進むと、茶色い蔓草の向こうに、小さな洞穴が見え始めた。
「この中に、ファルスの人々が本来の姿に戻れる鍵があります」
枯れた草が簾の様に覆う入り口の、数メートル前まで来ると、今までよりも声のトーンを落とし、ファルスの幼き里長は説明する。
「けれど、村人たちや僕は、それに触れる事が出来ないのです」
目を伏せると、彼は一層病弱に見えた。
「お願いします。ここに封じられた大いなる力を解き放ってください」
すがるような瞳がリオへと向けられた時、二人の背後で枯れ枝の折れる音がした。
「?!」
振り返った先には、三頭の獣たちがいる。
頭だけが人間の若い男で、首から下は豹に似た獣の姿という、怪物じみた彼等の全身は、黒炭の如き色。
エルティシアに来てから、リオは一度しかその色を見た事がない。
一ヶ月前、水の妖精の空間を食い荒らしていた、アメーバ状の怪物。
のっそりと歩み寄ってくる獣達は、それと同じに黒かった。
(確か、この世界に黒い色をした生き物はいないって……)
リオはアーヴを背後に庇った。
ラーナ神殿で得た知識が、彼に危険を感じさせる。
三頭のうち一頭が跳躍した。
「逃げろ!」
鋭く言い放つと、リオは華奢な少年を押し退けた。
直後、漆黒の猛獣が飛びかかる。
小刀の様な爪が、リオの両肩にズブリと突き刺さった。
「うぁっ!」
両肩に激痛を感じた時には、リオは地面に押し倒されていた。
すぐ間近に、血色の目をカッと剥いた男の不気味な顔がある。
(……魔物って……こいつらの事か……?)
リオは反撃しようとするが、【力】が発動しない。
燠火を思わせる口腔から饐えた臭いがする息を吐きかけられ、背中に冷たい汗が流れた。
以前倒したアメーバ状の魔物はリオを傷つけられなかったが、今目の前にいる怪物の爪は容赦なく肩の肉に食い込んでくる。
不気味な男の顔から視線を外せず、リオは頬が引き吊るのを感じた。
暗闇の中に漏れる、掠れた呟き。
「……やっと……私も彼等も戻れる……」
姿は見えない。声だけが虚無の空間に響いている。
「……さあ……早く救い出してくれ……輪の中へ……!」
黒い闇の中で、仄かな紅い光が揺れた。
「……?」
リオは、ふと背後を振り返った。
「どうかしましたか?」
突然立ち止まり、何かを探すようにキョロキョロする彼を見て、アーヴも歩みを止め、首を傾げる。
「……今……誰かの声が……」
そう言ったものの、二人以外に人影は見当たらず、少年たちは再び歩き出した。
密集する立ち枯れの木々はその枝を絡ませ、視界を随分遮っている。
しばらく進むと、茶色い蔓草の向こうに、小さな洞穴が見え始めた。
「この中に、ファルスの人々が本来の姿に戻れる鍵があります」
枯れた草が簾の様に覆う入り口の、数メートル前まで来ると、今までよりも声のトーンを落とし、ファルスの幼き里長は説明する。
「けれど、村人たちや僕は、それに触れる事が出来ないのです」
目を伏せると、彼は一層病弱に見えた。
「お願いします。ここに封じられた大いなる力を解き放ってください」
すがるような瞳がリオへと向けられた時、二人の背後で枯れ枝の折れる音がした。
「?!」
振り返った先には、三頭の獣たちがいる。
頭だけが人間の若い男で、首から下は豹に似た獣の姿という、怪物じみた彼等の全身は、黒炭の如き色。
エルティシアに来てから、リオは一度しかその色を見た事がない。
一ヶ月前、水の妖精の空間を食い荒らしていた、アメーバ状の怪物。
のっそりと歩み寄ってくる獣達は、それと同じに黒かった。
(確か、この世界に黒い色をした生き物はいないって……)
リオはアーヴを背後に庇った。
ラーナ神殿で得た知識が、彼に危険を感じさせる。
三頭のうち一頭が跳躍した。
「逃げろ!」
鋭く言い放つと、リオは華奢な少年を押し退けた。
直後、漆黒の猛獣が飛びかかる。
小刀の様な爪が、リオの両肩にズブリと突き刺さった。
「うぁっ!」
両肩に激痛を感じた時には、リオは地面に押し倒されていた。
すぐ間近に、血色の目をカッと剥いた男の不気味な顔がある。
(……魔物って……こいつらの事か……?)
リオは反撃しようとするが、【力】が発動しない。
燠火を思わせる口腔から饐えた臭いがする息を吐きかけられ、背中に冷たい汗が流れた。
以前倒したアメーバ状の魔物はリオを傷つけられなかったが、今目の前にいる怪物の爪は容赦なく肩の肉に食い込んでくる。
不気味な男の顔から視線を外せず、リオは頬が引き吊るのを感じた。
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