最強超人は異世界にてスマホを使う

萩場ぬし

文字の大きさ
369 / 385

ポケットの中に

しおりを挟む
「はぁ~……」

 俺はゲームの世界から帰った直後に溜め息を零しつつ首に手を当ててゴキリと音を鳴らす。
 やっぱりこの違和感には慣れない。ゲームから現実に戻ってきた時のこの
 横ではレトナたちが和気あいあいと「楽しかったな」「色々と凄かったですね!」などとそれぞれ感想を口にしている。
 ガ・ルーとかいう新しい敵が出てきたことでストーリーが発展しそうだというところだったが、そろそろ時間だからやめようとなってしまったためレトナが少し駄々をこねたりもした。
 とはいえ今はゲームに本腰を入れるにはまだやることがあるからそちらを優先するしかない。
 俺たちがいない間はあの世界の時間は止まってるようだし、急がなくてもいいだろう。

「時間は……」

 時間を気にしようとしたところで俺はポケットの中に何か違和感があることに気付いた。

「夕食のお時間でございます」

 俺がその違和感に気を取られていた時に背後からジークがぬっと出てきて答え、俺以外のメンバーが全員「うわっ!?」と声を出して驚く。俺でさえ少しビクッと反応してしまっちまった。
 ヴェルネに至ってはその勢いでジークの頭を引っ叩いてしまっていたが、叩かれた本人は気にした様子もなく「ホホホ」と愉快そうに笑って去って行った。
 むしろ叩いた側のヴェルネが胸を押えて息を切らしていた様子。相当驚いたらしい。

――――
―――
――


 食事を済ませた俺はヤトと少し話していた。

「竜の心臓、か……」

 ポケットの中にあったのはまさかのガ・ルーから貰った戦利品である「黒竜の心臓の成れの果て」だった。
 心臓というには余りにも歪な形をしているが、ヤトは疑うこともなく真剣な表情でそれを観察している。

「たしかにこれは竜の心臓だな。しかもかなり長く生きた竜のやつだ」

 どうやらガ・ルーの言っていたことは間違いではないことが証明されたらしい。

「どこでこれを手に入れたんだ?」

「今行ってきたゲームの中の世界」

「そこに竜がいたのか?」

「いや、別の世界で竜を殺したってやつがそれをくれた」

「そうか……」

 ヤトは呟くようにそう答えると残念そうに竜の心臓を見つめる。
 恐らくではあるが……この世界にも竜はいくらかいるだろうが、自分と同じほど生きた竜が他にもいるかもという期待をしたのだろうか。

「同じ竜に聞くのはちょっと気が引けるが、それの使い道ってなんかあるのかと思ってな」

「竜の心臓の使い道を竜に聞くのはたしかに人の心がないな!」

 ハハハハと笑うヤト。
 まぁ、気にした様子がないし、そうだと踏んだから聞いたわけだが。

「ふむ……必要な素材を集めれば副作用はあれど人体を強化する秘薬のようなものが作れるな。しかも長く生きた竜であればその分効果も強くなる」

「秘薬ねぇ……その副作用ってのは?」

「くしゃみが止まらなくなる」

 ショボッ……

「マジで?」

「冗談だ。言ってしまえば種族が根本的に変わってしまう」

「種族が……根本的に?」

 俺が気になったところを聞き返すとヤトが頷く。

「例えば今、お前さんの状態は人間でありながら吸血鬼のように長い寿命を持っている。だが血を飲みたいという衝動はないだろう?」

「……そうだな」

 言われてみればそうだ。ルルアと契約して寿命が伸びたと言われていたが、今までと何も変わらず過ごしているからその実感がない。今でも何かの冗談じゃないかとさえ思うほどに何も変化無い。

「それが完全に竜になる、ということだ。寿命が竜と同じになるだけでなく姿も竜になり、生の肉でさえ好んで食うようになる。最悪なのは……しばらくの間、その者は本能的になり自我が消えてしまうことだろう」

「……それって大丈夫じゃないよな?つまり竜の姿で暴れ回るってことだろ」

「必ずしもそうとは限らないが……とはいえ若い竜はたしかに血気盛んだから近くに人間や魔族がいれば襲いかかるだろうな。だからと言って誰もいなければ巣を作るために飛び立ってどこかへ消えてしまうだろう。しかもだ」

 そこでヤトが疲れたように一息吐いて言葉を続ける。

「その『しばらくの間』が過ぎて自我を取り戻した後はどうなるかわからん。竜の姿から人に戻ることができずに絶望して自ら命を絶つか廃人となるか……」

「……まるで見てきたような言い方をしてるけど、前にもそういう奴がいたのか?」

 俺の問いにヤトは昔を思い出すようにうつむいて少し黙り込む。

「……あぁ、人間の中にいた『英雄』と呼ばれた男がな。そいつもお前ほどではなくとも竜を打ち倒せる強さを持っていた。だが――」

 ヤトは過去にいた者の末路を話した。
 何をとち狂ったのか、倒した竜の心臓を取り出してその場で食べてしまったこと。
 すると最初は力が上がっただけだったのが時間が経つにつれて竜のような姿へと変化していき、そして完全に竜と成ってしまった時にソイツが育ってきた村を本人の手で焼き払ってしまったこと。
 そしてその場を後にして自分の巣を作り、自我を取り戻して……

「……奴は全て覚えていたがために発狂して自分の首に噛み付き自害してしまったんだ」

「…………」

 まるでちょっとした鬱展開のあるアニメみたいだ、という感想は心の中に留めておいた。
 少なくともヤトから感じる悲しみは本物で、作り話でなく過去の出来事だったことと、その英雄とヤトの間には何かしらの縁があったのだろうと推測したからである。

「……ならこの心臓は下手な使い方をしない方がいいってことか」

「そうだな、少なくとも食用には向かないだろう。そんなものよりお前さんが作ってくれる甘菓子を食べてる方がよほど有意義だ」

 ヤトはフッと笑っていつもの調子に戻って答える。
 だが……何より気になるのは、なぜゲーム内で貰ったものが現実に持ち込めたのだろうか、ということだった。
 ポケットからスマホを取り出して観察する。
 ……今更だがやっぱり、このスマホは普通じゃない気がすると思えてならない。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

異世界で一番の紳士たれ!

だんぞう
ファンタジー
十五歳の誕生日をぼっちで過ごしていた利照はその夜、熱を出して布団にくるまり、目覚めると見知らぬ世界でリテルとして生きていた。 リテルの記憶を参照はできるものの、主観も思考も利照の側にあることに混乱しているさなか、幼馴染のケティが彼のベッドのすぐ隣へと座る。 リテルの記憶の中から彼女との約束を思いだし、戸惑いながらもケティと触れ合った直後、自身の身に降り掛かった災難のため、村人を助けるため、単身、魔女に会いに行くことにした彼は、魔女の館で興奮するほどの学びを体験する。 異世界で優しくされながらも感じる疎外感。命を脅かされる危険な出会い。どこかで元の世界とのつながりを感じながら、時には理不尽な禍に耐えながらも、自分の運命を切り拓いてゆく物語。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、 優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、 俺は必死に、置いていかれないようについていった。 自分には何もできないと思っていた。 それでも、少しでも役に立ちたくて、 誰にも迷惑をかけないようにと、 夜な夜な一人でダンジョンに潜り、力を磨いた。 仲間を護れるなら… そう思って使った支援魔法や探知魔法も、 気づかれないよう、そっと重ねていただけだった。 だけどある日、告げられた。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、優しさからの判断だった。 俺も分かっていた。だから、何も言えなかった。 こうして俺は、静かにパーティを離れた。 これからは一人で、穏やかに生きていこう。 そう思っていたし、そのはずだった。 …だけど、ダンジョンの地下で古代竜の魂と出会って、 また少し、世界が騒がしくなってきたようです。 ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

処理中です...