最強超人は異世界にてスマホを使う

萩場ぬし

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仕事が早い男

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 目の前にいる男は不気味な仮面で顔全体を隠しているが、隙間から見える目には魔族特有の黒さが見られないことから今噂されている人間の男なのだとすぐにわかった。

「忘れ物?」

 男は質問の意図がわかっていないかのように首を傾げる。

「まさか『やっぱやめた』って言いに来たわけじゃないでしょ?」

 少し皮肉っぽく言って笑う。
 挑発したいわけじゃないけど、責任者としての立場もあるからあまり調子に乗られても困るというのもある。
 流石にこれで怒るようなら出て行ってもらいたいところだけど……

「いいや?ただ仕事が終わったから報告しに戻っただけだけど」

「そう、仕事が終わっただけ……え?」

 そこまで短気じゃなかったことにホッとしながらも、その言葉に戸惑った。
 彼がここを去ってからそこまで時間は経ってない。嘘にしても雑過ぎるんだけど……

「えっと……ジーちゃんたちは?」

「もうすぐ追い付くんじゃないか?」

 彼がそう言って扉の方に視線を向けると、その言葉通りにジーちゃんたちが扉をくぐって入って来る。
 その彼らの息は絶え絶えだった。

「か、カズ様……もう着いていたのですね……」

「は、速過ぎるんだけど……あれ人間が、っていうか生物が出せる速度超えてません……?」

「まだお前らが追い付ける速度ギリギリにして手加減してやったんだから文句言うなよ。次から置いてくぞ」

 なんなんだろう、この光景は。
 裏で動いている者なら誰もが憧れの人物となっているジーちゃんが、まるで子供のような扱いをされてる。
 演技……じゃない?ジーちゃんたち二人とも凄い汗だし……

「え、本当に終わらせてきたの?冗談じゃなくて?」

「信じ難いかもしれませんが事実です。ターゲットの邸宅への侵入から書類の発見、脱出までありえないほどスピーディに済ませておられましたよ。しかも巡回している者の横で気配を消して気付かれずに並行して歩くなど、遊ぶ余裕まで見受けられました」

 一体どこから突っ込めばいいのか。
 いや、まだ仕事を早く終わらせたのはいいとしよう。そこに遊ぶ余裕があるとはどういうことか。
 一歩間違えれば、とか考えないのかこの男は?
 すると人間の男……カズと呼ばれた奴が机の上に大量の紙を出てきた。今どこから取り出したの?

「とりあえず本当に横領してるっぽい証拠と、裏で危険薬物の取り扱いや非合法の奴隷売買をしている証拠を見つけてきた」

「本当にこの短い間で見つけて持って帰ってきたって言うの……?」

 何枚かの紙を見てみると、たしかに横領していたりするのがわかる数値が記されていた。
 しかも無理矢理奴隷にさせて働かせているという直筆で書かれた手紙の文章もあるし、決定的と言えば家紋の押印さえある。
 これだけ揃っていれば文句無しだわ……

「ありがとう……これなら完璧だわ。お疲れ様」

「ならよかった。ところで……さっきから俺を睨んでるソイツは?」

 シェリルが頬を膨らませて睨んでいることに気付いたカズが聞いてくる。

「ソイツはシェリル。あんたより少し早く入ってるから、一応先輩になるからね」

「そうか、それじゃあよろしくな先輩」

 気軽に手を出して握手を求めるカズ。しかしシェリルは汚物でも見るかのような目でその手を見下していた。

「嫌です。なんでよろしくしなきゃならないんですか?」

 シェリルは腕を組んで、さも当然のように上から目線でそう返した。
 さっきの出来事などなかったような振る舞いに周囲で聞き耳を立ててにいた奴らが引きつった笑いをする。
 そして拒絶された本人はというと……キョトンとはしてるが気にしてはいないようだった。

「ゴメン、ソイツ男嫌いなんだよ」

「ああ、そういう……」

 シェリルの言動を理解すると彼は手を引っ込める。

「まぁ、さっきのこともあるし、それなら無理によろしくしなくていいか」

 カズは理解を示しながらあたしの方を向く。

「んで、俺はここで働くってことでいいのか?」

「ああ、優秀な人材は歓迎だからね。それにせめてあんたが減らした奴の分の働きは見せてよ?」

 「しっかり働け」という遠回しな言い方に流石のカズも気まずかったのか頭を掻きながら視線を逸らす。なんだ、案外可愛いところもあるんじゃないか。

「改めてようこそ、暗躍の裏ギルドへ。話の流れで聞いていたけど、あんたの口から名前を聞いても?あとは得意分野とかも教えてくれると助かる」

「カズだ、柏木 和。得意分野と言ってもある程度のことはできるから問題ないと思う」

 まるで何でもできると言っているみたいな発言に聞こえてくる。
 これで本当に一国の王様の首を取ってこいと無茶振りしたとしても平然とやって来そうで怖い。

「ならその言葉を信じて分野を問わずに依頼を任せることにするわ。『苦手だからパス』なんて言わないでよ?」

「ははは、俺のことは信じないのに俺の言葉を信じるって面白い話だな」

 軽く笑ってそう言うカズ。……もしかしてさっきの話聞かれてた?

「聞かれる前に言っとくけど、俺はソイツの今の感情や適当な嘘を見抜くのも得意だぞ。だから今お前が図星を突かれたって思ったのもわかったぞ」

 つまり心を読まれるも同然ということ?
 何それ、それじゃあまるで化け物みたいじゃない……
 ジーちゃんたちを見ると「仕方ない」「そういう人だから」と言うかのように諦めた表情で微笑んでいた。
 彼らがそんな顔をしてしまうほど、このカズという人間は規格外なのらしい。
 はぁ……そんな奴を受け入れたのを喜ぶべきかどう反応すればいいのか……

「とりあえず、俺とお前はよろしくしておくか?」

 考え事をしているあたしにそう声をかけ、手を出して握手を求めてくるカズ。
 その握手に応えようとしたが……

 ――ペシッ!

 カズの手をシェリルが叩き落とす。

「その汚い手で姐さんに触らないでください」

 彼女のあまりにも容赦のない言葉にその場が凍り付いた。
 常々男嫌いだとは思っていたが、ここまでとは……
 流石のカズも怒りはしないものの、唇を尖らせて納得いかない顔をしていた。
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