最強超人は異世界にてスマホを使う

萩場ぬし

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仕事させるなら給料を

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「うぅ……」

 目の前の男が呻き声を漏らして目を覚ます。
 豪鬼と呼ばれたユースティックを雇い、シェリルを捉えたアンガルドだった。

「ここは……?」

「よう、目が覚めたか?」

 目を半開きで寝ぼけた様子のアンガルドに声をかける。
 奴が俺の顔を認識すると目がはっきりと開かれた。そして同時に体が椅子に縛り付けられて動けなくされている自分の置かれた状況にも目が入る。

「な……なぜ私がこのような姿に⁉ 私はたしか首に何か刺されて……殺されたのでは?」

 自分がこうなる経緯を思い出そうとするアンガルド。

「殺されたんじゃなく、眠らされたのさ。もっとも、これから殺された方がマシだったと思うかもしれんがね」

 そこにもう一人が現れる。
 二メートルを超える屈強な巨漢の三つ目魔族、ユースティックだった。

「ユースティック⁉ お前、死んだんじゃ……」

「死んださ、傭兵としてな」

 ユースティックの言葉に目を丸くするアンガルド。

「言っただろ、『合わせてやる』って」

 そう、屁理屈になるが、敵だったユースティックを俺個人が一時的なものではなく毎月給料を払う契約で私兵として彼を雇い、傭兵として殺したというわけだ。言い方は紛らわしかったが、本人を殺したとは言ってないしな。
 このことを知っているのはその場にいたジークとマヤルのみ。
 そして彼らに相談し、アンガルドをすぐには殺さずに捉えることとなった。目的はコイツとつるんでいる腐った奴の洗い出し。
 それを芋づる式にやっていけば一掃できるという魂胆である。別に依頼されたわけじゃないが、こういう掃除は進んでやる性格なもんでね。

「クソッ、この裏切り者が!」

「傭兵は金を積まれれば簡単に寝返る奴が多いんだよ。まぁ、これからはその傭兵業は廃業だがな」

 ユースティックはアンガルドの罵倒も気にせずに笑い、横目で視線を俺に送ってくる。
 元々ユースティックが優秀と言っても必要な時以外には雇われないし、そんな不安定な生活にも嫌気が差していたらしいので、俺の提案はちょうどよかったようだ。

「殺すならさっさと殺せ!お前らに情報を売るくらいなら死んだ方がマシだ!」

「だから言ってるだろ、殺された方がマシだったと思わせるって。安心しろ、こう見えて俺は人体にそこそこの知識があるんだ。どうやれば人が簡単に死んでどうすれば死なないか……早く情報を渡して、今すぐにでも殺してくれって懇願するまで絶対に死なせないからな」

 アンガルドの肩を掴んで笑みを浮かべてそう言ってやると、その体が震え始める。絶望し、後悔し、涙すら浮かべて失禁してしまっているが、もう遅い。

「……俺もここにいなきゃダメか?」

 ユースティックもここから逃げ出したいと言いたげに苦笑いをして言うが、もちろんダメだ。

「お前には俺に雇われる上でどんな人間かってのを知っておいてくれ」

 浮かべていた笑みを消し、圧を混じえんがらそう言い、アンガルドの顔面が歪むほど片手で強めに掴む。

「この世にはクソみたいな人間はいくらでもいるが、その中でもお前らにとって最悪な部類だってな」

――――
―――
――


 時間はすでに夜中の三時を回り、俺とユースティックはそんな深夜の森を出歩いていた。

「あんな恐ろしいもの、今までの傭兵稼業で……いや、人生全体で初めての体験だったよ……」

「よかったな、初体験を済ませられて……って、男同士でこの会話はアウトか?」

 周りに人がいないからそこまで気にしなくていいけど、それでも言った俺自身がちょっと気持ち悪いと思った。

「それで雇うと言ったが、俺は基本何をしていればいいんだ?」

 ユースティックはさっきまで見ていた光景を少しでも忘れようと、話題を変えようとする。

「あー、そうだな……」

「俺は基本用心棒として何かが起きる時にしか雇われないから、こんな感じで長期的に雇われたのは初めてなんだ。敵を倒す追い払う以外で何かすることがあるか?」

 とりあえずユースティックという達人の人材が貴重だったから雇うって形にしただけで、何をさせるかまでは考えてなかった。
 でも少なくとも一つは決まっているので、それを伝えることにする。

「まずは毎日、俺と手合わせをしてもらう」

「手合わせ……戦うのか?」

 眉をひそめて困惑した様子のユースティックに頷く。

「最近久しくお前レベルの奴と戦ってなかったから、俺にとっても鍛錬になるんだよ。あとは……まぁ、俺の弟子たちともやってもらうかな。お互いに強くなるための鍛錬相手になってもらうってことで」

「なんか……ずいぶん真っ当なことをやらせるんだな?いや、それでいいのかもしれないけど……」

 一体何をさせられると考えてたんだか……

「ま、ともかくこれからよろしくな……主様?」

 一応これから世話になる相手ということで呼び方に迷ったらしいユースティックだったが、そう呼ぶことに決めたようだ。
 主様……なんかむず痒い気がするけど、俺たちの関係の線引きとしてそう呼ばせた方がいいのかもしれない……と自分に言い聞かせることにしておいた。

「あ、そういや前金ってことで、先に渡しておくか」

「何をだ?」

 俺が「ほい」と拳にした手をユースティックに向かって突き出し、それを受取ろうとする彼の手に金貨を一枚落として渡した。

「えっ……多くないか?しかも貰うにしても早過ぎる!」

「いつもはどのくらい貰ってたんだ?」

「全部で多くて銀貨三十枚から五十枚だ。気前の良い客だって前金は銀貨十枚、二十枚しか渡してこないし、前金を貰うこと自体少ない。なのに前金でいきなり金貨を渡してくるなんて……」

 たしかにそれと比較すると多いと思う。だが……

「多くはないだろ。傭兵の時って多くてどれくらいの日数雇われてたんだ?」

「少ない時は一週間や二週間だったりしたが……」

「それで銀貨数十枚だってんなら、一か月丸々雇ってる俺から金貨一枚出すくらい妥当だと思うんだけど?なんならお前がこれから泊まる宿代や、装備を整えるための資金とかもこっちで出すしな」

「それは流石にやり過ぎじゃないか⁉」

 声を大にして驚くユースティック。しかし日本で生きてきた俺にとって、人を雇うというのはそれくらいするっていう認識があったりする。誰も好き好んでブラックな職場なんかに就きたくないもの。
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