最強超人は異世界にてスマホを使う

萩場ぬし

文字の大きさ
180 / 385

一瞬の強さ

しおりを挟む
「ぬあぁぁぁぁっ!?」

 ピオンズに襲われ始めてから少し経った頃、ジルはサソリの大群に囲まれて必死に攻防を繰り広げていた。
 ヤトのヒント通りにピオンズの関節を狙いつつ、当たれば風穴が空いて即死になり得る鋭い鎌のような攻撃から身を守り続けてかれこれ二十分が経とうとしていた。

「よかったな、コイツらはそこそこ頭が良い。確実に殺そうと奴らは鋭い爪で『突く』ことだけしかしてこないから、そこだけ注意していればいい」

「そんな簡単にっ……言わないでくださいっ!」

「はっはっは、何を言うとる。簡単だったら鍛錬にならんだろ?」

 スパルタな彼の言葉にジルは「うわぁぁぁぁぁぁぁっ‼」と叫んで自棄を起こす。それでも彼の攻撃はピオンズの関節を攻撃し、確実に数を減らしていた。

「あともう少し……!」

「……おっ、ここで朗報だ」

「え?」

「面白い奴が来たぞ」

 ジルがヤトの発言に驚き手を止めると、残り数体となったピオンズたちの後方が爆発して砂塵を巻き上げる。
 そして砂塵の中から現れたのはビルのように見上げるほど巨大な人の体を持つモグラ頭の何かだった。

「な、なんですかアレ!?」

「あれはたしか……モグモグだ。砂漠地帯にしか生息しない珍しい奴だ。普段は地中で過しているが、腹が減るとああやってたまに地上に出てくる。飯を食う時以外は温厚な性格をしているぞ」

「ご飯を食べる時以外は……」

 ジルがまさかとモグモグの様子を見ると、先程まで自分が苦戦していたピオンズをパンでも食べているかのように硬い殻ごとバキバキと音を立てながら食べていた。

「……………………」

 その圧倒的な威圧感を感じさせる食事風景を見たジルは唖然とし意気消沈してしまう。

「さっきも言った通り、コイツは食事以外は基本温厚だ。こっちから手を出して邪魔をしなければ襲ってこないさ」

「それじゃあ、早くここから離れ――」

 その場を離れようとするジルの言葉をヤトは無視し、近くにあった手頃な石をモグモグに向けて投げ付けた。
 ヤトの投げた石はそれなりの威力があったようで、「ゴスッ」と鈍い音を立てさせてモグモグの巨体が傾く。
 すると今までピオンズに向いていたモグモグの意識がジルたちへと向けられる。
 殺気とも言えるその強い威圧感に、ジルは半笑いになりながら全身を震わせた。

「え、ちょっとヤトさん……?」

「私からのアドバイスは一つだ。常に強く生きることを考えろ。それは力の強さでもなく、技の複雑さでもなく、心の強さだ」

 そう言ってヤトは翼を生やして早々と飛び去ってしまう。
 彼の一連の行動に釈然としないものを感じつつも、ジルは不敵に笑う。

「これも『お膳立て』なのかな……?」

 そう呟くとジルは凶悪な歯を剥き出しにしたモグモグに対してグルルと獣のように唸る。
 モグモグは例え足元に落ちている道端の小石だったとしても、それが自分の邪魔をするのであれば全力で排除しようとする。その体格に似合わない速度で拳を振り上げてジルを攻撃した。
 その巨体から繰り出される攻撃は風圧だけで周囲のものを吹き飛ばしてしまうほどの威力があった。
 砂塵が巻き上がり、地面の様子が見えなくなってしまう。
 モグモグはその小動物の見た目とは裏腹に獣らしからぬ笑いを浮かべる。しかしその煙の中からジルが飛び出し、モグモグの腕を道代わりに駆け上がって行く。

「ッ!?」

「でやっ!」

 彼の思わぬ行動にモグモグは驚き、ジルがその顔を蹴る。しかし――

「ぐっ……!」

 ジルの素早さと器用さには目を見張るものがあるが、カズや竜であるヤトほどの攻撃力を持たないために決定打が足りず、ジルの蹴りは通用していなかった。
 モグモグは再び気味の悪い笑みを浮かべ、空中で身動き取れなくなったジルが叩き落してしまう。
 まるで虫を払うような軽い一撃だったが、それをまともに食らったジルは満身創痍となっていた。

「……かはっ」

 短い時間意識を失っていたジルは血反吐を吐いて起き上がる。

「や……っぱり、ディールさんと手合わせした時、とは……全然違うな……」

 頭からも流血してすでに満身創痍のジルがフラフラと立ち上がる。だがそんな彼の目はまだ死んではいなかった。

「アドバイス……強く生き残ることを、考える……心の強さ……」

 立ち上がりながらジルがボソリと小さい声で呟き、今まで付けていた手袋を外す。
 するとその横にヤトが準備をしていたかのように現れて青色の液体が入った小瓶を渡す。

「ようやく本気で戦う気になったか?」

「俺は……いつだって本気ですよ?」

 ジルがそう言って小瓶を受け取って中身をすぐに飲み干す。

「鍛錬だと言って『枷』をした状態で出す本気などたかが知れているだろう?そんな余計なことなど考えず、獣の本能を剥き出して戦え。ただアレを喰らうことだけを考えろ」

 ヤトに背中を押され、ジルは再び闘気を纏ってモグモグの前に立ちはだかる。

「何度も言うが、お前に今が強くなるために必要なのは『生存本能』だ」

 後方でそう口にしたヤトの言葉が引き金になり、ジルの様子が一変した。

「まだ獣化にも満たないが、その初期段階に入った。そして今この時代には魔法という便利なものがある」

「……部位強化」

 そう呟くと足の筋肉が一回り膨張し、消えるように目にも止まらぬ速さでその場から移動したジルはすでにモグモグの頬辺りにいた。
 つい先程蹴りを入れても全くのダメージが入らなかったところと同じ箇所。だが――

「風魔法で足場を作り、足腰に力が入るようにする……!」

 疑似的な足場をその場で作り出し、モグモグを殴る。そして拳が当たるその一瞬だけ足と同じように筋肉が僅かに膨張し、ビルのような巨体を持つモグモグが傾いてその場に倒れてしまった。

「ッ⁉」

 まさか自分より小さい、しかも小石程度の者に殴り飛ばされるなど想定していなかったモグモグは倒れたまま固まり困惑していた。
 ジルが使ったそれらの技は以前、カズたちが話題にした「部分的に身体を強化する魔法」である。

「……ははっ、体を強化する『スタートアップ』、その簡易版。しかし使い勝手が良いとは言っても込める魔力によっては負担が大きくなり、一つ間違えれば四肢を壊しかねない技。だが殴る蹴るを行う刹那その一瞬だけ発動すればその負担もかなり減る。だが失敗すればそのリスクは……これを教えたのはカズか?なんとも恐ろしい技を考えたものだ」

 そう言いつつもその状況を上空から楽しそうに眺めるヤト。
 するとしばらく固まっていたモグモグは正気に戻ったのか急いで起き上がり、「キュ~!」と低くも可愛らしい鳴き声を発しながら地面に潜った。

「…………あれ?」

 「今度は地面から襲いかかってくるのか」と警戒したジルだったが、襲ってくるどころか全くの逆方向へと向かって行った。それはつまり……

「逃げた……?」

 モグモグの意外な行動に間の抜けた顔をするジル。そんな呆けた彼の横にヤトが降り立つ。

「アイツは温厚な性格だと言っただろう?だがどちらかと言えば自分より強者には歯向かえない臆病な性格でもあるんだ。つまりアイツは小さいから見下していた相手が思っていたよりも強かったから逃げたというわけだ」

「なんというか……清々しいほど素直ですね」

 最後まで戦う気だったジルにとってこの結果はただ呆然と立ち尽くすしかなかったのだった。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

異世界で一番の紳士たれ!

だんぞう
ファンタジー
十五歳の誕生日をぼっちで過ごしていた利照はその夜、熱を出して布団にくるまり、目覚めると見知らぬ世界でリテルとして生きていた。 リテルの記憶を参照はできるものの、主観も思考も利照の側にあることに混乱しているさなか、幼馴染のケティが彼のベッドのすぐ隣へと座る。 リテルの記憶の中から彼女との約束を思いだし、戸惑いながらもケティと触れ合った直後、自身の身に降り掛かった災難のため、村人を助けるため、単身、魔女に会いに行くことにした彼は、魔女の館で興奮するほどの学びを体験する。 異世界で優しくされながらも感じる疎外感。命を脅かされる危険な出会い。どこかで元の世界とのつながりを感じながら、時には理不尽な禍に耐えながらも、自分の運命を切り拓いてゆく物語。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、 優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、 俺は必死に、置いていかれないようについていった。 自分には何もできないと思っていた。 それでも、少しでも役に立ちたくて、 誰にも迷惑をかけないようにと、 夜な夜な一人でダンジョンに潜り、力を磨いた。 仲間を護れるなら… そう思って使った支援魔法や探知魔法も、 気づかれないよう、そっと重ねていただけだった。 だけどある日、告げられた。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、優しさからの判断だった。 俺も分かっていた。だから、何も言えなかった。 こうして俺は、静かにパーティを離れた。 これからは一人で、穏やかに生きていこう。 そう思っていたし、そのはずだった。 …だけど、ダンジョンの地下で古代竜の魂と出会って、 また少し、世界が騒がしくなってきたようです。 ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

処理中です...