最強超人は異世界にてスマホを使う

萩場ぬし

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依頼の完遂

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☆★☆★
~その他視点~

 ガサガサと草を踏み、掻き分ける音が複数鳴る。
 どれもフードを深く被った怪しいローブを着た者たちが暗い森の中を移動していた。
 軽快に素早く、ある者は木から木へと跳び移り、ある者は空を飛んでどこかへと向かう。

「……もう少しで魔族領に入る。当初の予定通りそこからは各自に分かれて町や村を襲撃、できるだけの要人を殺せ」

「ずいぶん困ることを言う」

 彼らの中で聞き覚えのない声を聴き、怪しい人物たちの足が止まる。

「……誰だ?」

 警戒する彼らの目の前に姿を現したのは禍々しい形の仮面を被った青年。

「私たちの計画がバレていたのか?」

「いや、それよりどうやって我らの居所を……?」

「なんにせよ目撃者は生かしておけない」

「それはこっちのセリフだ」

 怪しい人物たちの会話に仮面の青年が殺気を帯びて割り込む。

「そっちにどんな事情があるにせよ、そんなに俺たちと敵対したいなら覚悟しろよ?俺は――」

 そう話す仮面の青年の姿が消え、集団の中へと移動し一人の頭を引き千切ってしまう。

「――女子供だろうと容赦はしないからな」

「なっ……」

 一人が反応した時にはすでに遅く、次の瞬間には周囲にいた者たちは破裂するように跡形もなく消し飛んでしまった。

「……この力、本当に便利というか楽というか。ゲームでいうチートみたいなバカげた能力だ」

 ゲームで使われる「チート」とは本来設定されているプログラムから逸脱して必要以上の能力を手に入れたりする意味である。
 そしてこの場合でも「過ぎた力」という意味ではチートなのかもしれないと、彼は思った。なぜなら今、彼が行使した力は触れずに相手の魔力に作用し、全身を爆散させるというもの。
 人間はもちろん、どれだけ強大な存在であろうと体の中を弄り回されてしまえば死を免れない凶悪な技。先日ヴェルネたちを襲った人間相手に使用したのもその技である。

「……それにこの仮面もアレ以来、変なことになってるし」

 青年は自分の顔、もとい仮面に手を当てるとその仮面が消滅する。その素顔はカズのものだった。

「いつの間にかなくなってたと思ってた仮面は魔法で収納しなくとも出し入れが自由になってるってのはどういう原理なんだか……ま、こっちは楽でいいけど。どっかのアニメで見たこともできそうだし」

 そう言ってスッ手で自分の顔を覆い、何もないところから仮面を出して再び被る。

「……さて、まだコイツら以外にもいるらしいからさっさと片付けるとして……おーおー、ずいぶん大量に送ってくれたもんだ」

 カズがスマホをポケットから取り出して画面を覗く。そこには何かのレーダーのように緑の点が一つと赤い模様が右を埋め尽くしていた。

「赤が点じゃなくベタ塗りするくらいってんだから面白いな。その量を魔族領に到達する前に全滅させるのが依頼……この超便利なスマホがなきゃ難易度の高い依頼だったな」

 裏ギルドのリーシアからの依頼で敵となる人間の暗殺者を一人でも取り逃せば失敗となる、かなり難易度の高い内容だったが、カズのスマホ端末が彼らの位置情報を正確に捉えていた。
 そこからカズが高速で移動し始め、目標となる人間たちを確実に消していった。
 合計三百九十五人。
 その全員が「全身破裂」により跡形もなく消えてしまっていた。彼風に言えば「痕跡を消した」とも言える……かもしれない。
 敵にとって出会ったら終わりの存在が自分たちの居所をどこに隠れても補足されてしまう最悪の相手だった。
 戦って勝つどころか、逃げて情報を持ち帰ることさえも叶わない。
 別の世界の「最強」によって誰一人生き残ることができない状況であった。
 結果、カズはリーシアから依頼を三十分弱で完遂した。
 依頼が片付いて一息吐いたカズがしばし固まる。

「……ただこれだけで終わりじゃ味気ないっていうか、焼け石に水だよなぁ?」

 何を考えたのか、カズがそう言ってニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

「ヴェルネたちと分かれて三十分くらい経ったところか。女子の買い物ならもう一時間……いや、多く見積もって二時間余裕があると考えるとして……」

 ニヤけたまま顎に手を当ててボソボソと呟くカズ。その間にもカズの足は「ある方角」へと向かっていた。

「おや、カズクンじゃないか?」

 そこに現れたのは幼い容姿の褐色肌の少女。伸ばした黒髪を三つ編みにまとめたアマゾネスのフウリだった。

「フウリか。どうしたんだこんなところで?ここは人間領と魔族領の境目だぞ……っていうか最近はうちに来なかったし、何かあったのかと思ったぞ」

「フフフ、心配してくれたのかイ?」

 そう言ってニッと意地の悪い笑みを浮かべるフウリ。恐らく自らの思考を読んだであろうそんな彼女にカズはマスクを取って溜め息を吐く。

「『心配はしてたけどそう聞かれると正直に言いたくはないな』カ……こういう時に考えを読み取る力があってよかったと思うヨ♪ まぁ、僕の方は君が暴れる少し前に嫌な予感がしたから、あの町にいた部族全員で逃げてたのサ。獣人が持ってる危険予知ってやつでネ、スキルや魔法とは違うから明確なものじゃないけど、人間でいう第六感みたいなものだヨ」

「で、この数日間どこかに逃げてて顔を出さなかったと。でもお前たちくらいならあの人間どもぐらい相手できたんじゃないか?」

「あー、それは……」

 カズの疑問にフウリは気まずそうに目を逸らし、視線だけをチラッとカズへ向ける。

「多分だけど……人間が攻めてくることに対してじゃなくてカズクンを恐れたんじゃないかって思うんダ」

「俺……?あぁ、話はまた次の機会にさせてもらうか。今はやることがあるから」

「やるコト?……うわぁ、同族相手にエグイことしてるんだネェ」

 再び思考を読んだフウリが表情を歪ませる。カズが何をしたか、そしてこれから何をするのかを知ったからからこその態度だった。
 そしてそんなフウリにカズが微笑みを向け、一瞬で視界から消える。

「消えタ……思考も読めなイ。あんな凄まじい力を持った男を怒らせるなんて本当に……人間はなんて愚かなんだろうナ」

 フウリもそう言って遅れながら彼からの態度に答えるように微笑み歩き始めた。

 ――――
 ―――
 ――
 ―

 ☆★☆★
 ~カズ視点~

 俺は「やること」も済ませ、再び裏ギルドへ顔を出していた。
 そんな俺にリーシア一人が不可解そうな表情で俺を出迎えてくれる。

「……終わった?もう?」

「あぁ、終わったよ。反応があった敵勢力、四ヶ国から合計八百六十名弱……全ての排除を完了した」

 そう報告するとリーシアはさらにポカンとした表情になる。

「は、千六十⁉」

「ああ」

「全員が暗殺者⁉」

「そう」

「それをたった一人で⁉」

「うん」

 リーシアは口には出さないが「ありえないだろう」と言いたげだった。それもそうだろう、たった一人で、しかもそれらを二時間も経たないうちに壊滅させたとなれば。

「でも千って……そんな数が侵攻しているなんて報告は聞いてないぞ!」

「あぁ、侵攻していたのは半分以下の四百程度だった。でも襲ってくるのを迎撃するだけだとまた次も呼ばれる可能性があったもんでな……」

「何を言って……――」

 リーシアは少し固まり、何かに気付いたようにハッとする。そんな彼女に俺は意地の悪い笑みを浮かべた。

「あなたまさか……⁉」

「予想通り魔族領に送り込むためのここみたいな裏ギルドの組織がいくつもあったもんでな。全部『無力化』させてもらったよ。もちろん俺が勝手にやったことだから報酬は依頼通りでいい」

 「無力化」と優しく言ったが、やったことはただの大量虐殺である。「元を断つ」とはよく言うが、スマホのサーチ機能を使って一人残らず消したってのがこの二時間弱で俺がやったことだ。

「そ、そんなこと……バカじゃないの⁉ なんでそこまでして……」

「なんでって……そりゃそこまでしなきゃいつまでも奴らはここを狙ってくるだろ。『相手から手を出されなければ何もしない』なんてのは性に合わないんだよ。どうせまた襲ってくるのはわかってるんだし、襲ってくる相手がわかれば守るより攻めた方が話が早いだろ?」

「そんなの、それが実行できる実力がある人じゃなきゃ軽々しく言えないでしょ……」

「ならそれが答えってこった」

 別に俺ならなんでもできるとは言わないけど、やれるならやるって話である。
 とはいえ、それが常人にできないということも十分理解しているので、その上で俺は意地悪く笑みを浮かべた。

「そ、そう……とりあえず報酬を渡すわね。まずはお金の方ね」

 リーシアがそう言って金貨が大量に入った袋を机の上に置いた。

「……多いな」

「だから言ったでしょ、多額って。それと私自身って話だけど……ヴェルネ様に不義理にならない範囲でよろしくお願いします……?」

 リーシアが顔を赤くし、その場でうつむいて固まってしまう。完全に「そういうこと」をされると思っているのだろうが……

「言っとくけど肉体的に手を出す気はないからな?」

「え、そうなの?それは……ホッとしたような、女としては残念なような……じゃあ何をさせる気なの?」

 苦笑いで誤魔化しつつそう聞いてくるリーシア。

「すぐには要求しない。言っただろ、俺のタイミングでって」

 とは言ってはみたが、単に本人をどうにかしていいって言われても何も思い付かなかっただけなんだけど……だが恩を売っておけば後々何かあった時に助けになってもらおうと思って報酬内容を承諾したわけだ。

「……ちなみに結構な金額が入ってるみたいだが、お前自身の自腹とか言ってなかったか?あえて何がとは言わないけど……大丈夫か?」

「あえてと言うならそこは何も触れないで恰好付けさせてくれると嬉しいんだけど……」

 そう言いながら背を向ける彼女だが、その直前に顔を青くして苦笑いをしていたのが見えたからきっと大丈夫じゃないんだろうなと知ってしまった。
 ここで同情で金を返そうかとも思ったが、それよりも俺がここでの仕事を請け負えばいくらかがコイツに還元されるだろうし、プライドを傷付けずに済むだろうからそっちを頑張ろうかと思ったのだった。
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