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武人祭
溢れる殺意
しおりを挟むジジリさんが軽い説教をされた後、また何人か魔法を放ち終え、とうとう俺の出番となってしまった。
「じゃあ、カイト君。そろそろその鬱陶しい髪を切ってください」
「はいーーえ、ちょ・・・・・・待って、なんで俺髪のことでいじられてんの?」
なぜか先生に出鼻をくじかれる始末。
「私、その女みたいな髪は好きじゃないんだよ。むしろ嫌いの部類に入るからなぁ・・・・・・」
「せめて・・・・・・教師ならせめてオブラートに包んでください!」
俺の懇願にささやかに微笑むレイニ先生
「私、あなたが嫌いです」
「せんせぇぇぇっ!?」
オブラートどころか、言葉の暴力で固めて攻めてきやがった。
「実際、天パ以外の髪の人全員恨んでるんだけど、綺麗な髪をしている君には特に死んでほしいかな・・・・・・まぁ、そんな冗談よりさっさと魔法を撃ってくれ」
前半の言葉を発した時の先生の目が、絶対冗談ではないくらいに本気だったのが見て取れた。何が先生をここまで追い詰めたんだろう・・・・・・。
とりあえず、師匠に鍛えられた根性と気力で持ち直し、人形の的を見る。
レナほどじゃなくても、俺もできるようになった無詠唱などを放って、そこそこに評価を上げるとしよう。
まだショボイ魔法しか撃てないけど・・・・・・少しくらいは評価を上がるよな?
目を閉じて息を大きく吸い、的を見据える。
ジジリさんと同じように手を前に突き出し、炎を出すイメージをし、放出する。
「ほう、君も無詠唱か・・・・・・ふーん」
ふーん!? ふーんって言ったこの人!?
俺の無詠唱には興味が微塵もないってか!
思わずレイト先生の方を向いて睨んでしまう。だけど、魔法が得意じゃない俺の気が散ってしまえば、この炎は消えてしまう。
しっかり的に集中しなくては。
的に・・・・・・集中・・・・・・
『そうだ、あれは「的」だ』
「っ!?」
頭の中に誰かの声が響く。この声はいつも聞いてる・・・・・・師匠?
その声はまだ続く。
『あれを人と・・・・・・「生物」と見るな。ただ壊す対象とだけ見ろ』
声が聞こえる度、人のような形だった的が、徐々に人間として見えてくる。
それは太っている男になり、その豪華な服装はまるで・・・・・・
『あいつを生かしておけば、自分の大切な者が奪われる』
声は続き、まるで映像のようにその男が他の人を殴ったり蹴ったりするその姿がそこにあった。
『お前の後ろにいるレナも同じ目に会うぞ』
「レ、ナ・・・・・・?」
声の通りに後ろを振り返ると、大勢いたはずの生徒はいなくなり、レナただ一人だけが立っていた。
そして誰かが俺の横に立ち、肩に手を置いて囁く。
『迷うな、怪しいなら警戒しろ。後手に回るな。ほら、今にも手を出されそうだぞ』
視線を戻すと、太った男にレナが服を破かれ脱がされようとしている光景が映し出されていた。
『大切な者に手を出される前にーー殺せ』
「大切な者・・・・・・レナに手を出される前に・・・・・・」
足が動かない。代わりに上げていなかったもう片方の腕が勝手に動き、両手が前に突き出される。
『怒りで我を忘れて考えを放棄するな。どうやって仕留めるかだけを考えろ』
どうやって? 俺に師匠のような力は・・・・・・
『記憶を見たお前ならわかるだろ? 身を焦がすほどの憎しみや怒りが。それを魔力に混ぜてみろ』
「感情を・・・・・・?」
師匠の記憶。嫌だと言いたくなるくらいに人間の闇を見てきたあの記憶。
それはまるで、自分が体験したかのように感じ、胸の中から溢れてくる黒い感情があった。
それに合わせて目の前の光景。
涙を流しているレナの姿を見た瞬間、本物の殺意というものが芽生えたのがわかった。
ここで意識が途切れ、どちらがそう思ったのかはわからないが、最後にこう呟いたのは覚えている。
ーー殺してやる
☆★☆★
「あぁあぁぁぁぁあっ!!」
「っ!? 全員、ここから離れろっ!」
カイトが咆哮のように叫ぶ中、レイ二が声を荒げながら生徒たちに警告する。
原因は中央で魔法を放とうとしていたカイト。その手からは巨大な炎の玉が形成され、ギュルギュルと唸りながら回転し続けていた。
生徒たちは悲鳴を上げながら逃げ、残ったのはレイト、レナ、そしてシンとジジリの四人だった。
「何、これ・・・・・・?」
この中で最も現状が飲み込めていないシンが小さく呟く。彼は友人であるカイトに何が起きてるかさっぱりわからず、ただ単に逃げ遅れてしまっていただけだった。
「お前らも逃げろ。こんなのどうしたって・・・・・・」
そう言ってレイ二が唇を噛み締める。教師である彼ですら、この状況をどうしていいかわからないようだった。
「お、オイラとしてはこの結果を見届けたいという気持ちが先走ってしまって、軽く腰が抜けてるんだヨ・・・・・・」
「カイト、君・・・・・・!」
ジジリが軽口を言っている横で、心配そうに見つめるレナ。
そうしているうちに、カイトの作り出す炎は次第に大きくなっていった。
「おおぉぉぉぉっ!」
暴走していることは、誰が見ても一目瞭然だった。
それは近付くだけでも相当熱く、周囲のものを焼いてしまっていた。
「しっかりしろ! そんなものを撃てば少なからず被害がーー」
「ぐっ、ぁ・・・・・・!」
レイ二の呼びかけに反応して振り向くカイト。しかしそれは意識を取り戻したのではなく、標的がレイ二へ変えられただけだった。
その姿は目が黒くなっていき、髪の黒い部分も少しずつ増え、まるで侵食されているようだった。
そこにルビアが割り込んでくる。
「これは何事だ!」
「学園、長・・・・・・」
弱々しい声でルビアを呼ぶレナ。
未だに膨らんでいくカイトの火球を見たルビアは目を見開いて一瞬驚くが、すぐに魔術を展開し始める。
「レイ二先生、そこの腰を抜かしている男の子とフードを被ってる子をお願いします。レナさん、君はアヤト君のところで強くなってきているようだけど、水の魔術は使えるかい?」
「は、はい!」
レイニは学園長の言葉に頷き、すぐにシンとジジリを抱えてその場を去って行った。
「・・・・・・普通、中等部の君に頼むのは筋違いだし、情けないのだけれど、ここで見栄を張るほど状況が理解できない愚者じゃないからね。一緒にやってくれないかい?」
「はい・・・・・・やり、ます!」
レナがそう言って、ポケットからドレスグローブを取り出して装着する。そこから複数の黒い糸が吐き出され、大弓へと形を変えた。
「相変わらず、興味が尽きない隠し球ばかりを持ってるね、君たちは。それで君は、どういう魔術が撃てるのかな?」
「私のは貫通、と爆発が撃て、ます!」
「爆発?」
ルビアはレナの方を見ず、カイトに視線を向けたまま聞き返す。
「矢の形にした、魔術を放って、時間差で破裂するという、ものです・・・・・・もちろん、普通の爆発みたいに、火傷をさせたりとかはできません、けど、込める魔力によって、大量の冷水を、風圧と一緒に撒き散らすことが、できます」
「ハハッ、今まさに最適な魔術じゃないか。それじゃあ、それを先に撃ってくれるかな? 僕は『アレ』を包むことに専念するよ」
「はい!」
返事をしたレナは、先程と同様に矢の形をした水を作り出し、大弓に番える。
「君が撃ったのを合図に、続けて僕も撃ち込む。タイミングは君に任せる」
「では・・・・・・行きます!」
レナは合図をして矢を放つ。それは巨大な火球の中央に刺さり、注射の針のように入り込んでいく。
すると次の瞬間、その火球のみを包み込むほどの水の波が突如発生した。
それはまるでボールを風呂敷で包むように囲んでいった。透明に見えるくらいに澄んだその中で、炎が揺らめいているのが見える。
包み込んだ水が徐々に凝縮していき、次に中の炎が弾ける。レナの放った矢が爆発、四散したようだ。
炎も散り散りになり、囲んでいた水に当たって消えた。
しかし、それでもカイトの様子は変わらない。
「まだ・・・・・・的、が・・・・・・殺さなきゃ・・・・・・」
ブツブツと呟き続けるカイトは、片手をルビアたちに向けて、再び炎を出し始める。
「一度、頭を冷やしなさい!」
ルビアがそう言い、先程より少なめの水を出現させ、カイトの頭からかけた。
「ブッ!? ・・・・・・学、園長? それに・・・・・・あれ、みんながいない?」
「カイ、ト君・・・・・・カイト君!」
正気に戻ったことを確認したレナは、走ってカイトに抱き付いた。
「うおっ、れ、レナ!? 何、どうしたんだ、一体!?」
「『どうした?』じゃないよ、このおバカ!」
「いたっ!?」
身長差からか、ルビアは怒鳴りながらカイトの臀部を叩く。
「え、何ーー」
「君は今、一体何をしようとしたのか覚えてるのかい!?」
「な、何って・・・・・・授業の試験を受けようとしてたんですよね? でしょう、先生・・・・・・って、いない?」
カイトは同意を求めようと周囲を確認するが、すでに退避したレイニの姿がなく、首を傾げる。
「カイト君、彼は・・・・・・レイニ先生はジジリさんとシン君を連れてもらって、ここから逃がしたよ。彼からも後で聞くけれど、君の口からも聞きたいね。どうして暴走なんかしたのか」
「暴走って、何言ってるんですか? 俺はただ魔法を・・・・・・魔法を・・・・・・」
「魔法を撃とうとした」そう言おうとしたカイトは自身の記憶を探るが、クラスメイトや先生が急にいなくなったことや、いつの間にか学園長がいたこと、レナがなぜか師匠からもらった手袋をしているこの事態に何も言えなくなってしまう。
カイトは自身の記憶が飛んでいることを自覚したのだ。
「お、俺は・・・・・・」
「一体何を?」その言葉さえ出せなくなってしまうほど、カイトは戸惑い、混乱してしまった。
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