最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

風邪

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 「ハァ・・・ハァ・・・」

 「高熱ではあるが、ただの風邪だな」


 フィーナを寝室に運び、シャードに診察をさせた。
 体調が悪いなら回復魔術を、とも思ってさっきすぐやってみたが、効果が現れずに焦ったものだった。


 「重い病状なら回復系統は効くんだが、何故か風邪だけは治せないのだよ。まぁ、そのおかげで今みたいに仕事が回ってくる事もあるんだが・・・その謎は未だに解明されていない」

 「そうか・・・とにかく、今すぐどうにかなっちまうって事はないんだな?」


 ただの風邪と伝えられ冷静な対応をするのとは裏腹に、魔術が効かなかった事に内心焦っていた。


 「その点については心配要らない。適度な安静と処方された薬を飲んでいれば、すぐに落ち着くさ」

 「・・・そうか」

 「ちょっと・・・なんて顔してんのよ・・・。自覚してる?さっきから「そうか」ばっか言ってるわよ」


 フィーナはゴホゴホと咳をしながら、怠そうに体を起こす。


 「お、おい、無理するなよ?」

 「・・・心配し過ぎ、ただの風邪だって言ってんでしょ?ゴホッ・・・あまり騒がしくしないでよ?今頭痛いんだから・・・」


 そんな中、バンッ!と扉が壊れるのではと心配になる勢いで開かれ、ナルシャが入って来る。


 「フィーナ、お前風邪だってか!?そんなもん思いっ切り体動かせば吹き飛ぶって!だから勝負ーー」


 ナルシャが全て言い切る前に足元に裂け目を作り魔空間送りにする。
 元気なのは良い事なのだが、時と場所を弁えてほしい。


 「今のは流石にお礼を言うわ・・・アイツがいると気が休まらないのよ。・・・もういっそずっとその中に入れててくれないかしら?」

 「あー・・・まぁ、放っておいても生きていけそうなくらい逞しかったら検討しとく」

 「お願いよーー」


 すると再び扉が勢い良く開かれる。


 「大丈夫か、フィーナ!?」

 「様子見に来たぜーっと」


 今度はペルディアが叫びながら入って来て、後ろからヒョコッとメアが顔を出す。
 フィーナに視線を戻すと、流石に相手が相手なだけに何とも言えない表情をしていた。


 「風邪を引いたと聞いたが熱は?吐き気は?起き上がってても大丈夫なのか!?」

 「お、落ち着いてくださいペルディア様・・・これくらいなんとも・・・ゴホッゴホッ!!」

 「そうだ、落ち着けペルディア。とりあえず医者に見せに行くぞ」

 「君こそ落ち着け。ここに私という医者がいて、今診たところなんだ。・・・君も案外お茶目なところがあるんだな」

 「・・・気が済んだら出て行ってもらえるかしら?ゴホッ・・・あっ、ペルディア様は居てくださって構いませんよ?」


 言ってる事は通常運転だが、いつもより覇気の無い声をしていた。


 ーーーー


 一旦三人を連れて部屋から出る。


 「まぁ、安静にしてればいいって言ってたが・・・」

 「勿論、風邪を治すだけならな。しかし人というのはそういう時こそ寂しくなるものだ」


 確かにそう聞く。


 「そうなのか?・・・そういえば俺が風邪を引いた時はミラ姐がいてくれたから大丈夫だったのか・・・?」

 「だろうな。という事だアヤト君、君が付いていてくれ」

 「ん?俺がか?医者なんだからあんたがいれば・・・」


 やれやれと肩を竦めるシャード。


 「私と君とでは全く違う意味合いになると思わないかね?」

 「・・・・・・?」

 「ふむ・・・まぁいい、言い方を変えよう。女の子が苦しんでいるんだ、なんとかしてやろうとは思わないのか?」

 「・・・ああ、なるほど」


 ・・・自分でも何がなるほどなのか分かってなかってないが、だけど妙な説得力があって言ってしまった。
 多分、男ならってやつだろう。


 「ま、そういう事らしい。今日は修行は休みだ」

 「休みかー・・・休みの休みって何するんだ?」

 メアの言い方がなんだか頓知とんちっぽい。


 「学生らしく遊ぶのもいいと思うけど・・・ああ、そういえばこの世界に娯楽って少ないよな。またカイトたちと試合してればいいんじゃないか?それかイリーナやミーナと一緒に買い物にでも行けばいい」

 「うーん、そうだな・・・女だけで買い物でも行くかー」


 メアは両手を頭に付け、キュッと音を立てて振り返る。


 「・・・という事で頼む」


 に声を掛ける。
 スッと横にノワールとイリーナが現れ、ペルディアの肩がビクッと跳ねる。

 まるで忍者のようだ。・・・俺もできるから人の事言えないかもしれないが。


 「かしこまりました」

 「私はどういたしましょうか?」

 「ノワールはここで待機だ。「女だけ」って言うらしいからな」


 頭を深々と下げ、ノワールは再び消える。


 「なんならシャードも行ってきていいぞ」

 「私もか?・・・あまり外に出歩くのは良くないのではなかったかね?」

 「変装、もとい化粧でもしていけばバレないんじゃないか?服や髪型を変えて堂々とすれば意外とバレないもんだ」

 「ならお言葉に甘えさせてもらうとするか。年単位ぶりの外出だ」

 「ついでに白衣以外の服も揃えればいい。ここでの今のあんたは、「少し医療の知識を持ってるだけのただの人間」だ。女らしくしてくるといいんじゃないか?」

 「今更女らしくしてどうしろと?」

 「男でも作れば?いつまでも独り身は寂しいだろ」

 「君は遠慮やデリカシーという言葉を知らないのか?それに私は研究が恋人だ。こうやって彼らと離れ離れになると心が段々荒んでいくようだ」


 ユウキの「ゲームが恋人だ」みたいな事言いやがって。


 「とりあえず行って盛り上がって来てくれ」

 「渋々了解した」


 たとえ渋々だったとしても声に出さなくてもいいと思う。


 「ペルディアは・・・まぁ、任せるわ」

 「そうだな、亜人ならまだしも魔族が出歩いていると目の敵にされて絡まれ易くなるからな。それに前回の戦争に参加していた者に顔を見られてしまった日には・・・」


 大騒ぎになるだろうな。


 「まぁ、それにハーミットローブを着たとしても、誰かが分からなくなるだけで怪しさはそのままだしな」

 「なら私も留守番をするよ。とはいえ私もフィーナに顔を合わせるのは極力控えるから、基本的な看病はアヤトがやってくれ」


 俺よりペルディアの方が適任じゃないかという言葉が喉まで出掛かったが、なんかそれだと俺がフィーナから逃げてるようなので、言葉を飲み込み大人しく頷いた。


 ーーーー


 「あーん」

 「・・・・・・」


 母さんが昔作ってくれたお粥をレシピを思い出して作り、怠そうに起き上がっているフィーナにレンゲですくって差し出す。
 しかし眉間にシワを寄せたフィーナが俺の目を見るだけで、口を開こうとしなかった。


 「あーーん」

 「・・・・・・」

 「あーーーん」

 「・・・・・・」

 「あぁん?」

 「・・・どういうつもりよ?」

 「何が?」


 一向にお粥を口にしてくれないので、容器に一旦戻す。


 「なんでペルディア様やシャードの奴じゃなくて、あんたが私の看病してんのって事」

 「嬉しいだろ?」

 「・・・・・・鬱陶しいだけよ」


 あれ、なんだろう、今の長い間は・・・。


 「とにかく一口だけでも食っとけ。水以外何も胃に入れてないだろ」

 「じ、自分で食べられるわよーー」

 「おっと」


 俺からお粥を奪い取ろうとしたのか、手を伸ばすフィーナ。
 しかしフッと力が抜けて倒れそうになり、持ってるお粥を机に置いて胸で受け止める。


 「説得力がないな?」

 「ハァ・・・ハァ・・・うっさい・・・」


 力ない反論。
 やはり風邪とはいえ相当辛いのか、苦しそうに息をしている。
 ただそれでも食わせなければと思い、ぐったりとしているフィーナの首に腕を回して肩を掴んでしっかりと支える。
 そして赤ん坊に哺乳瓶を咥えさせる要領で、口にお粥を運ぶ。


 「十分冷ましてあるからゆっくり噛んで食え」

 「う・・・んっ・・・」


 意識が混濁しながらも、言葉通りしっかり噛んで飲み込んでくれた。
 もう一口運び、飲み込ませる。
 ゆっくりと時間を掛けて食べさせ、食べ終わらせたフィーナをゆっくり横にさせて、空になった容器を運ぼうとする。
 だがグイッと引っ張られる感覚がし、振り向くとフィーナが裾を掴んでいた。


 「・・・ッ!?」


 無意識だったのか、自分のした事に驚いていた。
 しかしそれでも顔をそっぽ向けたまま放そうとしなかった。


 「・・・分かった、片付けるのはココアに任せておくよ」

 「別にそういう事じゃ・・・!」

 「いいから大人しく寝てろよ」


 そう言ってココアに念話を通して伝え、食器を片付けてもらった。
 視線を戻すとフィーナは拗ねたように布団を頭から被って横になっていた。


 「もう用は済んだでしょ?早く出てってよ」

 「まぁまぁ、なんだかんだ言いながらも寂しいんだろ?ここにいてやるからゆっくり寝ればいい」

 「あんたがいると逆に眠れないのよ!!」


 などと言っていたが、十分も経たない内にフィーナは静かに寝息を立てて眠った。


 「本当にコイツは、ちょろい奴だな・・・・・・コホッ」
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