最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

冷静な心

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 「そろそろバレる頃かなー・・・」


 チユキとカイトをガーストに送った翌日、朝食の最中にふとそんな考えが過った。


 「バレるって?」

 「チユキの変装。いくら見た目や性格を真似てもどこかでボロが出る。それにチユキは「その人物に成り切る」なんて慣れてないだろうし・・・今頃何かヘマしてガーランドに飽きられてるんじゃないか?」


 そう言って笑う俺に対し、シトが微笑みながら答える。


 「そうかい?彼女のアレは相当完成度高かったし、簡単にはバレないんじゃないかな?」

 「そういう時に限って何かに驚いたりした拍子に素に戻ったりするんだよ」

 「あんたの勘って妙に当たるから怖いのよね・・・」


 するとフィーナが眠そうにしながら部屋に入って来て俺たちの話に割り込んで来た。


 「起きたか。もう風邪はいいのか?」

 「まあね。その有能な医者が出した薬のおかげですっかり良くなったわ」


 そう言ってサラダを食べているシャードを一瞥し、再び俺に視線を合わせたと思ったら頬を赤くしてそっぽを向いてしまう。


 「・・・あと、あんたもね」

 「・・・え?」


 フィーナの俺に向けた意外な言葉に戸惑う。


 「聞いたわ、魔力が暴走して私より大変だったって。なのにすぐにまた私の看病してくれに来たんでしょ?」

 「魔力の・・・暴走・・・?」


 心当たりのない指摘に、シトやノワールの顔色を伺い事実確認をする。
 見事に目を逸らされ苦笑いを浮かべる者たち。
 ジト目で見続けると、観念したシトが説明を始めた。


 「分かったよ、全部話すから・・・全く、アヤト君の眼力には勝てないよ」

 「私からも落ち着いた時にでも話そうかと思っていたのですが・・・」

 「じゃあ丁度良い。これだけくつろげる程落ち着いてるんだ、十分だろう?あの日・・・多分俺が倒れた日に何があったか聞かせてくれるか?」

 「うん、じゃあまずはどこから話そうかーー」


 シトのその口から色々と聞かされた。
 俺が倒れたのは風邪ではなく、体の中の魔力が暴走してしまい正常を保てなくなっていた事。
 ノワールが俺と繋がっているリンクを利用して、俺の魔空間を開き俺をそこに運んだ事。
 そして最終的になんかよく分からん化け物になった事。
 そんな俺をみんなが元に戻してくれた事などを面白おかしく話してくれた。


 「ってなんだよ、「なんかよく分からん化け物」って・・・」

 「「竜に似た何か」とも言えるけどね。びっくりしたよ、アヤト君自身がこの世界にも存在しないファンタジーな存在になっちゃうんだもん」

 「竜に似た・・・?」


 その言葉には心当たりがあった。


 「それって腕が六本だったりとか、見た目がちょっとグロカッコ良かったりする?」

 「カッコ良いかどうかは別として、確かにちょっとグロかったね。って、なんでアヤト君が知ってるの?実は起きたりしてないよね?」

 「まさか。なんとなくだよ」


 ただ、夢が正夢だっただけの話だ。
 まさかアレが俺だとは思わなかったが・・・何かの暗示か?


 「ホントにアレ大変だったんだから・・・まさにアヤト君のステータスをそのままにした怪物って感じだったね!」


 言ってくれるじゃないか、シト・・・。
 でも確かにその通りかもしれない。
 夢で出会ったアイツに勝てないと思ったのは俺自身だったからなのだとしたら納得だ。


 「んで、結局アレがなんだったのかは分かるか?」

 「んー・・・簡単にまとめてしまえば、アヤト君の中にあるものが混ざり合って具現化したもの?かな」

 「俺の中?なんだその厨二病設定みたいなのは・・・」


 視界の横でランカの目が光ったのはスルーして。


 「えー・・・心当たりの一つや二つはあるでしょ?竜とか悪魔とか精霊とか魔王とか」

 「おぅふ・・・」


 思わず変な声が出てしまった。

 それかー・・・。


 「つまりそれが原因って事か?」

 「ま、そういう事だね。とは言え、君くらいの魔力を持てば何かが起爆剤に爆発する事は予想できてたけどね」

 「・・・おいコラ、そんな事初めて聞いたぞ。なんで言わなかった?」

 「言ったところで事前対策の手段なんて限られてるし、君は暴走しないためだと言って今更どこかに引きこもる気かい?」

 「・・・そうなるだろうな」

 「メアちゃんが悲しむとしても?」

 「うっ!・・・それは・・・」


 横に並んで朝食を食べてるメアを一瞥する。
 ジト目で俺を睨んでいた。


 「分かった分かった、分かったからそんな睨むなって。・・・いざとなったらまたお前らになんとかしてもらうよ」


 そう言って溜息を吐き、ニヤニヤといやらしく笑うシトや微笑むノワールを見る。

 自分自身の事に関して誰かに頼るなどあまりしたくなかったが、誰かを悲しませるよりは余程マシだろう。
 俺のその言葉に二人は「勿論」と声を重ねて答えた。


 ーーーー


 ☆★カイト★☆


 混乱していたガーランドさんに、チユキさんがスキルで師匠の姿をしている事を説明し、証明するためにチユキさんは元の姿に戻っていた。
 最初は頭を抱えていたガーランドさんだったが、「性格以外どっちも変わらないからいいか」と最終的に考える事を放棄していた。


 「しかし何故チユキ殿だけではなくカイトまで?」

 「私が連れてきたのよ。理由は・・・いる?」

 「いや、大丈夫だ。理解した」


 「カイトも大変だな」と付け足して苦笑いする。


 「それで、これからどうするの?」


 チユキさんの問いにガーランドさんは髭を撫でながら唸った。


 「どうすると言われても、お前たちを王のところに連れて行くしかない」

 「私たちをこの城に連れて来たのは生贄にするためなんでしょう?それってカイト君も連れて行かなきゃいけないの?」


 チユキさんは困った顔で俺を見る。

 そうだよな、いざって時に俺がいたら足手まといになるよな・・・。


 「今回の目的は勇者召喚に必要な魔力の調達だけ。ならカイトをここに置いて行っても問題はない筈だ」

 「ま、元々呼ばれたのはアヤト君だけだったものね。じゃあ、そういう事でいいかしら?」


 チユキさんはそう言って俺を見る。
 勇者召喚の話を聞く限り、普通の人であれば命すらを奪う代物だと。


 「チユキさんは・・・知ってて行くんですか?」

 「・・・?えぇ、そうよ。だって私は魔力と不死身には自信があるんだもの♪」


 笑顔で答えたチユキさんのその表情は空元気などではなく、心の底から言ってるように思えた。
 それに沸々と怒りを覚え沸いてくる。


 「・・・やめてくれ」

 「・・・え?」


 自分でも驚く程の低い声を発していた。
 それに怒っている筈なのにいつもより冷静に、頭がクリアになっている。
 その声にチユキさんとガーランドさんが目を見開いて驚いていた。
 でもそんな事気にせずに言葉を続ける。


 「魔力が多いとか不死身だとかは関係ない。どんな事があっても命は大切にしてくれよ。お願いだからさ・・・」

 「あ・・・えっ?な、なんで?」


 チユキさんは困惑の中に少し怯えが入った様子で俺を見ていた。
 俺よりも恐ろしい程の力を持ったチユキさんが何故俺をそんな目で見るのかは分からない。

 俺に嫌われるのが怖いから?本当にそうだとしたら女の子らしい理由だけど。


 「確かにの事はまだ怖い。だけどな、別に死んで欲しいと思ってるわけじゃないんだ」

 「それじゃ・・・どうするの?どちらにしても私は行かなきゃいけないわ」


 今度は嬉しそうな困ったような複雑な顔をする。

 分かってるさ、そんな事くらい。
 こんなのただの俺の我が儘だし、そんな事を言えばーー


 「あっ、ならいっそこのお城諸共王様を氷漬けにしちゃおっか?」


 ーーこう言うに決まってるからだ。
 そこにガーランドさんが頭を掻きながら話に割って入って来る。


 「あー、それは遠慮してもらいたいのだが・・・この城に仕えてる者たちはほとんど何も悪くはないのだから」

 「なら早めに避難を促した方がいいかもよ?私、偉そうに見下されるのが凄く嫌いなの」

 「・・・善処しよう・・・いや、してほしい」

 「善処ねぇ・・・そうね、ほんのちょっとだけ我慢してあげるわ」


 そう言ってペロッと舌を出してウィンクをするチユキさんの姿を可愛いと思ってしまった。
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