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夏休み
鬼畜と魔人
しおりを挟む「なんだよ、アヤト以外にも楽しめる奴いるじゃねえか!」
「アッハハハハハハハッ!!」
はい、別の刺激を受けて悪化しました。
メアの様子が完全にグランテウスの時と同じ感じになってナルシャの拳を平然と受け止めていた。
幸いギリギリ意識が残ってるのか、刀は使わずに鞘だけで殴ったりしていた。
ただ問題は刀だけでなく技も使わずに殴り付けてるだけの獣のような戦い方をしていた。
「・・・こりゃダメだな」
そう呟いて少しずつメアたちに歩み寄る。
魔法魔術は多少使えても、戦いの中に武術を使わなければ意味がない。
魔法も武術も両方使ってこそ、俺の弟子というものなのに。
「と、いう事で」
「「ッ!?」」
戦いに夢中になっていた二人に強めの殺気をぶつける。
殴り合ってた二人の拳はピタリと止まり、噴き出てきた汗まみれの顔をこちらに向ける。
ナルシャはありえないものを見る表情で、メアは歪に笑っていた顔を無表情にして。
俺を視認すると二人は顔だけでなく体も向けて戦闘態勢になっていた。
そしてどちらかが動く前にナルシャの顔面に向けて張り手を放った。
「・・・ッ!ンガッ!?」
縦に回転しながら吹き飛ぶナルシャを他所に、メアに視線と殺気を向ける。
そのメアからも今までよりも強い敵意と殺気を向けられる。
言葉数が少なくなってるところから予想してたが、また意識がなくなってるようだ。
・・・いや、魔人化してる時の記憶があるって事は意識があるって事だから、正確に言えば体の主導権を奪われている状態か。
まぁ、とにかく。
このままじゃそこに転がってる怪力が取り柄なだけの戦闘狂バカ娘になってしまう。
なので手っ取り早く正気に戻ってもらうか・・・。
あの時と同じく拳骨をしようと拳を握る。
するとメアの体が大きく跳ねた。
「・・・ん?」
メアの敵意や殺気が一瞬で消え、代わりに俺の拳を見ながら恐怖を感じてるようだった。
おっと、これはぁ・・・?
思わずニヤリと笑ってしまう。
俺が一歩踏み出すとメアが一歩後ろに下がる。
更に一歩踏み出すとまた一歩下がる。
「「・・・・・・」」
ーーーー
☆★カイト★☆
「ぬぬぬぬぅ・・・」
変な声を出し続けながら小一時間、シュボッという音と共にランプの中の火と同じ大きさくらいのものが手の平から出る。
おっ、初めて使えた!
「・・・ショボ」
感動している俺に向けて無慈悲な一言を投げ付けて来たエリさん。
「ボソッと呟かないでくださいよ・・・」
「しょうがないじゃん?そんなライター点けたみたいなショボい火なのが悪いし。やるんだったらやっぱこうじゃないと♪」
そう言ったエリさんの指先から人の顔と同じくらいの火の玉が離れた木に向かって出された。
初級魔法の火球だった。
得意気にしてるエリさんだが、ノワールさんが溜息を吐いてエリさんが火を放った方向に大きな水の塊を放つ。
見ると木に当たった火が燃え広がっているところだった。
「火遊びも程々に。次は今のを貴女の頭から被せますよ」
「あ・・・ゴメン、なさい・・・」
無事燃えていた炎は消火され、注意されたエリさんもバツが悪そうな顔をして謝った。
前に学園の先生が言っていた「魔法を使う際は慎重に」という言葉を、目の前の光景を見て思い出していた。
そんな中、横で黙々と魔法の練習をしていたレナが自分の顔と同じ大きさの水の球を浮かべていた。
「すげえ、もうできるようになったのかレナ?」
俺が声を掛けると「ひぅ!?」と小さな悲鳴を上げて水の球が砕け、レナの腕と膝が水浸しになってしまった。
「あ、悪い!」
「う、ううん、こっちこそ、ごめんなさい・・・ずっと集中してたから急に声を掛けられてビックリしちゃって・・・えへへ」
申し訳なさそうにしながら微笑むレナにドキッとする。
そして同時に師匠の言葉を思い出してしまう。
『だってお前・・・何気にレナの事好きだろ?』
ノワールさんにタオルを差し出され、頭を下げてお礼を言うレナを見て顔が少しだけ赤くなる。
師匠の言う通り、俺はレナの事が好きになっている。
一目惚れか、最近になって意識し始めたのか、いつからかは覚えてない。
でも、少なくとも今はーー
「あっ、カイト君の、顔にも・・・今、拭くね・・・?」
不意にレナの顔が間近にやって来る。
すると狙ったかのように強い風が吹いてレナの髪が捲り上がり、その素顔が露わになる。
垂れた目の中に青く輝く瞳と綺麗に整った顔。
師匠の周りにも美人美女はいるが、レナも凄い。
その顔が近過ぎて俺の顔が熱くなる。
「か、カイト君・・・?顔真っ赤、だけど大丈、夫・・・?」
レナは首を傾げて本当に心配そうな表情で見つめて来た。
ダメだ、そんなに見つめられたら・・・!
なんとか目を逸らし、自分という理性を保つ。
「だ、大丈夫だから!それにただの水だから適当に拭いておけばいいから!っていうか・・・自分で拭くから・・・」
「・・・あっ!」
レナはそういえばという風に声を漏らし、そしてハッと俺との距離に気付いて顔を赤くしてしまった。
その後、レナはいつもより小さい声でもぞもぞ言いながらタオルを差し出してくれた。
「サンキュ」
「う・・・うん・・・」
お礼を口にしながらタオルを受け取り、自分の顔を拭く。
・・・あ、そういえばコレ、レナが髪とか足を拭いたやつ・・・いや、気にしないでおこう。
レナだって気にしてないのだからーー
「あっ、待ってカイト君!!」
突然のレナの声に驚いて肩が跳ね上がり、あまりの大きさに全員がレナに注目した。
それはただ大声だったからだけではなく、いつもみたいなオドオドしたレナとは別人のようにハッキリとした声だったからだ。
何かを求めるように手を伸ばしていたレナだが、俺が使ったタオルを見ると膝から崩れ、地面に手を突いて伏せてしまった。
多分コレは気付いたやつだ。
だけどとりあえず気付いてないフリをして聞いてみる。
「な、なんかマズかったか・・・?」
「・・・えっと・・・私が使った後、だから、カイト君使うの、嫌じゃないかな、って・・・そのタオル、水だけじゃなくて・・・その・・・多分汗も入っちゃって、るから・・・」
気付いてしまったようです。
しかも余計な情報まで付いてきた。汗って・・・。
いや、落ち着け!これで恥ずかしがったり興奮したらユウキさんみたい・・・間違えた、変態じゃないか!!
「・・・大丈夫、全然気にしてないから!」
「うぅ・・・カイト、君が気にしなくても、私が気に、しちゃうのに・・・」
レナは聞こえないように呟いたつもりなのだろうが、さっきと違ってその言葉を全て聞き取ってしまった。
気にしないようにしてたのにそんな事言われたら気にしちゃうじゃないですかー・・・。
「タオル一枚で何やってんのよ、あんたら・・・」
俺の肩を肘掛け代わりにして乗って来たフィーナさん。
呆れた声を出しつつも口角の上がった口を見るにどういう状況か分かった上で言っている。
「いや、普通恥ずかしいもんでしょ?」
「うっわー、カイトのむっつりスケベー」
今度はさっきまでノワールさんに説教されてたエリさんがレナの後ろから抱き付き、フィーナさんと同じ意地悪な笑みを浮かべてそう言った。
師匠は女が集まると姦しいなって言ってた覚えがあるけど、その通りだった。
ただでさえ普段フィーナさんにイジられてるのに、そこにエリさんが加わって更に悪化してる。
ここにメルトやリリスが加わったら・・・俺はもうダメかもしれない・・・。
本気でこの先の自分を心配していると、遠くから変な悲鳴が聞こえて来た。
「あああぁぁあぁあぁぁぁぁあああッ!!」
声の主は明らかにメア先輩だったのだが何か様子がおかしい。
声がした方を見ようとすると凄まじいスピードで何かが通り過ぎた。
まぁ、案の定メア先輩なのだが、目で追い付くのがやっとなスピードで走り回っていた。
片手に黒い炎を纏わせた刀を持っていて、メア先輩自身の姿が変わってる事から魔族の大陸で起きた出来事が思い出されるのだが、アレに比べるとかなり可哀想に思えるくらいの逃げ腰で走っている。
「や、嫌ぁ・・・ソレ嫌ぁ!?」
「「・・・・・・」」
メア先輩の言語が凄く幼稚退行していた。
何故そんな可哀想な事に・・・と思っていると、そのメア先輩の後ろから師匠が拳を振りかざしながら無言で追い掛けていた。
怖ッ!?
「・・・何やってるんですか、師匠・・・」
「あの人の鬼畜の所業はいつもの事でしょう。さ、魔法の練習を始めますよ」
ランカさんはそう言って何事もなかったかのように魔法を教え始める。
アレを放っておいて良いのかと迷ったが、どちらにしても自分ができる事はなさそうなので「まぁ、いっか」と忘れる事にした。
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