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夏休み
発案
しおりを挟む「やめろって言ってるだろ!!」
魔人化したメアとふざけて鬼ごっこしていると、突然立ち止まり振り返って怒鳴られた。
流石に体力の限界だったのか、ゼェゼェと息切れしながらその場に崩れる。
そんなメアの姿を見て首を傾げた。
「正気に戻ったのか?」
「な、何がだ!?・・・って、あれ?」
俺に指摘されたメアも首を傾げる。
変色した目や髪の発光は消えていないが、さっきまでの野獣のような人格ではなくなってる。
何かのショックで元に戻ったのだろうか、それとも拳骨が嫌すぎて引っ込んだのか・・・。
何はともあれーー
「良かったな」
「お、おう・・・でもなんでだろう、体の震えが止まらねえ・・・」
あ、これきっと後者の方だわ。
多分魔人化した方にもあるであろう人格にトラウマを植え付けてしまったのか、俺は。
っていうか、拳骨一発でトラウマになるのか・・・。
「メア、今その状態で力は使えるか?」
「え?・・・さぁ?」
刀を見ると一応黒い炎を纏わせたままで振っても消えそうにもなかったが、他の身体機能がどうなっているか知りたい。
「それじゃ、疲れてるとこ悪いがこっから修行開始だ」
「・・・マジか」
内心「ありえねえ」とでも思っているのだろうが、もう俺が何も言わずともメアは突っ込んで来ていた。
すでに最近、弟子たちが何の合図もなくても襲い掛かって来る事が普通になってきていた。
俺が「そろそろやるか」みたいな曖昧な事を言った時も、なんとなくそんな雰囲気を出しているって理由でだけでもやって来る。
俺がそう教えたから。
試合ならまだしも、ただの殺し合いで「始め」などと合図がなるわけがないのだから。
斬り掛かって来るメアの身体能力はまだ魔人化した時のままだった。
殴れば木を抉り、蹴れば岩を砕き、斬れば地面を割き、少し離れれば黒い炎の斬撃を飛ばして来る。
試しにメアの周囲に魔術の槍を出現させ放てば、それ以上の物量の炎で自らを包み掻き消していた。
確かに、これだけの実力があれば魔王にもなれるだろうなと密かに思った。
しかし元のメアに戻った事によってさっきまでの殺気や敵意が消え、鋭かった技のキレが無くなってしまっていた。
こればかりはしょうがないか・・・いや、しょうがないで済ませちゃいけないな。
一つ試しにメアに向かって殺気を放ってみる。
「ッ!?」
瞬間、驚いたメアが思わず刀を振り抜いた。
さっき程じゃないが、鋭い一撃が放たれる。
その後、遅れて黒い炎が波のように繰り出され、広い範囲を焼き尽くそうとする。
「あっぶね!」
危ないのは俺の方だとツッコミたい。
「おま・・・なんちゅう技を・・・火事になったらどうする?」
っていうか、現在進行形で木が燃えてる。
その黒い炎は普通の火と違って燃え広がってはいないが、メラメラと燃え続けているので、消火のために水を掛ける。
しかしーー
「ん?」
焼けるような音がしてるだけで火が消える気配がなかった。
それから何度も水を掛けてみたが消えず、最終的にハイドロポンプみたいな威力の水圧をぶちかましても消える事なく燃えていた。
こんなしつこい汚れみたいな炎初めて見たよ・・・。
尚も燃え続ける炎は食らうように侵食して木が倒れる。
黒い炎は木から剥がれ、地面に落ちても消えそうにもないので、試しに凍らせて包んでみる事にした。
地面に手を当てて魔術を使い、ピシピシと音を立てさせながら地面に落ちている黒い炎を球体状に囲んだ。
「・・・これは・・・成功、か?」
もくもくと冷気が曇る中、球体状の氷の中に黒い炎が燃えているのが見える。
ソレは特に氷を溶かしてる様子もなく、綺麗な水晶のような物が出来上がった。
「おぉ、なんかパワーストーンみたいなのになったな・・・」
「ソレは大丈夫っぽいのか?」
「ああ、多分。一応溶けても大丈夫なように収納庫に入れとくけど。・・・他のもやっとかないとな」
顔を上げて周囲を見渡すと、所々にまだまだ燃えている黒い炎がある。
今のと同様に黒い炎を氷で囲み結晶化させ、収納していく。
最後に小さな炎を包んで終わった。
「なんかよく分からん炎だったな」
「元々よく分からねえ技だしな、コレ」
「あっ、消えた」と黒い炎が消えた刀を見て呟くメアに目を向けるといつの間にか魔人化の姿が解けていた。
明らかな疲労感が見られないところから魔力切れではないようだが・・・そういえば魔人化はスキルの中に含まれてたな。
スキルは基本的に何かしらのデメリットがあるが、代わりに魔力を使うものが少ない。
魔人化もその一つかもしれない。
だとしたらそのデメリットは?理性が消えるのがそうなのか?
しかしさっきは魔人化したままの状態で意識を保っていた。
そうすると時間も関係してくるのかもしれない。
いや、そもそもの発動条件はなんだ・・・?
そんな事を頭の中で考えてると肩を叩かれる。
叩かれた方を振り返ろうとすると頬に何かが突き刺さる。
よく見るとメアが立てた指が刺さっていて、本人はニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべていた。
知らずにやってるのか、ユウキかシトにでも教わったのか。
どちらにしても「殴りたい、この笑顔」というやつだ。
「そんな難しく考えんなって。別にすぐ死ぬってわけじゃねえんだから」
宥めるようにそう言って当たり前のように抱き付いて来るメア。
死・・・死か・・・。
絶対にないとは言い切れない。
そう思うとなんとも言えない不安が膨れ上がっていく。
念のために帰ったらシトにやノワールに聞いてみるか。
「それより修行はもう終わりなのか?」
「そうだな・・・とりあえず一旦カイトたちのとこに戻るか」
「おう!・・・あ、そうだ。さっきの炎を閉じ込めた氷結晶一個くれないか?」
「えぇー・・・」
メアの言葉にあからさまに嫌そうな反応を示す。
「な、なんだよ・・・?」
「アレが今後どうなるか分からないのに渡せるわけねえだろ。・・・いや、そもそも渡す必要ねえじゃん。俺とメアは収納庫共有してんだから」
「・・・あっ、そっか!」
「じゃあ収納庫じゃなくて別の場所に保管した方がいいかな・・・」
「そんな意地悪な事言わないでくれよぉ・・・」
メアの子供みたいな駄々を聞きながらカイトたちのところへと向かった。
ーーーー
「ファイアーボォォォルrrrrr!!」
カイトたちのところへ戻ると凄い勢いで舌を巻きながら俺に向かって魔法を放つユウキがいた。
少しでも集中しようとしてるのか、手の平だけ前に向けて俯きながら放っていた事からわざとじゃないのだろうが、なんかムカつくんで足に空間属性を付与して蹴り返す。
その蹴り返されたファイアーボールがユウキの頬を掠る。
「危ねぇなチクショウ!」
「危ないのはお前だ。歩きスマホはいつもやめなさいと言ってるでしょう」
「お母さん口調やめろ。確かに下向いてやってたけども・・・」
「しかもおまけにふざけた口調で火の玉飛ばされたら喧嘩売られてると思うだろ」
呆れて溜息を吐くとカイトの方へ視線を向ける。
「■■■■ーーふ、ファイアーボール!」
カイトは手の平を正面に向け、簡単な魔法を詠唱して放っていた。
その先には人形の岩の塊があった。
アレもゲームなどでよく見かけるものだが、名前は確かーー
「ゴーレムか?」
「半分当たりです」
俺の横でノワールがにこやかに言う。
「もう半分の正解は?」
「正確には魔術で縫い合わせた使役ゴーレムです。通常の魔物のゴーレムと違い、影ですので命令に忠実です。今は的代わりにしていますが」
「ほう」と声を漏らす。
「それってもしかしなくても、カイトたちの練習相手になるんじゃないか?」
「ええ、そうですね。このようにゴーレムにする事もできれば、影なので蛇や人にもなる事が可能です。強さは・・・諸事情により少々個々に差がありますが、それもまた良い修行になるでしょう」
諸事情っていうのが少し気になったが、別に重要でもなさそうなので敢えて聞かない。
そして確かにノワールの言った通り、たまには違う奴を相手にすれば良い刺激になるだろう。
・・・よし。
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