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夏休み
精霊とは
しおりを挟むゾンビゲームの後にいつも通りの修行を終わらせ、屋敷に帰ろうとしたところでふとした疑問が浮かぶ。
「・・・なぁ、そういえば魔法を教えるのって精霊たちじゃダメなのか?」
俺の質問にノワールはクフフと笑って振り返る。
「良い質問です。確かに精霊とは火、水とそれぞれ司り使えますか、精霊とはそもそも我々とは別の生物とお考えください」
「・・・まぁ、精霊だし?」
肉体の有無で言えば俺たちと精霊が違うというのは理解できる。
しかしこの答えは間違っていたようで、ノワールに苦笑いされた。
「いえ、恐らくアヤト様が思っているものではなく、精霊には魔力という概念がないのです」
「・・・あん?」
どういう意味なのか理解しかねていると、ノワールがその先を説明してくれる。
「魔力とは本来肉体に宿り、肉体、魂、精神を繋げているものです。ですので魔力を使い過ぎれば意識を失うのは、繋がっている精神と魂が肉体から離れようとして無意識にセーフティーが掛かって起こるものです。ですが精霊はそのような事は起きません」
「じゃあ、魔法が使えるのは?」
「生物が手足を動かそうとしているのと同じですね。動かそうと思えば動かせ、限度を超えた動きはできず、手足を縛られれば動けない。そういうものです」
後半一瞬何を言っているのか分からなかったが、すぐに理解した。
「動かそうと思えば動かせ」は出そうと思えばいつでも当たり前のように出せるという事。
「限度を超えた動き」は火の精霊なら火属性、闇の精霊なら闇属性とそれぞれが司るもの以外は使えないという事。
「手足を縛られれば動けない」というのは、この前の魔法魔術が使えなくなる結界の中だと精霊でも魔法が使えなくなるという事だ。
「魔力がない代わりに空気の魔素を力に変えています」
「魔素?」
あらやだ、また聞きなれない単語。
「魔素とは魔法や魔術を使用した後に霧散し、できる副産物です。なので空気と同じようなものとお考えください。ただ、違いがあるとすれば・・・ほんの少量の毒が含まれる程度なので」
「・・・え、毒あるの?」
ソレを聞いて無性に自分を回復したくなってきた。
「えぇ。通常は気にする必要はありませんが、密閉空間などで魔法魔術を連続使用していると毒素が溜まり死に至るケースも少なくありませんので。・・・あ、空間魔術は特殊なのでいくら使用しても問題ありませんよ?」
ありませんよ?って言われても困る。
別にシャードみたいに閉じこもって何かするわけでもないのだが、気分的な問題なんだから。
多少モヤモヤを残したまま屋敷へ空間転移する。
すると玄関に入った瞬間ドタバタと焦っているような足音が聞こえてきた。
「「兄様、おかえりです(なの)!!」」
ウルとルウだった。
俺が帰って来てそんなに嬉しかったのかと思ったが、それにしては何故か悲しそうな顔をしていた。
「・・・何かあったのか?」
「何かあった・・・というよりも・・・」
二人がお互いに顔を見合わせ、俯く。
「兄様が、みんなが帰って来た時に居眠りして・・・お出迎えができなかったです・・・」
ルウの言葉にウルもコクリと頷く。
そんな二人の表情は今にも泣きそうになっていた。
えぇ・・・そんな事・・・?
しかし俺にとっての「そんな事」でも二人にとっては大事な事だったのかもしれない。
なるべく安易な言葉を口にしないように気を付けながら慰めようとする。
「そんなに気にするな。眠いなら寝ればいいし、それに今ちゃんと言ってくれたじゃないか?それでいい。ありがとうな、ウル、ルウ」
そう言って撫でてやると二人共申し訳なさそうながらも気持ち良さそうにしていた。
そして素早く二人を抱き寄せ、それぞれ抱っこして持ち上げる。
「・・・!?に、兄様!?」
「いやー、やっぱ子供は子供らしく、と思って。まだ甘えたい年頃だろ?妹なら素直に兄に甘えとけって」
多少抵抗しようとする二人だが、離さす気はない。
後ろでメアやミーナが羨ましそうに見てくるが、今はウルとルウが優先だ。
抵抗が無駄だと分かったのか、ルウとウルは力を抜いて逆に頬擦りして来た。
多少くすぐったいけども、甘えられてるという感じがして心地良くもあった。
そんな俺をユウキは口に手を当てて信じられないようなものを見る目で見てきた。
「お前・・・やっぱロリ・・・?」
「妹想いがロリコンって呼ばれるなら、俺は別にそれでいいぞ」
「おっとこれは手強い」
イタズラな笑みを浮かべて俺の横を通り過ぎて部屋に入るユウキ。
フィーナもやれやれと呆れながら後に続いていた。
「別にあんたの言ってる事は悪くはないとは思うけど、程々にしなさいよ?後で後悔しても知らないんだから」
フィーナの言葉に首を傾げる。
「甘えさせて後悔って・・・成長したら我が儘になるとかか?俺からしたら多少我が儘になってくれた方が・・・」
「・・・はぁ。天然誑し」
大きく溜息を吐いて一言だけ呟いた後、振り返る事なく部屋へと入って行った。
天然・・・たらい?たわし?
俺の頭ってそんなボサボサじゃないよな?
ギリギリ最後を聞き取れずに混乱している俺の横でノワールがクフフと笑っていた。
「人に好かれるのは良いのではありませんか?特にそれが嘘でないのなら、年齢差の十や二十など気にする必要などないでしょう」
「うん?まぁ・・・そう、だな?」
突然ノワールから人の好意についての意見を言われ、分かるようでよく分からないまま頷いてしまった。
君たちは一体何を言いたいんだろうか?
そこまで気にする事でもないし、「ま、いっか」で済ませる。
「アヤト!お腹が減りました!ご飯にしましょう、ご飯!!」
ランカが腕をブンブン振りながら言って来た。
そうか、もうそんな時間か。
という事で、腹ぺこ娘の訴えで飯にする事となった。
ーーーー
☆★ルビア★☆
「・・・ふぅむ。また、やってくれた・・・みたいだねぇ・・・」
学園長室でついつい眉間にシワを寄せながら机に置いてある手紙を睨む。
封は開けてあるが、中身を見たくなくて閉じてある。
一応中身は見た。しかし信じたくなくてそうしてしまった。
「いやいや、もしかしたら見間違いかもしれないしね・・・。そう、物忘れの激しさや視力の悪化など、とうとう僕にも年齢らしい実害が現れたのかもーー」
ある筈のない希望に縋り、もう一度手紙を手に取ってよく見る。
【学園責任者ルビア殿】
【貴殿が所有しているルノワール学園の生徒に冒険者にも所属しているアヤトという者がいるという知らせが入っている。かの者は大罪を犯した者なり。その者と親しい者も含めた者たちを早急に差し出させ。隠し立てや庇うようなら貴殿の学園を強制的に立ち退きを命じる事となる。命が惜しくば従う事を推奨する】
【ヴェッフェル・ディ・グウェント】
「・・・はぁ、王様直々の脅迫状って・・・相変わらず無茶をしてるみたいだね、彼は・・・さてーー」
軽く溜息を吐いて窓の外を見る。
だけど、こうも落ち着いているのは何でだろうか。
理由など分かってる。
「アヤト君だから」
これで十分・・・いや十二分だ。
彼が僕を簡単に負かし、魔族の大陸からたった数日でのうのうと帰って来る彼を見て、心配するだけ無駄だと理解したからだ。
まぁ、今回の件を彼に全部任せるとあまり良くないとは思うけど。
ただだけど。
だからと言って。
決して不安がないわけでも心配がないわけもない。
「ーー胃薬でも買いに行くかな」
外を見つめたまま、キリキリしている自分の胃を押さえ呟く。
そう、コレは決して信頼なんかじゃない。
諦めだ。
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