理系転生 ~人類を根絶する目的で世界平和を目指す魔王と自身の好奇心を満たす目的で世界を破滅させる勇者の物語~

卜部猫好

文字の大きさ
87 / 178
第Li章:多くの美しい自然遺産を持つ異世界で何故観光産業が発展しないのか

戦争と平和/2:お父さん、そこに魔王がいるよ

しおりを挟む
 翌朝。早朝から湖の見学に向かった105名の観光客を見送ったシズクは、旅行客名簿を整理した後、彼等の後を追った。自分の推しを堪能してくれている人たちの笑顔を見るために。そのための特等席。ヨセタム湖を一望できる小高い丘の上から、観光客達がその湖畔にたどり着くまでを見守っていた、その時だった。

「シズクさん! 今すぐあの人達を引き返させてください!」
「イルマ? どうしたのその格好……まさか、あれから寝ないで……ううん、それよりもどうして? 周りに魔物はいない。あるのはただ湖だけで……」
「その湖そのものが魔物なんです! カリュブディス! 精霊種の魔物は滅多に人を襲いませんが、あれだけの人数が近寄るなら、話は別です!」
「……え?」

 その瞬間。爆発音が響いた。水面に立ち上る水柱は、湖水爆発の痕跡である。同時に湖から白い霧が溢れ出し、あたりには観光客の絶叫が轟いた。

「なに、あれ。白い霧が……包まれた人が、火傷して……ばたばたと倒れて……何の魔法? 高熱の水蒸気? それとも毒? いや、違う……あれは……あれは、ただの……」
「何ぼさっとしてるんですか! 早く走って!」
「二酸化炭素だ……」
「シズクさん! 逃げてください!」

 1986年。東アフリカのキブ湖を悲劇が襲った。火山帯の上に構築されたキブ湖の水深は深いところでは250m以上。その上層60mの部分は水の滞留によって混ざり合っていたが、それ以下では水の動きが発生せず、その湖底から滲み出る火山性の二酸化炭素とメタンをひたすらに蓄え続けた。それはまさに、自然が作り出した時限爆弾。ガス濃度が100%を超えた時、キブ湖は大爆発を起こした。これが、地獄の幕開けである。

 爆発と同時に解き放たれた二酸化炭素は、火山の火砕流並の速度で周囲に拡散。周辺の村を襲った。高濃度二酸化炭素に触れた人々は瞬時に化学火傷を発し、そのまま1分もせずに絶命。周囲の集落の住人1800名ほぼ全員の命の炎が、一瞬で消えた。

「もっと早く走ってください!」
「でも……」
「振り返らないでください! 死にますよ! 私が!」

 それはまさに、ソドムとゴモラの悪夢そのものだった。湖から広がる二酸化炭素ガスの進行速度は時速100km/hを超えていた。もしも振り返っていたら、シズクはそこに魔王の姿を見ていたことだろう。何故顔を隠すのか。そこに見えないの? 魔王がいる、怖いよ。いいや、それは狭霧である。可愛やいい娘じゃのう。じたばたしてもさらっていくぞ、と。

「どうしたんだ!? 何があったんだ、さっきの爆発は!」
「リクさん! 早くポータルへ! 逃げるんです! ここ以外のどこかへ!」
「イルマ!? 説明しろ! それに、逃げるならせめて荷物を!」
「あぁもう! 早く!」

 ホテルのフロントで金勘定をしていたリクの手を引いたイルマは、その場から数十枚の紙束のみを回収し、ポータルの前で呆然と立ち尽くすシズクと合流する。

「まだ飛んでなかったんですか!? どこでもいいです! 早く!」
「ダメだよ、イルマ。私は飛べない」
「何故です!?」
「だって……この村の人たちはみんな、このワープポータルをまだ使えない」

 その言葉にイルマの顔もまた醜く歪む。そのとおりである。ワープポータルを利用するには、別のワープポータルを登録していなければならない。そして、この村のほとんどの人々はまだ、外の村との交流を行っていない。つまり彼等は、命の未来行きチケットを持たないのだ。

「この……バカシズク!」

 イルマの手が強引にシズクの手を引き、ワープポータルを起動。それと同時に、二酸化炭素の霧が村に死の抱擁を果たした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...