理系転生 ~人類を根絶する目的で世界平和を目指す魔王と自身の好奇心を満たす目的で世界を破滅させる勇者の物語~

卜部猫好

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第Be章:幻の古代超科学文明都市アトランティスの都は何故滅びたのか

錬金術と現代科学:水銀を金塊に変える技術は既に存在しており、クラウンドファンディングで応援すると金の延べ棒が貰えます

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 戦いにおいて、急所を狙うことは非常に重要である。同じストレートパンチであっても、正面から手のひらで受け止めるのと鼻の頭に打ち込まれるのでは効果は天と地の開きがあることは誰でもわかるだろう。同様に、肩のあたりにパンチが飛んできたのならば多少の衝撃を覚悟で前に踏み込みカウンターを狙うことができるが、的確に正面に打ち込まれた場合少し体のバランスを崩すことを受け入れて回避を行わなければならない。攻撃は最大の防御という言葉は、ノーガードの殴り合いで先に倒してしまえばもう攻撃されないだろうという意味ではなく、攻撃を行うことで防御回避を強制しこちらを攻撃させないことで本来来るはずだった攻撃を結果的に防御するという意味である。このように、戦いにおいて常に急所を狙う技術とは最低限の筋トレの次に重要なものであり、そのため実のところボクシングなどの対人格闘技でも座学は必要不可欠な強くなるための道であると言えよう。

 では、人体における最大の急所とはどこだろうか。男性ならば、きゅっと縮まる思いがするような場所があるかもしれない。そこは肉体の外に出ている唯一の臓器であるとも言え、ほとんどの臓器が骨と肉で守られている反面そこはノーガードであるため致命的な急所となっている。ただ実のところ、人間としての個体での生命活動を考えた場合、そこまで重要な臓器ではない。一方、脳や心臓などは人体にとって非常に重要な部位であり、的確に狙えば一時的な脳震盪や心停止を狙うことができることも考えられる上、確実に命の終わりに直結する。その反面、頭蓋骨と肋骨によって防御されており、最大限の効果が発揮される場所をピンポイントで狙うことは高い技術と幸運が重要となってしまう。

 つまり、理論的に言うならば最大の急所とは、防御が薄く、それでいて重要度が高くダメージ効果が大きい場所ということになる。しかし、そんな都合の良い臓器は人体には存在しない。と、されている。

 いや、実際問題、そんな臓器は人体には存在しない。古来より存在しているはずとは考えられ、多くの人間が探し続けた臓器であるに関わらず、未だにその臓器を発見した者は医者、学者、格闘家、殺人鬼と幅を広げても存在していない。にも関わらず、私達はその臓器を急所であると認識しており、そこが攻撃をされることをひどく恐れ、誰もが過剰なまでの防御行動を取ってしまう。

 その臓器の名を、心という。

「心配をかけるって言うじゃないですか。心配ってチョコチップやチリソースみたいにかけられるものなんですよ。チョコチップとチリソースは小瓶から出てきますけど、じゃぁ心配はどこから出てくるのかって、それはもちろん心ですよね。だから、人間の体の中には心が存在しているはずなんです。じゃないと心配が出てくるはずがないんです」
「あぁ、いるよね。そういう子。チョコがカカオから、チリがトウガラシから作られることを知らない。海には鮭が切り身の状態で泳いでいて、カブトムシには電池を入れる蓋があると思っている。それで? 見つかったの?」
「まだです。僕のさがし方が悪いみたいです」

 そういってシズクの腹に再びナイフが突き立てられた。軽口は吐いても悲鳴はあげなかった。

「多分……その辺にはないと思うんだよなぁ。というか君、誰?」

 先ほどからこうしてずっとシズクの体の中から探しものをしているのは、見た目小学校高学年程度の少年だった。

「忘れたんですか? あなたは僕に心配をかけてくれましたよ」
「うーん、心当たりがないんだよなぁ。ただでさえリク君には人の心とかないって言われるし」
「でも、確かにくれましたよ。アイスといっしょに」
「アイス……あー、あの時の子かぁ」

 それはヒロゾと最初に出会ったおもちゃ屋の爆破事件の時の直前。確かに持っていたアイスを押し付けるように渡した少年が存在していた。

「あれからずっとシズクさんの後を追いかけて、見ていたんです。シズクさんは優しい人で、誰を相手にも心配をかけていました。僕はもっと心配が欲しくて、シズクさんから心配を受け取っていたはずの人たちから心配をわけてもらおうとしたんです。でもみんな貰った心配を隠してしまっていて、どこを探しても心配が見つからなかったんですよ」
「それでアイスクリーム屋さんや本屋さんをバラバラにしたんだ。うん、何言ってるかさっぱりわからない」

 シズクは既に二度死んでいる。確かにシズクは死亡しても蘇生するチートが存在しているが、それは痛みを感じないというわけではなく、むしろ気を失うこともできない時点でもはや呪いである。だからこそ、この異世界でシズクを真に無力化するためには、その心を狙う必要があった。それを理解したからこそ岩窟王フェラーは火力を落とし肉体の急所を外したし、同様にシズクはパーティの中の誰よりも偽王ネスの脅威を感じていた。

 今こうして必死で軽口を利いている理由は、防御行動である。執拗に心を狙い続ける恐怖による攻撃から、どうにか急所をずらす必要があったからだ。体中の痛みに泣き叫べば、そうして口から出た言葉は自分の耳にも入り、その音すらもが自分の心を追い詰める側に回る。やめて、助けて、怖い。そんな言葉もまた自分を追い詰める。だから有意に立たねばならない。そして、人間の恐怖を感じさせる最大要素である「未知」を取り除かねばならない。だというのに。

「ほんと、全くわからないんだ。君のことが」

 何故たかがアイスを渡しただけでここまで執着されるのかわからない。何故遠目から見ていただけで私の精神性を理解したつもりになれるのかわからない。何故見たこともないはずの心が物理的に存在するものと信じられるのかわからない。何故遠からず自身が破滅すると想像できないのかわからない。

「もしかして人の心とかないのかな?」
「そうかもしれませんけど、貰えるから大丈夫です」

 お前のせいだぞ、ライマン・フランク・ボーム。ブリキ人形に心を貰うための旅なんかさせるから。カンザスの農地で竜巻に巻き込まれたのがお前じゃなかったことを今心底呪っている。そもそも鵞鳥とお婆さんが子供に愛情を注がなかったことが悪い。いや、愛情を物理的に注がれたからこそ心を物理的に存在すると解釈してしまったのか。

 ちらりと横に目を向ける。最初に殴られてリンネは気を失っていた。耐久力がなさすぎる。あの時もう少し鍛えておくべきだったのか。おそらくそうではないが。しかし、今はそれが逆に助かる。リンネの体でこの少年をなんとかすることなどできない。そして、既に5年も少女のアバターで生活したリンネの心はもう完全に少女であり、その心は極めて脆いはず。下手に目を覚ましてしまって恐怖で泣き叫ばれたら、敵が二人になる。

 助けは来ないのか。リク君達はあと1時間はかかるらしい。なんだよ水力駆動式エレベーターって。無理に電力がないファンタジー世界でブルジュ・ハリファなんかを建てるからそうなるんだ。この宿もといマンションの他の住民や、管理人のような人はいないのか? こちらの声に気付いて助けに来てはくれないのか。

 いや、おそらく無駄だ。かつてアメリカで同様の事件が起きた際、同じアパートの全員が怯え叫ぶ女性の声を無視して助けることはおろか警察を呼ぶこともしなかったことが確認されている。それが人間の精神性だ。ちなみにそういう時には「◯◯さん助けてください」と直接名指しで助けを求めることが効果的であると後に心理学で証明されているのだが、そもそもシズクは隣人の名前を知らなかった。

 自力でなんとかするしかないのか。いやそれこそ無理だ。男女の筋力差は抗えない壁だ。筋力以外での解決方法としては。

(いや、それはダメだ)

 確かに魔法は使える。簡単に状況を打開できる。逆に言うと、簡単にできてしまう。どうイメージしても、相手を殺さずに無力化することが想像できない。この際、こういう壊れた存在を殺してしまうことでこちらが受ける罪悪感による反動ダメージはそれほど大きくない。もしもイルマと同様の光の魔法が使えたのなら、今すぐにでも焼き殺している。

 しかし私に使える魔法はそんなものではない。これは絶対に攻撃や破壊目的では使ってはいけない魔法。どこぞの名前を言ってはいけない人が使う魔法とはそもそもわけが違う。これはただ、人を殺したり物を壊すだけには留まらないのだ。

 かつて、ニトログリセリンが実用化され、アルフレッド・ノーベルがダイナマイトとして改良して以来、爆弾の力は爆発力ということである程度定数化されてきた。現代でこれはTNT換算と呼ばれ、実際に使用されたものは15KTと20KT。現在世界に存在する最高威力のものはその3300倍と言われているが、そもそもこの力の恐ろしさは定数化できない部分にある。

 太平洋戦争において唯一本土戦が行われた沖縄。その南部に残る戦争遺跡を高校の修学旅行で回ったことがある。今もそこには多くの思いが渦巻いており、同時に回った同じクラスメイトの中の何人かは未知の感覚に怯え、気分を悪くする者も少なくなかった。普段から「そういうもの」をなんとなく見ていたシズクは、ここまで強くてここまで多いとそれほど感受性が高くなくても理解できるのかと興味深そうにそのクラスメイトの方を観察していた。なおこの時にリク君は何故かホテルに置かれていたちんすこうにハマり、お土産屋で買ったものをその場で開封しぼりぼりとその場に食べかすを散らかしていた。そういう失礼なことするからいつも怒られてたんだよ。さておき。

 そんな沖縄と広島は根本的に違う。市内中央の平和公園と似た場所は、むしろ神聖な神社の森に近い。聖域、神域とも呼ぶべき透き通った空気。人間の魂が存在しない場所。どこにでも居るはずのものが居ないこと、それがどうしようもなく恐ろしかった。そこに居るのは限りなく神様と呼ばれるものに近いのに、どうみても神様には見えない存在だけ。それをひと目見て直感したのだ。あれは見てはいけないものだと。理解した瞬間に「終わる」ものだと。

 使用後に降る黒い雨と広がる放射能汚染。単純な爆発の破壊力ではなく、そちらこそ真に恐れるものだと主張する人間は多い。確かにそれはそうなのだが、真に恐るべきことはそれでもない。この力は、物理的な破壊力と持続する汚染効果よりも、魂を変質させてしまう効果が恐ろしいのだ。

 人間の臓器として存在するはずの心は未だ見つかっておらず、魂の重さに関してもおそらく発汗が誤って測定されているため未計測である。宇宙よりも近く、深海よりもなお近い場所であるはずなのに、未だに生きた人間は神話の中以外であの世を観測して帰ってきていない。それらは、存在しないが「ある」のだ。あるのならば、他の元素と同様に変化させられる。ウランが鉛になるように。水銀か金になるように。放射線には物事の本質を「ずらす」効果が存在している。故に、この魔法が魂を「ずらす」ことは間違いない。そしてそれは、絶対にするべきでないこと。それなら卵か猫を電子レンジで温める方がマシだ。いや猫はダメか。

 だからこそ、この力は存在していてはいけない。唯一の被爆国に生まれた人間の矜持だとか、そういうわけではない。実際にその傘で世界が平和になっているなどというのは詭弁に過ぎない。この力は、魂の階層を1つずらす。人間を神様もどきにしてしまう。だからこの力は使ってはならない。そう、仮に。ここで私が「終わる」としてもだ。

(やっぱり。魔王でも、魔物でも、自然災害にでもなく。私は人間に終わらされるのか。それもこんな子供に)

 ある意味納得の行く結末だった。予想通りのエンディングなのだ。子供であることはむしろ、純粋な人間に近いとも言える。やはり、純粋な人間こそが、世界で最も……

「あれ……わたくし……ひっ! し、シズク先生……!?」

 まずい。まずいまずいまずいまずい。何故目を覚ましてしまった。

「なんなんですの!? なんなんですのあなたは! やめてくださいまし!」
「リン……」
「そうだ、ここはまだ探してなかった」

 刃物が喉元を切り裂く。声が音にならず、ひゅーという笛のような音だけになった。最悪だ。私がオタマみたいなおもしろ楽器になってしまった。あぁ、お願いだよ。お願いだから、そんな徒労を今すぐやめて、せめて先にリンネを殺してほしい。

「嫌っ……いやぁぁあああああああ!!」

 やめて。本当にやめて。お願いだから泣かないで。その音が一番ダメなんだ。ネコの鳴き声、もしくは赤ん坊の声、それに近い子供の女性の声。それが心に対して最強の特攻効果を持つ攻撃なんだから。

「誰か! 誰か助けてくださいまし! シズクさんが、シズクさんが殺されてしまいますわ! 誰か! お願いですわ! 助けてくださいませぇぇえ!! 恐ろしいのです! とても恐ろしいことが目の前で起きているのですわ! 怖い……怖いよぉぉおぉお!!」

 あぁ、状況説明まで。最悪だよ。認識が加速する。必死で耐えてきたものが一瞬でぱぁだ。そうだよ。そうだったんだよ。最初からずっと……

――怖かった

(あ……)

 見てしまった。目があってしまった。気付かれてしまった。終わりだ。

(怖い)

 怖くない。

(怖い怖い)

 怖くない怖くない。

(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)

 怖くない怖くない、いや、でも。本当はどうしようもなく。この力を使った先に想像されることよりも、今。今この瞬間が、どうしようもなく。

――怖い!

 死神が、その鎌を振り下ろした。
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