理系転生 ~人類を根絶する目的で世界平和を目指す魔王と自身の好奇心を満たす目的で世界を破滅させる勇者の物語~

卜部猫好

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第Be章:幻の古代超科学文明都市アトランティスの都は何故滅びたのか

荷物持ちと勇者/2:ステータス極振りとレベル差の暴力のどちらを好むかは個人の趣味による

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 これまでカイが目指す勝利とは武器の破壊だった。しかし、完全に砕けた状態から再生する伝説の金属オリハルコンを前に、武器を破壊するだけで勝利を得ることはできなくなった。ヒロゾとの再戦においてカイはまず、その確認のため従来通りの戦略を取る。

「相変わらずやなぁ……!」
「あぁ。相変わらず。昔からお前には一度も負けていない」

 打撃により耐久力を削り、ある程度で掴んで捻る。この戦い方により、ヒロゾの長ドスは再び砕けた。問題はここからだ。ヒロゾがここで敗北を宣言した理由はこちらの油断を誘い再生した刀身で刺すことが目的だったのか、それとも、それともその刀身が再生するまでの時間稼ぎだったのか。もしも後者であるなら、武器が砕けた現状で手を止めず、殺してしまわない程度に打撃を入れれば勝てるはず。どうか。

「そこまで簡単ではないのぅ」
「ふっ……そうこなくてはな!」

 しかしその攻撃は当然のように再生していた刀身を持ってガードされる。しかもこの時、手に響いた感覚から刀身の強度が初期状態にまで戻っていたことを実感した。再生速度は瞬時、しかもその時点で最高のポテンシャルまで戻る。確かにこれならばあらゆる戦士、特に、剣を使う者がオリハルコンの剣を求める理由がよくわかる。

 剣の最大の弱点は切れば切るほど血糊により切れ味が下がること。それ故に、剣が使用されていた戦場において剣の達人は、数人を切った時点で己の剣を捨て、倒した相手から剣を奪う必要があったとされる。しかし、オリハルコンの剣ならその必要はない。血糊で汚れた時点で自ら折ってしまえばいいのだ。

 切れ味が下がったところで意図的に刃を折り切れ味を確保するというこのギミックは、オリハルコンのような伝説の金属ではなく一般的な金属でも再現できないだろうか。例えばこう、紙を切る小型のナイフとかで。そんなことを一瞬考える程度にはカイにはこの時点ではまだ余裕がある。それだけカイとヒロゾの間には実力の差があった。

 しかし、カイの弱点は手癖で相手の武器を狙ってしまうことだった。リクがカイとの一騎打ちで感じたように、本来対人戦を考えるならば狙うのは武器ではなく相手の人体の急所であるべきなのだ。そしてカイは人の急所というものを知識程度でしか理解しておらず、また、その理解は無意識的に動いてしまうレベルまで研鑽された武器破壊技能を補正するには弱かった。

「強さを表現するステータスというものがあるらしいよ。体力、攻撃力、防御力、素早さに加えて、魔法攻撃力と魔法防御力で表現するのが一般的らしい」
「理屈はわかりますけど、それってどうやって測るんですか。基準とかあるんですか」
「スタートボタンを押してステータスウィンドウを開くってリク君は言ってた。意味がわからないと思うけど私も正直よくわからない。ようするに、そうやって強さを数値化できればわかりやすいのになぁっていう甘えた考えだね」

 ビルの屋上から二人の戦いを見守るシズクとイルマ。イルマは戦いを見守りつつ、外部から茶々を入れようとする者がいれば魔法で狙うつもりでいる臨戦態勢なのだが、シズクはそうではないようだ。その証拠に、この状況でラーメンを出し始めた。

(あの魔法は使えない理由があるとして)

 これについてイルマは既に察している。その理由が心理的なものであり、それはおそらくシズクの信念に近い部分にある。ならば使えと迫ることはもちろん、その理由を聞くこともするべきではないと考え、この状況でそれについて問いかけるプロセスはカットされる。

「何もできることがないのはわかるんですけど、開き直ってラーメンをすすられるのはちょっとどうかと。カイさんは命を貼っています」
「応援して勝率が上がるなら応援するけどね。私の仕事はチアリーダーじゃなくてタダ飯喰らいなんだ。食べる?」
「私は魔法使いですので」

 ただそれでも、やはり仲間が戦う前でラーメンをすするのはどうかと思うのだが、これに関しては解剖しながらラーメンを食べることに対してリクから同じようなことを言われた覚えがあるので、考え方の違いなのかもしれないと許容しよう。

「それで実際問題、ステータスが確認できるとして、勝敗って予想できるのかな」
「単純にすべてで上回っているなら予想できるでしょう。しかし、往々にしてそうはならない。どこかしらで相手に勝る要素は見つかるでしょう。そうなると、その優位性をどのように活かすかの問題になります。つまり結局のところ、その活かし方に気付き実行できるかという頭脳戦になると言えるでしょう」
「なるほどね。何かしらの特化ステータス1つと、それを活かすためのひらめき。これが異世界の攻略の鍵ってわけか。なんか最近そういう極振り物が流行っているってリク君が言っていたけど、まさにそういう理屈なんだろうね。ただ、相手も同じ条件ならどこかしらで相性によるじゃんけん問題になってしまいそうだし、私はバランス良く全部強いのが理想だと思うんだよね。それはそれでレベル差による圧殺っていう別ジャンルらしいけど」
「相変わらずよくわからない話ですね」
「私も」

 リクが語る異世界転生モノというのは、やはりどうにも物語的というか、ご都合主義的に感じてしまい理解に苦しむ二人であった。さておき。ため息をつき、目に入った障害に対してイルマが軽く魔法射撃を行ったところから話は再開する。

「その理屈で言うと、カイさんは全部強いよね。明らかにヒロゾさんより全部で上。でも簡単に勝てない理由が、オリハルコンによりいつもの勝利条件が無効化されていることと、いつもの勝利条件以外に切り替えるノウハウがなく、勝手に動く体を意志で補正できないってところなのかな。それだとある意味カイさんも特化型だったわけか。で、特化項目を無力化されるっていう特化型の典型的な弱点に苦しんでいる、と」
「なるほど。そういうことなのですか。よく見てわかりますね」
「タダ飯喰らいの特殊スキルってやつ? まぁこういう分析を伝えたところで、ほとんどの人は今のカイさんみたいに習熟した反射をコントロールできないから言うだけ無駄で、まさにこうやって外側から知っているのかライデン瓶するためだけの能力なんだけど」

 ライデン瓶って、話に聞いたポッセスさんが雷の魔法を習得する時に使った道具だったはずだが、それには何か他にまだ知らない効果があるのかなと考えるイルマである。しかし、こういう時のシズクはよくわからないことを言うため、おそらくこれも同じことなのかもしれないとして追求を行わない。この人に関しては、聞けばなんでも教えてくれる良い師ではあるが、どうでもいいことまで真剣に教えようとしてくる癖があるため、こちら側である程度教わることに当たりをつけないといろいろなものを無駄にする。

「こういう技量を頭脳として考えるなら、やっぱり賢さこそが最終的な勝敗を決めるんだろうね。でも……」

 ちょうどそう言いかけた時、イルマが魔法を放とうとして咄嗟に止める。彼女はこの戦いの邪魔をするものに対して魔法攻撃を仕掛けようと集中しており、それ故に今も視界に入った影を相手に攻撃を仕掛けようとしてしまったのだが、それがリクであることに気付いて手を止めたという瞬間の動きだった。

 さて。ここで視点をリクに戻し、少しだけ時間を巻き戻そう。

(くそっ……! 俺なんかじゃとても立ち入れない、すげぇ戦いだ……!)

 達人の域にまで届いていた二人の鍔迫り合いに、リクは当然そう考える。しかし、すぐにそれが先入観によるものだったことに気付く。

(いや、やっぱりこの優男、動きはすげぇいいのに狙いは無茶苦茶だ。ほんとに戦いを知らないんだ。なんだよこいつ、生まれ持ったセンスだけでここまで生きて来れてるだけで、まともな修行とか絶対やってねぇよ。やだねぇ、チート野郎ってのは)

 リクはカイが想像の絶する師匠のしごきに6年も耐えたことを知らない。もちろん自分のことは網棚の上に放置された週刊少年雑誌状態である。

(ヒロゾさんはヒロゾさんで確かに凄いんだが、なんていうか、もう前しか見えてないな。さっきから向こうのビルで待機してる狙撃手の人が必死でアピールしてるのに無視どころか気付いて……あ、イルマが先に気付いた。かわいそうに)

 こちらの狙撃手は優秀である。狙撃手にはサイコパスと言えるレベルの冷静さが必要不可欠であり、ある意味これが魔法使いイルマの定位置になるべきなのかもしれない。

(ということは……もしかして、今後ろから切りかかったら終わるんじゃないか?)

 こうして腰を上げ、剣を構えて背後から迫ったという流れなのだが。

「……信じられません。リクさんは正々堂々って言葉を知らないんですか?」
「その言葉を知らないのがリク君の最悪なところで、逆に数少ない長所の1つでもあるね。一般的にはそういう正々堂々とした潔癖さってのは誇れるものなんだろうけど、ほとんどの状況でそれは勝機を逃したり意図的に非効率な選択を選ぶ結果になってしまう。今この状況で目指す勝利条件はヒロゾさんを倒すことで、そのために手段を選ばないというのはある意味で正しい。実際、イルマだってヒロゾさんが魔法を弾くのでなければもう頭をスナイプしてるでしょう?」
「それはそうなんですけど……普通思いつきます? 後ろから斬りかかるとか。魔法使いが離れたところより後ろから撃つのと、剣士が近づいて後ろから斬りかかるんじゃだいぶ心理的障壁が違いますよ。そもそも、カイさんになんて言われるとか、いきなり振り返って斬りつけられるとか考えないんですか?」
「さっき言いかけた話なんだけどさ」

 ため息をひとつ入れたわりには、ものすごく楽しそうな笑顔でシズクは続きを語る。

「賢い方が勝つという当然の帰結を考える上で、賢さの差に開きが出ていくと当然のこととして予測勝率も上がっていく。しかし、それはある一点において一気に下がり、予測勝率に逆転現象が発生する。でも、それもある一部分のみで、それ以上開きが出ると再び勝率は一点急上昇する。この奇妙な棒グラフの推移を、人型ロボットの好感度にあやかって私はこう名付けたい」

 背後から忍び寄るリクにカイが気付く。そしてその口が、待てやめろと叫ぶ一瞬前に、ノーガードだったヒロゾの背中をリクが斬りつける。広島弁における最上級の罵倒を吐くと同時にヒロゾが膝をついたのを確認して、シズクはリクへの称賛を込めてその言葉を述べる。

「バカの谷現象」

 かくしてもこのアトランティスにおける二度の重要な戦いは、多くの創作のお約束を覆す反面で多くの現実での歴史上の重要な戦いがそうであるようにカタルシスなど起きようはずもなく、その両方が愚か者にむちゃくちゃにされる形で幕を下ろすのだった。
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