理系転生 ~人類を根絶する目的で世界平和を目指す魔王と自身の好奇心を満たす目的で世界を破滅させる勇者の物語~

卜部猫好

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第B章:何故異世界飯はうまそうに見えるのか

知識と知識/1:かわいいは正義に対する科学的裏付けについて

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 ループによるロックダウンの支持はその彼の愛らしい見た目とあわさった好感度の高さと、彼に協力し呼びかけを行ったテスタメントへの信頼度の高さによって驚くほどスムーズに成功していく。もちろん、個人の感情に訴えてそれを拒絶する人間がいなかったわけではない。そこではじめて治安維持組織としてのオーク達が活躍する。

 本来オークは亜人種の魔物であり、その体力ポテンシャルは人間よりも高く、体格も人間よりも一回り大きい。それは過度な殺傷力を付与同時に付与してしまう武器を用いることなくほぼ素手での制圧が可能であるという点で極めて優秀に働く。また、彼らが人間の言葉を理解しないというのも重要だ。それ故彼らは、抵抗勢力が武器として用いる言葉が通用しない。怒りによる脅しも、泣き落としによる共感誘発も、それどころか賄賂による買収も通用しない。その上力で抗うことも無理なのなら、もはやこの異世界におけるオークの群れは最優秀の治安維持要員であると言えるかもしれない。

 このような動物を利用した治安維持という方法は、実は現実でも行われている。特に有名なのがカナダとアメリカに存在する騎馬警察だ。実は馬上警官は大規模イベント会場の警備や暴動の鎮圧に非常に効果的であるとされている。鞍上の警官は一回り高いところ場所から周りを見渡すことができ、監視警戒能力は十分だ。

 加えて、無機質な機械や怒りを伝えられる人間とは違い馬という生き物は、そのキューティクルな瞳も相まって暴力を振るいにくいという点が大きい。ある意味で動物のかわいさを盾にする古代エジプトにおけるペルシャ人により人類史上最も非道な戦略である猫盾に通じるものがあるが、実際歴史において戦争で効果的に働いてしまうほどの戦略であると証明されているとも言える。

 オークといえば、多くのファンタジー世界で醜い見た目と野蛮な行動で描かれているが、この世界、特にこの街においては様相が少々異なる。ころころとした見た目と愛らしい豚の顔、加えて食を楽しむことを目的にしたループの指示で彼らは常に清潔だ。ループに対する好感度の高さは彼らオークの群れへの好感度の高さにも繋がっており、この街におけるオークはインドにおける象や牛のような大切な隣人として扱われている。その事実はより彼らのかわいらしさに磨きをかけることになる。

 これは飼い猫の顔と野良猫の顔を見比べれば一目瞭然である。愛されている飼い猫は目が大きく丸く育つが、厳しい仕打ちを受ける野良猫の目は鋭くなる。これは実のところ人間も同じだ。愛され、落ち着いた環境で育った生物の顔はかわいくなる。それは生物が社会に適用成長する事実であり、これは現在実験が進んでいる狐の家畜化でも観測されている事実だ。一昔前に「かわいいは正義」というキャッチコピーが流行ったが、これは生物学的に真実なのだ。なにせ、かわいくあれること自体が平和の証であり、平和であることはこの世界における究極的な正義なのだから。

 ということで、オークによる治安維持は一滴の血を流すこともなくスムーズに進んだ。仮にシズクが主導で同じことを行ったのならば絶対にこうはいかなかっただろう。この成功が偶然か、それともループとテスタメントの策なのかはわからない。ただそれでも、シズクがこの二人に感謝を行う理由には十分すぎるだろう。

 さておき。肉体的ポテンシャルとそのかわいさによって完全制圧が可能となると思われた街において、最後まで抵抗を続ける勢力が存在した。それがエジソン率いる特許連合だ。何故彼らはオークを退けることができたのだろうか。この現象は生物学において、善と悪のパラドックスと呼ばれている現象が根幹にある。

 生物学者のリチャード・ランガムは、暴力行動を2つに区分けした。1つは反応的暴力性と呼ばれ、怒りの感情や一時の気まぐれによる暴力行動だ。挑発的な言葉に対して思わず殴りかかってしまったり、恋愛対象への愛着の高さによるちょっとした意地悪や家庭内暴力がこれに当たる。これに対するのが能動的暴力性で、これは計画的で冷静に使用される暴力のこと。麻薬密売に際して警官を殺害するなどの犯罪行為に加え、企業内における派閥争いやストライキ、さらにはデモやテロ、そして戦争がこちらに当たる。

 人間は集団社会を築く中でより社会に適応するために自らをかわいく家畜化した。その中で、社会で不都合となる反応的暴力性は世代と共に薄れていく。しかし、逆に社会が高度に進化し、個々人が知恵を獲得する機会が増えていった結果、能動的暴力性は高まってしまい、その最たる形として人類の歴史は戦争の歴史というフレーズが生まれてしまった。かわいさという善の進化は、同時にあざとさという悪も進化させるということだろうか。くれぐれも推しとの付き合いは慎重に行ってもらいたい。

 改めて、エジソン達が続ける抵抗行動は、典型的な能動的暴力だ。時代で言ってこの世界の人間よりも1000年近く平和的進化を遂げたエジソンとその知恵の実を授かってしまった彼らだからこそ、能動的暴力でオークと戦闘が行える。確かにオークの肉体的ポテンシャルは人間を上回るが、人間は武器を使用し自らの戦闘力を高めることができる珍しい動物である。本来オークも魔物の中でも珍しい武器を使用する魔物なのだが、この街のループ率いる群れはその強化手段を半ば放棄してしまっている。その事実は、うるうるとしたキューティクルな目つきのオークに、平然と刃物を突き立てることを可能としてしまう能動的暴力性が加わることで、彼らを危険な抵抗勢力に変貌させてしまった。ましてや相手は発明王エジソン、その武器の質はこの時代よりも優れており、そこにはまだこの世界には存在しないはずのライフル銃や火炎放射器のような重火器すら存在していた。結果としてこのロックダウンにより最初に流れた血と失われた命がオークになったという事実は、人間優位の思想を持たざるをえずオークを敵視するしかなかったシズクにとっても非常に複雑だった。

「オーク達を下がらせろ。彼らの命を犠牲にすることは、ループへの示し以上に大きな問題を生じさせる」
「かしこまりました」

 ハイオークの執事がテスタメントの言葉を翻訳して群れに指示を出す。凛とした執事がぶーぶーと鳴く姿は奇妙でおかしさすらも感じるが、今はそれどころではない。

「ループへの示し以上の大きな問題、ね。一体あなたは人間とオークの関係性をどう見ているの?」
「今はそれどころではないだろう」

 痛いところを突かれる。実際にリンネ達に言われたように、未だにシズクは行動の優先順位決定が苦手である。

「鉄の球を射出する筒に炎の指向性を制御する道具か。魔法なしにあんなものを作るとはな」

 銃と火炎放射器という概念がない。これはつまり、テスタメントがテスラと同一人物であると仮定しても、テスタメントがテスラの転生体ではないこと、ないし、テスラの記憶を受け継いでいないことを示していた。

「驚かされるよ。全く」
「あなたならどちらも発明できたんじゃないの?」
「それは勿論。しかし、それを戦闘行為、ましてや人に向けて使うという発想には至れない」

 こういうところはある種天才の危うさなのかもしれない。ノーベルもアインシュタインも、最初から人を殺す目的で爆弾を作ったわけではない。

「ともあれ、飛び道具で応戦される以上こちらも飛び道具が必要になるか。シズク、君は魔法が使用できるのか?」
「残念ながら。イルマは光の魔法が使えるけど」
「光か。遮蔽物の多い街の中では厳しいな」
「そうなる。光じゃ質量防御もできないから、重火器を前にする相手の前に立たせるわけにはいかないしね」
「光では質量防御ができない……?」
「今はそれどころじゃない。あとごめんなさい。ネタバレやめて」

 光には重さがない。今はまだそういうことになっている。実際この考え方は昨今のヒッグス粒子の発見によって見直されつつあるのだが、とにかく今はまだ光には重さがない。仮にテスタメントがその先を知っているにしても、シズクにとってそれは読み進めている推理小説の犯人とトリック含めて暴露されるネタバレに他ならないのだ。

「弓を用意してもあれらへの対応は厳しい。そうするとこちらは飛び道具なしということか」
「飛び道具なし? そうかな。あると思うよ」
「ふむ。それは?」

 シズクはとんとんと喉を突いて答える。

「私達にはマッハ1の速度で放射的に拡散し、障害物も回り込む波たる飛び道具、言葉がある」

 テスタメントは一瞬きょとんとする。こいつはバカなのか。何を言っているんだ。まさか、光の速度が極めて遅く、さらには波ではないとでも考えているのだろうか、と。
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