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天命が定めし出会い
真夜中の鬼対峙
しおりを挟む日付が変わり大体の人間が寝静まる頃、剣合国軍は静かに出撃した。
ナイトを筆頭に槍丁、安楽武、亜土炎の諸隊が続々と陣を出る様子をつぶさに確認した敵の物見は、急ぎオルファイナスへと報せに走る。
「小癪な。このオルファイナスに夜襲は通じぬ。警備部隊は直ちに出陣して奴等を足止めせよ! その間に我等は迎撃の態勢を整える」
虎髭を生やした薄黒い肌の巨漢オルファイナスは、突然の夜襲にも毅然としていた。
場数を踏んだ故のゆとりを示し、部下や同僚達にも慌てず騒がずを徹底する様は、正に歴戦の猛者たる姿である。
将が将なれば兵も兵と言おうか。オルファイナス隊は全軍の中で最も早く迎撃態勢を整え、大半の者が寝起きであるにも拘らず、それを感じさせない威圧を放って静かに上官を待っていた。
「出るぞ!」
「はっ!」
鬼は得物の二丁斧を手にして部下達の前に現れ、威厳に満ちた一声だけで皆の闘志に火を灯す。
その様子は如何にも機械的であり、人としての感情が見受けられず、入り切りの電源のみを持つ人造兵士を思わせた。
騎士団最強の部隊が出撃した時、陣外では今夜の警備を任されていたカイカンが六千の兵を指揮して剣合国軍と交戦していた。
刃を交えて一刻足らずでカイカン隊は圧倒的劣勢に陥り、陣形はもとより小隊ごとの備も乱れに乱れ、このまま勝敗が決する流れとも思われた。
「亜土炎将軍! 敵陣より新手です!」
敵影を確認した亜土炎の側近が声を荒げてオルファイナス隊の出撃を告げる。
この時、亜土炎隊はナイトの右翼部隊として進撃し、あっという間にカイカン隊の背後にまで攻め込んでいた。
それだけに、今度は彼等がオルファイナス隊に背を取られる形となるが、この危機に面しても亜土炎は焦りの色を見せず、想定通りとして迎撃の部隊を差し向ける。
だが、それは大きな間違いだった。
オルファイナス隊は亜土炎が放った迎撃部隊を一撃のもとに粉砕し、勢いを落とすことなく亜土炎本隊に肉薄してしまう。
その尋常ならざる攻めの強さは亜土炎の予想した強さの枠を簡単に突き破っていたのだ。
先頭を駆ける隊長の武勇は当然の事ながら、後に続く直下騎兵も恐ろしい精鋭揃い。
彼等は静かに、そして速く鋭く敵中を切り進む。音があるとすれば、馬蹄の響きと切られた亜土炎隊兵士の悲鳴、そのあとに続く骸の倒れた音だけである。
消音機能を有した高性能な草刈機とでも評するのが妥当であろうか。とにかく前にいる敵兵を草芝の如く切り除けていくのだ。
「……戦力を終結させろ。急げ」
騎士団が誇る武の象徴とも言える強さを前にした亜土炎は、この場の死守に全力を注ぐべく兵を集める。
初手の判断を誤り、後退する機会を無くした為でもあるが、彼の部隊がこの場から消える事はオルファイナスと合流したカイカンに起死回生の一手を与える事となるからだ。
そうなれば剣合国軍全体の優勢は失われ、壮絶な消耗戦に発展してしまう。
(非情の決断か……許せ)
亜土炎は己の詰めの甘さで、部下達を多く死なせてしまう事に心を痛めた。
才覚に於いて兄に劣る彼だからこそ持つ、亜土雷にない優しさが、せめて最大の脅威たるオルファイナスの相手だけは自分がせねばなるまいと思わせる。
亜土炎は馬首を返し、力量の差があり過ぎる強敵に向き直った。
「待て、お前は動くな」
然し、亜土炎が覚悟を決めた矢先、彼の右肩に手を置いて突撃を制止する者が現れる。
気配を感じさせなかった事と亜土炎に命令する口調から、その者が部下ではないことが即座に分かった。
では一体誰が。亜土炎は右に向き直る。
「鬼ファイナスこと鬼軍曹は俺が受け持つ。お前等は奴の手下に当たれ」
「フォンガン将軍!」
そこに居たのは本陣待機である筈のフォンガンであった。燃え盛るような赤い鬣の馬に跨り、右手には得物の大太刀が握られている。
思わぬ助っ人の登場に亜土炎は珍しく笑顔を見せた。殺人的強面の兄に比べたら、彼はまだ色がある。
「兄貴が来るまでの辛抱だ。気張れよ」
無駄な会話は省き激励のみを発した後、オルファイナスへ向かって単騎で駆け出すフォンガン。
亜土炎は勇ましくも大胆な大先輩に力強く首肯し、自部隊内に於いて最強の兵達に彼の後を追わせた。そして自身は全体の指揮を執り、オルファイナス隊とカイカン隊の合流を阻むことに専念する。
「鬼軍曹、昼間の借りを返させてもらう!」
「紅蓮の鬼将フォンガン殿か、相手にとって不足無し! 参るぞ!」
両軍の鬼同士が距離を縮め、魔力を込めた互いの得物をぶつけ合った。
十や二十もの鉄棍棒を重ね合わせた巨大鈍器をも一捻りにできるであろう衝撃と轟音が、闇夜の戦場を包む冷気を熱気に変え、目前の敵との戦いに集中する兵達の度肝を抜く。
「流石……律聖騎士団にその人ありと言われる鬼軍曹」
「貴殿こそ……討つには惜しい好き敵だ」
「はぁっ! アホぬかせ!」
大太刀を振るって二丁斧を弾いた後、直ぐ様反転させた刃でオルファイナスの首を狙う。
だが守りを崩されて尚、オルファイナスは堂々と構えていた。
まるで焦りこそが最大の弱点であると語らんばかりの落ち着き様である。
オルファイナスは左の斧の先端に魔力を込め、その切っ先だけを大太刀に当てる事で返された刃を逆に撥ね退けた。
そして空いている右斧は攻めに繰り出し、真上からの振り下ろしを仕掛ける。
今度はフォンガンが危機に直面したが、当の本人は狼狽えるどころか、寧ろこれぐらい強くなくては張り合いがないと思わせる笑みを見せた。
「だありゃぁ!」
右手首に魔力を込め、胸の方へ盛大に捻る。握られていた大太刀が一瞬だけ持ち主を失い、次の瞬間にはその柄が左手に収まった。
大太刀を瞬時に持ち替えたフォンガンは、お返しとばかりに刃先で頭上にまで迫っていた斧を弾き返す。
時にしてたった数秒の出来事。これに劣らぬ命のやり取りがこの後、数十合にも及んで繰り返されるのだ。
二人の鬼と一定の距離を置きながら戦う兵達も、その一挙一動には目を見張り、純粋に格の違いを思い知らされる。
(正に死闘だ。あの二人からすれば……俺達の戦いは遊びに過ぎないのだろう)
剣士として目指す頂は遥か先にあり。世に名高い大剣豪の戦いぶりから多くを学ぶべく、亜土炎はフォンガンの太刀筋を可能な限り目に収める。
暫くして彼は気付いた。代々真面目な軍人の家系に生まれた自分には、フォンガンの様な戦い方は真似できないと。
(失礼な表現だが……フォンガン将軍の太刀捌きは大雑把が過ぎる。私が見ても無駄と思える動きがある上、絶えず攻め偏重な姿勢だ。己の急所を気にする様子も恐れもない)
分かり易く言えば、相手に与えるダメージも自分が受けるダメージも大きい。捨て身の特攻に近い、非常に危なっかしい戦い方である。
致命傷に至らないのはただ単純にフォンガンの反射神経と咄嗟の機転が人並み外れているだけで、剣術によって身を守るといった考えはないのだろう。
一方のオルファイナスは極めて安定した構えを見せ、二丁斧を巧みに操った攻防一体な動きをする。決して危険を冒さず、攻める時は攻め、守る時は守り、攻守の切り替えに関しても一切の余念を抱かない徹底ぶり。その戦い方は個人・集団の両方に言えた事だった。
攻め一筋のフォンガンと攻守の均衡がとれたオルファイナス。両人とも一級の実力と経験を持つだけに、現段階ではどちらが優勢なのか判別がつかない。
ただ、オルファイナスが必要以上に落ち着いている為に、フォンガンの方が勢いで勝っている様に見える。
尤も素人目にはそう映るだけであり、実際の優劣は当の本人達か、ナイト級の武人でなければ分からない事であった。
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