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戀王国の仲間達
夜襲するぞ、絶対にするからな、振りじゃないぞ
しおりを挟む王国連合軍の前線地帯 于詮陣地
秦織城を出て清戀虔呉を後にした第一軍は、二日後にはギザの地へ到着。
手痛い迎撃を受けて軍勢の復旧に努めていた于詮と合流した。
「まさかナイト殿まで来てくれるとは……! これで俺達の勝利は確実! 早速出陣し、奴等を木っ端微塵にしてやろう!」
「ふっはは! 一つ歩隲からの伝言。油断大敵・警戒進軍で当たれ……だ」
第四軍団都督、斬撃烈士の于詮。彼は高い武力と特殊な魔力属性を有する反面、勢いに乗りすぎる猪突猛進な一面も併せ持つ将軍だった。
援軍要請に繋がる敗北も、敵の囮部隊を撃破した事で勢いに乗じた彼が、敵将・ヤマコーリの伏兵地点まで誘い出され、一敗地に見えたからだ。
「む……すま、申し訳ない! いや面目ない!」
言葉遣いを気にしながら気になっておらず、それでいて何か違う返答を見せる于詮。
そんな彼の言動を前に、相も変わらぬ不器用者だと、ナイトとキャンディは微笑した。
「先ずは敵の陣を見てから作戦を考えよう。案内してくれるか?」
「無論承知」
ナイト父子と我昌明は、于詮の案内のもと敵陣の偵察に向かう。
尚、キャンディと涼周は味方の陣にて留守番役となった。
「ナイト殿、あれがヤマコーリの陣地だ。兵数はざっと一万四千だと」
味方陣を出て小一時間駆けた辺りで、ナイト達は敵陣を視野に入れた。
「……高所に構えられた堅陣だな。面白味こそないが、同時に隙らしい隙もない。まるで槍丁や方元の築く陣地の劣化版と言える」
林の影から覗いたそれは、たとえ前面の一部しか見えなかったとしても、多くの戦を経験したナイトにとって容易に分かるものだった。
それ即ち、彼は視界先に広がる堅陣の利点を理解している。
「あの系統に言える事は、とにかく粘り強い。地力の差で押し勝つには相当苦労し、正面から破ろうとすれば此方の被害は馬鹿にならん」
「それでも、奴等を無視する訳には参りませんなぁ」
「ああ。……孤立する味方の許へ急ぎたい俺達の心を逆撫でするかの様な、嫌味な陣地だ」
打ち破るしかない。それはナイトも我昌明も同意見を示す。
問題はその攻略方法だった。
ナイトが言う通り、ヤマコーリが築いた陣地は長期間の消耗戦を有するもの。
然し、ナイト達にはそんな悠長な戦法を採る暇はない。だからと言って力攻めを敢行すれば、徒に死傷者を生む事は目に見えている。
偏にヤマコーリの迎撃方法は、居城を包囲された友軍の許へ一刻も早く駆け付けたい戀王国軍の焦りを助長させる、最悪なものと言えた。
「では父上。今夜にでも夜襲を仕掛けましょう」
そこでナイツが献策。如何にも簡単そうな言い方だった。
実質的な総代将たる我昌明は、ナイツの考えにすかさず反対する。
「敵には夜襲の備えがありましょう。そう易々と蹴散らせる相手ではありませんぞ」
危険が過ぎる作戦に、部下や仲間の命を掛けさせる訳にはいかない。
我昌明の反論は将として当然だった。
だが、ナイツはそんな事は承知の上で献策していた。
「夜襲をすると見せかけて、敵を陣から誘い出すのです」
「うむ……息子よ。その話、此方の陣に戻ってから聞かせてくれるか?」
ナイトは息子の提案に勝算ありと見て、彼の説明を保留にさせる。
この様な場所では誰が聞いているか分からぬ為、必勝策の漏洩を防ごうとしたのだ。
四人は一通りの偵察を済ましてから味方の陣に戻り、改めて軍議を開く。
「俺達がヤマコーリを迅速に倒したいように、数に劣るヤマコーリも俺達を早めに撃退したい筈。理由は後続部隊の到着前に俺達の戦力を削っておきたいからです」
ヤマコーリ率いる迎撃隊一万四千に対し、戀王国軍の第一陣は一万九千。
内訳は于詮隊一万一千(敗戦により二千名が死傷)、我昌明の直下兵三千、歩隲がナイト達の為に回した精鋭兵五千となっていた。
敵の迎撃部隊は現状でさえ数に劣る上、戀王国軍には後続の予定もある。
故に敵将は早期決着を望めるならそれに応えるだろうとナイツは思い、彼の立案した策は敵もにわかに感じている焦りを逆手にとった一手だった。
「俺達は長距離の進軍を経たばかりで疲れている。敵から見ても今が狙い目でしょう」
(……自分達の不利を敢えて活かし、敵を誘う餌に変える訳か。……ナイト殿と同じく、息子殿も身を切る策を考えるものよのぉ)
ナイトと何度も共闘した我昌明は、父親の軍略を知る。
そして現在、息子の軍略も知ったところで、二人が似た者同士だと理解した。
ナイツの解説は続き、策の本筋についてを語る。
「そこで俺達が危険を孕む作戦に出れば、敵は陣より打って出ると思われます。歩隲将軍から聞きましたが、ヤマコーリは攻守に長けた良将でありながら、攻め時と見れば迷わず攻める果断さを持つと。それならば此方から隙を見せてやるのです」
「……陣を攻めると思わせて兵を狙うか。それならば連鎖的に、手薄となった陣そのものも奪れるな」
戀王国軍はナイツの立てた策を採用。具体的な動きや配置を検討し、夜の作戦に備えてナイト隊二千と我昌明隊三千が堂々と出陣する。
一方、ヤマコーリはナイツの読み通りに戀王国軍の動きを察知。夜襲に備えて陣地周辺に兵を伏せ、内に引き込んだ所を一網打尽にする策を採った。
作戦決行の夜になり、戦端を開いたのは戀王国軍だった。
騎馬隊が夜陰に乗じて攻め掛かり、ゲルファン王国軍の陣地へ容易に侵入した。
ヤマコーリは戀王国軍を深くに入れる為、陣内には守備隊を多く配置しておらず、あたかも奇を突かれた受け手を演じていたのだ。
「敵が包囲下に入った。それっ! 一気に殲滅しろ!」
火の手が上がるや否や、それを合図にして陣外周囲に伏せられた部隊が躍り出る。
矢の雨を先陣に戀王国騎兵を崩し、白兵部隊が矢の切れ間に突撃。狩り場と化した自軍の陣内へ突入した。
「敵の伏兵に囲まれているぞ! 引けっ! 引けっ!」
戀王国軍の騎兵隊長は即座に反転。敵の対処を予期していただけに、動揺も少なかった。
「包囲を脱するぞ! 逃がすな! 騎兵は我に続け! 歩兵もルコルの指揮に従って後続せよ!」
騎馬隊の速やかな転進に、この時のヤマコーリは不審を抱かなかった。
彼は歩兵の足では敵に逃げられると判断し、騎兵を伴って自ら追撃に移ったのだ。
歩兵部隊の大半は副将のルコルが率い、主将に続いて全力で駆ける。
こうしてゲルファン王国軍の陣地は手薄そのものとなった。
ヤマコーリとルコルはそうとも知らずに追撃するが、ある程度追い掛けた頃になって、前者が逸早く疑念を抱く。
「うん? 敵の数が少ない……全騎止まれ!」
彼は逃げる戀王国騎兵を追う途中でありながら、全員の足を止めた。
敵の騎兵が一千にも満たない中隊以下の規模であると、まるで示し合わせたような動きを見せていると、策の気配を感じたのだ。
「もしやこれは……いかん! 引き返せ! 陣の守りを固めるのだ!」
ヤマコーリが戀王国軍の策に気付き、自部隊と自陣の危機を把握。ルコルにも急いで指示を回し、馬首を変えさせた。
「ふっははは! そうはいかんぞ! 全兵突撃ぃーー!! 俺に続けぇ!!」
「うおおぉぉーー!!」
そんな予想外の反転指示に部隊がまごついている時だった。
小高い丘の影に伏せられたナイト隊二千が頃合いを見計らって姿を現し、ヤマコーリとルコルの両部隊目掛けて一気呵成に攻め寄せたのだ。
「やはりあれは囮であったか! 無視だ! 無視して陣へ戻れ!」
ここで戦えばナイト隊に足止めされる事となり、そうしている間にも戀王国騎兵が逃げていった方角から于詮本隊が来襲する。
現状ではヤマコーリの言う通り、無視が最善だった。
だが一転して追撃する側から、される側へ回ると、ナイトに背後を取られる事の恐ろしさが如実に体感できる。
何せ素通りも同然の猛攻を以て追い掛けてくる為、騎兵と歩兵が入り乱れた状態で退却するゲルファン王国軍は、正に恰好の餌食と言えた。
「ゴッホッホ! 待ちくたびれたぞ愚か者共。さぁ行けい! 敵将の首を上げろぉー!」
「ヤマコーリ殿! あ、あれを!?」
「ああっ!? 奴は豪牙天剛・我昌明……!」
何とか陣地まで戻ったヤマコーリとルコルであるが、自陣は既に陥落しており、我昌明率いる三千の部隊が待ち構えていた。
「さぁさ! ゲルファン王国の弱卒共、目にものを見よ! 風にものを聞け! これが豪牙天剛たる――所以じゃァーーー!!」
先頭切って突撃した我昌明。魔力を込めた大矛を振るい、敵兵を強風によって乱れ散る塵の如くに蹴散らしていく。
我が物顔と言うべきか、縦横無尽と言うべきか。兎に角それは、部隊を一っ飛ばしにせしめる勢いを持つ暴風にして、人がもたらす人為的な天災と呼べた。
「相変わらず容赦がない好々爺だ。敵に同情するぞ。だが、俺達とて負けられん! 気勢を上げて気圧させろ! 陸の孤島と化した敵軍を前後より呑み込んでやれっ!!」
「おおおぉぉ!!」
前方には人型台風・我昌明が、後方にも人型台風・ナイト。
ゲルファン王国軍は袋の鼠、絶体絶命、殺られ役専門となって屍を重ね合わせた。
「敵副将・ルコル、この豪牙天剛・我昌明が討ち取ったぞォ!!」
「敵大将・ヤマコーリ、俺が捕縛したぞ! 戦は俺達の勝利だ! 次は勝鬨を上げろォ!!」
そして前後を挟まれて数分後、勝敗は決した。
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