大戦乱記

バッファローウォーズ

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光たる英雄の闇なる思い出

襲来せし悪の華

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 築城普請の本部を兼ねた剣合国軍本陣には、ナイトと安楽武が居た。
二人以外の主将の大半は、昨夜に続く覇攻軍の襲来を警戒して南部へ出払っており、留守を預かる者は大将と軍師のみという状況だ。

 その二人の下に、覇攻軍の急襲を報せる伝令が何度も出入りする為、本陣はげに慌ただしき様相を見せていた。

「やれやれ……奥達を迎えに行くのすら妨害されるとはな。今日はとんだ厄日だ。
――家族奉仕を邪魔する無粋な輩は、早々にお引き取り願うとしよう!!」

「おっ、おぉ! ナイト様が出られるぞ! 皆、我等が大将に続――」

「お待ち下さい。いま出ていってはなりません」

 動揺する兵達を勇気付けるべく、ナイトは出撃しようとした。

 だが、軍師・安楽武がそれを制止する。
覇攻軍はナイトがこう出ると予想して、何かしらの罠を仕掛けていると考えたのだ。

「我々がこれ程まで出し抜かれたという事は、敵は此方の動きをある程度知っていると見て間違いありません。どれだけの罠があるかも知れない中、いま出撃するのは危険が過ぎます。せめて北部に張っている亜土雷殿の援軍を待つべきです」

 亜土雷は現在、北部にて兵站維持に努めていた。
安楽武は襲撃と同時に援軍要請を出しており、臨戦態勢にある亜土雷隊が駆けつけるのも時間の問題だった。

 然し、最も危険が迫るであろうナイト本人が、その持久策に反論する。

「多少の危険は承知の上だ。抑々、我の強い六華将が二人も現れた時点で、この襲撃は普通ではない。必ず何かがある。それでも俺が出なければ、前線の兵達は危険以上の惨劇に見舞われよう。特に相手がウォンデであれば尚更だ」

「…………分かりました。それでは私の直下兵団『鬼黒士キコクシ』を千名ほどお連れください。彼等であれば、予期せぬ事態に陥っても最悪の結果は免れるでしょう」

「軍師がそう言うのであれば、有り難く連れていこう。だが、命の盾にする気はない。俺の傍で戦うからには、俺の戦い方に従ってもらう」

「思う存分、ご采配ください。ですが、くれぐれも油断なきよう」

「うむ、本陣の守りは任せたぞ!
――皆は俺に続け! 先ずはウォンデを討ち取りに参る!!」

『オオオォォォッ!!』

 安楽武は諫言こそすれど、最終的な決定は大将の判断に委ね、あくまでもそれに従う。
今回に至っても、ナイトの説得は時間の無駄だと悟るや否や、精強無比で自慢の直下兵を護衛に付けさせた。

 その上で彼は、念には念を入れておく。

「……ウォンデと対峙する殿の後ろに、予備隊を一つ回しておきなさい。殿に絶体絶命の危機が及んだと同時、すぐに割って入れるように備えておくのです。そして状況によっては……命を捨てることも覚悟の上で挑め、と伝えなさい」

 側近の将校が静かに首肯し、直属の漆黒兵部隊に上官の言葉を伝えに向かう。

 次に安楽武は、自らが任された本陣守備と平行して、ウォンデとは別の方角から攻め寄せるマドロトスに対する迎撃指揮をとる。

「本陣と現場の兵でマドロトスを撹乱します! 彼の動きを封じ込め、殿を間接的に援護する! 総員、決して私の指示に遅れるな!」

 何時になく熱を放つ安楽武。彼が檄を飛ばすや否や、側近達はバッ! と持ち場に付いた。
剣合国大将に加えて軍師までもが戦闘に加わった事は、兵士達の士気を大いに奮わし、それに伴って本陣の動揺を自然消滅させていたのだ。

 この動きと熱量を、攻める側のマドロトスは即座に感じとった。
最前線で長刀を振るいながら、彼は剣合国軍本陣のある望楼を眺めて不敵に笑う。

「おぉ!? なんだかヤル気満々だな、返り血の曲刀士・安楽武! いいぜェ、お前が誇る必殺計、俺に見せてみな! 部下頼みしか出来ない李醒アイツと違い、剣を知るお前は刃を交えるに値するほど骨がある! 俺の示現の太刀を――滾らせてみろォーーー!!」

 マドロトスが振り下ろす太刀の一撃は、紫の斬撃となって地を走り地を抉る。
かの剣豪が得意とする技、《紫影の太刀》だ。

 直線上に進む斬撃の前には精鋭・雑兵・大工の分別なく両断され、マドロトスの後に続くサキヤカナイによって踏み潰される。
幾重にも組まれた防壁も、その例外ではなかった。

「ハハハ! 突貫工事は手抜きでいかんな! こんな半端な壁、切り裂くは紙の如しだぞ!」

「ぁんだとォ!? 他所モンの戦屋が偉そうに言ってくれるじゃねぇか!」

「こうなったら戦どころじゃねぇ。俺等の建築術を見せてやらぁ!」

 と、ここで笑われた大工達が一発奮起。
避難する事も忘れて戦場に舞い戻り、熟達した匠の技で瞬く間に舞踊場を建築した。

「どうでぇ! 目ん玉ひん剥いてドドンと見たか! これぞナイト様お抱えの建築師集団、「愛羅武勇アイラブユウ組」の真骨ちょ――おわあぁぁーーー!?」

「ハハァーーイ! お疲れさァーーん!」

 確かに「俺に見せてみな!」とは言ったが、お前達の必殺技を見せろとは言っていない……とばかりに、マドロトスは長刀を一薙ぎした。

 大工達は絢爛豪華な舞踊場とともに、西の方角へと吹き飛んで行く。まったくもって資材と技術の無駄遣いであった。

「安楽武様。二番組の棟梁がやられました。マドロトスの勢いも止まりません」

「二番組の男達は丸太に潰されても平気ですから心配無用です。それよりマドロトスの前から兵を退かし、深入りした奴等の裏を取りなさい。それで足は潰せるでしょう」

 望楼の本陣より、緑色の煙弾が撃ち上げられた。
それを合図に、城塞の外に伏せられていた安楽武配下の漆黒騎兵五百騎が姿を現し、マドロトス隊の背後を襲う。

 彼等の迅速な動きと叩き上げられた武力は敵兵掃討の効率化に繋がり、その実力は勇猛で知られるマドロトス直下兵を凌いでいた。

「マドロトス様、大変です! 我が隊の後方に強力な新手が出現しました! 後備は大きく崩され、指示を待っています!」

「ハッ……剣を知る以上に策士。やはり正々堂々とは戦わんか。
――聞けェ、お前らァ!! 部隊を七と三の二つに分ける! 七はこの場に残って退路の維持に努め、三は俺に続いて敵本陣に突撃だ! 一刀必殺!! 安楽武の首を貰うとしよう!!」

 事務的あるいは機械的に処理されていく部下達を尻目に、マドロトスは前に出た。
反対に残留を指示された七分の戦力は、一塊となって守備に徹する。

「敢えて無視を決め込み、己が得意とする戦術を行う。……マドロトスの様な直線型の武将には、それが一番良い戦い方でしょう。
――で、それが私に通用するとでも?」

 本陣目掛けて突撃してくるマドロトスを見ても、安楽武には焦りがなかった。
彼が右手に持つ白羽扇を一振りするだけで、練兵に練兵を重ねた直下兵が巧妙な迎撃戦術を繰り出し、着実に敵戦力を削いでいくからだ。

 安楽武による「集の力」と、マドロトスによる「個の力」は拮抗した。
前者にとってはナイトへの間接的な援護に繋がり、速攻破壊を狙う後者にとっては面白くない筈であった。……少なくとも現状では。
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