フィアンセは、婚約破棄されようと必死です

ゆきな

文字の大きさ
12 / 52

12:ケインの待ち伏せ①

しおりを挟む
「まったく、遅いな……。
いつまでかかるんだ」

ケインはイライラと膝をゆすっていた。

馬車の中から、じっと眺めているのは、洋裁店である。
もちろん彼のお目当ては、ジュリアだった。

ダニエルに、この時間に洋裁店に来ることを聞いていた彼は、帰り際に、偶然を装ってジュリアに近づくため、こうして見張りを続けていたのだが……

「ああ、もう。
面倒くさくなってきたな。
……帰ろうかな」

と、つい口に出してしまうほど、ジュリアとダニエルは出てこなかった。
しかしここで帰ってしまえば、ダニエルに……というより、ルイーズに何を言われるか分かったものではない。

仕方なくケインは、ため息をつきながら、再び開いた扉にやる気のない目を向けたのだったが

「おっ」

そこに現れた人物を見て、ニヤリと笑った。

それは間違いなく、ダニエルだった。
そして、その後に続いて出てきたのは、嬉しそうに頬を染めたジュリアだったのである。

「よしよし、ようやくだ」

目を離さずにいると、ダニエルがさっさと一行と別れて自分の馬車に乗り込むのが見えた。

「どうせ、いそいそとルイーズのところにでも行くんだろう」

すぐにでもジュリアに話しかけたいところだったが、彼女は両親といるものだから、そうもいかない。
ではどうするか……と、彼女の両親が順番に馬車へ乗り込むのを眺めていたところで、ケインはある事に気がついてニヤリとした。

幸運なことに、ジュリアは馬車に乗り込もうとしなかったのである。
馬車がそのまま行ってしまうと、彼女はメイドを一人連れて歩き出した。

それを見るなり、ケインはすぐさま御者に言いつけた。

「ここからは歩いて帰るから、先に帰っていてくれ」

そして急いで馬車を降り、ジュリアの後を追った。

彼女を追うのに苦労はなかった。
数分もしないうちに、そのまま公園へと入っていったのである。
しかもメイドを入口の辺りで待たせておいて、一人で歩き出したのを見ると、ケインは早足で彼女の背中を追った。

「ジュリア様じゃないですか」

ケインがわざとらしく明るい声で言うと、ジュリアは振り返って、目を丸くした。

「あら、ケイン様。お散歩ですか?」
「ええ。今日は天気が良いですからね。
少し運動でも、と思いまして」
「そうなんですか。私も、そうです。
少し歩くには、ちょうど良い気温ですものね」

彼女の表情の変化を見逃すまいと、注意深く目を向ける。
しかしジュリアは、この出会いを疑っている様子は全くなかった。

まさかケインが待ち伏せをしていたなどとは、微塵も思っていないに違いない。

ケインは、ほっとして続けた。

「なんだか楽しそうな顔をしていらっしゃいますね。
何か良い事でもあったのですか?」
「あら……お恥ずかしい」

ジュリアは頬を染めながらも、嬉しそうに目を細めた。

「実は先ほど、ウエディングドレスの仕立てを頼んできたところなんです。
とても楽しかったので……つい顔に出てしまったんですわね」
「そうでしたか」


知っているとも。
それが終わるのを、ずっと待っていたんだからな。


と、ケインは心の中で呟いた。


さあ、ここからどうやって口説いていこうか。
今日こそは少し強引にいかないと、ルイーズがまたうるさいだろうし。


ケインは、さも人の良さそうな笑みを浮かべて、話の止まらないジュリアを見つめていた。
その瞳に、不気味な光を宿して……。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ

リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。 先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。 エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹? 「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」 はて、そこでヤスミーンは思案する。 何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。 また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。 最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。 するとある変化が……。 ゆるふわ設定ざまああり?です。

殿下、貴方が婚約破棄を望まれたのです~指弾令嬢は闇スキル【魔弾】で困難を弾く~

秋津冴
恋愛
 フランメル辺境伯令嬢アニス。  闇属性のスキルを操り、岩をも砕く「指弾」の名手。  そんな勇ましい彼女は三年前、王太子妃補となった。  サフラン殿下は年下ながらも「愛おしい女性」とアニスのことを慕い、愛を注いでくれる。  そんな彼は寒がりだから、手編みセーターの一つでも贈って差し上げよう。  そう思い買い物を済ませた彼女が、宿泊するホテルのスイートルームに戻ってきたとき。  中からは、仲睦まじい男女の声が聞こえてくる。  扉の向こうにはサフランと見知らぬ令嬢が愛し合う姿があり……。  アニスは紙袋から編み棒を取り出すと、二人の座る長椅子に深々と突き立てた。  他の投稿サイトにも掲載しています。  タイトル少し変えました!  7/16 HOT17位、ありがとうございます!  

私を捨てて後悔したようですけど、もうあなたと関わりません

天宮有
恋愛
「クノレラの方が好きだから、俺との婚約を破棄して欲しい」 伯爵令嬢の私キャシーは、婚約者ラウド王子の発言が信じられなかった。 一目惚れしたと言われて私は強引に婚約が決まり、その後ラウド王子は男爵令嬢クノレラを好きになったようだ。 ラウド王子が嫌になったから、私に関わらないと約束させる。 その後ラウド王子は、私を捨てたことを後悔していた。

婚約破棄させたいですか? いやいや、私は愛されていますので、無理ですね。

百谷シカ
恋愛
私はリュシアン伯爵令嬢ヴィクトリヤ・ブリノヴァ。 半年前にエクトル伯爵令息ウスターシュ・マラチエと婚約した。 のだけど、ちょっと問題が…… 「まあまあ、ヴィクトリヤ! 黄色のドレスなんて着るの!?」 「おかしいわよね、お母様!」 「黄色なんて駄目よ。ドレスはやっぱり菫色!」 「本当にこんな変わった方が婚約者なんて、ウスターシュもがっかりね!」 という具合に、めんどくさい家族が。 「本当にすまない、ヴィクトリヤ。君に迷惑はかけないように言うよ」 「よく、言い聞かせてね」 私たちは気が合うし、仲もいいんだけど…… 「ウスターシュを洗脳したわね! 絶対に結婚はさせないわよ!!」 この婚約、どうなっちゃうの?

お飾りの側妃となりまして

秋津冴
恋愛
 舞台は帝国と公国、王国が三竦みをしている西の大陸のど真ん中。  歴史はあるが軍事力がないアート王国。  軍事力はあるが、歴史がない新興のフィラー帝国。  歴史も軍事力も国力もあり、大陸制覇を目論むボッソ公国。  そんな情勢もあって、帝国と王国は手を組むことにした。  テレンスは帝国の第二皇女。  アート王ヴィルスの第二王妃となるために輿入れしてきたものの、互いに愛を感じ始めた矢先。  王は病で死んでしまう。  新しく王弟が新国王となるが、テレンスは家臣に下賜されてしまう。  その相手は、元夫の義理の息子。  現王太子ラベルだった。  しかし、ラベルには心に思う相手がいて‥‥‥。  他の投稿サイトにも、掲載しております。

恋した殿下、愛のない婚約は今日で終わりです

百門一新
恋愛
旧題:恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜 魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載

<完結済>婚約破棄を叫ぶ馬鹿に用はない

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
卒業パーティーでの婚約破棄に、声をあげたのは5番目に破棄された令嬢だったーー記憶持ちの令嬢、反撃に出ます!

処理中です...