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37:ルイーズの誘惑
しおりを挟む「じゃあ、あなたの適当な言葉を聞いて、すっかりジュリアは不安になったのね?
まったく単純なお嬢様だこと」
ルイーズは手を叩いて笑い声を上げた。
これにケインはすっかり得意げに胸を張った。
「ああ。いつになく考え込んでたから、ダニエルへの不信感はつのっただろうな」
「だったら、このままダニエルが無視し続ければ、ジュリアも今に愛想が尽きるわね。
そうすれば婚約破棄までは、もうすぐよ!」
ルイーズはジュリアとダニエルが婚約破棄をし、代わりに自分が彼の妻となる日を想像すると、胸が高鳴った。
そうすれば今よりももっと良いドレスだって、もっと高価な宝石だって手に入れられるに違いない。
ルイーズは鏡に顔を向けると、ちょっと顎を引いて、自分の顔を見つめた。
我ながら、その美貌に惚れ惚れとしてしまう。
しかし今の状態では、どんなに美しい体も、それを宝石で飾り立てる余裕がないのである。
ルイーズはそっと、何も身につけていない白い首に触れると、するすると胸元まで指を滑らせた。
この胸元を飾る、大きなダイヤモンドの首飾りを手に入れる日は、もうすぐにやってくる。
あと一歩だ。
ふと鏡越しにケインと目が合った。
そして急に、思いついたのである。
ケインにも少し色目をつかっておけば、自分の思い通り動かしやすいだろう、と。
ダニエルばかりでなく、ケインも手に入れておけば、もっとやりやすくなる。
ルイーズはニヤリと笑うと、彼に向き直った。
「本当に良くやってくれたわ。
ありがとう」
ゆっくりと彼の前まで歩いて行くと、目の前でピタリと足を止める。
そして彼を上目で見ながら、ちょっと背伸びをした。
「……なんだよ」
ケインが怪訝そうな目つきになるのを、ルイーズはニッコリ微笑みながら見つめ返した。
もうほんの少しつま先に力を入れれば、唇が触れ合いそうなほどの距離しか、2人には残されていない。
ルイーズはそっとケインの胸に手を当てると、艶っぽい声で囁いた。
「実は前からね……あなたの事、素敵だなって思ってたのよ」
「は?」
ケインが息を呑むのを見て、ルイーズは、ふふっと笑った。
「本当よ。
お金の為だからダニエルと結婚するけど……魅力的なのはどちらか、と言えば、間違いなくあなたの方だもの。
あなたは、私のことをどう思ってるの?
ジュリアなんかよりも、私の方が……」
「いやいやいや」
思いがけず、ケインにグイッと体を押されたものだから、危うく引っくり返るところだった。
なんとか転ばずには済んだものの、よろけて数歩下がりながら、ルイーズはケインを睨んだ。
「何するのよ!」
「それはこっちのセリフだよ。
急に何なんだ、気持ち悪い」
と、ケインはルイーズが触れた辺りをはたきながら言った。
「ダニエルならともかく、俺にまでそんな猫撫で声を出しても意味ないぞ。
俺は本当にジュリアのことが好きなんだからな!
あんたなんかに触られたって嬉しくない」
「はあ!?」
ルイーズは自分がしようとしていたことは棚に上げて、怒鳴り声を上げた。
「私だって好きで触ったわけじゃないわ!
もういいわよ!
ジュリアの事だけは、しっかりやってちょうだいよね!」
「言われなくとも、やるさ」
ヒラヒラと手を振るケインに背を向けると、ルイーズは足音荒く部屋を出て行った。
自分よりもジュリアを取るなんて信じられなくて。
全て忘れようと頭を振ったが、ケインがこちらを見る冷たい目は、しばらく忘れられそうになかった。
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