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「そういえば、聞いた?」
「聞いたって、何を?」
イーディスの問いに、ネリーはカップを口に運びながら、のんびりと答えた。
青空の下で、香りの良い紅茶と湯気をたてるスコーンを前に、友人とお喋りを楽しむなんて、こんなに幸せな時間はない。
季節は流れ、もう日が当たっていても肌寒くなってきた為、パラソルは出していない。
雲一つない青空を眺めながら、ネリーは目を閉じて紅茶の香りを楽しんだ。
「アリス様の話よ。
いまだにご両親が、必死に結婚相手を探してるらしいわよ。
でも見つからなくて、困ってるみたい」
ふうん、と気のない返事をするが、イーディスはお構いなしに話を続けた。
「シェイマス様に婚約破棄された上に、マーティ様を弄んだって、すっかり噂になっているんだから、それも当然よね。
自業自得って感じよ」
ネリーは答えなかった。
アリスに気を使っているわけではない。
もうあれから半年が経ち、今はもう遠い過去の出来事のように思えていたからである。
「マーティ様のおうちは、ようやく財政難が解消されそうって聞いたわ。
お父様と一緒に、マーティ様もかなり頑張っていらっしゃるみたいね」
「彼は、良い意味でも悪い意味でも真面目だもの。
きっと上手く立て直せるわよ」
マーティの名前を耳にしても、ネリーは少しも揺らがなかった。
それほど今の彼女は幸せに満ち溢れていて、過去の不安が入り込む隙間など見当たらない状態だったのである。
今なら冷静に、そして客観的に、マーティの事を口に出来た。
「ネリーの家からの慰謝料請求がなかったから、かなり助かったんじゃない?」
「……そうかしら」
「しなかったこと、後悔してない?」
「してないわ。
マーティの家が大変なのは分かっていたし。
それに、あそこまで思いつめるほどアリス様を好きになったのなら、もう私は何も言えなかったもの」
「そう……。
まあネリーがそれで納得してるなら、それでいいんだけど」
イーディスが、まるで独り言のように呟いた時。
遠くにシェイマスの姿を見つけて、ネリーは小さく手を振った。
その視線を辿ったのだろう。
イーディスも顔を上げて、言った。
「あら、シェイマス様がお迎えにいらしたのね。
もうそんな時間!」
「お喋りしてると、あっという間よね」
ネリーが笑って言う間にも、シェイマスが2人の前までやって来ていた。
「こんにちは、イーディス様」
シェイマスはイーディスに軽く頭を下げてから、ネリーに微笑んだ。
「お喋りは楽しんだ?
そろそろ行けるかい?」
「ええ」
「今日はどこへお出かけ?」
と、イーディスが口を挟む。
「ウエディングドレスが出来上がったから、受け取りに行くのよ」
「あら、それは楽しみね!
もう結婚式は来週ですものね」
「ええ」
ネリーが恥ずかしそうに微笑むと、シェイマスが感慨深げに言った。
「ネリーのウエディングドレス姿か……見るのが楽しみだな」
「あら、でも今日はまだ見せられないわよ。
式の前に花婿に見られるのは縁起が悪いっていうし。
当日のお楽しみ!」
「そうか……じゃあ仕方ない」
しゅんとするシェイマスに、クスクス笑うネリー。
そんな2人を笑顔で送り出してから、イーディスは再び椅子に腰かけた。
そして、小さくなっていく2人の背中をうっとりと眺めた。
いつの間にか、そっとシェイマスの手が、ネリーの背中に添えられていた。
それに応えるように、ネリーが身を寄せながら進んでいく。
「なんだか、まるで絵に描いたように素敵な光景ね……」
ポツリと呟きながら、イーディスは、幸せってこういうことなのかしら、とぼんやりと思ったのだった。
おしまい
………………………………………………………
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!
よろしければ、他のお話も読んでみて頂けると嬉しいです。
「聞いたって、何を?」
イーディスの問いに、ネリーはカップを口に運びながら、のんびりと答えた。
青空の下で、香りの良い紅茶と湯気をたてるスコーンを前に、友人とお喋りを楽しむなんて、こんなに幸せな時間はない。
季節は流れ、もう日が当たっていても肌寒くなってきた為、パラソルは出していない。
雲一つない青空を眺めながら、ネリーは目を閉じて紅茶の香りを楽しんだ。
「アリス様の話よ。
いまだにご両親が、必死に結婚相手を探してるらしいわよ。
でも見つからなくて、困ってるみたい」
ふうん、と気のない返事をするが、イーディスはお構いなしに話を続けた。
「シェイマス様に婚約破棄された上に、マーティ様を弄んだって、すっかり噂になっているんだから、それも当然よね。
自業自得って感じよ」
ネリーは答えなかった。
アリスに気を使っているわけではない。
もうあれから半年が経ち、今はもう遠い過去の出来事のように思えていたからである。
「マーティ様のおうちは、ようやく財政難が解消されそうって聞いたわ。
お父様と一緒に、マーティ様もかなり頑張っていらっしゃるみたいね」
「彼は、良い意味でも悪い意味でも真面目だもの。
きっと上手く立て直せるわよ」
マーティの名前を耳にしても、ネリーは少しも揺らがなかった。
それほど今の彼女は幸せに満ち溢れていて、過去の不安が入り込む隙間など見当たらない状態だったのである。
今なら冷静に、そして客観的に、マーティの事を口に出来た。
「ネリーの家からの慰謝料請求がなかったから、かなり助かったんじゃない?」
「……そうかしら」
「しなかったこと、後悔してない?」
「してないわ。
マーティの家が大変なのは分かっていたし。
それに、あそこまで思いつめるほどアリス様を好きになったのなら、もう私は何も言えなかったもの」
「そう……。
まあネリーがそれで納得してるなら、それでいいんだけど」
イーディスが、まるで独り言のように呟いた時。
遠くにシェイマスの姿を見つけて、ネリーは小さく手を振った。
その視線を辿ったのだろう。
イーディスも顔を上げて、言った。
「あら、シェイマス様がお迎えにいらしたのね。
もうそんな時間!」
「お喋りしてると、あっという間よね」
ネリーが笑って言う間にも、シェイマスが2人の前までやって来ていた。
「こんにちは、イーディス様」
シェイマスはイーディスに軽く頭を下げてから、ネリーに微笑んだ。
「お喋りは楽しんだ?
そろそろ行けるかい?」
「ええ」
「今日はどこへお出かけ?」
と、イーディスが口を挟む。
「ウエディングドレスが出来上がったから、受け取りに行くのよ」
「あら、それは楽しみね!
もう結婚式は来週ですものね」
「ええ」
ネリーが恥ずかしそうに微笑むと、シェイマスが感慨深げに言った。
「ネリーのウエディングドレス姿か……見るのが楽しみだな」
「あら、でも今日はまだ見せられないわよ。
式の前に花婿に見られるのは縁起が悪いっていうし。
当日のお楽しみ!」
「そうか……じゃあ仕方ない」
しゅんとするシェイマスに、クスクス笑うネリー。
そんな2人を笑顔で送り出してから、イーディスは再び椅子に腰かけた。
そして、小さくなっていく2人の背中をうっとりと眺めた。
いつの間にか、そっとシェイマスの手が、ネリーの背中に添えられていた。
それに応えるように、ネリーが身を寄せながら進んでいく。
「なんだか、まるで絵に描いたように素敵な光景ね……」
ポツリと呟きながら、イーディスは、幸せってこういうことなのかしら、とぼんやりと思ったのだった。
おしまい
………………………………………………………
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!
よろしければ、他のお話も読んでみて頂けると嬉しいです。
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